スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第三章 どうせなら楽しもうと思う

44 合流

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「え? つまり、あの時の会話、全部聞かれてたわけ?」
「そうらしいよ」

 神妙な面持ちで、ノアはドロリスに頷いて見せた。

「それで第三騎士団に配属……ええぇ……」

 さすがに難しい表情になり考え込むドロリスを見て、可哀想だな、とノアは思ったのだが、

「て、事は! 私、第二王子の命令でエイダン様と結婚させられちゃうの!?」
「いやいやいやいや、そーじゃないから」

 目を輝かせるドロリスに、ノアは大きくため息をついた。

「あのさぁ姉ちゃん、もっと他に言う事があるだろう? こんな危険な所に配属されちゃってさぁ」
「ん? いや、それは別にいいよ? 前々からもっと現場で活動したいと思っていたし、記憶が戻ってからはモブでいいから第三の騎士とか治療師になりたかったって思っていたもの。願ったりかなったりよ」
「そんなんでいいのか? 俺は心配だよ、本当に魔獣討伐の遠征はキツイし危険だから」

 しかしドロリスは笑顔で言った。

「大丈夫よ。ノアがいてくれるから!」
「ん……まあ、一緒に居られる方が安心ではあるか……よろしくな、姉ちゃん」
「こちらこそ!」

 そんな会話をしていると、

「待たせたな」

 第三騎士団団長、イーサン・ヴァレンタインが応接室に入って来た。
 腰かけていたソファーから立ち上がり敬礼をするノアと、片方の足を後ろに引き膝を曲げ腰を落として挨拶をするドロリス。

「姉が、お世話になります」
「ご迷惑をおかけしないよう、精一杯務めます」
「こちらこそ、聖女様に来てもらえるなんて望外の喜びだ。しかし……聖女様にとってはキツイ任務となるよなぁ」

 イーサンが頭を掻きながら言う。
 
 第二王子との謁見で、幸いノアはお咎め無しとなった。しかし、その代わりというようにドロリスが第三騎士団に所属する事になってしまったのだ。

「なんか、弟との会話を全て聞かれていたとか……」

 エヘッ、と『失敗しちゃった』というように可愛らしく笑うドロリスに、イーサンは肩をすくめた。

「第二王子殿下としては、本当に姉弟なのかを知る為に二人きりで会話しているところを聞きたかったらしい。……まあ、なんだかよくわからない単語や内容が多かったが、それこそが姉弟だという証拠だって事で姉弟という事は信じたようだが、それよりも、なんというか……」

 困ったように話すイーサンに、酷い事を話していた自覚のある姉弟は体をすぼめる。

「まあ、なんだ……第二王子殿下の矜持が傷ついたらしい。騙してコッソリ盗み聞きしていた手前その事については言及しないようだが、それにしても妃候補から一転、第三騎士団配属っていうのは酷いよなぁ……」
「いえ、私としてはその方が良かったです。まさかとは思っていましたが、妃候補だなんてありがた迷惑ってヤツですから」
「ああああ、姉ちゃんっ」

 あっけらかんと話すドロリスに、ノアの方が慌てる。

「不敬な事言うなよ! これからはそういうの、イーサン団長に迷惑かかるんだからなっ! すみません、団長。よく言って聞かせますので」
「フッ、フフッ、いや、聖女様は肝が据わっているし、面白い方だ。これなら第三でもうまくやっていけるだろう。困った事があったら何でも言ってくれ」
「ありがとうございます、イーサン団長。これからは部下ですので、私の事はドロリス、もしくはドリーとお呼び下さい」
「ああ、そうしよう。とりあえず今日はノアと一緒に見学をしてくれ。よろしくな、ドロリス」
「よろしくお願い致します」

 そうしてにこやかに握手を交わした二人だったが、

「……………」
「ん? どうかしたか?」
「あ、いえ、なんでもないです」

 一瞬考え込むような表情をしたドロリスだったが、すぐに笑顔になった。

「ん。じゃあ、まずは訓練場に行ってもらうか。一番人が多いからな。休憩時間に皆に紹介するから、しばらく見学しててくれ。ノア、案内頼んだぞ」
「はい」
「それでは失礼致します」

 応接室を出て、二人は訓練場へと向かった。

「あ~、ようやくジョシュとレイに会えるのね~。嘆きの森で会ってはいるんだろうけど、あの時は記憶も戻ってなかったし、色々大変だったからね。イーサン団長もめっちゃカッコ良かったし、期待しちゃうわ~」
「浮かれるのはわかるけど、呼び捨てすんなよ? ましてや愛称なんて、絶対駄目だからな!」
「わかってるわよ。でも、うっかりしないように気を付けるわ。今ちょっとマズイくらいにテンション高くなっちゃってるのよ。なんせ、私の夢が詰まった世界だからね」
「夢っつうか、煩悩な」
「あはっ、そーだね。はああ……ドキドキしてきた」
「はいはい。ほら、着いたよ。見学席あるから一度そっち行こう」

 階段状になっている見学席に行き、上から訓練風景を見る。

「ねえ! ジョシュアとレイモンドどこっ?」
「えーっと……あ、あそこ! ちょうどレイモンド様がジョシュアに指導してる」

 ノアが指さす方向を見て、ドロリスが「ヒュッ」と息を飲む。

「ねえ! あの二人、付き合ってんのよね!」
「ああ。こないだ言ったけど、嘆きの森遠征の後からな」
「やった! 最高!」
「うわっ、抱きつくなよ姉ちゃん」
「だって嬉しいんだもんっ!」
「嬉しいからって……ホラ! 皆に見られて……ヤバ……」

 銀色の髪をなびかせながら、じっと見学席の方を見上げている姿に気づき、ノアは慌てて姉を引きはがしにかかった。

「離れて離れて!」
「えー、何よーぉ、いいじゃない」
「良くない! ユージーンがこっち見てるんだって!」
「ん? ユージーン? ああ、あそこね。はあ、やっぱり美人だわ~、って……あ、れ……? え? なに? もしかして……ノア、あなたユージーンと?」
「え? あ、えーと……」

(ご、誤魔化すか? いや、ここはちゃんと言った方がいいな、うん)

「えーと……付き合ってるよ、ユージーンと」
「ヒーッ! なんでそんな重要な事を黙ってんのよ! 凄いっ! おめでとうっ! お姉ちゃん大賛成よ! 応援するねっ!」
「なら離れろって! 抱きつくなって!」

 更にギューッと抱きつくドロリスをグイグイ押しながら、ノアはユージーンが誤解しない事を祈るのだった。 
 
 
 



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