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第二章 この感情は、なんと言えばいいのだろう
23 パートナー候補
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「団長、連携攻撃の相手なのですが、ノア・ヴァーツと試してみたいと思います」
「んっ?」
第三騎士団の団長執務室に赴きそう伝えると、黒狼と呼ばれているイーサン・ヴァレンタインは、意外そうに眉を上げた。
「ノア・ヴァーツって、新人のか?」
「はい、そうです」
「んーノアかぁ……」
「何か、問題でも?」
「問題……う~ん……ノアは、新人の中では一番の実力の持ち主だが、あくまでも新人の中では、だ。お前に合わせるには、力不足だろう。まあ、レイモンドと比べると全員力不足だがな」
確かにこれまで何人か試したが、レイモンドとの能力が違いすぎて、うまく合わせる事ができずにいたのだが、
「なので、これまでと違う考え方をしてみようかと思いまして」
「違う考え方?」
「まだ戦い方が固まっていない新人を、私と合わせられるように育てようかと」
「あー、なるほどなぁ……それも一つの手かぁ……よし、それでやってみるか」
こうしてユージーンは自ら望んでノアと関わる事になり、それは、かなり珍しい事だった。
「~~~~っじゃあっ! 言わせてもらいますがっ! わかっていても出来ないんですよ! 頭で考えた事がその通り身体で出来るってわけじゃないんです!」
訓練を始めて10日、ノアがキレた。
「ユージーン様の頭の中にはレイモンド様の動きが入っているから、俺に同じ事を求めて出来ないって事に苛立つんでしょうけどっ! たった10日で! 騎士になったばっかりの俺がっ! 青狼って呼ばれてるレイモンド副団長と同じ事ができたらっ! そっちのが問題だろーがっ! 何が育てるだ! 水も肥料もくれないくせに、なんで芽が出ない、花が咲かない、実がならない、って言われても困るんだよっ!」
その声に訓練場が静まり返り、名前を出されたレイモンドと、ノアを心配するジョシュアが駆けつけた。
「ノア、今の言葉はなんだ」
「苛立ち、言葉遣いがなっていなかった点は謝罪します。が、ユージーン様が言いたい事は言えと仰るので、言わせていただいただけです」
崇拝しているレイモンドに食って掛かっているという事は、よっぽど耐えかねたのだろう。
「駄目だよノア! 早く謝って!」
ジョシュアが宥めようと間に入り、上官に対して無礼な発言をしたノアの代わりに頭を下げた。
「申し訳ございません、レイモンド副団長、ユージーン様。ノアは最近本当に頑張っていて……宿舎に帰ってからも腹筋や腕立てしてるし……でも副団長のようにはすぐには」
「なるほど……確かにそうだな」
なんとなく不愉快になり、ユージーンはジョシュアの言葉を遮り、ノアに向かって言った。
「確かに、君が考え、努力したからといって、数日でレイモンドと同じ動きが出来るわけがないな」
「…………」
「育てると言ったのも私だ。それなのに育てとばかり言って、何も協力していなかった。すまない」
「……いや……その……こちらこそ……力不足で……申し訳、ございません……」
ノアの謝罪をすぐに受け入れ、ユージーンは場所を移す事にした。
チラリと振り返った際、ジョシュアとノアが、手を胸の前でグーにして頷きあっているのを見て、なぜか更に気分が悪くなるのを感じた。
「まずは謝罪したい。無理な事を言ってすまなかった」
騎士団の食堂に場所を移し、ノアと二人で話をする。
幸い怒りは納めてくれたようだが「私ではユージーン様に合わせるのは無理です。どうか、別の人を選んで下さい」と言われてしまった。
レイモンドを基準に考えてしまい、相手に合わせようとしてなかったと認め、是非ノアと、と言ったが良い返事はもらえず、仕方なく話したくなかった事を話す。
「君は、私がなんと呼ばれているか、知っているか?」
「はい、銀狼、ですよね」
そう言われ、少し戸惑う。
最近兄のギルバートと話をしたのだから『騎士殺し』の方を言われると覚悟していた。
いくら言われ慣れていても、『騎士殺し』と呼ばれる事は縫った傷を再び引き裂かれるようなものだ。自分から言うように仕向けた事でも、言われるのは覚悟が必要なのだが、ノアは全く迷いなく『銀狼』と言った。それに驚き嬉しく思うが、今はパートナーを続けてもらう事の方が大切だ。
「それではない『騎士殺し』の方だ」
「ああ……知っていますが、それって嘘ですよね。ユージーン様の力で自分達の力を過信した第一騎士団の騎士達が、その過ちを全てユージーン様のせいにして罪を免れようとした」
「……君は、そちらの話を信じるのか」
「信じる信じないの話じゃない、それが真実です」
(……なぜ、そう言い切れるのだろう。まるで、見ていたかのように。なぜ、私を信じてくれるのだ?)
嬉しくて、泣きたくなる。
『お前はフィンレイ家の誇りだ』と言っていた父親は『なんて事をしてくれたんだ!』と怒鳴った。
『貴方に一番期待しているのよ』と言っていた母親は『貴方など産むのではなかった』と言った。
長兄には『二度と家に戻ってくるな』と言われたし、すぐ上の兄は『いい気になっていたから罰が当たったんだ』と笑った。
家族でさえ言ってくれなかったのに、事情を良く知らなそうなノア・ヴァーツが「ユージーン様のせいではありません」と言う。
しかもそれは、何も知らないのに適当に言っている、という感じではなく、確かな確信を持って言っていると感じられるのだ。
(彼が味方になってくれたら、どんなに幸せだろう)
団長や師匠の事、第三騎士団の現状も持ち出してどうにか説得し、訓練続行の約束を取りつけた。
「………わかり、ました。けどっ、できるかどうかわからないですよ! 努力は……しますけど」
少し赤くなりながらそう言ったノアを見て、ユージーンは人生で初めて、胸が熱くなるのを感じたのだった。
「んっ?」
第三騎士団の団長執務室に赴きそう伝えると、黒狼と呼ばれているイーサン・ヴァレンタインは、意外そうに眉を上げた。
「ノア・ヴァーツって、新人のか?」
「はい、そうです」
「んーノアかぁ……」
「何か、問題でも?」
「問題……う~ん……ノアは、新人の中では一番の実力の持ち主だが、あくまでも新人の中では、だ。お前に合わせるには、力不足だろう。まあ、レイモンドと比べると全員力不足だがな」
確かにこれまで何人か試したが、レイモンドとの能力が違いすぎて、うまく合わせる事ができずにいたのだが、
「なので、これまでと違う考え方をしてみようかと思いまして」
「違う考え方?」
「まだ戦い方が固まっていない新人を、私と合わせられるように育てようかと」
「あー、なるほどなぁ……それも一つの手かぁ……よし、それでやってみるか」
こうしてユージーンは自ら望んでノアと関わる事になり、それは、かなり珍しい事だった。
「~~~~っじゃあっ! 言わせてもらいますがっ! わかっていても出来ないんですよ! 頭で考えた事がその通り身体で出来るってわけじゃないんです!」
訓練を始めて10日、ノアがキレた。
「ユージーン様の頭の中にはレイモンド様の動きが入っているから、俺に同じ事を求めて出来ないって事に苛立つんでしょうけどっ! たった10日で! 騎士になったばっかりの俺がっ! 青狼って呼ばれてるレイモンド副団長と同じ事ができたらっ! そっちのが問題だろーがっ! 何が育てるだ! 水も肥料もくれないくせに、なんで芽が出ない、花が咲かない、実がならない、って言われても困るんだよっ!」
その声に訓練場が静まり返り、名前を出されたレイモンドと、ノアを心配するジョシュアが駆けつけた。
「ノア、今の言葉はなんだ」
「苛立ち、言葉遣いがなっていなかった点は謝罪します。が、ユージーン様が言いたい事は言えと仰るので、言わせていただいただけです」
崇拝しているレイモンドに食って掛かっているという事は、よっぽど耐えかねたのだろう。
「駄目だよノア! 早く謝って!」
ジョシュアが宥めようと間に入り、上官に対して無礼な発言をしたノアの代わりに頭を下げた。
「申し訳ございません、レイモンド副団長、ユージーン様。ノアは最近本当に頑張っていて……宿舎に帰ってからも腹筋や腕立てしてるし……でも副団長のようにはすぐには」
「なるほど……確かにそうだな」
なんとなく不愉快になり、ユージーンはジョシュアの言葉を遮り、ノアに向かって言った。
「確かに、君が考え、努力したからといって、数日でレイモンドと同じ動きが出来るわけがないな」
「…………」
「育てると言ったのも私だ。それなのに育てとばかり言って、何も協力していなかった。すまない」
「……いや……その……こちらこそ……力不足で……申し訳、ございません……」
ノアの謝罪をすぐに受け入れ、ユージーンは場所を移す事にした。
チラリと振り返った際、ジョシュアとノアが、手を胸の前でグーにして頷きあっているのを見て、なぜか更に気分が悪くなるのを感じた。
「まずは謝罪したい。無理な事を言ってすまなかった」
騎士団の食堂に場所を移し、ノアと二人で話をする。
幸い怒りは納めてくれたようだが「私ではユージーン様に合わせるのは無理です。どうか、別の人を選んで下さい」と言われてしまった。
レイモンドを基準に考えてしまい、相手に合わせようとしてなかったと認め、是非ノアと、と言ったが良い返事はもらえず、仕方なく話したくなかった事を話す。
「君は、私がなんと呼ばれているか、知っているか?」
「はい、銀狼、ですよね」
そう言われ、少し戸惑う。
最近兄のギルバートと話をしたのだから『騎士殺し』の方を言われると覚悟していた。
いくら言われ慣れていても、『騎士殺し』と呼ばれる事は縫った傷を再び引き裂かれるようなものだ。自分から言うように仕向けた事でも、言われるのは覚悟が必要なのだが、ノアは全く迷いなく『銀狼』と言った。それに驚き嬉しく思うが、今はパートナーを続けてもらう事の方が大切だ。
「それではない『騎士殺し』の方だ」
「ああ……知っていますが、それって嘘ですよね。ユージーン様の力で自分達の力を過信した第一騎士団の騎士達が、その過ちを全てユージーン様のせいにして罪を免れようとした」
「……君は、そちらの話を信じるのか」
「信じる信じないの話じゃない、それが真実です」
(……なぜ、そう言い切れるのだろう。まるで、見ていたかのように。なぜ、私を信じてくれるのだ?)
嬉しくて、泣きたくなる。
『お前はフィンレイ家の誇りだ』と言っていた父親は『なんて事をしてくれたんだ!』と怒鳴った。
『貴方に一番期待しているのよ』と言っていた母親は『貴方など産むのではなかった』と言った。
長兄には『二度と家に戻ってくるな』と言われたし、すぐ上の兄は『いい気になっていたから罰が当たったんだ』と笑った。
家族でさえ言ってくれなかったのに、事情を良く知らなそうなノア・ヴァーツが「ユージーン様のせいではありません」と言う。
しかもそれは、何も知らないのに適当に言っている、という感じではなく、確かな確信を持って言っていると感じられるのだ。
(彼が味方になってくれたら、どんなに幸せだろう)
団長や師匠の事、第三騎士団の現状も持ち出してどうにか説得し、訓練続行の約束を取りつけた。
「………わかり、ました。けどっ、できるかどうかわからないですよ! 努力は……しますけど」
少し赤くなりながらそう言ったノアを見て、ユージーンは人生で初めて、胸が熱くなるのを感じたのだった。
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