スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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おまけ

二人の想い 1 (40秘密 と 41第二王子からの呼び出し の間のあたり)

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 嘆きの森遠征から王都に戻ってしばらく経ち、第三騎士団はこれまで団長と魔術師長、そしてレイモンドとユージーンとノアしかできなかった連携攻撃を、もっと多くの騎士と魔術師ができるようにする為の訓練を始めた。
 今回のように思いがけない特殊個体の魔獣が出現した場合それに対応できるように、そして現団長と魔術師長がずっといるわけではないのだから、という理由だ。それはもちろん良い事で、大切な事なのだが……。

「いててててて」
「あー、これは折れてるねぇ、肋骨3本くらい」

 シャツを捲り、怪我の具合を診ていたウィリアムが気の毒そうに言う。

「これじゃあシャツを脱ぐのも大変だろうから、ポーション飲んで」
「スミマセン、イタダキマス」

 囁くような声で言いながら、ポーションを受け取りゆっくりと飲むノア。声を出すのもポーションを飲むのも、痛くて痛くて大変なのだ。

「……ハインツめ……」

 同僚の魔術師の名をボソリと、しかも憎々し気に呟く恋人が恐い。

「ユージーン、俺、大丈夫だからね? 訓練中の怪我はしょうがないから」
「しかし、威力の調整が出来ないにも程があるだろう。まずは少し押す程度、と言っているのに、いきなり訓練場の端から端まで吹き飛ばすとは。煉瓦造りの壁に激突して、ノアだからまだこの程度で済んだがジョシュアだったら死んでいるぞ」
「いやぁ……まあ……う~ん……」

 なんと返答してよいものか……。

(まあ、確かにそうかもしれないけど、初めてだしすぐそばでユージーンがピリピリしているしで緊張したんだろうな。あとジョシュアは、連携攻撃させられるレベルじゃないって事で訓練から除外されてるけど)

「まあまあ、私がちゃんと治してあげるから、そんなに怒らないで」

(助かる~、ウィリアムさん)

 怪我を治してもらえるのはもちろんの事、ユージーンを宥めてもらえるのはとてもありがたい。誰にでもできる事ではない。そう思い感謝したのだが、

「……そういえば君たち、 閨事ねやごとはもうしている?」
「っ! ゲホッ、ゲホゲホッ、いてて……」

 治療しながら『お昼はもう食べた?』くらいの感じで尋ねられ、ノアは盛大にむせ込んでしまった。治療途中なので怪我の箇所も痛い。

「ウィリアムさん、治療の途中でそういう事を言うのは止めて下さい。ノアが苦しんでいます」
「あーごめ~ん。時間を有効に使おうと思って……。で、どうなの? 単なる興味本位で聞いてるわけじゃないよ?  もしそういう事がまだだったら、必要な物とかあげようかと思って」
「それはありがたいです。是非、お願いします」
「良かった、実はもう用意してあってね」

 眉間にシワを寄せて抗議していたのにコロリと態度を変えて食い気味に返答するユージーンと、治療を中断して立ち上がったウィリアムに、ノアは「お願いです……治療の、後にして……」と、弱々しく懇願するのだった。



「と、言う事で一通り説明したわけだけど……どう?」
「…………」
「…………」

 ウィリアムの問いに、無言の二人。
 ウィリアムが二人の為に用意してくれていたのは、準備の為の洗浄液、慣らす為のオイルや道具等一式で、結構な量だったので訓練終了後に改めて訪問し説明を受けたわけだが。
 チラリと横を見ると、ユージーンが難しい表情でなにやら考えている様子だ。

(う~ん、俺は一応わかってたけど、ユージーンは初めて知る事もあっただろうし……どうなんだ? もしかして、嫌になった?)

 無言のままの二人に、ウィリアムは「まあ、すぐには思いつかないかもね」と明るく言った。

「聞きたい事があったらいつでもおいで。それと、消耗品の追加が欲しくなったら言ってね。似たようなものはもちろん店でも売っているけど、これは私が調合した特製の物だから」
「ウィリアムさんが調合……」
「そう。……あれ? やだなぁノア、眉間にシワが寄っているよ。いい素材ばかり使っていて安全だから安心して」
「……命の前借りポーションも安全だって……」
「その呼び名、誰から聞いたの? 失礼だなぁ。あれは本当に安全! 鑑定士にちゃんと鑑定書もらっているからね」
「あの痛さで安全って言われても……」
「うーん……まあ確かにそのせいで、第一、第二騎士団での導入は見送られちゃったんだけど……まあとにかく、これらも鑑定済みで変な作用も無いから安心して使って」
「はい……ありがとうございます」
「ありがとうございます」

 ユージーンも礼を言って、二人で治療師長室を後にしたが。

「……ノア、夕食の後、少し話したいのだが」
「……わ、かりました……」

(なんだ? なんの話だ? やっぱり付き合うのは無理そうだ、とか言うんじゃないよな!?)

 その日の夕食は大好きなレッドボアのスパイス焼きだったが、不安であまり味わえないままどうにかこうにか完食したノアは、ドキドキしながらユージーンの部屋に向かった。



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