スピンオフなんて必要ないですけど!?

カナリア55

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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい

12 ワーム 2

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「……姉ちゃん、このヘビの魔物、全部同じ濃さでいいのか?」
「ヘビじゃなくて、ワームね。えーっと……大きいのは、小さいのより色濃くして」
「わかった。で、このデカいのは全部同じでいいの?」
「ん~……首のトゲトゲは濃くして。あ、イソギンチャク部分は白っぽいイメージだから」
「オッケー。……にしてもさ、これ、土の中にいるヤツなんだろ? 首のとこ、こんなにギザギザ出っ張ってて動けるのか?」
「表面がツルッとしてるから土の中で動けるのよ。あとそのギザギザは……そう! 土の中だとねてるのよ。地上に出て興奮してるから逆立ってるの」
「ハッ、適当だな~、今考えたんだろ?」
「う~、だってわたし、こういう魔物とか描きたかったわけじゃないもん! 騎士服と、イチャイチャを描きたかっただけだもん! は~、早くイチャイチャが描きたい……この回が終わったら、いよいよ……いよいよイチャイチャを……」



 寝不足で朦朧としながらした、姉との会話を思い出す。

(そうだ、あのトゲトゲ、普段は立ってないんだ。だからその下はいつもならトゲトゲの下で保護されてるところだ。トゲトゲで見えにくいけど、よくよく見たら、奥は胴体部分とは違う色してたから、きっと柔い!)

「ユージーン様!」

 ユージーンを見つけて駆け寄ると、ワームの首を指さした。

「あそこ! ワームの首の下まで俺を飛ばして下さい!」
「首の下? いや、それよりノア、実践はまだ無理だ。それに今の私はもう、力の調整が怪しくなってきている。君が耐えられる威力で当てられるか自信が」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょう! こういう時の為に、俺は苦しい思いして特訓してきたんだ! ユージーン様だって俺に期待してくれたんでしょう? 今やらなくってどうするんですかっ!」
「だが……」

 ユージーンの目が、迷いに揺れる。

「イーサン団長だってレイモンド副団長だってもうあんな状態じゃないですか! やらせてください!」
「…………わかった」

 迷いが消え、ユージーンはノアを見た。

「首を斬るのか。だが団長でもあの突起に阻まれ弾かれた」
「下から刺すんです、だから高くなく下から刺せるように飛ばして下さい! 横の、あの辺を狙います!」
「わかった」

 頷き、ユージーンが叫ぶ。

「魔術師! 少しでいい! ワームの動きを止めろっ!」
「なんだ!? 何か策があるのか!」
「はい! 頼みます、師匠!」
「わかった! おいっ、力振り絞るぞっ!」

 ユージーンとエイダン魔術師長の言葉に、へたり込んでいた魔術師達が必死に立ち上がる。

「ノア! 行くぞ」
「はいっ!」

 魔術師達が力を合わせてワームに拘束魔法を繰り出す。
 その間にワームの側面真下に走り込みそのままジャンプすると、足元に魔力を感じる。

「うりゃ―――っ!」

 押されるというより、弾き飛ばされるような加速の衝撃に耐え、ノアは狙ったその場所に、深く剣を刺した。

「ギ――――――ッ!!!」

 耳をつんざくような声が響く。

(刺さった! でもまだだ! 落ちる前にもっとダメージを)

 そう思った時、足の裏に再び魔力を感じる。

(ユージーン!)

 思わずワームから目を離し、下にいるユージーンを探すと、自分に魔杖を向け、苦し気な表情で魔法をかけ続けている姿が見え、心臓をグッと掴まれたような感覚を覚える。

(このチャンス、絶対生かす!)

 キッとワームに視線を戻し、剣を握る手に力を込める。
 空に浮いているとは思えないほどしっかりと足に力を入れる事が出来る。不安定さは全くない。

「ああぁぁぁぁぁっっっ!」
「ンギギギギギギギギ―――――ッ」

 渾身の力を込めて刺した剣を横に引き傷を広げると、断末魔の苦しみに悲鳴のような音を上げながら、ワームのもたげていた巨体がゆっくりと傾き始める。

「倒れて来るぞー!」
「気を付けろ!」
「倒れてる奴運べ!」

 地上が慌ただしくなる中、ノアは剣を刺し続けた。
 倒れていくワームの動きで、ノアが必死に引き裂いたのとはまた逆の方向に傷が広がる。

(もう少し、もう少し……少しでも多く……)

「ノア! 離れろ! そこまでだ!」

 一瞬迷ったが、ユージーンの言葉に従い剣から手を離す。
 すると足元の魔力が急激に減少し、体が落下した。
 
(うそっ、この高さから?)

 そう慌てたが、地面に叩きつけられる事は無くギリギリでフッと浮き、無事地面に降りる事ができた。

「は……ハハッ、助かっ、た……」

 ホッとしたその時、ズダーンという大きな音と地響きを立て、ワームが地面に倒れた。時折ビクン、ビクンと痙攣するような動きをするが、起き上がりはしない。

「大丈夫そうだが念には念を入れてだ! ノア! とどめをさせ!」

 イーサンの言葉に頷き立ち上がろうとし……ノアは「無理です!」と首を振った。

「すみません! 立ち上がれません。手も」

 遠目からでも分かるほどにブルブルと震える手を上げて見せる。

「わかった、休んでろ!」

 そう言うとイーサンは、動ける数人と一緒にワームの首にグザグサと剣を突き立ててから、ノアの元にやって来た。
 エイダン魔術師長とレイモンド、ユージーン、それに騎士達も集まって来る。

「ノア! よくやった! よく急所がわかったな」

 イーサンにグリグリと頭を撫でられ、ちょっと痛い、と思いつつも笑顔になる。

「いや、最初あまりのデカさに怖気づいてしまって動けなくて……それで呆然と見上げてたら、なんかあの首回りの鱗っていうか突起っていうか、あの下が体表の色と違うなって気が付いて……なんかこう……魚のエラみたいな感じなのかなって」
「魚のエラ?」
「はい。ワームって、普段は土の中にいて移動しているのに、あんなに突起だらけじゃ、進むの大変じゃないですか。だから、土の中では畳んでて、地表に出たら威嚇の為に広げたのかなって。それなら、普段隠れている下の部分は、それほど固くないんじゃないかって」
「なるほど……魚も、エラの間から刃物入れやすいな。いや、ホント、よくやった!」
「ありがとうございます」

 パンパンと肩を叩かれ、笑顔で頭を下げたノアに、ウィリアムがポーションを渡す。

「お疲れ様。とりあえずポーション飲んで。皆も、まずはポーション飲んでくれる? で、重症者から治療していくよ」

 もらったポーションを飲むと、身体の痛みが少しマシになり、手の震えも止まった。

(はー、助かった……そうだ! ユージーン!)

 立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回し、ポーションを飲んでいるユージーンを見つけて走り寄った。

「ユージーン様! ありがとうございました!」

 前に立ち、深く頭を下げる。

「ユージーン様のおかげでワーム倒せました!」
「いや、ワームを倒したのはノアの手柄だ。私は少し補助したに過ぎない」

 そう言うユージーンの長い銀色の髪は、戦いの最中に結い紐が解けたのか降ろされて一部頬に張り付き、ローブは所々破けている。そして普段ほとんど無表情なのに、今はどこか晴れやかで少し微笑んでいるようにも見える。

「違います! 本当に、ユージーン様のおかげで……」

 その乱れた姿が美しくて、微かな笑みに胸がキュッとして、ノアは無意識のうちに胴当ての上から胸を押さえながら言った。

「いつもは『行ってこい!』って感じで吹っ飛ばされるだけだったけど、今日は、飛ばした後もしっかり俺の事見守ってくれて……だから、俺が刺した後、そのまま首斬ろうとしているの気づいて、落ちないように魔法かけ続けてくれたんですよね」
 
 その言葉に、驚いたように見開かれたユージーンの紫色の瞳にドキドキする。

「えっと、それが……」

(ヤバい、あまりにも顔が良すぎてドキドキする。この乱れた感じがヤバいんだけど……姉ちゃんの呪いか?)

「それが、嬉しくて……って、いや、嬉しいっていうのは、そのおかげで倒せたから嬉しいって事で……えーっと、とにかくユージーン様のおかげで」

「ギャ――ッ!」

 突然甲高い鳴き声が響き、ノアはビクッとして声の方を振り返った。

「うっ、そだろう?」

 目線の先には、巨大な鳥が翼をバタバタさせていた。

  


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