スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

文字の大きさ
上 下
39 / 79
第三章 どうせなら楽しもうと思う

39 気にしません

しおりを挟む
「私は全然気にしませんから、大丈夫ですよ、ユージーン様」
「……そう、か……」

 にこやかな笑顔のジョシュアに、ユージーンの表情は若干くもっている。

「謝罪を受け入れてくれて、本当に感謝する。しかし、無理する事はない。私と共に第三騎士団で活動するのが不安であれば、辞する心づもりはもうしてあって」
「いえ、とんでもありません! これからもよろしくお願いします!」

 ニコニコニコニコ。

「…………」

(ああ、もうすっかり辞めるつもりだったから、複雑な気持ちになっているな)

 ユージーンの心の内を正確に察し、ノアは苦笑した。

(いやまあ、俺もちょっと……ホッとしたけど、残念な部分もあるんだよな。第三辞めて一緒に冒険者になろうって、すっかり盛り上がっちゃってたから……)

 王都に戻って数日後。
 今回の魔獣討伐の功労に対し、第三騎士団は全員、賞与と三日間の休暇をもらった。一斉に休むわけにはいかないので順番にとる事になり、運よく休みが重なったので、レイモンド、ジョシュア、ユージーン、ノアの四人で話し合いの場を設けた。
 場所は街の高級めの料理屋で、個室を用意してもらった。
 ちなみに前日のうちにノアがジョシュアに尋ね、レイモンドと付き合い始めた事は確認済みだ。
 そしてユージーンは偽る事なく、嫉妬からジョシュアの死を願ってしまったと告白し謝罪をしたのだが、ジョシュアはあまりにも簡単に「全然気にしません!」と謝罪を受け入れた。

「本当にいいのか?」

 恋人を心配しレイモンドが尋ねたが、ジョシュアは「はい!」と即答した。

「そういう事もありますよ。誤解が解けたからもう大丈夫でしょうし。ノアもその方がいいよね?」
「お、おお」
「それじゃあお話はここまでという事で、食事にしましょう。今日はユージーン様がご馳走して下さるという事なので、最高のお肉、頂きますね!」
「……あと高い酒な」
「それは勿論いいが……本当に、こんなにあっさりと……」
「本人がいいって言ってるんだから、いいだろう。俺はジョシュアの決断を尊重する」
「……すまない。今後、このような事は二度と無いと約束する」
「ああ、そうしてくれ」
「大丈夫です、信用しています!」

 その後四人は高い料理と高い酒を沢山注文し、普通に会食を楽しんだ。



「俺、ジョシュアが『第三は怖くて来たくなかった』って言うから、無理矢理配属されたのかと思ってたんだけど、違ったんだ」
「ああ、ごめんね、紛らわしい言い方したかも。実際は、怖いけど給金が良いから希望して入った、って事なんだ」

 美味しい食事と酒に、最初のうちはお互いのパートナーに対し緊張していたノアとジョシュアもすっかりリラックスし、ワイワイと話している。まあ、この二人は、酒は一、二杯しか飲んでいないが。

「僕、伯爵家の七人兄姉きょうだいの末っ子なんだけど、うちは田舎で小さな領地しかなくて貧乏で。すぐ上の姉が結婚を控えていたんだけど、嫁入り道具とか揃えるお金がなくて困ってたんだ。相手の人は、何も持って来なくていいって言ってくれたんだけど、そういう訳にもいかないし……で、少しでもお金がつくれたらって思って第三を希望したんだ」
「なるほど……無理に入れられたんじゃなくて、良かったよ」
「うん。それに、第三に入ったからレイモンド様にも会えたし」
「……まあ、な」

 どんな反応をするかと期待して様子を覗ったが、レイモンドはその一言だけ言ってワインを口に運んだ。期待外れである。

(照れるレイモンドが見られると思ったのに……)

 ちょっとがっかりしながら、ノアはジョシュアに尋ねた。

「で、お姉さんは結婚したのか?」
「これからだよ。秋に結婚するから、その時は休みをもらって帰るつもりなんだ」
「そっか。楽しみだな」
「うん!」

 そして、最後にデザートを、という事になりそれぞれ好きな物を注文したところで、ノアが「そうだ」と声を上げた。

「レイモンド様とジョシュアに、ちょっとしたプレゼントがあるんですよね、ユージーン様」
「ああ」

 頷き、ユージーンは二人の前に房飾りの入った袋を出した。

「帰りに立ち寄った街で買った物だ」
「ありがとうございます。……あ! これ、短剣に付ける飾りだ! ありがとうございます」
「選んだのはノアだ」
「ありがとう」

 ニコニコしながらジョシュアは金と濃青の房飾りを袋から取り出し、レイモンドの前に並べた。

「レイモンド様、どちらがいいですか?」
「どっちでもいいが……そうだな、ジョシュアが金の方がいいんじゃないか? 金は、お前の髪色だから」

 レイモンドがそう言う。

(あー、やっぱり、相手の色を付けるって発想はないんだな)

 ノアがそう思っていると、

「レイモンドが金、そしてジョシュアが青だ」

 ユージーンがきっぱりと言う。

「ん? ジョシュアには金の方が似合うと思うが?」
「あー、そうかもしれませんが……是非レイモンド様が金を」

 とノアも勧める。

「レイモンド様がジョシュアの色を、そしてジョシュアがレイモンド様の色を持つように、と思って選んだんです。ちなみに私も、ユージーン様の瞳の色に近いものを選びました」
「これはノアに貰った、ノアの髪と瞳の色の結い紐だ」

 三つ編みの先を結わえている紐を見せながらユージーンが説明し、レイモンドとジョシュアはハッとしたようにお互いを、そして房飾りを見た。

「なるほど、そういう……」
「すごい、そんな事全然考えなかった」
「ノアの考えだ」
「えっ、そうなんですか? ノア、君にそんな甘い発想があるなんて……」
「はっ? 甘い? いや、そんな事ないだろ」
「そんな事あるよー。いやー、凄いね、愛って!」
「恥ずかしい事言うなよ! いや別に、どっちの色付けてもらっても構わないんで、あとは二人のお好きなように……」
「もちろん! 僕が青を付けるよ。レイモンド様、それでいいですよね?」
「ああ、そうしよう。良い物を、感謝する」
「保護魔法を施しておいたから長く使えるだろう」
「ありがとうございます」
「そうだ、付ける時は……」
「うん?」
「あ、いや、なんでもない」
「えっ? 何なに?」
「いや、ホント、なんでも」

 ここで扉がノックされ、デザートとお茶が運ばれてきて話はそこで終わったが、

(お互いに相手の剣に付けてやるといいよって言おうと思ったけど……絶対ジョシュアに『そんな事考えるなんて! 愛って凄い!』って言われるから黙っておこう)

 そう思いながら、プリンを黙々と食べるノアだった。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...