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第二章 この感情は、なんと言えばいいのだろう
27 葛藤
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魔獣討伐三日目。
それは突然現れた。
いつもなら、サーペントがよく出る沼の周辺を注意深く探索するが、今回は見当たらない。
それであれば、嘆きの森の魔獣討伐は終了だ。
(遠征が終わって王都に戻る時、途中の街の娼館で遊ぶ者が多い。というか、我が師匠が一番遊んでいる。馴染みも多くて顔が利くから、新人の引率をしてやる事が自分の使命だと思っている。なんとたちが悪い。どうせレイモンドがジョシュアが連れて行かれるのを何が何でも阻止するはずだから、ノアのことも一緒に引き止めさせよう)
そんな事を考えていると、
「ちょっと待って下さい! なんか、地面が揺れてる気がしませんか!」
ノアの声が響き渡った。
自身も含め、誰も何も感じていないようだが、こういう時、違和感を感じた者の意見は重要だ。
「……これは……ワームか!」
地面に手を当てた師匠、エイダン・アローが叫び、その直後、巨大なワームがいきなり地面から飛び出した。
(大きい! 三匹! だがこれくらいなら)
そう思うや否や、見た事も無い巨大で形状の違うワームが現れた。
「なんだこいつ、でかすぎるだろう!」
「普通のワームじゃないな、首のあたりの形状が違う、上位種か?」
「こんなのが這いまわっているからサーペントがいなかったのか!」
混乱する中、黒狼、イーサン団長の声が響く。
「ハロルド! パッド! エディ! 周りのワームを片付けろ! アレンは援護! レイは俺と一緒にこのデカブツをやるぞ!」
その声に、すぐさま全騎士が反応し、それぞれの役目を果たすために剣を抜く。
(そうだ、やるしかない)
ギュッと魔杖を握りしめ、特殊個体のワームを目指す時、ふいに視線を感じて横を見ると、そこにノアの姿があった。
(ノアはアレンの班だ。この特殊個体に対峙するのは無理だ)
あごをクイッと上げ『向こうだ』と合図をすると、コクリと頷いて走っていく。
「エイダン! 補助!」
「あまり期待するなよ、それほど魔力が残っていない」
「こんな時だけジジイぶるな」
「ふんっ、お前こそ、いつもジジイ扱いしてるくせに、こんな時だけ都合のいい」
巨大ワームとの戦いが始まる。
師匠達に後れをとった、と、急ぎレイモンドの横に立つ。
「斬れそうか、アレ」
「斬るしかないだろう」
「狙うのは?」
「とりあえず頭だろうな」
「わかった。気を付けろよ、レイ」
「お前もな、ユージーン」
討伐が開始され、すぐに相手がとんでもない化け物だと気付かされる。
固い体表は剣を弾き、突き刺しても全く効果がない。
口の中にはびっしりと鋭い歯が並び、弱点ではない。
首回りの突起物は固く鋭く、それ自体が刃物のようである。
通常のワームは倒せたようで、騎士や魔術師達が集まってくる。が、巨大ワームはびくともしない。
振られる尻尾に吹き飛ばされて転がる者。突起物で身体を切られる者、体当たりされ、潰される者……混乱して危険な現場を、ウィリアム達治療師が走り回っている。
(いつもなら少し離れた場所で治療をするのに……運ばれてくるのを待っていては手遅れになるから、危険を顧みず治療にあたっているのだ)
それだけまずい状況に、最悪の結果を想像してしまう自分を叱責する。
(弱気になるな! 大丈夫! まだやれる! 前の時とは違う! 私はやれる!)
まともに戦えているのは、団長と師匠、そしてレイモンドと自分くらいだ。
いや、違う。
まだ動けて、向かって行けているだけで、なんのダメージも与えられていない。糸口さえ見つからない。
なんと完璧な個体だ!
「レイモンド! 大丈夫か?」
少しでも高く、少しでも早く、と魔力を当てているので、それ自体がダメージにもなる。
心配になって声をかけると、レイモンドからは「まだいける!」との答えが返って来た。
「いつもより威力もスピードもあるのに、ダメージが少ない! お前の力はまだもつのか?」
「ああ、まだ、大丈夫だ」
いざという時の為に渡されているポーションを急いで飲みながら、レイモンドに言われた事を考える。
(レイモンドより華奢なノアの為に、力を点で当てるのではなく、面で当てるように訓練したのが、ここにきて役に立っているようだな。……ノア……君に会えて、良かった)
どれくらい戦っているのかわからない。
意識が朦朧とする。
レイモンドが吹き飛ばされて地面に転がり、治療師が必死に治療をしているのが見える。
(……どうしたら……また私は、何も出来ずに……)
「ユージーン様!」
突然名を呼ばれ、ユージーンは一瞬それが、死ぬ前の幻かと思った。
「あそこ! ワームの首の下まで俺を飛ばして下さい!」
「首の下?」
最後に一目見たいと思ったその姿は、幻にしてはしっかりと話しかけてきて、ようやく本物のノアだと気付き、ユージーンは戸惑いながらも答えた。
「いや、それよりノア、実践はまだ無理だ。それに今の私はもう、力の調整が怪しくなってきている。君が耐えられる威力で当てられるか自信が」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう! こういう時の為に、俺は苦しい思いして特訓してきたんだ! ユージーン様だって俺に期待してくれたんでしょう? 今やらなくってどうするんですかっ!」
「だが……」
ノアを、この惨状の中に放り込む?
そんな事、出来る訳がない。
(ノアはまだ騎士になったばかり、自分より五歳も下だ。守らなくてはいけない。絶対に守りたいのだ、ノアだけは!)
しかし、ノアがこれまでどんなに努力していたか、よく知っている。
自分が選び、頼んだのだ。
「イーサン団長だってレイモンド副団長だってもうあんな状態じゃないですか! やらせてください!」
「…………わかった」
ユージーンは覚悟を決めてノアを見た。共に戦い、そして、自分の命を懸けてでも、ノアを守るという覚悟を決めて。
「首を斬るのか。だが団長でもあの突起に阻まれて弾かれた」
「下から刺すんです、だから高くなく下から刺せるように飛ばして下さい! 横の、あの辺を狙います!」
「わかった。魔術師! 少しでいい! ワームの動きを止めろっ!」
「なんだ!? 何か策があるのか!」
師であるエイダンの問いに、迷い無く答える。
「はい! 頼みます、師匠!」
「わかった! おいっ、力振り絞るぞっ!」
魔術師達が必死に立ち上がり、ワームに向けて拘束魔法を繰り出す。
「ノア! 行くぞ」
「はいっ!」
ワームの側面真下に走り込むノアを見つめ、ジャンプしたタイミングに合わせて足元に魔力を送る。
「うりゃ―――っ!」
弾かれたボールのように、剣を向けたノアが一直線にワームの首めがけて飛んで行くと、そのまま弾かれる事なく、その巨体に剣を刺した。
それは突然現れた。
いつもなら、サーペントがよく出る沼の周辺を注意深く探索するが、今回は見当たらない。
それであれば、嘆きの森の魔獣討伐は終了だ。
(遠征が終わって王都に戻る時、途中の街の娼館で遊ぶ者が多い。というか、我が師匠が一番遊んでいる。馴染みも多くて顔が利くから、新人の引率をしてやる事が自分の使命だと思っている。なんとたちが悪い。どうせレイモンドがジョシュアが連れて行かれるのを何が何でも阻止するはずだから、ノアのことも一緒に引き止めさせよう)
そんな事を考えていると、
「ちょっと待って下さい! なんか、地面が揺れてる気がしませんか!」
ノアの声が響き渡った。
自身も含め、誰も何も感じていないようだが、こういう時、違和感を感じた者の意見は重要だ。
「……これは……ワームか!」
地面に手を当てた師匠、エイダン・アローが叫び、その直後、巨大なワームがいきなり地面から飛び出した。
(大きい! 三匹! だがこれくらいなら)
そう思うや否や、見た事も無い巨大で形状の違うワームが現れた。
「なんだこいつ、でかすぎるだろう!」
「普通のワームじゃないな、首のあたりの形状が違う、上位種か?」
「こんなのが這いまわっているからサーペントがいなかったのか!」
混乱する中、黒狼、イーサン団長の声が響く。
「ハロルド! パッド! エディ! 周りのワームを片付けろ! アレンは援護! レイは俺と一緒にこのデカブツをやるぞ!」
その声に、すぐさま全騎士が反応し、それぞれの役目を果たすために剣を抜く。
(そうだ、やるしかない)
ギュッと魔杖を握りしめ、特殊個体のワームを目指す時、ふいに視線を感じて横を見ると、そこにノアの姿があった。
(ノアはアレンの班だ。この特殊個体に対峙するのは無理だ)
あごをクイッと上げ『向こうだ』と合図をすると、コクリと頷いて走っていく。
「エイダン! 補助!」
「あまり期待するなよ、それほど魔力が残っていない」
「こんな時だけジジイぶるな」
「ふんっ、お前こそ、いつもジジイ扱いしてるくせに、こんな時だけ都合のいい」
巨大ワームとの戦いが始まる。
師匠達に後れをとった、と、急ぎレイモンドの横に立つ。
「斬れそうか、アレ」
「斬るしかないだろう」
「狙うのは?」
「とりあえず頭だろうな」
「わかった。気を付けろよ、レイ」
「お前もな、ユージーン」
討伐が開始され、すぐに相手がとんでもない化け物だと気付かされる。
固い体表は剣を弾き、突き刺しても全く効果がない。
口の中にはびっしりと鋭い歯が並び、弱点ではない。
首回りの突起物は固く鋭く、それ自体が刃物のようである。
通常のワームは倒せたようで、騎士や魔術師達が集まってくる。が、巨大ワームはびくともしない。
振られる尻尾に吹き飛ばされて転がる者。突起物で身体を切られる者、体当たりされ、潰される者……混乱して危険な現場を、ウィリアム達治療師が走り回っている。
(いつもなら少し離れた場所で治療をするのに……運ばれてくるのを待っていては手遅れになるから、危険を顧みず治療にあたっているのだ)
それだけまずい状況に、最悪の結果を想像してしまう自分を叱責する。
(弱気になるな! 大丈夫! まだやれる! 前の時とは違う! 私はやれる!)
まともに戦えているのは、団長と師匠、そしてレイモンドと自分くらいだ。
いや、違う。
まだ動けて、向かって行けているだけで、なんのダメージも与えられていない。糸口さえ見つからない。
なんと完璧な個体だ!
「レイモンド! 大丈夫か?」
少しでも高く、少しでも早く、と魔力を当てているので、それ自体がダメージにもなる。
心配になって声をかけると、レイモンドからは「まだいける!」との答えが返って来た。
「いつもより威力もスピードもあるのに、ダメージが少ない! お前の力はまだもつのか?」
「ああ、まだ、大丈夫だ」
いざという時の為に渡されているポーションを急いで飲みながら、レイモンドに言われた事を考える。
(レイモンドより華奢なノアの為に、力を点で当てるのではなく、面で当てるように訓練したのが、ここにきて役に立っているようだな。……ノア……君に会えて、良かった)
どれくらい戦っているのかわからない。
意識が朦朧とする。
レイモンドが吹き飛ばされて地面に転がり、治療師が必死に治療をしているのが見える。
(……どうしたら……また私は、何も出来ずに……)
「ユージーン様!」
突然名を呼ばれ、ユージーンは一瞬それが、死ぬ前の幻かと思った。
「あそこ! ワームの首の下まで俺を飛ばして下さい!」
「首の下?」
最後に一目見たいと思ったその姿は、幻にしてはしっかりと話しかけてきて、ようやく本物のノアだと気付き、ユージーンは戸惑いながらも答えた。
「いや、それよりノア、実践はまだ無理だ。それに今の私はもう、力の調整が怪しくなってきている。君が耐えられる威力で当てられるか自信が」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう! こういう時の為に、俺は苦しい思いして特訓してきたんだ! ユージーン様だって俺に期待してくれたんでしょう? 今やらなくってどうするんですかっ!」
「だが……」
ノアを、この惨状の中に放り込む?
そんな事、出来る訳がない。
(ノアはまだ騎士になったばかり、自分より五歳も下だ。守らなくてはいけない。絶対に守りたいのだ、ノアだけは!)
しかし、ノアがこれまでどんなに努力していたか、よく知っている。
自分が選び、頼んだのだ。
「イーサン団長だってレイモンド副団長だってもうあんな状態じゃないですか! やらせてください!」
「…………わかった」
ユージーンは覚悟を決めてノアを見た。共に戦い、そして、自分の命を懸けてでも、ノアを守るという覚悟を決めて。
「首を斬るのか。だが団長でもあの突起に阻まれて弾かれた」
「下から刺すんです、だから高くなく下から刺せるように飛ばして下さい! 横の、あの辺を狙います!」
「わかった。魔術師! 少しでいい! ワームの動きを止めろっ!」
「なんだ!? 何か策があるのか!」
師であるエイダンの問いに、迷い無く答える。
「はい! 頼みます、師匠!」
「わかった! おいっ、力振り絞るぞっ!」
魔術師達が必死に立ち上がり、ワームに向けて拘束魔法を繰り出す。
「ノア! 行くぞ」
「はいっ!」
ワームの側面真下に走り込むノアを見つめ、ジャンプしたタイミングに合わせて足元に魔力を送る。
「うりゃ―――っ!」
弾かれたボールのように、剣を向けたノアが一直線にワームの首めがけて飛んで行くと、そのまま弾かれる事なく、その巨体に剣を刺した。
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