スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第三章 どうせなら楽しもうと思う

43 姉と弟

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「……で、二人は本当に姉弟きょうだいだと」
「はひ」
「そうでふ」

 泣きすぎてフニャフニャになった二人がコクコクと頷き、ライアン王子はフーッと大きく息を吐いた。

「……あまり、似ていないようだが」
「私は母親似で、弟は父親似ですので」
「見た感じ、聖女ドロリスの方が妹のように見えるが」
「ですが、間違いなく彼女の方が年上です、はい」
「聖女ドロリスもノア・ヴァーツも、共に18歳との事のようだが?」
「二人とも記憶喪失で年齢がわからなかったので、大体の年齢で登録されたせいだと思います」
「…………」

 渋い、渋い、物凄く渋い物を口にしてしまったような表情のライアン王子だったが、諦めたように頭を振った。

「……二人きりで話したい事もあるだろう。場所を移し、ゆっくりと話すがいい」
「「ありがとうございます」」

 

 近衛騎士に、執務室から少し離れた部屋に案内された。
 お茶と焼き菓子や小さなサンドイッチも用意してくれて、至れり尽くせりだ。
 二人きりになり、早速話をする。

「いやー、ほんっとビックリだよ。姉ちゃんもこっちに来てたんだ!」
「ねー、びっくり! ノアはいつから記憶があるの? こっち来る前の事とかわかる?」
「いや、全然。てか俺、ほんの数か月前に来たのかと思ってたんだけど?」
「そうなの? 私も何があってこっちに来たのかはわからないけど、小さい頃の記憶はあって普通に暮らしていたよ。で、前の事を思い出したのは、ユージーンの治療の時、ノアが「読者投票で一位の美形だから」って言ったのがきっかけなんだけど」
「俺言った? そんな事」
「言った言った。それがなんだか引っかかって、その後色々思い出したってわけ。こっちでの最初の記憶は、子供の姿で大怪我をしている自分を自分で治療して、その後、同じく子供の姿で倒れているあんたを必死に治療した、って事ね。でも最近まではそれを忘れていて、何かの都合で一人になったけど、治癒能力を持っているから教会で聖女として育てられている、程度に思っていたわ」
「なるほど……じゃあ、俺も子供の時からこっちにいたんだ……もちろんノアとしての記憶はあるけど、憑依系かと……」
「想像だけど、向こうで私達は何か事故に巻き込まれて、こっちに来たのかもね。それしか、生き残る手段がなかったから」
「だとしたら…姉ちゃんには感謝だな……」

 しみじみと言うノアに、「そんな、感謝だなんて……」と、ドロリスは照れたように微笑んだが、

「で、今どんな感じ?」

 真面目な顔で、身を乗り出し尋ねた。

「ん? どんな感じって何が?」
「も・ち・ろ・ん! ラブよラブ! だってあれでしょ? 嘆きの森遠征が終わったって事は、メインカップルの告白がっ!」
「あー……詳しい事は個人の事なんだから知らねえよ。まあ、付き合っているって事は確認したけど」

 ノアは顔を顰め面倒臭そうに答えたが、ドロリスは「キャーッ」と歓喜の声を上げた。

「なんて言ったのかなっ、原稿通り? でも内容、結構変わってるよね?」
「まあな。てか、早速その話? 全く……姉ちゃんは根っからの 腐女子ふじょしだよな。あ、世界観的に、 貴腐人きふじんか?」
「腐女子でも貴腐人でもどっちでもいいわ、望むところよ」
「あ、でも聖女だから、 性女せいじょとか」
「なんか性女っていうのは字面が悪いわねぇ」
「確かに。悪かったよ。でもさあ、他人の色恋より自分の色恋について心配した方がいいんじゃね? 王太子は身分の高い女性を妃に迎えるけど、その他の王子様は聖女を妃にする事がけっこうあるって聞いたぞ? 第二王子殿下の初めての魔獣討伐に同行するなんて、姉ちゃんもしかして、妃候補とか」

 ノアは本気でそう思い尋ねたのだが、ドロリスは「ナイナイ」と笑った。

「私、今いる聖女の中で能力が高い方なのよ。だから選ばれたんでしょう。確かに見た目は美少女だけど、身分的に無理があるって。聖女には貴族のご令嬢もいるから、お妃様になるならそういう人でしょう」
「まあその方がいいよな、姉ちゃんじゃ外見は美少女でも中身がなぁ」
「あんた、ホント失礼ね。でもまあ、自分より人の色恋が気になるのは仕方ないわ、それが私だもの! ねえ、あんたはどうなのよ~」
「オ、俺っ? いや、その、それはまあ……」
「ちょっと~、詳しく教えなさいよ~。私はあんたの命を救ったんだからね! 私に借りがあるのよ、特大の!」
「それはそうかもだけど……いや、ホントそうだな。助かったよ。ありがとな……」
「え、ノア……」

 自分の命はもちろんだが、最愛の人を救ってもらった事が改めてありがたく、深く頭を下げたノアに、ふざけて言っていたドロリスも胸が熱くなる。

「姉ちゃん……いつもありがとう。俺、姉ちゃんに助けてもらってばっかりだ」
「そんな事ない。私だって感謝しているよ。それに、ノアは私の大切な大切な弟なんだから……姉として助けるのは当たり前よ」
「姉ちゃん……」
「ノア!」

 感極まった二人は再び抱き合い、しばらくそのままの格好でいたが、

「……そうだ。感謝してるなら、エイダン・アロー魔術師長を紹介してくれてもいいよ?」
「んっ?」

 抱擁を解除し、姉を見る。

「エイダン様?」
「うん。嘆きの森から王都に帰る時にちょっと話せたんだけど……めっちゃタイプ! イケオジ! カッコ良すぎない!?  少し白髪交じりの黒い長髪。光の加減で青く見える時がある黒い瞳はちょっと垂れてる細目で、常に口角が上がってる薄い唇とか……もう、最強キャラ要素てんこ盛りよね。ちょっと胡散臭い実力者、って感じがサイコー!」
「え、なに? 男として見て言ってんの?」
「うん!」
「エイダン様って確か、40代半ばだったよな? 年齢離れすぎてるだろ。あとあの人、最強魔術師で凄い人だけど、女性方面はかなり遊んでるとか……」
「知ってる。騎士様達に、エイダン魔術師長は遊びまくってるから気を付けろって言われたし」
「わかってんなら止めとけって! 姉ちゃん今、10代だぜ? もっとキラキラした人の方がいいだろうが。それこそ頑張れば第二王子殿下も」
「あー、子供はちょっと……やっぱり男性は大人の色気がある人がいいわ」

 まあ、前世で31歳まで生き、主に18禁の漫画を描いていたのだから、そう言うのもわからなくもないが……。

「でもなぁ……」
「あのね、私、恋愛に興味は無いけど、そういう行為には、まあ、ある程度の興味はもっているわけよ。経験無しだし、一度くらいしてみたいなーって。で、どうせなら上手な人がいいじゃない。勢いだけでガシガシ乱暴にされるのは嫌だもん」
「いやいや、王子様だもの、そういう教育はちゃんと受けてるだろう? 姉ちゃんも王室ものの、房事指導の話描いてたじゃん」
「そりゃあ描いたけどぉ、あれBLよ? 王子様が受けだったし。とにかく! 実践つんでるエイダン様は経験豊富でめっちゃ上手だと思うの」
「まあ、そりゃそうかもだけど……えぇ……俺はヤダなぁ……せっかくこんなに可憐な感じなんだから、ちゃんとした恋愛しなよ」
「えーでもーぉ」

 コンコンコン

 扉を叩く音に、二人は入り口の方を向いた。

「失礼致します。第二王子殿下がお呼びです」
「「はい」」

 呼びに来た近衛騎士と一緒に執務室へと戻り、言われた事。それは、『この度の嘆きの森魔獣討伐において、第三騎士団団員のノア・ヴァーツが聖女ドロリスを連れ出し治療行為をさせた事については、問題点もあるが今回は特別に不問とする』という事だった。

「第二王子殿下の寛大なお心に感謝致します」
「弟の事、本当に感謝致します。今後も国の為、聖女として全力で活動致します」

 二人は第二王子に心から深く感謝し頭を下げたが、第二王子の張り付けたような笑顔にも、そして酷く疲れたような第三騎士団長他、侍従や護衛騎士の表情にも、まったく気が付かなかった。


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