スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ 金の毛並みの子犬は 青狼騎士様に愛されたい

愛しているのであれば

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「……ユージーン、お前の事だから、俺達の事については全く何も気にしていないだろう」

 一通りの説明が終わり、しばしの沈黙の後レイモンドが口を開いた。

「だがノア経由で状況を知り、放っておけないノアから頼まれてこういう事をしたのだと思うが」
「……全く気にしていない、というほどではないが……まあ、そうだな」

 バレているのなら丁度いいと、ユージーンはあっさりと認める。

「私は私の事で手一杯で、君たちが何をしていようがしていまいが別にいいのだが……まあ、未だに口づけしかしていないというのには少々驚いた」
「こっちはお前がこんな物持ってきて、事細かに説明する方が驚きだよ」

 ビンの中のオイルを揺らしてみながら、レイモンドはため息をついた。

「……したくないわけではないのだろう?」
「あたり前だろ。したいに決まっている」
「では、なぜしない」
「したいからするとか、そういう簡単な問題じゃないだろう」
「…………」

 イラついたように言うレイモンドに、ユージーンは首を傾げる。

「したいのにしないという事が理解できない」
「したいからといって!」

 バンッと大きな音を立てテーブルが叩かれる。

「欲望のままに抱けないだろう! ジョシュアは女じゃないんだ!」
「そんな事、言われなくてもわかっている」

 ハーッと大きく息を吐き、ユージーンはレイモンドを見た。

「ジョシュアは女じゃない。同じ男の君が相手じゃあ、負担も大きいだろう。だが、それが何だと言うのだ? そんな事を言い訳にして、自分は我慢しているのだと正当化して、それでジョアシュアを愛していると?」
「何が言いたい! 俺がジョシュアを愛していないって言いたいのか!」
「そうは言わないが、理解できない」

 酒を一口飲み、興奮で顔を赤くしているレイモンドを見る。

「体を重ねるだけが愛ではないだろう。特に同性同士だし、それぞれの形があっていいと思う。だが君は、ジョシュアを抱きたいのだろう? それなのに傷つけるのが恐くて、じゃあ自分が我慢して口づけだけで満足すればいいと思っているのなら、なんと情けない」
「…………」

 無言で睨まれるが、気まずさは微塵も感じない。

(まるで、途方に暮れて泣きべそをかいているようじゃないか)

 そんな友のグラスに、酒を注ぐ。

「ジョシュアが戸惑い恐がっているのであればそれでいいだろう。しかし私が聞いた話では、ジョシュアは口づけしかしてもらえない事を気にし、悲しんでいるようだが」
「はっ?」
「討伐の時は対峙している魔獣をしっかり観察するわりに、恋人の事はろくに見ていないのだな」
「なっ……」
「だってそうだろう? よく見ていたらわかったのではないか? 抱きしめた時、嬉しそうにしていなかったか? 口づけをし唇が離れた後、名残惜しそうな顔をしていなかったか?」
「そ、れは……」

 言葉に詰まり、目が泳ぐレイモンドに、ユージーンはため息をついた。

「よくわからないのだな? まあ、好きな相手を傷つけたくなくて必死に自制していたのだろうから、あまり責めたくはないが……自分が我慢すればそれでいいと思い続けるのは、ジョシュアが可哀想だと思う」
「可哀想、か?」
「ああ。君は恋人が、君に抱いて欲しいと願っているとは全く感じないのか?」
「え、あ……」

 ユージーンの問いに戸惑い、困惑の表情を浮かべるレイモンド。

「……ノアから少し聞いただけだが、ジョシュアは抱いてもらえないのは自分のせいだと思っているらしいぞ?」
「はっ? なんだってそんな!」
「そういうものなのではないか? 恋をすれば、相手に愛してもらいたいと願うだろう。自分の気持ちはわかるが相手の気持ちはわからないから、不安にもなるだろう。私だって不安になり動揺する事があるし、ノアだってそうだ」
「あんなにべったりしているくせに」
「そう、それなのに、だ。……レイモンド、君はちゃんと愛を語り、触れているか?」
「…………」
「傷つけたくないのなら、その方法を探し準備すればいい。ノアは自分から希望を言ってくれるから助かっているが、ジョシュアはあまり言えない性格のようだ。大変かもしれないが愛しているのならば、年長者として君が導いてやるのだな」
「……ああ、そうだな……わかった」

 ようやく納得したらしい友に、ユージーンは微笑んだ。

「まあ結果として、何も知識がないうちに先走らなくて良かったかもしれない。とっておきの物をやろう」
「ん? なんだ? ……アメ?」
「そう。少しだけ媚薬が入っていて、初めての痛みを軽減させてくれる。二つあるから、くれぐれも無理はするなよ。」
「ああわかった、感謝する」

 そう言って媚薬入りのアメを受け取り、しげしげと見つめる。

「……こんな物があるなんて知らなかった。ユージーン、よく知っていたな」
「それは、レイモンドに教えてもらった薬屋で買ったものだ」
「はっ? あの薬屋? 何度も行ってるがそんなのを売ってるなんて気づかなかった」
「普段は扱っていない物だからな。店主が色々と相談にのって教えてくれて、取り寄せてくれた」
「相談したのか? あの店主に? ……お前、すごいな。尊敬するよ」
「わからないのだから聞くしかあるまい? 知識不足で事に及び、愛する人を傷つけるなんて絶対嫌だからな」
「そう、だよな、その通りだ……」

 ユージーンの話を真摯に受け止め、レイモンドは一つ大きく頷いた。

「俺もそうする。ユージーン、準備の方法を具体的に教えてくれ」
「え? あー……まあ、仕方がないな。レイモンドは、私の親友だから」

 少し戸惑ったが承諾し、その後レイモンドは遅くまで、真剣に知識の習得に努めたのだった。



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