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イーサン・ヴァレンタインの体内の毒を排除する治療も、最初の治療から大体10日置きに治療を続けて今日で4回目。
「もう、全部抜けたんじゃないか?」
「いえ、まだありますね」
「そうか……でも、すごく調子がいい。もう終わりにしてもいいんじゃないか?」
「団長、せっかくドリーが治療してくれているんですから、最後までお願いした方がいいです」
「でもなぁ、聖女の貴重な力をなぁ」
「何言ってるんですか! ウィリアムさんの言う通りですよ。私は第三騎士団の治療師ですから、貴重な聖女の力とか、考えなくていいんです! ではまた10日後に」
「わかった。感謝する」
ベッドから降り、肩を回したり腰を捻って確認をするイーサン。
「……本当に、すごくいいな。身体が軽いし息は楽だし」
「良かった……ドリー、本当にありがとう」
イーサンの肩に脱いでいた騎士服の上着を掛けてやりながら、ウィリアムがしみじみと言う。
「いいんですよー、仲間じゃないですか」
その光景を、尊いものを見るようにうっとりと両手を合わせて見つめるドロリスに、ノアが苦笑しながらポーションを飲んでいると、
「あー、なんだ、もうわかっているだろうが……俺とウィリアムの事だが……他言無用で頼む」
上着のボタンを掛けながら少しきまずそうにイーサンが言い、ノアは「もちろんです」と答えた。
「私もウィリアムさんに秘密を握られてますし、色々お世話になっていますので」
「ん? そうなのか?」
「ノアと私は、協力関係にあるのですよ」
にっこりと笑い、イーサンの頬にさっと唇を寄せるウィリアム。
「おっ、まえなぁ」
「はい? 何か?」
焦ってノア達の目を気にするイーサンに、何事もなかったかのようにすまし顔のウィリアム。そして、
「~~~~っ!」
必死に声を殺しつつも身もだえ、バタバタ足踏みしているドロリスを見て、イーサンが少し引きながらノアに小声で言う。
「……お前の姉さん、大丈夫か?」
「すみません、大丈夫です。そっとしておいてやって下さい」
「そうか……ん? なんか騒がしいな」
「本当だ。怪我人ですかね?」
廊下からワーワーと声が聞こえ、ウィリアムが扉を開けた。
「どうかした? 怪我人?」
「魔術師長様が腰を痛めまして」
「エイダン様がっ? はいっ! はいはいはいっ! 私が治療致します!」
団員に両脇を抱えられているエイダン・アロー魔術師長の姿を見た途端、パッと手を上げ、ポーションを一気に煽って小走りで部屋を出て行くドロリス。
「……あれは、いいのか?」
「あー、はい、本人の希望なので」
「にしたって、エイダンは45で、ドリーは18……親子ほどの年の差じゃないか」
「姉は昔から、年上の男性が好きでして」
「んんん……まあ、エイダンにその気は無さそうだが……」
「エイダン魔術師長は娼館でよく遊んでいるって聞いてましたが……姉は、好みではないんですかね?」
「というか、エイダンは一度結婚に失敗してるからなぁ。気軽に遊ぶだけで、本気の恋はしないって事らしいぞ」
「え? そうなんですか? なんか、若い頃に奥様を亡くされたと聞いたような気がしてましたが……」
「本人はそういう事は話さないから、憶測でいろいろ噂されてるんだろう。事実は、将来有望な魔術師と縁を持ちたい貴族に是非にと頼まれてその娘と結婚したが、丁度宮廷魔術師になって忙しくしているうちに浮気されて『元々望んだわけじゃなく、頼まれたから結婚したのに』って怒って離婚したんだよ」
「へぇ……そんな事が……」
「娼館へはしょっちゅう行っているし、娼婦達から人気はあるが、金払いがいいし、菓子やポーションなんかを大量に差し入れてやったり、大勢はべらせて酒だけ飲んで帰るとか、そういう遊び方しているからっていうのもあるな」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。まあ、若い頃は本来の遊び方してたから、 閨事の方も上手いことは上手いらしい」
ドロリスの「エイダン様、めっちゃ上手そうじゃない」発言を聞いているイーサンが、ドロリスが重要視していた情報についても付け加える。
「そうですか……まあ、姉に任せますが……私としては、今の話を聞いてこれまでよりも更に応援する気になりました。……では、訓練に行きます」
「大丈夫か? 少し休んでったらどうだ?」
「いえ、大丈夫です。ポーション飲んだらすっかり元通りです。では、失礼致します」
「あ! ありがとうね、ノア」
「はい」
少し離れた所からヒラヒラと手を振るウィリアムにも頭を下げ、ノアは訓練場へと向かった。
「ノア、終わったのか?」
訓練場に入り、すぐユージーンの所に行く。
「うん。あ、エイダン様が運ばれて来たけど」
「連携攻撃の指導をしていて、魔女の一撃をくらったらしい」
(魔女の一撃……ぎっくり腰か)
「姉ちゃんが治療するって張り切ってた」
「……ドリーは……本気だな?」
「本気だね」
「師匠が義兄になる可能性が……」
「ハハッ。準備してくるね」
顔を顰めるユージーンに笑いながら、練習用の剣を取りに行くと、
「来たかノア。他の団員に手本を見せるぞ」
剣を軽々と振りながら、レイモンドが言う。
「ユージーンはお前に譲って、俺は練習中の魔術師と組む。丁度いいくらいだろう」
「そんな大きなハンデ頂けるんでしたら、絶対負けませんよ」
闘志を燃やし、そう返したノアだったが……。
「そんなにがっかりしないで? 最初の方は結構いい勝負だったよ?」
「……最初だけな。体力も動きも全然敵わない。はぁ……バケモンだよ、副団長は」
「まあ、年齢も体格も違うからそれは仕方ないよ」
昼食の為に食堂に向かいながら、完膚なきまでに叩きのめされたノアをジョシュアが慰める。
「速さ、機動力はノアの方が上だから、真正面から向かっていかない方法で対抗するのが良いと思う」
「いいのか? 俺にそんなアドバイスして」
「もちろんだよ。だって同じ第三騎士団なんだから、全員が強くなる方がいいでしょ? 僕はまだ実力不足でダメだけど、早く連携攻撃の練習に参加させてもらえるように頑張るよ!」
「だな、ジョシュアの言う通りだ。俺も頑張る」
そうして二人で笑いながら食堂へ行き、スープとパンをもらって席を探すと、
「こっち~」
ドロリスが手を上げ二人を呼ぶ。見るとユージーンとレイモンドも同じテーブルに着いていた。
「一緒に食べましょう」
「おお。失礼します、レイモンド副団長」
「失礼します、ユージーン様」
ノアとジョシュアは挨拶をしてからテーブルに着いた。
「エイダン様はどう?」
「大丈夫よ。でも大事をとって、今日はお休みね」
「そっか、良かった。姉ちゃんは、続けての治療で大丈夫か?」
「ええ、問題ないわ。うふ、うふふ」
上機嫌のドロリスに、ノアが「どうした姉ちゃん」と尋ねる。
「それがね、うふふっ。今度エイダン様が、食事に連れて行ってくださるって!」
「えっ? ホントかよ」
驚いているノアに、ユージーンが冷静に言う。
「私達も一緒に、だそうだ」
「えっ?」
「俺とユージーン、ジョシュアとノア、そしてドロリス」
「あー……皆で、ですか……」
レイモンドの説明に色々察し、ノアはドロリスを心配気に見たが、本人は別段、思う所はないようだ。
「最初から二人きりだと緊張しちゃうから丁度いいわ。あ、でもそういう雰囲気になったら、私の事は置いて帰ってね」
「……不死鳥のようなメンタルだな」
「腐死鳥ってこと?」
「あー、腐死鳥な」
姉弟の会話は分からない用語が多いという事に慣れた三人は、気にせず食事をしている。
「とにかく頑張るわ! せっかく今、ここにいられるんだから」
「だな。応援するよ、姉ちゃん」
「ありがと、ノア」
上機嫌の姉を見て、ノアは笑った。
はっきりとした原因はわからないが、恐らく命の危険があり、姉の描いたBL漫画の世界に来てしまった。
最初は戸惑ったし、苦労する事もあったが、親友がいて、頼れる仲間がいて、大切な姉がいて、そして、最愛の人がいる。
「……ん? どうかしたか?」
「ううん、別に。ただ、楽しいなって思ってさ」
「そうか」
見とれてしまう美しい笑顔を向けてくれるその最愛の恋人であるユージーンに、ノアは幸せを噛みしめながら、笑顔を返した。
☆最後まで読んでいただきましてありがとうございます。読んでくださった皆様のおかげで頑張れました。お気に入り、いいね、応援、本当に力になりました。一応完結ですが、今後、『おまけ』とか『スピンオフ』とか書きたいです。その際は、どうぞよろしくお願いいたします。
「もう、全部抜けたんじゃないか?」
「いえ、まだありますね」
「そうか……でも、すごく調子がいい。もう終わりにしてもいいんじゃないか?」
「団長、せっかくドリーが治療してくれているんですから、最後までお願いした方がいいです」
「でもなぁ、聖女の貴重な力をなぁ」
「何言ってるんですか! ウィリアムさんの言う通りですよ。私は第三騎士団の治療師ですから、貴重な聖女の力とか、考えなくていいんです! ではまた10日後に」
「わかった。感謝する」
ベッドから降り、肩を回したり腰を捻って確認をするイーサン。
「……本当に、すごくいいな。身体が軽いし息は楽だし」
「良かった……ドリー、本当にありがとう」
イーサンの肩に脱いでいた騎士服の上着を掛けてやりながら、ウィリアムがしみじみと言う。
「いいんですよー、仲間じゃないですか」
その光景を、尊いものを見るようにうっとりと両手を合わせて見つめるドロリスに、ノアが苦笑しながらポーションを飲んでいると、
「あー、なんだ、もうわかっているだろうが……俺とウィリアムの事だが……他言無用で頼む」
上着のボタンを掛けながら少しきまずそうにイーサンが言い、ノアは「もちろんです」と答えた。
「私もウィリアムさんに秘密を握られてますし、色々お世話になっていますので」
「ん? そうなのか?」
「ノアと私は、協力関係にあるのですよ」
にっこりと笑い、イーサンの頬にさっと唇を寄せるウィリアム。
「おっ、まえなぁ」
「はい? 何か?」
焦ってノア達の目を気にするイーサンに、何事もなかったかのようにすまし顔のウィリアム。そして、
「~~~~っ!」
必死に声を殺しつつも身もだえ、バタバタ足踏みしているドロリスを見て、イーサンが少し引きながらノアに小声で言う。
「……お前の姉さん、大丈夫か?」
「すみません、大丈夫です。そっとしておいてやって下さい」
「そうか……ん? なんか騒がしいな」
「本当だ。怪我人ですかね?」
廊下からワーワーと声が聞こえ、ウィリアムが扉を開けた。
「どうかした? 怪我人?」
「魔術師長様が腰を痛めまして」
「エイダン様がっ? はいっ! はいはいはいっ! 私が治療致します!」
団員に両脇を抱えられているエイダン・アロー魔術師長の姿を見た途端、パッと手を上げ、ポーションを一気に煽って小走りで部屋を出て行くドロリス。
「……あれは、いいのか?」
「あー、はい、本人の希望なので」
「にしたって、エイダンは45で、ドリーは18……親子ほどの年の差じゃないか」
「姉は昔から、年上の男性が好きでして」
「んんん……まあ、エイダンにその気は無さそうだが……」
「エイダン魔術師長は娼館でよく遊んでいるって聞いてましたが……姉は、好みではないんですかね?」
「というか、エイダンは一度結婚に失敗してるからなぁ。気軽に遊ぶだけで、本気の恋はしないって事らしいぞ」
「え? そうなんですか? なんか、若い頃に奥様を亡くされたと聞いたような気がしてましたが……」
「本人はそういう事は話さないから、憶測でいろいろ噂されてるんだろう。事実は、将来有望な魔術師と縁を持ちたい貴族に是非にと頼まれてその娘と結婚したが、丁度宮廷魔術師になって忙しくしているうちに浮気されて『元々望んだわけじゃなく、頼まれたから結婚したのに』って怒って離婚したんだよ」
「へぇ……そんな事が……」
「娼館へはしょっちゅう行っているし、娼婦達から人気はあるが、金払いがいいし、菓子やポーションなんかを大量に差し入れてやったり、大勢はべらせて酒だけ飲んで帰るとか、そういう遊び方しているからっていうのもあるな」
「えっ? そうなんですか?」
「ああ。まあ、若い頃は本来の遊び方してたから、 閨事の方も上手いことは上手いらしい」
ドロリスの「エイダン様、めっちゃ上手そうじゃない」発言を聞いているイーサンが、ドロリスが重要視していた情報についても付け加える。
「そうですか……まあ、姉に任せますが……私としては、今の話を聞いてこれまでよりも更に応援する気になりました。……では、訓練に行きます」
「大丈夫か? 少し休んでったらどうだ?」
「いえ、大丈夫です。ポーション飲んだらすっかり元通りです。では、失礼致します」
「あ! ありがとうね、ノア」
「はい」
少し離れた所からヒラヒラと手を振るウィリアムにも頭を下げ、ノアは訓練場へと向かった。
「ノア、終わったのか?」
訓練場に入り、すぐユージーンの所に行く。
「うん。あ、エイダン様が運ばれて来たけど」
「連携攻撃の指導をしていて、魔女の一撃をくらったらしい」
(魔女の一撃……ぎっくり腰か)
「姉ちゃんが治療するって張り切ってた」
「……ドリーは……本気だな?」
「本気だね」
「師匠が義兄になる可能性が……」
「ハハッ。準備してくるね」
顔を顰めるユージーンに笑いながら、練習用の剣を取りに行くと、
「来たかノア。他の団員に手本を見せるぞ」
剣を軽々と振りながら、レイモンドが言う。
「ユージーンはお前に譲って、俺は練習中の魔術師と組む。丁度いいくらいだろう」
「そんな大きなハンデ頂けるんでしたら、絶対負けませんよ」
闘志を燃やし、そう返したノアだったが……。
「そんなにがっかりしないで? 最初の方は結構いい勝負だったよ?」
「……最初だけな。体力も動きも全然敵わない。はぁ……バケモンだよ、副団長は」
「まあ、年齢も体格も違うからそれは仕方ないよ」
昼食の為に食堂に向かいながら、完膚なきまでに叩きのめされたノアをジョシュアが慰める。
「速さ、機動力はノアの方が上だから、真正面から向かっていかない方法で対抗するのが良いと思う」
「いいのか? 俺にそんなアドバイスして」
「もちろんだよ。だって同じ第三騎士団なんだから、全員が強くなる方がいいでしょ? 僕はまだ実力不足でダメだけど、早く連携攻撃の練習に参加させてもらえるように頑張るよ!」
「だな、ジョシュアの言う通りだ。俺も頑張る」
そうして二人で笑いながら食堂へ行き、スープとパンをもらって席を探すと、
「こっち~」
ドロリスが手を上げ二人を呼ぶ。見るとユージーンとレイモンドも同じテーブルに着いていた。
「一緒に食べましょう」
「おお。失礼します、レイモンド副団長」
「失礼します、ユージーン様」
ノアとジョシュアは挨拶をしてからテーブルに着いた。
「エイダン様はどう?」
「大丈夫よ。でも大事をとって、今日はお休みね」
「そっか、良かった。姉ちゃんは、続けての治療で大丈夫か?」
「ええ、問題ないわ。うふ、うふふ」
上機嫌のドロリスに、ノアが「どうした姉ちゃん」と尋ねる。
「それがね、うふふっ。今度エイダン様が、食事に連れて行ってくださるって!」
「えっ? ホントかよ」
驚いているノアに、ユージーンが冷静に言う。
「私達も一緒に、だそうだ」
「えっ?」
「俺とユージーン、ジョシュアとノア、そしてドロリス」
「あー……皆で、ですか……」
レイモンドの説明に色々察し、ノアはドロリスを心配気に見たが、本人は別段、思う所はないようだ。
「最初から二人きりだと緊張しちゃうから丁度いいわ。あ、でもそういう雰囲気になったら、私の事は置いて帰ってね」
「……不死鳥のようなメンタルだな」
「腐死鳥ってこと?」
「あー、腐死鳥な」
姉弟の会話は分からない用語が多いという事に慣れた三人は、気にせず食事をしている。
「とにかく頑張るわ! せっかく今、ここにいられるんだから」
「だな。応援するよ、姉ちゃん」
「ありがと、ノア」
上機嫌の姉を見て、ノアは笑った。
はっきりとした原因はわからないが、恐らく命の危険があり、姉の描いたBL漫画の世界に来てしまった。
最初は戸惑ったし、苦労する事もあったが、親友がいて、頼れる仲間がいて、大切な姉がいて、そして、最愛の人がいる。
「……ん? どうかしたか?」
「ううん、別に。ただ、楽しいなって思ってさ」
「そうか」
見とれてしまう美しい笑顔を向けてくれるその最愛の恋人であるユージーンに、ノアは幸せを噛みしめながら、笑顔を返した。
☆最後まで読んでいただきましてありがとうございます。読んでくださった皆様のおかげで頑張れました。お気に入り、いいね、応援、本当に力になりました。一応完結ですが、今後、『おまけ』とか『スピンオフ』とか書きたいです。その際は、どうぞよろしくお願いいたします。
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