スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ 金の毛並みの子犬は 青狼騎士様に愛されたい

結成!『レイモンドとジョシュアを応援し隊』 

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「ところで」

 二人に忠告を終えたドロリスが、話題を変える。

「ジョシュアくんがさっき泣いていたのは、なんだったの?」
「あ! そうだ! 俺も聞きたかったんだ! どうしたんだよジョシュア!」

 姉弟に見つめられ、ジョシュアは「う、ん……」と少し目を伏せながら言った。

「ノアが……羨ましくて……」
「俺が?」
「うん……」

 姉弟が顔を見合わせ『どういう事?』『わかんね』と目で会話する。

「ノアはさ、凄いよね。お互いの髪や目の色の物を身に付けるだとか、髪を梳いてあげるだとか、僕には全然思いつかない事をして」
「ひゃー、ノアったらそんな事してるの? 乙女じゃない!」
「そっ、そんなのフツーに思いつくことだろっ? マンガでよくある、っと」

 マンガなど何か知らないジョシュアの前だったと口を噤んだが、ジョシュアはちゃんと聞いていなかったようで、メソメソしながら言った。

「そういう事を思いついて行動にできるから、ノアはユージーン様ともう、色々しているでしょう?」
「いろっ……い、いやっ、別に、そのっ」
「だってこの間、キスマークついてたよ?」
「っっっっ!?」
「キャッ」

 焦って真っ赤になるノアと、両手で口を押さえつつも歓喜の声を洩らすドロリス。

「そ、れはそのっ、きっと訓練で……」
「だって、訓練でできるアザと全然違ってたよ。いいじゃない、僕には隠さなくったって」
「そーよそーよ! 私にだって隠さないでよ!」
「姉ちゃんは黙ってて!」
「なんでよ! 私は姉よっ! 姉にはちゃんと報告しなさい! ねえジョシュアくん、どこにキスマークが?」
「えっと、腕の付け根の内側とか太腿の内側とか、普通にしてれば見えない所なんですけど、お風呂の時に気がついて」
「うわエッロ……最高じゃない」
「ですよね……いいなぁ……」

(~~~~気をつけてたのにっ! ユージーンにもっと気をつけろって注意しなきゃ!! いや、それにしてもなんでジョシュアがこんなに落ち込んでんだよ)

「あー、んー、えーっと……どうしてそんなしょんぼりするんだよ。ジョシュアだって……あ、そっか、あまりレイモンド様と休み一緒にならないから……」
「うん……それに、休みが一緒になったってノアみたいな事してもらえるわけじゃないし……」
「そっかぁ……ん? えっ?」

 何か今、変な事を聞いたような? と、ノアはジョシュアを見た。

「俺みたいな事って……あ、キスマーク付けられる事? いやそれはさ、気を付けてるんでしょ、レイモンド様が。人に見られたらマズイしさ」

 そう言うノアに、ジョシュアは首を横に振る。

「跡を残さないようにとかじゃないよ。そういう行為、そのものをしてくれないの」
「…………ん?」
「…………えっ?」

 ノアとドロリスが、再び顔を見合わせる。

「えーと……そういう行為そのものを?」
「ここしばらく?」
「ううん。ここしばらくじゃなく、これまで一度も」
「ん~……え、待って? ジョシュアくん」

 ドロリスがこめかみを指で押さえる。

「確か、嘆きの森遠征後すぐに付き合い始めたって聞いたけど」

 コクリと頷くジョシュア。

「レイモンド様に告白されて?」

 コクリ

「討伐移動した宿で?」

 コクリ

「その時しなかったの? セッ…いえ、えーと、 睦事むつみごとを」

 コクリ

「…………」
「…………」

 しばしの沈黙の後、

「「なんでっ!?」」

 姉弟が声を揃えてジョシュアに詰め寄る。

「なっ、なんでって……だってあの時ユージーン様が大怪我してたしノアも寝込んでいて、そんな事してる場合じゃなかったから」
「あー……そう、ね……うん……」

 ため息をつき、天を仰ぐドロリス。

「……なんか、ごめんジョシュア」
「ううん、ノアのせいじゃないから気にしないで」

 困ったように弱々しく笑うジョシュア。

「その後も、全く機会がなかったというわけじゃないし。でも、レイモンド様はキスはしてくれるけど、それ以上の事は……きっと僕にはその気にならないんじゃないかな。ノアみたいに積極的に触れたりできないし、可愛い事もできないし」
「いやいや、そんな事ねーよ。ジョシュアはもう、存在そのものが可愛いから。なぁ姉ちゃん」
「そうよぉジョシュアくん、レイモンド様はジョシュアくんの事、好きで好きで堪らないわよ」
「でもそれなら、どうして何もしてくれないのかなぁ」

 ジョシュアの大きな目が潤み、ポロリと涙が零れた。

「僕ちょっとトイレ!」

 泣いているところを見られたくなかったのか、そう言って席を立ったジョシュアを見送り……姉弟は、互いの顔をまじまじと見た。

「ちょっと……どういう事?」
「それはこっちが聞きたいよ! マンガでは告白してすぐヤってたよな? 宿屋で」
「ヤってたわよ、その夜のうちに。それがいまだにキスだけ? ええっ? なんで?」
「俺とユージーンが寝込んでたからって言ってたよな、それどころじゃなかったって」

 それを聞き、ドロリスが頭を抱える。

「あー確かにそれどころじゃないか~。お互いの親友が寝込んでいるんだから、いくら心が通い合って恋人になれたからといってセックスする気にはなれないのかも。……私が描いた時も、主にユージーン推しの読者様達から『ユージーンが危ない状態なのに不謹慎!』とか『自分さえ良ければって感じでがっかりしました』とか、厳しい感想来たもん。でもさぁ、やっぱりそろそろ色っぽいシーン入れないと、ってチカちゃんと話し合って描いたんだけど」
「あー、担当のチカさん」
「うん。チカちゃんユージーン推しだから、チカちゃんが『描きましょう!』って言うなら大丈夫かと思ったんだけど」
「まあ、チカさんは編集者として、自分の感情後回しにしたのかもな。それに全員が納得する話ってのは無理でしょう。レイ×ジョシュがようやく結ばれたって喜んでる感想も多かっただろ?」
「ん~そうだけど……なんかそういう私の迷いとかがこの世界に反映されちゃってるのかなぁ」
「いや違うだろう。だって結構マンガ通りではないからさ。けどなぁ、ジョシュアには悪い事しちゃったなぁ。だって俺とユージーンの事が心配でできなかったのに、心配かけた俺達はもう……」
「しっかりしてるんだもんねぇ……キスマーク付けちゃうなんて、ユージーンって結構情熱的なのね」
「ウッ……と、とにかく! なんか俺が手助けできる事があればいいんだけど……」
「そうよねぇ、させてあげたいわよねぇ」

 こうしてここに、『レイモンドとジョシュアの初体験を応援し隊』が発足したのであった。


 


 
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