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第三章 どうせなら楽しもうと思う
50 約束 ☆
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コンコンコン
部屋の戸をノックする音に、ベッドに腰かけていたユージーンは返事をせずに立ち上がり、すぐさまドアを開けた。
「うわっ」
返事が先と思っていたノアは驚き、思わず一歩後ずさったが、腕を掴まれ部屋の中に引き入れられた。そして、そのまま抱きしめられる。
「……来なかったらと、不安だった……」
「明日休みだから……休みは、前の晩から一緒にいようって決めたじゃないかよ」
「そうだが……午後の訓練で私は、ノアに対して怒鳴ってばかりだったから……」
「あれは! 俺が気の抜けた動きばっかりしたから……ごめん……あんなんじゃ、ユージーンは注意するしかないよ……」
腕の中で小さくなっていくノアの背中を、ユージーンは慰めるように撫でた。
「だが、理由があっただろう? 昼、私があんな態度だったから」
「いや、あれも俺が悪くて」
「ノアは悪くない」
言葉を遮り、ユージーンはきっぱりと言った。
「ドロリス様がノアの姉上だというのはちゃんと説明を受けた。ずっと離れ離れだった姉弟なのだから、抱擁だってするだろう。ただあの時は……ノアが女性と抱き合っているとしか認識できなかったのだ。余裕があれば、相手がドロリス様と解かり納得しただろうが、その前に心が動揺し、魔杖を取り落としていた。驚かせてすまない……」
「いや! 驚かせたのは俺達の方だよ! 姉ちゃんも、悪い事したって言ってたし……」
「そういえば、食堂でなにやら一生懸命説明してくれていたな。正直、あまり意味がわからなかったが……」
「ああうん、俺達の出身地、言葉が独特で……焦るとつい、出ちゃうんだよ」
「それでも、姉と弟でどうこうという事は絶対にない、と言っているのはわかった」
「ハハ、なら良かった」
抱きしめていた腕を緩め、ユージーンはノアの手を引いてベッドへと誘い、並んで腰かけた。
ちなみにドロリスは「私けっこう雑食タイプでBLも百合も獣人も人外もなんでも描くんですけど近親相姦だけはダメでなんかこう実際に弟がいるせいかファンタジーっぽく考えられないっていうか」などと、一気に早口で話し、どんよりしているユージーンをなんとか復活させようとしていたのだが。
「……俺、ユージーンを嫌な気持ちにさせちゃった事が気になって、なんて言い訳すればいいかなんて考えてたから、訓練のとき気が散ってて……ごめん」
「そう考えさせてしまったのは私だろう?」
「いや、そもそも俺と姉ちゃんがあんな所で抱き合ってたのが……って、抱き合うっていうの、なんかヤだな。でもそうなんだけど……あーホントごめん」
謝り「……でもさ」と、隣りに座るユージーンを見る。
「本当は、今後ああいう事はしないって約束するのが一番いいんだけど……たぶん俺、姉ちゃんとはこれからもしちゃうと思うんだ。嬉しい事があった時とか、悲しい事があった時とか、互いを慰めたり、安心させたりする為に」
「ああ」
「この世界でたった二人の身内だし、俺は姉ちゃんに救ってもらった恩があるし、大切な存在なんだ」
「幼い頃、命を救ってもらったと言っていたな」
「うん。それに、俺の一番大切な人を救ってくれた。だから……」
不安げに自分を見るノアに、ユージーンは微笑んだ。
「もちろん、構わない。まあ、私は親兄弟と仲が良くないからその気持ちはわからないが、ノアにとって大切な人がいるというのは良い事だと思う。これからは私も、こんな事で動揺してノアを不安にさせないようにしよう」
「ユージーン……ありがとう」
そう言うと、ノアはユージーンの部屋着の胸元を掴みグイと引くと、唇を合わせた。
「こういう事は……ユージーンとだけって、約束するよ」
「本当か? 言葉にしたからには守ってもらうぞ?」
「もちろん絶対守る」
「そうか……では私も、ノアだけと約束しよう」
ふんわりと、蕾がほころぶように笑いノアの頬を撫で、今度はユージーンが唇を重ねる。
「んっ……」
唇を重ねるだけのノアの口づけに対して、ユージーンからの口づけは深い。
唇を舐め、食いしばる歯をいつの間にか開かせ、舌を絡め、上あごを撫でる。
「ん……ふっ……ンンッ」
与えられる快楽を拾う事に精一杯なノアは、食むように下唇を挟まれ、ビクッと身体を震わせた。
(うわ……思わず身体が反応して……いや、しょうがないよ。だって)
「ユージーンのキス、いやらしい……」
「フッ、そうか?」
「うん、いやらしくて……気持ちいい……」
「それなら、続けて問題ないな」
耳元で囁かれ、抱きしめられ、息が絶え絶えになるような口づけをされ、肌を直に撫でられ……ノアはその刺激に必死に耐える。
(はあ……もう、今すぐにでも駄目になってしまいそうだ……いつも甘やかされて、気持ち良くしてもらって、わけわかんなくなっちゃう……でも今日は!)
そう、今日のノアには、二つの目標があった。
(仲直りできたらしようと思ってた事ふたつ! 両方は無理でも一つは絶対にするぞ!)
「……ん? どうかしたのか?」
ジタバタして自分の腕の中から逃れようとしているらしい恋人に、首を傾げるユージーン。
「何かしたいのか?」
「そう!」
腕を緩めてもらって抜け出し深呼吸してから、ユージーンの部屋着のボタンに手をかけ上から順に外していく。が、もたもたしてしまい、なかなか最後まで辿り着けない。
(ユージーンは俺の服、あっという間に脱がすんだけど……今日もいつの間にか上半身裸にされてるし……)
ようやく全部外して脱がす事ができ、抱きついて口づけをする。
「服を、脱がしたかったのか?」
「違う、まだ途中!」
ユージーンの、少し低い体温と滑らかな肌が気持ち良くて、もう少し抱きついていたかったが我慢し、ベッドから降りて床に立膝をつき、今度はユージーンの部屋着の下に手をかけた。ウエスト部分は紐が通してあって結んでいるだけなので、すぐに緩める事ができる。
「ノア?」
少し戸惑ったようなユージーンの声を無視し、紐を解いでその下の下着も一緒に下し、足から抜き取った。
「何を……んっ……」
外の空気に晒されたその先端にノアが唇を寄せると、ユージーンは小さく声を漏らした。
(姉ちゃんのおかげで知識だけは山ほどあるけど、実際にするのは二度目だし下手くそだ。けど……いつもユージーンがしてくれるのを思い出して……てか、ユージーンだって初めてだったんだよな? なんか最初からめちゃくちゃ巧かったけど……娼館には一度行ったって言ってたから、プロのお姉さんの技で覚えたのか? でも何年も前の事だよな……いや、そんな事考えてる場合じゃない。そうでなくてもヘタなんだから、集中しないと……)
両手を添え、先の方を口中に含み、括れにそって円を描くように舌を動かす。そのうち、ユージーンの欲情が昂ってくるのを感じ、はっきりと浮き出た筋を下から上へと何度も舐め上げた。
「あぁノア……そんなにしては……」
甘く苦し気なその声に、行為に夢中になっていたノアはハッとした。
(そうだ! 今日は目標があったんだ! フェラされてる時のユージーンの顔を見る、という目標が!)
昼間ドロリスが描いたユージーンの絵は、結局ノアがもらった。
(というか、押し付けられたってのが正しいけど!)
あげるというのを一度は断ったが、それでも「遠慮しないでいいのよ」と勧められては、本人が目の前にいるのだし、いらないとは言えずに受け取った。そして、机の奥深くに封印しようとしたのだが……その前にもう一度見て気が付いたのだ。
(俺、この時のユージーンの顔見てない!)
そうしたら、こういう表情をしているのか、それとも違う顔をしているのか、気になって気になってソワソワしてしまい「今日絶対見る!」と意気込んで来たのだ。
(あぶねーあぶねー、夢中になってまた見ないでしまうところだった)
先端のトロリとしたぬめりに『感じてくれている』と嬉しくなりながら、ノアは顔を上げてユージーンを見上げたが、
「っっっっっ!」
乱れた長い銀髪、上気し赤みを帯びた頬、そして、愛おし気に自分を見つめている潤んだ紫の瞳に、心臓が止まりそうになる。
「……どうした? ノア。疲れたか?」
ピシッと固まったノアに、あまり余裕がなさそうな、少し苦しそうな笑顔でユージーンは声をかける。
「もう、充分だ。さあ、こっちに」
「あ、う……」
「どうした? さあ」
頬に触れられ、ビクッと反応してしまう。
「あ、で、でも、ユージーン、まだイッてない……」
「もう充分気持ち良くなったから……私にも、ノアを触らせてくれ」
そう言われ、不本意ながらもノアはベッドに上り、ユージーンに抱きついた。
(くそっ……今日こそはイッてもらいたかったのに……でもユージーンがあまりにも色っぽすぎて、綺麗すぎて、とてもじゃなけど心臓がもたない。姉ちゃんの絵の数十倍威力あるんですけどっ。どーすんだよもう)
ドキドキする心臓の音が、ユージーンに聞こえているのではないかと恥ずかしくなるが、
「あっ」
いつの間にか痛い程に張り詰め、昂っていた場所を布の上から撫でられ、ビクリと反応してしまう。
「もう、こんなに硬くなっている」
「だ、だって、ユージーンが……」
「ん? 私はされる側で、何もしていなかっただろう?」
「ユージーンに触れば、興奮するんだよ! それに、あんな……」
「あんな?」
(あんな優しくて艶っぽい顔見せられたら、って言いたいけど言いたくない!)
「なんでもないっ!」
複雑な心境のノアは、口づけする事でその話題を終わらせた。
「ん……ふっ……」
自分からしたが、すぐに主導権はユージーンに移る。
与えられる深い口づけに翻弄されている間に、残されていた衣類は抜き取られ、欲望で張り詰めたその場所に直接触れられる。
「はぁ……ユージーン……あの、あのさ」
「なんだ?」
唇から首元へ口づけされる場所が移動し、話せるようになったノアが息を切らしながら言う。
「あの、お願い……いや、提案が、あって……」
(クソッ、毎日メチャクチャ鍛えてるってのに、息が、あがる……)
「提案?」
「そう……あのさ……えーと……んんっ」
話の最中も、ノアの身体への口づけを止めないユージーンが胸の先端を口に含み、ノアは必死に声を抑えた。
「あ、あの……今日、はぁ……えっと……あのぉ……ちょっとユージーン! 一回ちょっと待ってもらっていい!?」
「?」
胸から顔を上げ自分を見上げるユージーンが色っぽくて、赤面しながらノアは言った。
「こういうことされながらだと、わけわかんなくなって話せないから! あのさ……」
(きちんと座って正面から見つめられると、それはそれで話しにくいけど……)
「あの……今日は、最後までしない?」
ノアの言葉に驚き、一瞬目を見開いた後、スーッと表情が曇る。
「……それは、今日の事を気にして言っているのか?」
「いや! そういう事じゃなく……まあ、全く無いってわけではないけど……」
伏し目がちにそう答えるノアに、ユージーンがため息をつき、長い銀の髪をかきあげた。
「決めただろう? 最後までするのは、きちんと準備ができてからと」
「それは……そうだけど……」
付き合い出した頃に、話し合った事がある。それは、どちらが抱いて、抱かれるか、という事。
二人とも、恋人になれた事が嬉しくて重要だから、別にどちらでもいい、という考えだったが、最終的にノアが自分から「たぶん俺は抱かれる方だと思う」と言った。そうして、最後までするのはノアがユージーンを受け入れる事ができるように充分慣らしてから、という事もその時に決めた。
「最後までする事で仲直りしようだとか、私を安心させようという考えは間違いだ。確かに嫉妬し、動揺してしまったが、だからといってノアに無理をさせるのは私の本意ではない」
「それは! それはわかってるよ! そうじゃなくて……俺の、方が……」
「ノアの方?」
「ん……いやさ、今回ユージーンに見られて、焦って、なんて言い訳したらいいかって考えて、訓練にも身がはいらなくて……」
「その話は、さっき終わっただろう?」
「いや、それとはまた別って言うか、俺自身の話で……俺にとって姉ちゃんと抱擁するのなんて、別に大したことじゃないんだ。けど、すごく動揺してしまったのは、ユージーンにどう思われたかってことが心配で……ユージーンに嫌われたらどうしよう、別れるって言われたらどうしようって、悪い事ばっかり考えてた」
「そんな事を心配していたと? 全く……ありえない事だ、私がノアを嫌ったり、別れようとするだなんて」
安心させるように背中を撫でられ、ノアはユージーンの肩に額を押しつけた。
「うん……でも、ユージーンはすごく綺麗なのに対して、俺はいたって普通だし。今日だって姉ちゃんと並んでる方がしっくりくるっていうか……性格はアレだけど、見た目はいいからさ、姉ちゃん。もちろんああいう性格だし、ユージーンとどうこうって事は絶対無いってわかってるけど、なんも知らない人が傍から見たら、ユージーンと姉ちゃんの方が似合ってるって思うだろ? ああ、なんか、何が言いたいのかわかんなくなってきたけど……結局俺、自信がないんだ。だから早くユージーンと最後までしたいって思ったんだ。そしたら自信が持てる気がするし、不安にもならない気がするし」
「…………」
「あ、でもっ」
反応が無い事に焦り、ノアはそのままの姿勢で、ユージーンの顔を見ず早口で言った。
「こういう事って、心の準備が必要だよな! 突然ゴメン! やっぱり今日ってのは無しで」
「ノア」
名前を呼ばれ、口を噤む。
「ノア……私がいつも、どれだけノアと深く繋がりたいと思っているのか、そしてその欲望を、どれだけ必死に堪えていたか……」
「……ユージーン?」
肩から額を離して見たユージーンは、息をのむほどに美しかったが、
「今夜、それを思い知らせてやろう」
「……え、えっと……」
思わず見とれていたノアの背筋に、なにやら冷たいものが走った。
「お、思い知らせるって……なんか、物騒な……」
「そうか? 一番しっくりくる言葉だと思うが」
「え、と……お手、柔らかに……」
ノアは、そう頼む事しかできなかった。
☆まだ書き足りない……続きは土曜日に!
部屋の戸をノックする音に、ベッドに腰かけていたユージーンは返事をせずに立ち上がり、すぐさまドアを開けた。
「うわっ」
返事が先と思っていたノアは驚き、思わず一歩後ずさったが、腕を掴まれ部屋の中に引き入れられた。そして、そのまま抱きしめられる。
「……来なかったらと、不安だった……」
「明日休みだから……休みは、前の晩から一緒にいようって決めたじゃないかよ」
「そうだが……午後の訓練で私は、ノアに対して怒鳴ってばかりだったから……」
「あれは! 俺が気の抜けた動きばっかりしたから……ごめん……あんなんじゃ、ユージーンは注意するしかないよ……」
腕の中で小さくなっていくノアの背中を、ユージーンは慰めるように撫でた。
「だが、理由があっただろう? 昼、私があんな態度だったから」
「いや、あれも俺が悪くて」
「ノアは悪くない」
言葉を遮り、ユージーンはきっぱりと言った。
「ドロリス様がノアの姉上だというのはちゃんと説明を受けた。ずっと離れ離れだった姉弟なのだから、抱擁だってするだろう。ただあの時は……ノアが女性と抱き合っているとしか認識できなかったのだ。余裕があれば、相手がドロリス様と解かり納得しただろうが、その前に心が動揺し、魔杖を取り落としていた。驚かせてすまない……」
「いや! 驚かせたのは俺達の方だよ! 姉ちゃんも、悪い事したって言ってたし……」
「そういえば、食堂でなにやら一生懸命説明してくれていたな。正直、あまり意味がわからなかったが……」
「ああうん、俺達の出身地、言葉が独特で……焦るとつい、出ちゃうんだよ」
「それでも、姉と弟でどうこうという事は絶対にない、と言っているのはわかった」
「ハハ、なら良かった」
抱きしめていた腕を緩め、ユージーンはノアの手を引いてベッドへと誘い、並んで腰かけた。
ちなみにドロリスは「私けっこう雑食タイプでBLも百合も獣人も人外もなんでも描くんですけど近親相姦だけはダメでなんかこう実際に弟がいるせいかファンタジーっぽく考えられないっていうか」などと、一気に早口で話し、どんよりしているユージーンをなんとか復活させようとしていたのだが。
「……俺、ユージーンを嫌な気持ちにさせちゃった事が気になって、なんて言い訳すればいいかなんて考えてたから、訓練のとき気が散ってて……ごめん」
「そう考えさせてしまったのは私だろう?」
「いや、そもそも俺と姉ちゃんがあんな所で抱き合ってたのが……って、抱き合うっていうの、なんかヤだな。でもそうなんだけど……あーホントごめん」
謝り「……でもさ」と、隣りに座るユージーンを見る。
「本当は、今後ああいう事はしないって約束するのが一番いいんだけど……たぶん俺、姉ちゃんとはこれからもしちゃうと思うんだ。嬉しい事があった時とか、悲しい事があった時とか、互いを慰めたり、安心させたりする為に」
「ああ」
「この世界でたった二人の身内だし、俺は姉ちゃんに救ってもらった恩があるし、大切な存在なんだ」
「幼い頃、命を救ってもらったと言っていたな」
「うん。それに、俺の一番大切な人を救ってくれた。だから……」
不安げに自分を見るノアに、ユージーンは微笑んだ。
「もちろん、構わない。まあ、私は親兄弟と仲が良くないからその気持ちはわからないが、ノアにとって大切な人がいるというのは良い事だと思う。これからは私も、こんな事で動揺してノアを不安にさせないようにしよう」
「ユージーン……ありがとう」
そう言うと、ノアはユージーンの部屋着の胸元を掴みグイと引くと、唇を合わせた。
「こういう事は……ユージーンとだけって、約束するよ」
「本当か? 言葉にしたからには守ってもらうぞ?」
「もちろん絶対守る」
「そうか……では私も、ノアだけと約束しよう」
ふんわりと、蕾がほころぶように笑いノアの頬を撫で、今度はユージーンが唇を重ねる。
「んっ……」
唇を重ねるだけのノアの口づけに対して、ユージーンからの口づけは深い。
唇を舐め、食いしばる歯をいつの間にか開かせ、舌を絡め、上あごを撫でる。
「ん……ふっ……ンンッ」
与えられる快楽を拾う事に精一杯なノアは、食むように下唇を挟まれ、ビクッと身体を震わせた。
(うわ……思わず身体が反応して……いや、しょうがないよ。だって)
「ユージーンのキス、いやらしい……」
「フッ、そうか?」
「うん、いやらしくて……気持ちいい……」
「それなら、続けて問題ないな」
耳元で囁かれ、抱きしめられ、息が絶え絶えになるような口づけをされ、肌を直に撫でられ……ノアはその刺激に必死に耐える。
(はあ……もう、今すぐにでも駄目になってしまいそうだ……いつも甘やかされて、気持ち良くしてもらって、わけわかんなくなっちゃう……でも今日は!)
そう、今日のノアには、二つの目標があった。
(仲直りできたらしようと思ってた事ふたつ! 両方は無理でも一つは絶対にするぞ!)
「……ん? どうかしたのか?」
ジタバタして自分の腕の中から逃れようとしているらしい恋人に、首を傾げるユージーン。
「何かしたいのか?」
「そう!」
腕を緩めてもらって抜け出し深呼吸してから、ユージーンの部屋着のボタンに手をかけ上から順に外していく。が、もたもたしてしまい、なかなか最後まで辿り着けない。
(ユージーンは俺の服、あっという間に脱がすんだけど……今日もいつの間にか上半身裸にされてるし……)
ようやく全部外して脱がす事ができ、抱きついて口づけをする。
「服を、脱がしたかったのか?」
「違う、まだ途中!」
ユージーンの、少し低い体温と滑らかな肌が気持ち良くて、もう少し抱きついていたかったが我慢し、ベッドから降りて床に立膝をつき、今度はユージーンの部屋着の下に手をかけた。ウエスト部分は紐が通してあって結んでいるだけなので、すぐに緩める事ができる。
「ノア?」
少し戸惑ったようなユージーンの声を無視し、紐を解いでその下の下着も一緒に下し、足から抜き取った。
「何を……んっ……」
外の空気に晒されたその先端にノアが唇を寄せると、ユージーンは小さく声を漏らした。
(姉ちゃんのおかげで知識だけは山ほどあるけど、実際にするのは二度目だし下手くそだ。けど……いつもユージーンがしてくれるのを思い出して……てか、ユージーンだって初めてだったんだよな? なんか最初からめちゃくちゃ巧かったけど……娼館には一度行ったって言ってたから、プロのお姉さんの技で覚えたのか? でも何年も前の事だよな……いや、そんな事考えてる場合じゃない。そうでなくてもヘタなんだから、集中しないと……)
両手を添え、先の方を口中に含み、括れにそって円を描くように舌を動かす。そのうち、ユージーンの欲情が昂ってくるのを感じ、はっきりと浮き出た筋を下から上へと何度も舐め上げた。
「あぁノア……そんなにしては……」
甘く苦し気なその声に、行為に夢中になっていたノアはハッとした。
(そうだ! 今日は目標があったんだ! フェラされてる時のユージーンの顔を見る、という目標が!)
昼間ドロリスが描いたユージーンの絵は、結局ノアがもらった。
(というか、押し付けられたってのが正しいけど!)
あげるというのを一度は断ったが、それでも「遠慮しないでいいのよ」と勧められては、本人が目の前にいるのだし、いらないとは言えずに受け取った。そして、机の奥深くに封印しようとしたのだが……その前にもう一度見て気が付いたのだ。
(俺、この時のユージーンの顔見てない!)
そうしたら、こういう表情をしているのか、それとも違う顔をしているのか、気になって気になってソワソワしてしまい「今日絶対見る!」と意気込んで来たのだ。
(あぶねーあぶねー、夢中になってまた見ないでしまうところだった)
先端のトロリとしたぬめりに『感じてくれている』と嬉しくなりながら、ノアは顔を上げてユージーンを見上げたが、
「っっっっっ!」
乱れた長い銀髪、上気し赤みを帯びた頬、そして、愛おし気に自分を見つめている潤んだ紫の瞳に、心臓が止まりそうになる。
「……どうした? ノア。疲れたか?」
ピシッと固まったノアに、あまり余裕がなさそうな、少し苦しそうな笑顔でユージーンは声をかける。
「もう、充分だ。さあ、こっちに」
「あ、う……」
「どうした? さあ」
頬に触れられ、ビクッと反応してしまう。
「あ、で、でも、ユージーン、まだイッてない……」
「もう充分気持ち良くなったから……私にも、ノアを触らせてくれ」
そう言われ、不本意ながらもノアはベッドに上り、ユージーンに抱きついた。
(くそっ……今日こそはイッてもらいたかったのに……でもユージーンがあまりにも色っぽすぎて、綺麗すぎて、とてもじゃなけど心臓がもたない。姉ちゃんの絵の数十倍威力あるんですけどっ。どーすんだよもう)
ドキドキする心臓の音が、ユージーンに聞こえているのではないかと恥ずかしくなるが、
「あっ」
いつの間にか痛い程に張り詰め、昂っていた場所を布の上から撫でられ、ビクリと反応してしまう。
「もう、こんなに硬くなっている」
「だ、だって、ユージーンが……」
「ん? 私はされる側で、何もしていなかっただろう?」
「ユージーンに触れば、興奮するんだよ! それに、あんな……」
「あんな?」
(あんな優しくて艶っぽい顔見せられたら、って言いたいけど言いたくない!)
「なんでもないっ!」
複雑な心境のノアは、口づけする事でその話題を終わらせた。
「ん……ふっ……」
自分からしたが、すぐに主導権はユージーンに移る。
与えられる深い口づけに翻弄されている間に、残されていた衣類は抜き取られ、欲望で張り詰めたその場所に直接触れられる。
「はぁ……ユージーン……あの、あのさ」
「なんだ?」
唇から首元へ口づけされる場所が移動し、話せるようになったノアが息を切らしながら言う。
「あの、お願い……いや、提案が、あって……」
(クソッ、毎日メチャクチャ鍛えてるってのに、息が、あがる……)
「提案?」
「そう……あのさ……えーと……んんっ」
話の最中も、ノアの身体への口づけを止めないユージーンが胸の先端を口に含み、ノアは必死に声を抑えた。
「あ、あの……今日、はぁ……えっと……あのぉ……ちょっとユージーン! 一回ちょっと待ってもらっていい!?」
「?」
胸から顔を上げ自分を見上げるユージーンが色っぽくて、赤面しながらノアは言った。
「こういうことされながらだと、わけわかんなくなって話せないから! あのさ……」
(きちんと座って正面から見つめられると、それはそれで話しにくいけど……)
「あの……今日は、最後までしない?」
ノアの言葉に驚き、一瞬目を見開いた後、スーッと表情が曇る。
「……それは、今日の事を気にして言っているのか?」
「いや! そういう事じゃなく……まあ、全く無いってわけではないけど……」
伏し目がちにそう答えるノアに、ユージーンがため息をつき、長い銀の髪をかきあげた。
「決めただろう? 最後までするのは、きちんと準備ができてからと」
「それは……そうだけど……」
付き合い出した頃に、話し合った事がある。それは、どちらが抱いて、抱かれるか、という事。
二人とも、恋人になれた事が嬉しくて重要だから、別にどちらでもいい、という考えだったが、最終的にノアが自分から「たぶん俺は抱かれる方だと思う」と言った。そうして、最後までするのはノアがユージーンを受け入れる事ができるように充分慣らしてから、という事もその時に決めた。
「最後までする事で仲直りしようだとか、私を安心させようという考えは間違いだ。確かに嫉妬し、動揺してしまったが、だからといってノアに無理をさせるのは私の本意ではない」
「それは! それはわかってるよ! そうじゃなくて……俺の、方が……」
「ノアの方?」
「ん……いやさ、今回ユージーンに見られて、焦って、なんて言い訳したらいいかって考えて、訓練にも身がはいらなくて……」
「その話は、さっき終わっただろう?」
「いや、それとはまた別って言うか、俺自身の話で……俺にとって姉ちゃんと抱擁するのなんて、別に大したことじゃないんだ。けど、すごく動揺してしまったのは、ユージーンにどう思われたかってことが心配で……ユージーンに嫌われたらどうしよう、別れるって言われたらどうしようって、悪い事ばっかり考えてた」
「そんな事を心配していたと? 全く……ありえない事だ、私がノアを嫌ったり、別れようとするだなんて」
安心させるように背中を撫でられ、ノアはユージーンの肩に額を押しつけた。
「うん……でも、ユージーンはすごく綺麗なのに対して、俺はいたって普通だし。今日だって姉ちゃんと並んでる方がしっくりくるっていうか……性格はアレだけど、見た目はいいからさ、姉ちゃん。もちろんああいう性格だし、ユージーンとどうこうって事は絶対無いってわかってるけど、なんも知らない人が傍から見たら、ユージーンと姉ちゃんの方が似合ってるって思うだろ? ああ、なんか、何が言いたいのかわかんなくなってきたけど……結局俺、自信がないんだ。だから早くユージーンと最後までしたいって思ったんだ。そしたら自信が持てる気がするし、不安にもならない気がするし」
「…………」
「あ、でもっ」
反応が無い事に焦り、ノアはそのままの姿勢で、ユージーンの顔を見ず早口で言った。
「こういう事って、心の準備が必要だよな! 突然ゴメン! やっぱり今日ってのは無しで」
「ノア」
名前を呼ばれ、口を噤む。
「ノア……私がいつも、どれだけノアと深く繋がりたいと思っているのか、そしてその欲望を、どれだけ必死に堪えていたか……」
「……ユージーン?」
肩から額を離して見たユージーンは、息をのむほどに美しかったが、
「今夜、それを思い知らせてやろう」
「……え、えっと……」
思わず見とれていたノアの背筋に、なにやら冷たいものが走った。
「お、思い知らせるって……なんか、物騒な……」
「そうか? 一番しっくりくる言葉だと思うが」
「え、と……お手、柔らかに……」
ノアは、そう頼む事しかできなかった。
☆まだ書き足りない……続きは土曜日に!
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