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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい
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同僚達がすぐ近くにいるこの場所で、しかもまだ日が暮れたばかりで、あれこれするつもりは無い。断じて無い。
(そもそも、告白しあってすぐにヤるってのは駄目だ。ちゃんと適切なタイミングってもんがある。まあそう言うと、キスだってどうなんだって話しになるけど……でも、いいよな? キスくらいなら……)
口づけをする事によって、自分がユージーンを好きだという事を実感する。
戸惑いだとか、恥ずかしいとか、そういう感情よりも、嬉しくて『もっと』という欲望がどんどん大きくなる。そして、こうやって口づけする事によって、自分が本当にユージーンの事を好きだという事を、本人に示せるのが嬉しい。
肝心のユージーンは、まだ信じられないようだが。
唇を離すと、驚いた表情のまま自分を見ているユージーンと目が合う。
「……本当、なのか?」
「もちろん本当です。嘘で、こんな事しないです。ちゃんと本当に好きです。まあ……今まではぼんやりっていうか、好きだけどちゃんと認めてはいなかったっていうか……ユージーン様に好きって言ってもらえたから自分でもちゃんと認識して認めたわけなんですけど……でもちゃんと」
「そんなの、どうだっていい!」
話の途中で唇を塞がれてしまったけれど『まあいいか』と思う。
(話は、これからいくらでもできるから……)
今はとりあえず、触れ合う事でお互いの気持ちを確認したいと思った。しかし、
「ん……あ……ちょっ……待って待って」
ユージーンの唇が首元に落とされ、甘く痺れるような感覚に慌てる。
「いや、ちょっと駄目ですってそんな……みっ、耳は止めて下さいっ、なっ、中に手ぇ入れてこないで下さい! 誰か来るかもしれないしっ」
「 施錠」
脇腹を直に擦りながら片手間にロックの魔法がかけられる。
「いやいや、あのっ、皆いるんで、声とか外に漏れたらマズイし」
「 防音」
「いやいやいやいや、そういうことじゃなくっ!」
流されそうになるのをどうにか理性で抑える。
「駄目ですって! これ以上は」
「……少し、触れるだけだ」
「っっっっ!」
ピントが合わないほど間近で囁かれ、そのあまりの美しさと心地良い声の響きに、頭の後ろが痺れるような感覚を覚える。
「……本当に……触れるだけ。嫌がる事はしない。私はノアに、嫌われるのを恐れているから」
「え、い、嫌って、わけではないですけど……その……ゆっくり、でいいですかね……俺は、こういう事の経験は皆無ですので」
向こうの世界にいた時も、こちらの世界のノアの記憶でも、色恋には縁が無い生活を送ってきた。姉の影響で知識だけはやたらとあるが、恋愛=ファンタジーと言っていいほど、空想の世界の出来事のように思っている。
「そもそも、どうして私に好意を持ってくれたのかわかんなくて、戸惑ってますし」
「では、納得できるように話さなければな。けれど、今はもう少し……抱きしめるだけにするから、許してくれないか?」
(うっ……そんな綺麗な顔で頼まれたら、断れないっつーか、断りたくないっつーか……)
引き寄せられるように、自らベッドに腰かける。
「えっと……服の中に手を入れるのは無しって事で……」
「わかった」
約束を交わしてから、ノアはユージーンの胸に身体を預けた。
身長は恐らく10センチくらい高いだろうが、ユージーンの身体はあまり筋肉がなく、細く頼りなく感じられた。
(まあ、毎日みっちり身体動かしてる騎士とは違うよな。それに、ここ数日ちゃんと食事摂れてなかったみたいだし……)
覆いかぶさるように抱きしめ、深呼吸するようなユージーンの息を感じ、風呂に入った後で良かったと思う。そして、クリーン魔法でも使ったのか、全く匂いがしないユージーンに少しガッカリしながら、腕を背中に回してゆっくりと撫でた。
冷たかったユージーンの身体が、抱き合ったところから段々温かくなっていき、自分の体温を分けてあげられているような気分になり嬉しい。
しばらくそうしていると、ユージーンの身体が急に重くなった。
「ユージーン様? ユージーン様? 寝ちゃったんですか?」
その問いに答えはなく、規則正しい呼吸を感じるだけだ。
「よい、しょっと……」
体重をかけると、ユージーンはしっかりとノアを抱きしめたまま、目を覚ます事なくベッドに倒れ込んだ。
「あんま、寝てなかったんでしょうね……ゆっくり、寝て下さい。一緒にいますから」
抱え込まれながらも少し自由がきく手で背中を擦り、もう少ししたら抜け出そうと考えながら、ノアも一緒に目を閉じた。
……その後、何時間経っても出て来ない二人を心配し、 施錠を解除して様子を見に来たウィリアムに、抱き合って眠っている所を見られたのはショックだったが……とりあえず、大きな山場であった『嘆きの森遠征』を最善の結果で終えられた。
(ま、帰ったら、聖女様の事で何らかの処分はあるだろうけどな)
そう心の準備をしつつも、ノアは結果に満足していた。
☆第一章終了です。第二章はユージーン視点です。開始まで1週間くらい更新を休みます、申し訳ございません。再開しましたら、どうぞまたよろしくお願い致します。
(そもそも、告白しあってすぐにヤるってのは駄目だ。ちゃんと適切なタイミングってもんがある。まあそう言うと、キスだってどうなんだって話しになるけど……でも、いいよな? キスくらいなら……)
口づけをする事によって、自分がユージーンを好きだという事を実感する。
戸惑いだとか、恥ずかしいとか、そういう感情よりも、嬉しくて『もっと』という欲望がどんどん大きくなる。そして、こうやって口づけする事によって、自分が本当にユージーンの事を好きだという事を、本人に示せるのが嬉しい。
肝心のユージーンは、まだ信じられないようだが。
唇を離すと、驚いた表情のまま自分を見ているユージーンと目が合う。
「……本当、なのか?」
「もちろん本当です。嘘で、こんな事しないです。ちゃんと本当に好きです。まあ……今まではぼんやりっていうか、好きだけどちゃんと認めてはいなかったっていうか……ユージーン様に好きって言ってもらえたから自分でもちゃんと認識して認めたわけなんですけど……でもちゃんと」
「そんなの、どうだっていい!」
話の途中で唇を塞がれてしまったけれど『まあいいか』と思う。
(話は、これからいくらでもできるから……)
今はとりあえず、触れ合う事でお互いの気持ちを確認したいと思った。しかし、
「ん……あ……ちょっ……待って待って」
ユージーンの唇が首元に落とされ、甘く痺れるような感覚に慌てる。
「いや、ちょっと駄目ですってそんな……みっ、耳は止めて下さいっ、なっ、中に手ぇ入れてこないで下さい! 誰か来るかもしれないしっ」
「 施錠」
脇腹を直に擦りながら片手間にロックの魔法がかけられる。
「いやいや、あのっ、皆いるんで、声とか外に漏れたらマズイし」
「 防音」
「いやいやいやいや、そういうことじゃなくっ!」
流されそうになるのをどうにか理性で抑える。
「駄目ですって! これ以上は」
「……少し、触れるだけだ」
「っっっっ!」
ピントが合わないほど間近で囁かれ、そのあまりの美しさと心地良い声の響きに、頭の後ろが痺れるような感覚を覚える。
「……本当に……触れるだけ。嫌がる事はしない。私はノアに、嫌われるのを恐れているから」
「え、い、嫌って、わけではないですけど……その……ゆっくり、でいいですかね……俺は、こういう事の経験は皆無ですので」
向こうの世界にいた時も、こちらの世界のノアの記憶でも、色恋には縁が無い生活を送ってきた。姉の影響で知識だけはやたらとあるが、恋愛=ファンタジーと言っていいほど、空想の世界の出来事のように思っている。
「そもそも、どうして私に好意を持ってくれたのかわかんなくて、戸惑ってますし」
「では、納得できるように話さなければな。けれど、今はもう少し……抱きしめるだけにするから、許してくれないか?」
(うっ……そんな綺麗な顔で頼まれたら、断れないっつーか、断りたくないっつーか……)
引き寄せられるように、自らベッドに腰かける。
「えっと……服の中に手を入れるのは無しって事で……」
「わかった」
約束を交わしてから、ノアはユージーンの胸に身体を預けた。
身長は恐らく10センチくらい高いだろうが、ユージーンの身体はあまり筋肉がなく、細く頼りなく感じられた。
(まあ、毎日みっちり身体動かしてる騎士とは違うよな。それに、ここ数日ちゃんと食事摂れてなかったみたいだし……)
覆いかぶさるように抱きしめ、深呼吸するようなユージーンの息を感じ、風呂に入った後で良かったと思う。そして、クリーン魔法でも使ったのか、全く匂いがしないユージーンに少しガッカリしながら、腕を背中に回してゆっくりと撫でた。
冷たかったユージーンの身体が、抱き合ったところから段々温かくなっていき、自分の体温を分けてあげられているような気分になり嬉しい。
しばらくそうしていると、ユージーンの身体が急に重くなった。
「ユージーン様? ユージーン様? 寝ちゃったんですか?」
その問いに答えはなく、規則正しい呼吸を感じるだけだ。
「よい、しょっと……」
体重をかけると、ユージーンはしっかりとノアを抱きしめたまま、目を覚ます事なくベッドに倒れ込んだ。
「あんま、寝てなかったんでしょうね……ゆっくり、寝て下さい。一緒にいますから」
抱え込まれながらも少し自由がきく手で背中を擦り、もう少ししたら抜け出そうと考えながら、ノアも一緒に目を閉じた。
……その後、何時間経っても出て来ない二人を心配し、 施錠を解除して様子を見に来たウィリアムに、抱き合って眠っている所を見られたのはショックだったが……とりあえず、大きな山場であった『嘆きの森遠征』を最善の結果で終えられた。
(ま、帰ったら、聖女様の事で何らかの処分はあるだろうけどな)
そう心の準備をしつつも、ノアは結果に満足していた。
☆第一章終了です。第二章はユージーン視点です。開始まで1週間くらい更新を休みます、申し訳ございません。再開しましたら、どうぞまたよろしくお願い致します。
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