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第三章 どうせなら楽しもうと思う
45 疑念
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「いやーそれにしても、もう付き合っているなんて……スピンオフ反対って言ってたのに」
「だってノアは女の子好きだっただろう? それをいきなりユージーンの相手にって、乱暴な話じゃん。そもそも、予定になかったくせに次々とカップルつくるなよな」
「なんか、描いてるうちに情が湧いてくるのよねぇ。バックグラウンドとか考えちゃって。生い立ちや設定がしっかりしているのはスピンオフの候補ね。あと、容姿が良いとか」
「ノアはどっちも当てはまんないだろ?」
「あーあと、モデルが身内ってのもある」
「ふぐぅぅぅぅ」
変な声が出てしまう。
「なんだよそれっ! ノアのモデル、俺かよっ!」
「うん」
「うんって、そんな簡単にっ!」
「いやぁ、事実だし。あっ、そうだ!」
おもむろに肩から掛けていた布バッグから帳面と鉛筆を取り出し、ドロリスが絵を描き始める。
「えっ、何描いてんの?」
「ノアよ。再会の記念にね。記憶が戻ってからちょくちょく落書きとかしているんだけど、こっちはあまり紙の質が良くないのよね。鉛筆も品質が一定じゃないし……でもまあ、それなりには……はい、どうぞ」
「あー……俺だなぁ……相変わらず上手いな姉ちゃん。けどいらない。なんかヤなんですけどこの表情」
帳面から抜き取って渡された絵を、一度は受け取ったが顔を顰めて返す。
「えーいいじゃない、色っぽくって」
「嫌だよ、自分の色っぽい絵とか、見たくねぇよ」
「まあまあ。……ところでノアは、私の意向にそって嫌だけどユージーンと付き合う事にしたわけじゃないのよね?」
「そ、れは、まあ、そうだけど……」
「ユージーンの事、好きなんだ」
「そりゃあもちろん……好き、だよ、本当に。だってあんなに綺麗なんだぜ? おまけに性格いいし、優しいし、なんかこう可愛いとこもあって……」
「うんうん、だよねぇ。あまり愛情を受けずに成長しちゃったから、どうすればいいのか戸惑う時もあるけど、溢れんばかりの愛情を注ぎたいタイプなのよねぇ」
「あ! やっぱり? なあ、ユージーンってクーデレってやつ?」
「あー、そうかも」
「そうか、やっぱり!」
そんな事を言って二人盛り上がっていると、
「お邪魔して、よろしいでしょうか」
見学席に話題のユージーンが現れ、ドロリスに向かって頭を下げた。
「第三騎士団所属の魔術師、ユージーン・フィンレイです。聖女様に命を救っていただいたお礼を申し上げたいのですが」
「あら! ご丁寧にありがとうございます。どうぞこちらへ」
ドロリスは笑顔で許可したが、ノアの方は戦々恐々である。
(これって、姉ちゃんが俺に抱きついたの見て来たよな? ヤバすぎるんですけどっ!)
ノアが一人焦っている間に二人の隣りに来たユージーンの眉間がキュッと寄せられる。
「?」
彼の目線を追い、ノアは驚愕した。
(忘れてた! 姉ちゃんの落書きっ!)
ドロリスの手元の絵を見て目を細めたユージーンの口が、ゆっくりと開く。
「……聖女様は、ノア・ヴァーツとはどのようなご関係なのでしょうか?」
「えっ?」
「聖女様は、ノア・ヴァーツのこのような表情を見るようなご関係で?」
「いやいやいやいや! 勘違いしないで! 俺達、全然そういうんじゃないから!」
「ん~、うふふ~、そう思っちゃいます?」
「!!!!!」
ユージーンが目を見開いてドロリスを見る。
これはマズイとノアは慌ててユージーンの前に立ち、その視界からドロリスを消した。
「彼女とはなんの関係も無いです! あ、いや、なんもって事はないけど、ユージーンが気にするような事はなくて」
「私には、関係がないと?」
冷ややかなその声に、恋人の感情がわかるノアは大いに慌てる。
「あ、いや、関係ないってゆーか、そのっ、何も気にしなくていいって事で」
「聖女様はノアのそういう表情を知っているというのに、何も気にしなくて良いと、そう言うのか」
「いや、知ってるっていうか、知らなくても描けるんだよ、この人は!」
「見たことが無いのに描けるだと? そんなわけないだろう。見もせずにこんなに正確に表情を描けるわけがない!」
「うふふ~、正確ですか? ユージーン様はこの表情、よく見てるんですね~」
「あーもうっ! ユージーンをからかうなって!」
この状況を心底楽しんでいるドロリスを叱りつけてから、ノアはユージーンにはっきりとした口調で言った。
「言ってなくてすみません。彼女は、俺の姉です!」
「……姉?」
「はい。そのへんの事ちゃんと説明するから、とにかく落ち着いて!」
そして、幼い頃に別れた姉弟だと説明をしたが、ユージーンの疑いはなかなか晴れない。
「幼い頃に別れたのに、なぜこういう絵が描けるのだ」
「それは絵が上手いからだよ」
「絵が上手いだけで、こんな、見た事もない表情が描けるものなのか?」
「描けるんだよ。あーもー、姉ちゃん、責任もって釈明してくれよ!」
ノアに泣きつかれ、少々からかい過ぎたかと反省したドロリスは「は~い」と言ってユージーンを見た。
「では、ユージーン様の見た事のない表情を描いてみせますねー」
「おいっ! 何描く気だ!」
「いえ、是非お願いします」
慌てるノアを押しのけ、ユージーンはドロリスにそう返事した。
「はい、お任せ下さい」
にっこりと笑うドロリスに、ノアは嫌な予感しかしなかった。
「だってノアは女の子好きだっただろう? それをいきなりユージーンの相手にって、乱暴な話じゃん。そもそも、予定になかったくせに次々とカップルつくるなよな」
「なんか、描いてるうちに情が湧いてくるのよねぇ。バックグラウンドとか考えちゃって。生い立ちや設定がしっかりしているのはスピンオフの候補ね。あと、容姿が良いとか」
「ノアはどっちも当てはまんないだろ?」
「あーあと、モデルが身内ってのもある」
「ふぐぅぅぅぅ」
変な声が出てしまう。
「なんだよそれっ! ノアのモデル、俺かよっ!」
「うん」
「うんって、そんな簡単にっ!」
「いやぁ、事実だし。あっ、そうだ!」
おもむろに肩から掛けていた布バッグから帳面と鉛筆を取り出し、ドロリスが絵を描き始める。
「えっ、何描いてんの?」
「ノアよ。再会の記念にね。記憶が戻ってからちょくちょく落書きとかしているんだけど、こっちはあまり紙の質が良くないのよね。鉛筆も品質が一定じゃないし……でもまあ、それなりには……はい、どうぞ」
「あー……俺だなぁ……相変わらず上手いな姉ちゃん。けどいらない。なんかヤなんですけどこの表情」
帳面から抜き取って渡された絵を、一度は受け取ったが顔を顰めて返す。
「えーいいじゃない、色っぽくって」
「嫌だよ、自分の色っぽい絵とか、見たくねぇよ」
「まあまあ。……ところでノアは、私の意向にそって嫌だけどユージーンと付き合う事にしたわけじゃないのよね?」
「そ、れは、まあ、そうだけど……」
「ユージーンの事、好きなんだ」
「そりゃあもちろん……好き、だよ、本当に。だってあんなに綺麗なんだぜ? おまけに性格いいし、優しいし、なんかこう可愛いとこもあって……」
「うんうん、だよねぇ。あまり愛情を受けずに成長しちゃったから、どうすればいいのか戸惑う時もあるけど、溢れんばかりの愛情を注ぎたいタイプなのよねぇ」
「あ! やっぱり? なあ、ユージーンってクーデレってやつ?」
「あー、そうかも」
「そうか、やっぱり!」
そんな事を言って二人盛り上がっていると、
「お邪魔して、よろしいでしょうか」
見学席に話題のユージーンが現れ、ドロリスに向かって頭を下げた。
「第三騎士団所属の魔術師、ユージーン・フィンレイです。聖女様に命を救っていただいたお礼を申し上げたいのですが」
「あら! ご丁寧にありがとうございます。どうぞこちらへ」
ドロリスは笑顔で許可したが、ノアの方は戦々恐々である。
(これって、姉ちゃんが俺に抱きついたの見て来たよな? ヤバすぎるんですけどっ!)
ノアが一人焦っている間に二人の隣りに来たユージーンの眉間がキュッと寄せられる。
「?」
彼の目線を追い、ノアは驚愕した。
(忘れてた! 姉ちゃんの落書きっ!)
ドロリスの手元の絵を見て目を細めたユージーンの口が、ゆっくりと開く。
「……聖女様は、ノア・ヴァーツとはどのようなご関係なのでしょうか?」
「えっ?」
「聖女様は、ノア・ヴァーツのこのような表情を見るようなご関係で?」
「いやいやいやいや! 勘違いしないで! 俺達、全然そういうんじゃないから!」
「ん~、うふふ~、そう思っちゃいます?」
「!!!!!」
ユージーンが目を見開いてドロリスを見る。
これはマズイとノアは慌ててユージーンの前に立ち、その視界からドロリスを消した。
「彼女とはなんの関係も無いです! あ、いや、なんもって事はないけど、ユージーンが気にするような事はなくて」
「私には、関係がないと?」
冷ややかなその声に、恋人の感情がわかるノアは大いに慌てる。
「あ、いや、関係ないってゆーか、そのっ、何も気にしなくていいって事で」
「聖女様はノアのそういう表情を知っているというのに、何も気にしなくて良いと、そう言うのか」
「いや、知ってるっていうか、知らなくても描けるんだよ、この人は!」
「見たことが無いのに描けるだと? そんなわけないだろう。見もせずにこんなに正確に表情を描けるわけがない!」
「うふふ~、正確ですか? ユージーン様はこの表情、よく見てるんですね~」
「あーもうっ! ユージーンをからかうなって!」
この状況を心底楽しんでいるドロリスを叱りつけてから、ノアはユージーンにはっきりとした口調で言った。
「言ってなくてすみません。彼女は、俺の姉です!」
「……姉?」
「はい。そのへんの事ちゃんと説明するから、とにかく落ち着いて!」
そして、幼い頃に別れた姉弟だと説明をしたが、ユージーンの疑いはなかなか晴れない。
「幼い頃に別れたのに、なぜこういう絵が描けるのだ」
「それは絵が上手いからだよ」
「絵が上手いだけで、こんな、見た事もない表情が描けるものなのか?」
「描けるんだよ。あーもー、姉ちゃん、責任もって釈明してくれよ!」
ノアに泣きつかれ、少々からかい過ぎたかと反省したドロリスは「は~い」と言ってユージーンを見た。
「では、ユージーン様の見た事のない表情を描いてみせますねー」
「おいっ! 何描く気だ!」
「いえ、是非お願いします」
慌てるノアを押しのけ、ユージーンはドロリスにそう返事した。
「はい、お任せ下さい」
にっこりと笑うドロリスに、ノアは嫌な予感しかしなかった。
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