スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ 聖女の秘密

告白

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「さてと、俺はもう一軒行くが、お前達はどうする? 明日、休みだろう?」
「我々はここで失礼します。ジョシュアが酔って、今にも寝てしまいそうですから」
「私とノアも帰ります」
「あーあーそうかい。じゃあ俺一人で」
「はいっ! 私、お供します!」
「…………」

 元気に手をまっすぐ上に上げるドロリス。

「いやいや、聖女様は帰んなさい。ノア、責任もって連れて帰れ」
 
 以前は教会に住んでいたドロリスだが、現在は騎士団の女性用宿舎に引っ越した。女性宿舎は男性宿舎と近いので、当然の事と思い言ったのだが、

「あー、えーと……まあ、姉も成年済ですし、お供すると言ってますので……」
「オイオイ、弟としてそれでいいのか? 普通、引き留めるところだろうが」
「いやぁ、なんと言いますか……姉ちゃん、どうする?」
「行くっ! エイダン様と二軒目!」
「と、言っておりますので是非……」
「ダメだろ、オイ」
「あー……じゃあ、私も行きます」
「ノアが行くのなら、当然私も行きましょう」

(……こいつら、聖女様に弱みでも握られてんのか? ……ああ、さっきの絵か。ユージーンもノアの幼い頃の絵を描いてもらってたもんな。くそっ、絵欲しさに師匠を売るつもりかっ)

 そう憤慨しつつも、結局四人で二軒目の、良い酒、珍しい酒を多く置いている店に入った。

「こういうお店で飲むエイダン様、大人って感じで素敵です」

 薄暗く、静かな店内を見回して、ドロリスが感心したように言う。

「大人って……もうジジイだ」
「そんな事無いです! エイダン様は本当に素敵です」

 何が気に入っているのかわからないが、

「三十近く離れた男を素敵だなんて、ドリーは変わっているな」
「三十近くは言い過ぎだし、変わっていません!」

 そう言って頬を膨らませたドロリスだったが、すぐに笑顔になる。

「エイダン様は、お休みの日は何をしているんですか?」
「寝てるな。休みの前はいつも娼館行って浴びるほど酒を飲んでるから、翌日は使いもんにならないんだよ」
「そうですか……」

 若い女性で、しかも自分の事を気に入っているのであれば、娼館に行っているという言葉にショックを受けるだろうとわざと言ったのだが、

「たまには街に出かけるのとか、どうですか? 私、あまり街を散策した事ないんです。もしよければ魔道具店とかポーションや薬草を扱うお店を教えてもらえませんか?」

 めげずにそう言うドロリスに、エイダンは首を傾げた。

「聖女様のように若くて可愛らしい女性なら、騎士団の若い連中がエスコートしてくれるだろう? ノアの手前、あまりしつこくはできないだろうが、結構誘われているんじゃないのか?」
「ええまあ……でも私は、エイダン様と一緒に出掛けたいので」
「それがおかしいんだって。なあノア、お前の姉さんはどういう趣味してんだ?」
「えっ? あっ、はいっ、なんでしょう!?」

 斜め向かいに座るノアに話しかけたが、上ずった声で慌てている。顔も赤いし、ノアの隣りに座る弟子がテーブルの下でなにかいたずらしているのは容易に想像がつき、エイダンは首を横に振った。

「あー、いい、いい。気にせずイチャイチャしていろ」
「えっ? エイダン様! 別にイチャイチャなんて! ちょっと手を繋いでただけで」
「ありがとうございます、師匠」

 焦るノアに、しっかり礼を言って認めているユージーン。

「はあ……まあ、あまり遅くならないうちに帰るか」

 ため息交じりにそう言うと、ドロリスは一瞬驚いたように目を見開き……

「はい、そうですね」

 そう言って、寂し気に笑った。

(俺から誘って二軒目来たのに、早々に帰るって言ったからか……)

 その顔に少し罪悪感を覚え、

「本当に、ドロリスの趣味がわからん」

 グイッと酒を煽りながら言った。

「俺に、父親の姿を求めているとか、そういうことか?」
「ええっ? 違いますよ!」
「じゃあジジイをからかって楽しんでいるのか? それとも誰か、好きなヤツを嫉妬させるためにわざとか?」
「ちょっ……待って下さい! そんな事ありません! 私は本当にエイダン様の事が好きで……まあ、最初の動機は確かに不純でしたけど……」

 目の前のグラスの中の果実水を一口飲み、ドロリスは言った。

「そもそも私は、エイダン様の容姿と佇まいが好きなんです。最強魔術師と呼ばれていて、いつも余裕の表情で飄々としていて、いざという時物凄い力を発揮するところとかすごく素敵で『キャーッ!』って思っちゃうんです。しかも娼館のお姉様方に大人気って聞いたから、私も一度お願いできないかなー、なんて思って」
「思うな思うな、そんな事」
「すみません……」

 素直に謝るドロリスに、エイダンはため息をついた。

「年頃で嫁入り前の娘がそんな事言ってたら、ロクな事にならんぞ」
「私、結婚とか考えていないので」
「はっ?」

 突然の告白に驚いてドロリスを見る。

「結婚を考えてないだって?」

 女性が結婚するのは当たり前の事だ。何かの事情でできない、というのならわかるが、そもそも考えていないとはどういう事だ、と思う。

「結婚しないって、生活はどうするんだ?」
「聖女、というか、治癒能力があれば、一人で生きていくくらいのお金は稼げそうなので」
「いや、まあ、それはそうだが……聖女なら、結婚相手として引く手あまただろう」
「確かに聖女は、王族や貴族に望まれて結婚する事がよくあるみたいですが……どうも、いいように使われているというか……元々貴族出身の子はいいですけど、平民出の聖女は、嫁ぎ先でひたすら治療行為をさせられるとか、夫には愛人がいるとか、酷い目に遭う人もいて。私がいた教会にも、嫁ぎ先から逃げて来た聖女がいました。そんな話を聞いていると、結婚なんて嫌だなって思って。もちろん幸せに暮らしている人もいますけど、そもそも貴族とか、かたっ苦しいのは嫌だし」
「ああ、なるほど……」
「でも、男女の交わりっていうのは一度経験してみたくて」
「……ん?」

 うら若き乙女の口から出たとは思えない言葉に、思わず聞きかえす。

「どうせなら、上手な人がいいと思って。初めてはめちゃくちゃ痛そうだし」
「その発想が恐すぎる。一度経験してみたいからって、悪いヤツに引っかかったらどうすんだ」
「だから、そこは大人で素敵なエイダン様に、と……」
「はーっ、なんだそりゃ」
「すみません……でも、最初はそう思っていたけど、一緒に第三騎士団にいるうちに本当にエイダン様の事が好きになって……今は、お付き合いできたらなって思っています」
「どうしてそうなる」
「だって……かっこいいから……」
「だから、もっと年の近い奴らがいるだろう?」

 そう言われ、ドロリスはしばらくの間、黙ってなにやら考えこんでいたが、

「……エイダン様、私がもっと年上で、エイダン様と親子ほど年が離れていなかったら、少しは考えてくれましたか?」

 そう尋ねてきた。

「まあ、それはそうだな」
「そうですか……」
「……ん?」

 なにやら嬉しそうに微笑むドロリスに、エイダンが「オイオイ」と言う。

「いや、離れてるだろう? 推定18歳だと言っていたが、違ったとして1、2歳上なくらいだろう?」
「……エイダン様、内緒の話、聞いてもらえますか?」
「はっ?」
「誰にも話すつもりはなかったんですけど、エイダン様は人に言いふらすような方じゃないし、それに、付き合える可能性があるのであれば、私、頑張りたいんです!」

 そう言って、コソコソと打ち明けられた話に、『聞くんじゃなかった』と心底思ったエイダンだったが……後悔は、後からするから後悔なのだった。




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