スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第三章 どうせなら楽しもうと思う

40 秘密

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 食事を終え、宿舎へと戻る。
 食事中、ウィリアムに言われた『同じところにいる為には、付き合っている事を公言しないように』という話を共有し、気を付けようと再確認した事もあり、なんとなくジョシュアとノアが並んで先を、レイモンドとユージーンが少し後を並んで歩いている。

「……ありがとな、ジョシュア」
「うん?」
「ユージーン様の事、許してくれて」
「ああ……ううん、感謝なんて必要ないよ。さっきも言ったけど、そういう事ってあるでしょう、誰にでも」

 少し笑いながら、小さな声で話すジョシュア。

「嫉妬とか、妬みとか、羨ましいと思う気持ちは誰でも持っているものだよ。特に恋愛が絡むとね。……僕だって、心当たりあるもの」
「ジョシュアも?」
「うん」

 クスリと笑い、後ろをチラリと見て充分な距離が空いている事を確認してから、ジョシュアはノアの耳元でこっそりと言った。

「僕、ノアの事が好きだったんだ」
「ふぁっ?」

 変な返事をしてのけぞったノアを、面白そうに見るジョシュア。

「気づかなかったでしょう?」
「……全然……」
「だろうね。ノアは、そういう事に本当に鈍感だと思う」
「……そう、かな……」
「そうだよ! 僕は出会ってすぐノアの事好きになったけど、彼女が欲しい彼女が欲しいっていっつも言うから諦めたのに、ユージーン様と付き合い出しちゃうなんて……ちょっと驚いた」
「え、でもジョシュアはレイモンド様と」
「そうだよ。ノアの事が好きだったのはもうだいぶ前の事。レイモンド様に指導してもらう機会が増えてだんだん気になってきて、そしてこの間の遠征。レイモンド様が怪我をしてまで僕を助けてくれて、愛してると言ってくれて、僕もレイモンド様を愛してるって気づいて、本当に嬉しくて幸せで付き合い始めたのにだよ? それなのに、話を聞いて一瞬、ノアと付き合えるユージーン様が羨ましいと思っちゃった。ユージーン様の事、非難できないよ」
「ジョシュア……」
「もちろん、今はレイモンド様だけを愛していて、ノアの事は親友だと思っているよ。ノアとユージーン様が上手くいけばいいと思うし、僕もレイモンド様と一緒に第三にいたいから、これからは皆にバレないように協力しようね」
「ああ、そうだな」

 二人は顔を見合わせて笑い、ついでに後ろを見たのだが、

「……絶対、言わないでね、今僕が言った事」
「ああ、絶対言わねぇ……」

 険しい表情をしている互いの恋人に怯えながら、すぐに前を向いた。
 



 はしゃぎながら前を歩く子供の後ろを、転んだりしないか心配しながらついてく親のようだと感じる。
 隣りの険しい表情の男も、同じような事を考えているに違いない。

「……レイモンド、こめかみに筋が立っているぞ」
「……お前こそ、その不機嫌な表情、少しは隠せ」
「私はいつもこの顔だ」
「俺だってこうだ」

 まあ、仕方がない。
 二人の間にあるのは友としての感情だけとわかっていても、愛する人が自分以外の人間と仲良くくっついて歩いているのを見るのは、楽しいものではないから。

 ふいに、ジョシュアがチラリと後ろを振り返り、その後何か言った事に対しノアが大きく反応している。
 
「?」

 思わず、魔法を使い会話を盗み聞いてしまう。

『僕は出会ってすぐノアの事好きになったけど、彼女が欲しい彼女が欲しいっていっつも言うから諦めたのに、ユージーン様と付き合い出しちゃうなんて……ちょっと驚いた』

「!!」

 話の内容にギョッとする。

『レイモンド様が怪我をしてまで僕を助けてくれて、愛してると言ってくれて、僕もレイモンド様を愛してるって気づいて、本当に嬉しくて幸せで付き合い始めたのにだよ? それなのに、話を聞いて一瞬、ノアと付き合えるユージーン様が羨ましいと思っちゃった。ユージーン様の事、非難できないよ』
『ジョシュア……』
『もちろん、今はレイモンド様だけを愛していて、ノアの事は親友だと思っているよ。ノアとユージーン様が上手くいけばいいと思うし、僕もレイモンド様と一緒に第三にいたいから、これからは皆にバレないように協力しようね』
『ああ、そうだな』

 二人が振り返り、そしてすぐまた前を向く。

「……………」
「……ユージーン、お前、盗み聞きしてるだろう」
「……まあ……」
「止めておけ。バレたら盛大に引かれるぞ。それに、癖になる。全部知らないと気が済まなくなる」
「……わかっている」

 頭を軽く振り、聞くのを止めたらしいユージーンに、レイモンドは苦笑した。

「まったく……便利なようでいて、そうでもないよな、魔法は。使い処が難しい」
「…………」
「特に恋なんて慣れない感情に振り回されて、やたらめったら使いまくれば、嫌われて捨てられるぞ」
「……不吉な事を言うな」
「忠告してやっているんだ、まったく。……まあ、自分自身に言い聞かせてもいるがな」
「……レイモンドも?」
「ああ、だって気になるじゃないか、好きな相手の事は。俺の場合はそういう魔法が使えるわけじゃないから、直接本人に尋ねる事になるわけだが……過去の事を根掘り葉掘り聞いてどうなる。大切なのは今、だろう?」
「確かに、そうだが……」
「ジョシュアが過去に誰を好きだったかなんて、別にいい。今は俺の事を愛してくれている、それが一番大事な事だ」
「知っているのか? ジョシュアが誰を好きだったか」
「ああ。そんなの、見ていればわかる」

 レイモンドの答えに、なるほど、と納得しかけ、いや、自分はわからなかったな、と思う。

(ノアはジョシュアを好きだと思っていたが、それは勘違いだった。さっき盗み聞きをして、ジョシュアはノアの事が好きだったと知ったが、そっちの方は全く思っていなかった事だ。私には、人の心や気持ちは難しい。……まあ、とにかく)

「これからは、盗み聞きはしないようにする」
「ああ、そうしとけ。その方が平和だ」

 レイモンドは笑い……しかしすぐに眉間に深い皺をつくった。

「それにしても、くっつき過ぎじゃないか? オイ、ちょっと風魔法かなんかで二人を離せ」
「……君も、大概じゃないか? 年上らしく、少し余裕を見せた方がいい」

 そう苦笑しながら、恋とは難しいものだ、としみじみ思うユージーンだった。
 






☆ジョシュアがノアの事を好きだったのは、ノアが記憶を取り戻す前です。たくさん兄姉がいて末っ子で、かまわれ慣れているので、アメを口に入れてあげたりする事に思惑は全くないです(念のため)。

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