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第三章 どうせなら楽しもうと思う
36 貴方のもの
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「そういや私も、王都に戻ったら聖女様を連れ出した件で処分があるかもしれません」
「そうだな……私の為に……すまない」
「いいえ、私の判断です。それにユージーン様が助かって怪我も治ったんだから、何も悔いはありません」
そう言うノアの後頭部をユージーンの手が撫で、二人は見つめ合った。
「ありがとう、ノア」
引き寄せられるように顔を寄せ、口づけをする。
(……こういうのって、なんとなくわかるもんなんだな、キスするタイミングとか……)
「……ノア……」
「はい、ユージーン様」
「あの時……コカトリスが出た時、私のことを呼び捨てにした事、覚えているか?」
「えっ? あー、そうかも、しれないですね」
記憶は定かでは無いが、
「焦ってたし慌ててたから、呼び捨てにしたかもです」
「それから、コカトリスに襲われる直前に、ジーンと呼ばれたような気がするのだが」
「あー……もしかしたら……」
(姉ちゃんがレイとかジョシュとかジーンとか愛称で呼んでいたから、俺もついそう呼んだかもしれない)
「あの時は、様付けされなくて嬉しかったのと、ジョシュアの為に必死になっているからだと絶望したのとで、情緒がおかしくなったが……今はただ、嬉しい。これから私の事はジーンと呼んでくれないか?」
「ええっ? いや、でも」
「それから、もっと気楽な話し方をしてくれ。ジョシュアと話す時のように。敬語とか、私、とかではなく」
「いやっ、そういうわけにはいかないでしょう。ユージーン様は年齢も身分も上ですし、ほら、ウィリアムさんが言ってたじゃないですか、付き合ってるのがバレたら別々の所に配属されちゃうって」
「連携攻撃の精度を上げるために、敬語を止めて愛称で呼ぶようにしていると言えばいいだろう?」
「それで通用します?」
「通用させる」
そう言いきられてしまうと……ノアは、ドキドキしながらユージーンを見つめた。
(……ヤバイ、顔が、良すぎる……)
その美しさと色気に直視できなくなり、目を逸らせて名前を呼ぶ。
「え、と……じゃあとりあえず、様は付けないで……ユージーン……」
「どうして、目を逸らす?」
「そっ、れは……ユージーンが、綺麗すぎて……直視できないからで……だよ!」
ヤケになってそう言うと、一瞬驚いたように息をのんでから、ユージーンはクスクスと笑った。
「ノアは、私の顔が好きか?」
「……好き、だよ。すごく綺麗だし……てか、綺麗だと思わない人なんていないでしょう? 誰だって、ユージーンが一番綺麗だって言うに決まってる」
「レイモンドは、ジョシュアが一番だって言うだろう」
「まあ……それはそうかも……いや、ジョシュアは可愛いけど、綺麗なのはユージーンだね!」
好きになると、その人が一番綺麗で輝いて見えるものだ。
きっぱり言い切ったノアにユージーンは苦笑し、ノアは「だって!」と言葉を続ける。
「元々綺麗だって思ってたけど……でも今はもう、まともに見られないくらい綺麗で、どうしようって感じなんだけど」
「フッ……私はノアの事を、ずっとずっと見つめていたいがな。美しくて可愛らしい私のシルフィード」
「シルフィード?」
「風の精霊だ」
首を傾げるノアの頭を撫でながら話すユージーンの声が心地良く体に響く。
「激しく、優しく、どこまでも吹き抜ける風。時には髪を乱し、時には背中を押してくれる。自由で軽やかで、憧れて手を伸ばすが掴むことができない、焦がれる存在」
「じゃあ、俺はシルフィードじゃないな」
「なぜ?」
「だって俺は、ユージーンにしっかり掴まれているから。憧れられる存在なんかじゃなく、貴方のものだからね?」
「ノア…… 」
目を細めてノアを見つめ、ユージーンは柔らかく微笑んだ。
「本当に……ノアにはいつも驚かされる。覚悟をしていた事とは全く違う事を言われるし、期待していた事の遥か上の、嬉しい事を言われる。ああ本当に……ノアは凄いな」
「え? いや、俺は別にそんなつもりはなくて、ただ思った事言ってて……あ、でもユージーンに、俺が貴方を好きだって事をわかってほしいって思って言ってるところはあるかもだけど……」
(……ってか、俺達、いつの間に横になってんの!?)
ユージーンの胸に抱かれ、寝転びながら話している事に驚き、ノアはモゾモゾと身体を離したがすぐに抱え直されてしまう。
「ああ、ノアとの事、すぐにでも公表したいのに秘密にしなければならないなんて」
「いや、別に公表なんてしなくてもいいんじゃ」
「誰かがノアを好きになるかもしれないだろう? これまでは新人という事であまり騒がれていなかったが、今回の巨大ワーム討伐の功労者だ。令嬢やその親達が狙い出すかもしれない」
「そんな事ないって。孤児院出だし、誰も何とも言わないよ。それに聖女の件で第三騎士団クビになるかも」
「そうなったら気にせず公表できるな。私もレイモンドとジョシュアへの謝罪の後、第三騎士団を退団する可能性があるから……そうだ、いっそのこと国に仕えるのは辞めて冒険者にでもなるのはどうだ? 結婚して一緒に暮らそう」
「ええっ!? ちょっとそれは早すぎだろ?」
「そんな事はないと思うが……ノアがそう言うのなら、とりあえず婚約にしておくか」
「こんっ、やくっ!」
「ああ。私は必要ないと思うが、まあ、一年くらい婚約期間があってもいいだろう」
「あ、う……」
(ユージーンって、なんかすごくイメージと違ったんだけど! こんなデレるキャラだったの? クーデレ? これクーデレってヤツ? よくわからんが)
堪らなくなり、ノアはユージーンにギュッと抱きついた。
「あーもーっ、好きだっ、好きすぎるっ!」
「……何が、どうしたのかわからないが……私も好きだ。愛しているよ、ノア」
二人は互いの気持ちが嬉しくて、幸せで、もうすでに退団→婚約→同棲→結婚、という計画で頭がいっぱいになっていたが……もちろん、そう簡単に事が進むわけはなかった。
「そうだな……私の為に……すまない」
「いいえ、私の判断です。それにユージーン様が助かって怪我も治ったんだから、何も悔いはありません」
そう言うノアの後頭部をユージーンの手が撫で、二人は見つめ合った。
「ありがとう、ノア」
引き寄せられるように顔を寄せ、口づけをする。
(……こういうのって、なんとなくわかるもんなんだな、キスするタイミングとか……)
「……ノア……」
「はい、ユージーン様」
「あの時……コカトリスが出た時、私のことを呼び捨てにした事、覚えているか?」
「えっ? あー、そうかも、しれないですね」
記憶は定かでは無いが、
「焦ってたし慌ててたから、呼び捨てにしたかもです」
「それから、コカトリスに襲われる直前に、ジーンと呼ばれたような気がするのだが」
「あー……もしかしたら……」
(姉ちゃんがレイとかジョシュとかジーンとか愛称で呼んでいたから、俺もついそう呼んだかもしれない)
「あの時は、様付けされなくて嬉しかったのと、ジョシュアの為に必死になっているからだと絶望したのとで、情緒がおかしくなったが……今はただ、嬉しい。これから私の事はジーンと呼んでくれないか?」
「ええっ? いや、でも」
「それから、もっと気楽な話し方をしてくれ。ジョシュアと話す時のように。敬語とか、私、とかではなく」
「いやっ、そういうわけにはいかないでしょう。ユージーン様は年齢も身分も上ですし、ほら、ウィリアムさんが言ってたじゃないですか、付き合ってるのがバレたら別々の所に配属されちゃうって」
「連携攻撃の精度を上げるために、敬語を止めて愛称で呼ぶようにしていると言えばいいだろう?」
「それで通用します?」
「通用させる」
そう言いきられてしまうと……ノアは、ドキドキしながらユージーンを見つめた。
(……ヤバイ、顔が、良すぎる……)
その美しさと色気に直視できなくなり、目を逸らせて名前を呼ぶ。
「え、と……じゃあとりあえず、様は付けないで……ユージーン……」
「どうして、目を逸らす?」
「そっ、れは……ユージーンが、綺麗すぎて……直視できないからで……だよ!」
ヤケになってそう言うと、一瞬驚いたように息をのんでから、ユージーンはクスクスと笑った。
「ノアは、私の顔が好きか?」
「……好き、だよ。すごく綺麗だし……てか、綺麗だと思わない人なんていないでしょう? 誰だって、ユージーンが一番綺麗だって言うに決まってる」
「レイモンドは、ジョシュアが一番だって言うだろう」
「まあ……それはそうかも……いや、ジョシュアは可愛いけど、綺麗なのはユージーンだね!」
好きになると、その人が一番綺麗で輝いて見えるものだ。
きっぱり言い切ったノアにユージーンは苦笑し、ノアは「だって!」と言葉を続ける。
「元々綺麗だって思ってたけど……でも今はもう、まともに見られないくらい綺麗で、どうしようって感じなんだけど」
「フッ……私はノアの事を、ずっとずっと見つめていたいがな。美しくて可愛らしい私のシルフィード」
「シルフィード?」
「風の精霊だ」
首を傾げるノアの頭を撫でながら話すユージーンの声が心地良く体に響く。
「激しく、優しく、どこまでも吹き抜ける風。時には髪を乱し、時には背中を押してくれる。自由で軽やかで、憧れて手を伸ばすが掴むことができない、焦がれる存在」
「じゃあ、俺はシルフィードじゃないな」
「なぜ?」
「だって俺は、ユージーンにしっかり掴まれているから。憧れられる存在なんかじゃなく、貴方のものだからね?」
「ノア…… 」
目を細めてノアを見つめ、ユージーンは柔らかく微笑んだ。
「本当に……ノアにはいつも驚かされる。覚悟をしていた事とは全く違う事を言われるし、期待していた事の遥か上の、嬉しい事を言われる。ああ本当に……ノアは凄いな」
「え? いや、俺は別にそんなつもりはなくて、ただ思った事言ってて……あ、でもユージーンに、俺が貴方を好きだって事をわかってほしいって思って言ってるところはあるかもだけど……」
(……ってか、俺達、いつの間に横になってんの!?)
ユージーンの胸に抱かれ、寝転びながら話している事に驚き、ノアはモゾモゾと身体を離したがすぐに抱え直されてしまう。
「ああ、ノアとの事、すぐにでも公表したいのに秘密にしなければならないなんて」
「いや、別に公表なんてしなくてもいいんじゃ」
「誰かがノアを好きになるかもしれないだろう? これまでは新人という事であまり騒がれていなかったが、今回の巨大ワーム討伐の功労者だ。令嬢やその親達が狙い出すかもしれない」
「そんな事ないって。孤児院出だし、誰も何とも言わないよ。それに聖女の件で第三騎士団クビになるかも」
「そうなったら気にせず公表できるな。私もレイモンドとジョシュアへの謝罪の後、第三騎士団を退団する可能性があるから……そうだ、いっそのこと国に仕えるのは辞めて冒険者にでもなるのはどうだ? 結婚して一緒に暮らそう」
「ええっ!? ちょっとそれは早すぎだろ?」
「そんな事はないと思うが……ノアがそう言うのなら、とりあえず婚約にしておくか」
「こんっ、やくっ!」
「ああ。私は必要ないと思うが、まあ、一年くらい婚約期間があってもいいだろう」
「あ、う……」
(ユージーンって、なんかすごくイメージと違ったんだけど! こんなデレるキャラだったの? クーデレ? これクーデレってヤツ? よくわからんが)
堪らなくなり、ノアはユージーンにギュッと抱きついた。
「あーもーっ、好きだっ、好きすぎるっ!」
「……何が、どうしたのかわからないが……私も好きだ。愛しているよ、ノア」
二人は互いの気持ちが嬉しくて、幸せで、もうすでに退団→婚約→同棲→結婚、という計画で頭がいっぱいになっていたが……もちろん、そう簡単に事が進むわけはなかった。
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