スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ 金の毛並みの子犬は 青狼騎士様に愛されたい

誕生日

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 霜月の18日。
 赤子だったレイモンドがヴァーツ孤児院に引き取られたその日が、彼の誕生日だ。
 誕生日には何の思い入れもなく、騎士学校に入る為の書類に書いたり、騎士団に所属する際の書類に書いたり、というだけの、手続き上必要なものという認識だ。しかし、

「あのぉ……レイモンド様の誕生日はいつですか?」

 フワフワ金色のくせっ毛が可愛らしい恋人に、もじもじしながら尋ねられた。

「わ! もうすぐですね! えーっと……あの……もし良かったらなんですけど、一緒にお祝いしたいなーって……もちろん当日じゃなくてもいいんです! もし皆さんと飲んだりするのであればそちらを優先していただいて……でもあの、僕も、レイモンド様をお祝いをしたくて……」

 いつも特に何もしないと答え、一緒に休みをとろうかと提案したら、とても喜ばれた。
 
「食事にでも行こう。どこか行きたい店はあるか? なければ俺が決めるが」
「あ、特には……でも、レイモンド様の誕生日なんですから僕が……あまり高級なお店は無理ですけど、でも」
「そんな気を使わなくていい。王都の店は俺の方が詳しいし、俺の給金は高いから払いも気にするな」
「あー……」
「それよりも、早めに休みの希望を出しておけよ」
「はい! 明日出します!」

 そうして合わせて休みをとった今日、霜月18日。
 二人は大きな宿屋兼料理店に来ていた。他の店より値段は張るが、旨い料理と酒を出す店で人気がある。そして宿泊もできるので、祝い事や遠方からの客をもてなす時、そして、貴族が密会する時などに重宝されている一流店の個室での食事だ。

「あっ、僕、もうそろそろ……」

 空いたグラスにワインを注がれそうになり、ジョシュアはプルプルと頭を振る。

「あまりお酒飲めないので……」

 いつもは1、2杯にしているが、今日はお祝いだし、とてもいいワインだと勧められ、もう3杯飲んでしまっている。
 
「明日の訓練に響かないように、美味しいけどこれくらいにしておきます」

 そう言ったのだが、レイモンドは構わずにグラスにワインを注いだ。

「……明日は、休みだ」
「えっ?」
「ドリーとノアの姉弟が手をまわして、俺達の休暇を連休にしたそうだ」
「え、どうして……」

 なんであの二人が? どうやって? と首を傾げていると、

「安心しろ。上に部屋をとっているから、酔っても大丈夫だ」
「……え?」
「今日はここに泊まるぞ」
「え……え―――っ?」

 衝撃的なレイモンドの言葉に、ジョシュアは思わず声を上げてしまった。



 素晴らしく美味しい食事を終え、二人はそのまま上の部屋に移動した。

「うわ―……すごく、立派な部屋ですね」

 煌めくシャンデリア、大きな花柄が美しい厚く縁に金糸の刺繍と房飾りが付けられたカーテン、密度が濃く足裏を押し返してくるような絨毯。そして、天蓋付きの大きなベッド。

「立派過ぎて、ちょっと緊張します」

 キョロキョロとあちこち見ながらジョシュアは言った。

「ここに泊まるのって、すごい貴族の方達なのでは?」
「ジョシュアも貴族だろう?」
「え? あ、まあ、一応そうですけど、うちは本当に貧乏な田舎の貴族なので、こんな部屋見た事もありませんよ。ここって、一泊いくらくらいするんですか?」
「そんな事より少し休め。足元がおぼつかないぞ」

 いつもより多くワインを飲んでフワフワしているジョシュアに、宿泊費がいくらなのか教えたら倒れそうなので答えず、ベッドに連れて行き座らせる。

「上着を脱げ。シャツのボタンとベルトも外すぞ」

 もう少しいいだろうと酒を勧めたのは自分だが、ちょっと飲ませ過ぎたかもしれないと思いながら、楽な格好にしてやる。

「ふ~……ありがとうございます」

 わからない程酔ってはいないが、こうやって世話をしてもらえるのが『畏れ多い』ではなく『嬉しい』と感じる程度には酔っているジョシュアは礼を言い、ベッドに横になった。

「は~、気持ちいいです~」
「良かったな」

 笑いながら自分も上着を脱ぎ、シャツのボタン上二つを外し、ベルトを取る。

「ん~、レイモンドさまぁ」

 名を呼ばれてベッドに腰かけると、転がりながら近寄ってきたジョシュアが腰に抱きつき、その流れで腿の上に頭を乗せて来た。

「レイモンド様、キスして下さい」

(……本当に、飲ませすぎたな)

 いつもなら絶対しない行動と言葉に少し反省しながら、背を丸め、言われた通りに口付けを与えると、ジョシュアは嬉しそうに笑った。

(ユージーンの言う通りだな。口づけの後ジョシュアが、こんなに嬉しそうな 表情かおをしていただなんて知らなかった)

 自分の欲望を抑える事に重きを置き、これまでちゃんと見ていなかった事が悔やまれる。

(ちゃんと見てやっていたら、不安な思いなどさせずに済んだのに……)

 そう思いながら体を起こそうとして、シャツの胸元を掴まれている事に気付く。

「ジョシュア?」
「あの……えっと……」
「どうした?」
「その……いえ、なんでもありません」

 何も言えずにシャツを離したジョシュアの微笑みが悲しげに見え、胸が痛む。

「……ジョシュア」
「はい、レイモンド様」
「俺は、本当にお前の事が好きだ」
「へっ?」

 突然の言葉に驚いて大きな目をさらに大きく見開き、ジョシュアはレイモンドの腿から頭を上げると、ベッドの上に膝をついて座り、レイモンドを見た。

「お前が可愛くて、愛おしい。大切にしたいから自分の欲をぶつけてはいけないと思っていたが、それが、お前を不安にさせていたなんて、全く思いもよらない事だった」
「あ……す、すみません!」

 慌ててジョシュアが頭を下げる。

「あのっ、僕、この間ノアとドリーさんとお茶飲んだ時にレイモンド様との事をつい話してしまって……すみませんでした!」
「いや、問題ない。困った時に相談できる相手がいるのは良い事だ。それにそのおかげで、俺は自分の間違った考えに気づけたんだ」
「間違った、考え……?」
「そう。俺にも、忠告をしてくれる友がいてな」

 小さく笑いながらレイモンドはジョシュアの腰に腕をまわし、グイと引き寄せた。

「ジョシュアに触れ過ぎたら、辛い思いをさせてしまうと恐れていた。本当は思い切り抱きしめたかったのに」
「……本当ですか? レイモンド様」

 ジョシュアの大きな瞳が潤み、ポロリと涙が零れた。

「僕、大丈夫です。僕だって騎士です。早く連携攻撃の訓練に加えてもらえるように頑張ってて、結構筋肉もついてきたんですよ。だから、レイモンド様に思いっきり抱きしめてもらっても壊れたりしません!」
「そうだな。俺の目には、ジョシュアがどんどん可愛く見えてくるから勘違いしていた。お前は、立派な騎士だ」

 ギュッと抱きしめ、口づけをする。
 これまでの、重ね合わせるだけのものではない、深い口づけを。

「ジョシュア、ゆっくりするから……いいか?」
「……はい、レイモンドさま……」

 後頭部が痺れるような口づけに酔い、小さな声で返事をすると再び唇を塞がれ、舌を絡めとられ、何も考えられなくなったジョシュアは全身をレイモンドに預けて目を閉じた。 

 




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