スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第二章 この感情は、なんと言えばいいのだろう

25 嫉妬

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 第三騎士団副団長、青狼のレイモンド・ヴァーツからどす黒いオーラが出ているのを感じ、同じく第三騎士団魔術師、銀狼のユージーン・フィンレイは、彼が凝視している先を見て全てを理解した。

「ノア、入れてあげるから口開けて」
「いや、いいって! それ、レイモンド副団長にもらったアメだろ? 俺はいいって!」
「あげるよ~。さっき食べたけど、すごく美味しいんだよ! 疲れているときは甘い物がいいて言うし。はい、あーん」
「いや、ホントに、んっ、あーもー、わかったもらうよ」

 断っても食べさせようと、ジョシュアがアメを唇に押し付けたので、ノアが諦め口を開き、アメを入れてもらっている。

「美味しいでしょ?」
「ん。ハチミツの味する」
「喉にいいんだって」

 魔法を使って会話を聴き取り、隣りに立つレイモンドを見る。

「……あれは、ジョシュアの方からノアにアメを食べさせたのだから」
「ああ」
「ノアが欲しがったわけじゃない」
「わかっている」
「そうか?」

 会話が聞こえないから勘違いしているのでは、と一応解説してみたが、レイモンドは理解しているらしい。理解したうえで、抑えきれない黒オーラを出しているらしい。

「ノアは私との特訓でボロボロだから、そこに追い打ちをかけるような真似はするなよ」
「……何を言っているのか、わからないな。俺がノアに何かするとでも?」
「ならいいけれど……何かしそうな剣幕に見えたものだから」

 ポンポンと、レイモンドの肩を叩く。

「さあ、それならいい加減、宿舎に戻ろうか」
「……ああ」

 大きく大きく息を吐き、レイモンドはようやく視線をそらしてユージーンと一緒に歩き出した。

(……まあでも、レイモンドの気持ちもなんだか理解できる。明日、私もノアにアメを渡そう。そうすれば、もうジョシュアからもらう事もないだろうからな)

 少し前は、横を歩くこの友人の気持ちがわからなかった。
 強くなる事ばかりに興味があり、令嬢や貴婦人に騒がれ誘われても全く喜ばず、むしろ顔を顰めていたレイモンドが、ジョシュアがノアと仲良くしている姿を見て黒いオーラを出している。それもう、嫉妬だろう。かくいう自分も、いい気分ではないという事は認めざるをえない。

「……あの二人は、同期で仲がいいだけだ」

 自分に言い聞かせる意味も込め、言葉にする。

「……何を言っているんだ? 俺は別に……」
「そうか、ならいいが。繰り返しになるが、ノアに何かするなよ」
「こっちこそ繰り返すが、俺がどうしてノアに何かすると?」
「……ああもう、いい」

 レイモンドが頑固者だという事は、長年の付き合いだ、嫌と言う程わかっている。

(レイモンドは、ジョシュアの事が好きなのだ。けれどそれを自覚していないし、認めていない。まったく……なんの意地なんだか)

 隣りで見ていて『なぜ認めない?』と疑問に思う程、レイモンドはジョシュアの事が好きだ。認めたら楽になるだろうに、と思う。

(……まあ、それは、自分にも言える事だがな)

 ユージーンは、ノアの事が好きだ。
 兄の誘いを拒絶し、自分を信じてくれたノアが好きだ。
 文句を言いつつも、一生懸命特訓をするノアが好きだ。
 我慢強く、努力家のノアが好きだ。
 柔らかな印象の茶色い髪色、琥珀のような色で意思の強さを感じる瞳、あまり体格には恵まれていないが機敏に動けるしなやかな身体。
 最初の頃なぜ印象に無かったのか不思議だが、ノアは可愛いと思う。
 厳しく指導されて不満げに頬を膨らませる様子や、たまに褒めると心底嬉しそうに笑うところなど、とても可愛い。

(……ノアが欲しい)

 まっすぐな性格のノアが、自分の事を好きになってくれたらどんなにいいかと思う。
 けれど……。

(ノアが好きなのは、ジョシュアだ)
 
 見ていてわかる。
 最近は自分との特訓のせいで一緒にいないが、前は訓練中ずっとそばで、第三騎士団にしては実力が伴っていないジョシュアの事を気にかけ、フォローしてやっていた。
 レイモンドがジョシュアを好きだという事を察しているような感じもする。
 ジョシュアと楽しそうにじゃれ合っていても、ハッとしたようにキョロキョロし、レイモンドを見つけるとサッとジョシュアから離れる姿を何度か見た。
 憧れているレイモンドに、遠慮しているのだと思う。
 
(恋愛なんて全く興味がなかったレイモンドも好きになったんだ。ジョシュア・パーシットは特別な人間なのだろう。小さくて、可愛らしいしな。私も容姿を褒められる事は多いけれど、ジョシュアとでは系統が違う。ジョシュアのような容姿が好きな者は、私の容姿を好きにはならないだろう)

 自分がノアを好きになったという事を認めたからといって、どうにもならない。むしろ、苦しいだけだ。

(今日も厳しくあたってしまったし……)

「そういえば最近、髪一つに括るだけで編んでいないな。令嬢達が髪がなびくのを素敵だと騒ぐのが不快だと言って、ずっと編んでいたのに。何か心境の変化か? もしかして好きな女でも」
「レイモンド、君、私の事より自分の事をどうにかしなければいけないんじゃない?」
「? それってどういう」
「私の事は放っておけ、という事だよ」

 そう言うと、ユージーンはスタスタとスピードを上げて宿舎へ向かった。

 

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