スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第三章 どうせなら楽しもうと思う

46 混ぜるなキケン

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「フンフンフフ~ン」

 鼻歌交じりにご機嫌で鉛筆を走らせるドロリス。
 ものの数分で描きあげたのは、少し髪が乱れ若干戸惑っているような、色っぽい表情のユージーンだ。ササッと描いた、いわゆるラフ画だが、だからこそ雰囲気がある仕上がりになっている。

「……これは……」
「ノアに口でされて『拙いけれど、一生懸命なところが可愛い。出さないようにしなければ』と快楽を受け流して我慢しているユージーン」
「ファ――ッ!!」

 思わずドロリスの肩を掴んでガクガクと揺すりながらノアは叫んだ。

「馬鹿かっ! 馬鹿なのかっ! 何てこと言ってんだよっ!」
「えーだって~」

 そんなドロリスの足元にサッと片膝をつき、ユージーンが小さな声で尋ねる。

「では、先ほどのノアの絵は」
「あれは、ユージーン様に下をいたずらされて『何すんだよ、駄目だってば!』と口では言いながらももっとして欲しくなっちゃってるノア、ですね」
「ばっ、馬鹿だろ姉ちゃんっ!」
「……お義姉様」

 罵倒するノアの横で、ユージーンはドロリスの手を恭しく取り、その甲に額をつけるという、聖職者、聖女に対して敬意を示す挨拶をした。



「……と、いう事で、幼い頃別れてしまって記憶も無かったんだけど、会って話したら色々思い出して、確かに姉弟だなって事になったんだ」
「なるほど……ところでお義姉様、先ほどのノアの絵はどうされるのでしょう。もしよろしければ譲って頂けないでしょうか」

 ノアは一生懸命丁寧に経緯を説明をしているのだが、肝心のユージーンがドロリスの描いた絵欲しさに、ソワソワしている。

「もちろんいいですけど、あんな走り描きじゃなくてちゃんとしたのを描いてプレゼントしますよ。あ、それから、ユージーン様の方が年上なのですから、私の事はもっと気楽に……ドロリスとかドリーと呼んで下さい」
「では、お言葉に甘えまして。ドロリス様、図々しいお願いなのですが、先ほどの絵も頂き、新たに他の絵も描いていただけると……もちろん、私ができる事でしたら、なんでもお礼させて頂きます」
「いいですよー、そんなの。可愛い弟の最愛の方ですから」
「しかし」
「んー、それじゃあ、なんか美味しい物でもご馳走してもらえますか? そこで色々とお話しを聞かせて頂けたら嬉しいんですけど」
「そんな事でよろしいのですか? では王都で一番のレストランを予約致しましょう」
「いやいや、ちょっと待って? 二人とも」

 二人の会話に割って入る。

「なに意気投合しちゃってんの!? 姉ちゃんの聞きたい色々な話って、俺の聞かれたくない話だよな! それにユージーンも、そんな絵なんてもらってどうするんだよ」
「これくらいの大きさであれば、遠征にも持って行けると」
「ダーッ! 駄目だって! 誰かに見られでもしたらどうすんだよ!」
「それは心配しなくていい。 目隠ブラインド

 ユージーンが魔法をかけると、途端にグニャリと線が歪み、何が描かれているのか判別できなくなる。

「このようにしておけば、私にしか見えない」
「へーすごい、じゃあ大丈夫……じゃなくて! いらないだろ! こんな絵っ」
「あら~、情熱的。絵なんかなくてもいつでも見せてやる、ってこと」
「じゃねえからっ! 姉ちゃんちょっと黙って」
「ねえねえ、ちょっと今思いついたんですけど、その魔法って特定の人だけが見られるようにできるんでしょうか?」
「と、言いますと?」
「ユージーン様みたいに恋人の絵をそっと持っていたいという人に、その魔法を施して販売したらすごく売れるんじゃないかと思って」
「ああ……それは難しいですね。これは私がかけた魔法なので私には見えるんです。依頼者にだけ見えるようにするというのは、今すぐには思いつきませんね。研究していけばもしかしたら」
「いいから! そんな研究しなくても!」
「ですが隠さずとも、ドロリス様の絵を欲しいと言う者はいるでしょう。私の友人も絶対欲しがりますね」
「本当ですか? ……いい商売になりそう……。それじゃあとりあえずサンプル的な感じで、ユージーン様の欲しい絵を描いてみましょうか。ノアのどんなポーズがいいですか? あ、二人の絡みとかも描けますけど?」
「ファ――ッ!」
「両方お願いします」
「何真顔で注文してるんだよ! 却下だ却下!」
「なによーいいじゃない。ねぇ、ユージーン様」
「人に見せるわけじゃないし」
「そうそう。それに絡みって言ってもそんな凄いのじゃなくて、レジに持って行ける程度の表紙的な」

 ニッコリ笑ってそう言うドロリスにノアは言葉が出ず、パクパクと口を動かし……、

「……もう……もう勘弁してくれ……姉ちゃん、それにユージーンも……とりあえず今日はこの辺で……」

 ぐったりしながら、とりあえず混ぜてはいけない二人を分離させなければ、と思うノアだった。




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