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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい
6 育てる事にした?
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「団長から話は聞いただろう。これから君には、私との連携攻撃の練習を中心に訓練をしてもらう事になる」
銀色の長い髪を、今日は三つ編みではなく一つに結った、アメジストのような瞳の魔術師、ユージーン・フィンレイにそう言われ、ノアは「ハッ! よろしくお願い致します!」と敬礼をした。
(第三騎士団の銀狼。白い肌に切れ長の紫の目、スッと通った鼻すじ、きりっとした口元。長身で、均整の取れた身体。さすが読者投票で『金犬青狼』の美形ナンバーワンに選ばれるだけある。男の俺でも見とれる美人だ)
魔術師はローブを羽織っているのだが、身の丈以上ある魔杖を振る時、動きに合わせてその長い裾がブワッと広がりなびく様子はまるで芸術品のようで、ため息ものである。
原稿を取りにきたユージーン推しの担当編集者が、カラーの扉絵を見て『西園寺先生の描くキャラはみんな素敵ですけど、中でもユージーン様は、髪先から指先、なびくローブの端まで全てが完璧で芸術です!』なんて悶えていたのを思い出していると、
「まずは、レイモンドと手合わせしてもらう。君の動きを見たいから」
ユージーンがそう言い、少し離れて立っていたレイモンドが「この間みたいに気を抜くなよ」と腹に響く低い声で言いながら目の前にやってきた。
「始めるぞ。用意しろ」
「はいっ!」
(ヤバイな、青狼。怖いぞ、これ……)
同じ孤児院育ちで五歳年上のレイモンドはノアの憧れで、目指している騎士だ。同じ第三騎士団に配属され喜んでいたが、
(漫画の中でレイモンドは、ジョシュアの親友であるノアに嫉妬していた。鈍感なノアは全然気づいていなかったけどな。もちろんレイモンドはそんなので嫌がらせするような男じゃないけど、なんかこう……手加減もしないよな、絶対)
げんなりしながらも駆け足で練習用の剣を取りに行くと、
「凄いねノア!」
大きな目を更に大きくキラキラさせたジョシュアに応援され、『おふっ』と心の中で変な声が出た。
(そんなキラキラした目で見てくんな。レイモンドに敵視されるだろうがっ!)
「ノアならできるよ! 頑張ってね!」
(いやいや、手ぇ握ってくんなよ、ホント、レイモンドが見てると思うと振り返るのが恐いんだけど)
「が、頑張ってみるな。じゃ!」
急いで手を振りほどき戻ってみると、レイモンドから黒いオーラが立ち昇っているように感じられた。
(くそっ、見られてたかっ。けど俺は不可抗力だった! 話しかけて手を握ってきたのはジョシュアの方だからな!)
そう言えないのがもどかしい。
キュッと唇を横に引き気を引き締め、ノアは「よろしくお願いしますっ!」と覚悟を決めて声を上げた。
「もう動けないのか、情けない。まあいい、終わりにしよう」
「す、みません……ありがとう、ございました、副団長……」
五歳年上で副団長のレイモンドと、今年入団したばかりの新人ノアでは、実力が全く違う。これまでも何度か手合わせしてもらった事はあったが、今回はユージーンが動きを見たいと言ったので、休みを入れながらも1時間ずっと剣を交わしていたのだ。
(し、死ぬかと思った……レイモンドと連続手合わせなんて……無理……容赦ないし……)
「でもまあ、悪くはない。どうだ? ユージーン」
レイモンドから思いがけない評価をもらい『おっ?』と喜んだのもつかの間。
「……まだまだだな。遅い、低い、鈍い、弱い」
「グッ……」
ユージーンの言葉に打ちのめされる。が、いや、しかし、その方が良かったと思い直す。
「すみません。やっぱり私には無理だと思いますので」
「だが、今いる騎士の中ではましな方だな」
「げっ」
「げっ?」
「い、いえ……その……自信が、持てなくて……」
(諦めてくれ見限ってくれ~)
「私より強い先輩方が沢山いらっしゃるのでそちらに……」
「確かに。だからこそ都合が良い」
「だから、こそ?」
「戦い方が固まってしまっている者に、今更合わせろと言ってもうまくいかない。その点君ならまだ成長途中だから、どうとでもなるだろう。まあ、君の努力次第だがな」
(無理です、って言いたいけど……それ言うのが無理だな。こんなペーペーに、拒否権なんてないんだから)
「……わかり、ました。努力、します」
(って、言うしかねぇ……はぁ……)
諦めて頭を下げる
「確かに、これまで試したのと同じでは、同じ結果にしかならないだろうからな。出来上がった二人が合わせるより、片方を合わせて育てた方が効率がいいだろう。困った時はいつでも言え。ユージーンと長く連携してきた俺ならアドバイスできる事も多いだろうし」
「よろしくお願いします」
(都合よく育てられちゃうのか、俺……嫌だけど……)
「よろしく、お願いします……」
これから始まる地獄の特訓と、折る事ができなかった『銀狼×ノア』のフラグに怯えつつ『いや、もしかしてノア×銀狼の可能性もあるのか?』なんて考えてしまった自分に、特大のため息をつくノアだった。
銀色の長い髪を、今日は三つ編みではなく一つに結った、アメジストのような瞳の魔術師、ユージーン・フィンレイにそう言われ、ノアは「ハッ! よろしくお願い致します!」と敬礼をした。
(第三騎士団の銀狼。白い肌に切れ長の紫の目、スッと通った鼻すじ、きりっとした口元。長身で、均整の取れた身体。さすが読者投票で『金犬青狼』の美形ナンバーワンに選ばれるだけある。男の俺でも見とれる美人だ)
魔術師はローブを羽織っているのだが、身の丈以上ある魔杖を振る時、動きに合わせてその長い裾がブワッと広がりなびく様子はまるで芸術品のようで、ため息ものである。
原稿を取りにきたユージーン推しの担当編集者が、カラーの扉絵を見て『西園寺先生の描くキャラはみんな素敵ですけど、中でもユージーン様は、髪先から指先、なびくローブの端まで全てが完璧で芸術です!』なんて悶えていたのを思い出していると、
「まずは、レイモンドと手合わせしてもらう。君の動きを見たいから」
ユージーンがそう言い、少し離れて立っていたレイモンドが「この間みたいに気を抜くなよ」と腹に響く低い声で言いながら目の前にやってきた。
「始めるぞ。用意しろ」
「はいっ!」
(ヤバイな、青狼。怖いぞ、これ……)
同じ孤児院育ちで五歳年上のレイモンドはノアの憧れで、目指している騎士だ。同じ第三騎士団に配属され喜んでいたが、
(漫画の中でレイモンドは、ジョシュアの親友であるノアに嫉妬していた。鈍感なノアは全然気づいていなかったけどな。もちろんレイモンドはそんなので嫌がらせするような男じゃないけど、なんかこう……手加減もしないよな、絶対)
げんなりしながらも駆け足で練習用の剣を取りに行くと、
「凄いねノア!」
大きな目を更に大きくキラキラさせたジョシュアに応援され、『おふっ』と心の中で変な声が出た。
(そんなキラキラした目で見てくんな。レイモンドに敵視されるだろうがっ!)
「ノアならできるよ! 頑張ってね!」
(いやいや、手ぇ握ってくんなよ、ホント、レイモンドが見てると思うと振り返るのが恐いんだけど)
「が、頑張ってみるな。じゃ!」
急いで手を振りほどき戻ってみると、レイモンドから黒いオーラが立ち昇っているように感じられた。
(くそっ、見られてたかっ。けど俺は不可抗力だった! 話しかけて手を握ってきたのはジョシュアの方だからな!)
そう言えないのがもどかしい。
キュッと唇を横に引き気を引き締め、ノアは「よろしくお願いしますっ!」と覚悟を決めて声を上げた。
「もう動けないのか、情けない。まあいい、終わりにしよう」
「す、みません……ありがとう、ございました、副団長……」
五歳年上で副団長のレイモンドと、今年入団したばかりの新人ノアでは、実力が全く違う。これまでも何度か手合わせしてもらった事はあったが、今回はユージーンが動きを見たいと言ったので、休みを入れながらも1時間ずっと剣を交わしていたのだ。
(し、死ぬかと思った……レイモンドと連続手合わせなんて……無理……容赦ないし……)
「でもまあ、悪くはない。どうだ? ユージーン」
レイモンドから思いがけない評価をもらい『おっ?』と喜んだのもつかの間。
「……まだまだだな。遅い、低い、鈍い、弱い」
「グッ……」
ユージーンの言葉に打ちのめされる。が、いや、しかし、その方が良かったと思い直す。
「すみません。やっぱり私には無理だと思いますので」
「だが、今いる騎士の中ではましな方だな」
「げっ」
「げっ?」
「い、いえ……その……自信が、持てなくて……」
(諦めてくれ見限ってくれ~)
「私より強い先輩方が沢山いらっしゃるのでそちらに……」
「確かに。だからこそ都合が良い」
「だから、こそ?」
「戦い方が固まってしまっている者に、今更合わせろと言ってもうまくいかない。その点君ならまだ成長途中だから、どうとでもなるだろう。まあ、君の努力次第だがな」
(無理です、って言いたいけど……それ言うのが無理だな。こんなペーペーに、拒否権なんてないんだから)
「……わかり、ました。努力、します」
(って、言うしかねぇ……はぁ……)
諦めて頭を下げる
「確かに、これまで試したのと同じでは、同じ結果にしかならないだろうからな。出来上がった二人が合わせるより、片方を合わせて育てた方が効率がいいだろう。困った時はいつでも言え。ユージーンと長く連携してきた俺ならアドバイスできる事も多いだろうし」
「よろしくお願いします」
(都合よく育てられちゃうのか、俺……嫌だけど……)
「よろしく、お願いします……」
これから始まる地獄の特訓と、折る事ができなかった『銀狼×ノア』のフラグに怯えつつ『いや、もしかしてノア×銀狼の可能性もあるのか?』なんて考えてしまった自分に、特大のため息をつくノアだった。
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