スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第二章 この感情は、なんと言えばいいのだろう

26 遠征

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 第三騎士団の主たる任務である魔獣討伐の遠征が行われる。今回は『嘆きの森』への遠征だ。

「定期的に行く場所で、一番危険だよな。魔獣が大きいし、森の中は木が茂っているから歩きにくくて見えにくいし」
「なのにどうして第二王子殿下が? 初めての魔獣討伐なんだし、もっと王都に近い、違う所の方がいいんじゃないのか?」
「王太子殿下に対抗してじゃないですか? 王太子殿下の時は、比較的安全なラグナダルダ草原でのホーンブル討伐だったので」
「王太子殿下は次期国王だからな。万が一にも間違いがあっちゃいけないから、安全第一だったわけだけど」
「第二王子殿下は、自分の方が剣の力が上だという事を示したいんですよ」
「とはいえ、どうせ奥には入らないだろうけどな」
「そうだな。だがその方がこちらとしてはありがたい」

 移動の馬車の中、同僚の魔術師達がそんな会話をするのを聞きながら、ユージーンは外の景色を眺めていた。
 遠征地への移動は、馬と馬車だ。騎士の多くは馬で、魔術師と治療師は馬車、新人騎士は荷物と一緒に馬車の荷台で運ばれる、という感じだ。乗り心地は悪いだろうが、新人同士で気が楽かもしれない。
 通常よりも一日多い、4日という移動期間を経て、嘆きの森に到着する。
 今回は第一騎士団も一緒だったため大人数で、宿屋も分散したり、新人騎士は宿屋が足りなくての野宿したり。なんやかんやでノアとはあまり顔を合わせる機会がなかった。

(毎日長い時間一緒にいたから、なんだか調子が狂うな)

 寂しいとは絶対認めたくないユージーンは、拠点となる森の中でさりげなくノアの姿を探したが、

「荷物どんどん運べー」
「ポーションは慎重にね!」
「今日の料理当番のメンバーは誰だー?」
「だから早く荷物持って行けって!」
「はい! 今行きますっ!」

 と皆忙しそうだ。特に新人達はこき使われていて、ノアもバタバタ走りまわっている。
 
(……仕方ないな)

 そう思いながら隣を見ると、レイモンドもつまらなそうにジョシュアが働く姿を見ている。

(……なんだか情けないな、我々は)

「レイ! ユージーン! 何やってる早く来い! 打ち合わせだぞ!」

 イーサン団長の声が響き、二人はため息をつきながらに本部の幕屋に入った。



 嘆きの森、一日目の夜。

「調子はどうだ?」
「あ! ユージーン様!」

 パンとスープという簡単な食事を済ませてようやく、ノアに話しかける機会に恵まれた。

「体調を崩したりしていないだろうな」
「はい、大丈夫です。あ、ホーンラビットのスープどうでした? 私も作るの手伝ったんです」
「ハーブが利いていていい味だった」
「良かった!」

 嬉しそうに笑うノアにつられ、思わずユージーンも笑った。と、言っても、口の端が少し上がる程度なのだが。

「今日はそれほど魔獣が出なかったが、明日の東側、そして明後日予定している西側の方は、危険な魔獣が多いから注意するように」
「はい。……あの、西側って、沼があるんですよね、たしか」
「ああそうだ。良く知っているな」
「あ、一応……来る前に調べたのと、先輩達に聞いたりしたんで……」
「……そうか」

 自分は尋ねられなかった事に少しムッとしたが、

「あのっ! 大丈夫だとは思いますけど気を付けて下さい。その……ユージーン様は私達とは違って前の方行くから、魔獣と遭遇しやすいわけだし……いや、もちろん強いのは知ってるし、レイモンド様や団長もいるから心配ないでしょうけど、でも一応……」
「わかった。注意する」

 そう言って、一生懸命話すノアの頭を、ユージーンは撫でた。
 以前、ウィリアムに頭を撫でられているのを見て、自分も、と思い訓練後にへばってしまったノアの頭を撫でてみた事があった。その時は「子供じゃないんですけど!」と頬を膨らませていたが、その後度々、頭を撫でやすいようにしている素振りが見られ、撫でてみるとなにやら嬉しそうなので、たまに撫でるようになった。
 本人は喜んでいると思われたくなさそうなので、あくまでも、子供扱いしている風を装ってはいるが。

(黒狼と呼ばれるイーサン団長にあやかって、第三騎士団の団員は狼と呼ばれるが、ノアはどちらかというと、猫だな)

 シャーシャーと毛を逆立てて怒ったり『別に、撫でたいなら撫でてもいいですけど?』というような態度が猫っぽい。

「ノアも、注意深く行動するようにな」
「はい!」

 会話はそれだけだったが、それでも、遠征の疲れが消し飛ぶような、そんな感覚を覚えながら、ユージーンは割り当てられた魔術師用の幕屋に向かった。

 
 
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