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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい
17 どういう事?
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「…………まったく……いい加減にして下さいよ? こんな怪我を隠していただなんて……」
「先に治療した方がいい奴らが多かったからな」
「だからと言って、貴方の治療は最優先ですよ。貴方が率いなければ、この第三騎士団はどうなるんです?」
「悪かったよ……でもお前だって『命の前借りポーション』飲んだだろうが」
「私の研究の集大成に変な名前を付けないで下さい。…………はい、傷の手当は済みましたよ。ですが、身体に溜まった毒の解毒は、やはり無理です」
「ああ、わかってる。……悪いな、なかなか、約束が実現できない」
「もう諦めてますよ。とりあえず帰ったら、今貴方が持っている一番高い酒で手を打ちましょう」
「しょうがねぇな。第一騎士団長にもらった酒を開けるか」
「料理は、久しぶりに煮込みがいいですね」
「はいはい」
目を開けるとそこは、薄暗い部屋だった。
「あれ、俺……」
「ああ、気が付いたかい?」
金色の髪を一つに束ねた優し気な美男子が、顔を覗き込んできた。
「あ……ウィリアムさん……俺……ここは……」
「ここは宿屋だよ。嘆きの森から戻ったんだ。ちゃんとしたところで休養した方がいいから急いで移動したんだよ」
「あ……そうか、俺、気を失って……ユージーン様はっ!」
跳び起きようとしたところを、肩を押さえつけられベッドに戻された。
「大丈夫だよ。別の部屋に寝かせている」
「……そう、ですか……あのっ、目は?」
「意識がまだ戻っていないからね、見えるか見えないかはわからない。でもきっと大丈夫。聖女様が大丈夫だって言っていたから」
「そうですか……」
「ところでね?」
ホッとするノアの横に椅子を持ってきて座ったウィリアムは言った。
「どういう事なのか、教えてもらえるかな?」
いつもの柔和な笑顔。しかし、声には誤魔化しが利かなそうな鋭さを感じる。
「な、んの、事でしょうか……」
背筋がゾクゾクする感覚を覚えながら、ノアは引きつった笑顔で尋ねる。
「んー、そうだねぇ……ノア、君は何者なんだい?」
「え、っと……普通の、人間ですが……」
「なるほど!」
そう言ってにっこりと笑ったウィリアムに、ノアはなにやら得体の知れない恐怖を感じて、思わず毛布を頭まで被った。
「つまり聖女様が、私が治療能力を持っていると仰ったんですか?」
「そう。それも、かなり高い能力を持っているとね。それこそ、聖女様と同等に近い、と」
「いやいやいや、そんなのおかしいですよ。だって私、そんなの言われた事ないですよ? 一度も」
「試してみた事がなかったから、かな?」
「そういう事って、あるんですか?」
「……うーん……」
ウィリアムは腕を組んで唸りながら、天を仰いだ。
「騎士の訓練始める時、魔力検査したよね」
「はい。魔力はほとんどありませんでした。ましてや治癒なんて特別な力は全く」
「その時は無くて、今になって現れた能力? そんな事あるのか? でも聖女様がユージーンの治療をして、君にも力を貸すようにと言った後、明らかに力が増していたんだよね。それを考えると……」
ウィリアムが首を傾げていると扉が叩かれる音が響き、黒い大きな影が入って来た。
「ノア、気が付いたか」
「団長!」
「ああいい、そのまま楽にしてろ」
慌ててベッドの上で敬礼をするノアに軽く手を上げてそう言うと、ベッドの横に立って腕組みをした。
「で、何かわかったか?」
「それが、本人もわからないようでして」
第三騎士団団長のイーサン・ヴァレンタインの言葉にウィリアムは首を振り答え、その言葉を受けてイーサンはノアを見た。
「ノアは孤児院育ちだったな。親や親族の事は何かわかるか? 魔力持ちだったとか治癒能力持ちたっだとか」
「いいえ、孤児院に入る前の記憶はあんまり無くて」
「そうか……それじゃあ血筋はわからんしなぁ……通常魔力があるかどうかは子供のうちにわかるもんだが、大人になってから能力が発揮された例も、ないわけじゃあない」
「聖女様に見てもらうのはどうです? 私にはわかりませんでしたが、あの方なら何かわかるかも」
ウィリアムの提案に、イーサンは首を竦める。
「今は無理だな。ユージーンの治療で力を使い果たして寝ている。そしてその事について、第二王子殿下が大変ご立腹でな。ノアを引き渡せと言ってきている」
「あー……はい……」
やっぱり、と思いつつ、ノアは頭を下げた。
「団長、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。今回の行動は、全て私の独断で行った事です。すぐに第二王子殿下の元に参ります」
「いや、その必要はない。部下の行動は全て俺の責任だ」
「そんなっ!」
慌てるノアに、イーサンは笑った。
「よくやってくれた。お前のおかげでうちの大切な魔術師を救えた。感謝する」
「いえっ、私はっ」
「とにかく今は、ノアは意識を失ったまま、という事にしておきましょう」
「そうだな。よし、王都に戻るまで、ずっとそれで通すぞ」
「かしこまりました。まあ本当に、数時間後には話をする事なんてできないほど苦しむでしょうから」
「お前もだろ? 苦しくなる前に休んだ方がいい」
「私の場合は慣れていますから……でも、そうします。それじゃあ、私以外の治療師が様子を見に来てくれる事になっているけれど、どうしてあげる事もできないから。苦しいけど、絶対死なないし安全だから、とにかく耐えてね」
笑顔で不吉な事を言うウィリアムとイーサンは部屋を出ていきかけ、ノアは思わず「団長!」と声を掛けた。
「ん? どうした?」
「あ、えと、その……団長は、怪我とかは……」
「俺は大丈夫、大きな怪我はしていない」
「そう、ですか……良かった……」
(さっき寝ている時に聞いた話……夢だったんだろうか……それとも、隠して無理してるんだろうか……大丈夫なのかな……)
そんな心配をしながらノアは目を閉じたが……数時間後、全てを忘れるほどの関節の痛み、全身の皮膚を剥がされたような痛み、強烈な吐き気、呻き声が出てしまう頭痛と高熱に苦しむ事になり、絶対に、もう絶対に! ウィリアム印のポーションは飲まないと心に誓ったのだった。
☆HOTランキング(女性向け)が6位、そしてBL2位になりました! ありがとうございます! 今日はもう一話更新しますね!
「先に治療した方がいい奴らが多かったからな」
「だからと言って、貴方の治療は最優先ですよ。貴方が率いなければ、この第三騎士団はどうなるんです?」
「悪かったよ……でもお前だって『命の前借りポーション』飲んだだろうが」
「私の研究の集大成に変な名前を付けないで下さい。…………はい、傷の手当は済みましたよ。ですが、身体に溜まった毒の解毒は、やはり無理です」
「ああ、わかってる。……悪いな、なかなか、約束が実現できない」
「もう諦めてますよ。とりあえず帰ったら、今貴方が持っている一番高い酒で手を打ちましょう」
「しょうがねぇな。第一騎士団長にもらった酒を開けるか」
「料理は、久しぶりに煮込みがいいですね」
「はいはい」
目を開けるとそこは、薄暗い部屋だった。
「あれ、俺……」
「ああ、気が付いたかい?」
金色の髪を一つに束ねた優し気な美男子が、顔を覗き込んできた。
「あ……ウィリアムさん……俺……ここは……」
「ここは宿屋だよ。嘆きの森から戻ったんだ。ちゃんとしたところで休養した方がいいから急いで移動したんだよ」
「あ……そうか、俺、気を失って……ユージーン様はっ!」
跳び起きようとしたところを、肩を押さえつけられベッドに戻された。
「大丈夫だよ。別の部屋に寝かせている」
「……そう、ですか……あのっ、目は?」
「意識がまだ戻っていないからね、見えるか見えないかはわからない。でもきっと大丈夫。聖女様が大丈夫だって言っていたから」
「そうですか……」
「ところでね?」
ホッとするノアの横に椅子を持ってきて座ったウィリアムは言った。
「どういう事なのか、教えてもらえるかな?」
いつもの柔和な笑顔。しかし、声には誤魔化しが利かなそうな鋭さを感じる。
「な、んの、事でしょうか……」
背筋がゾクゾクする感覚を覚えながら、ノアは引きつった笑顔で尋ねる。
「んー、そうだねぇ……ノア、君は何者なんだい?」
「え、っと……普通の、人間ですが……」
「なるほど!」
そう言ってにっこりと笑ったウィリアムに、ノアはなにやら得体の知れない恐怖を感じて、思わず毛布を頭まで被った。
「つまり聖女様が、私が治療能力を持っていると仰ったんですか?」
「そう。それも、かなり高い能力を持っているとね。それこそ、聖女様と同等に近い、と」
「いやいやいや、そんなのおかしいですよ。だって私、そんなの言われた事ないですよ? 一度も」
「試してみた事がなかったから、かな?」
「そういう事って、あるんですか?」
「……うーん……」
ウィリアムは腕を組んで唸りながら、天を仰いだ。
「騎士の訓練始める時、魔力検査したよね」
「はい。魔力はほとんどありませんでした。ましてや治癒なんて特別な力は全く」
「その時は無くて、今になって現れた能力? そんな事あるのか? でも聖女様がユージーンの治療をして、君にも力を貸すようにと言った後、明らかに力が増していたんだよね。それを考えると……」
ウィリアムが首を傾げていると扉が叩かれる音が響き、黒い大きな影が入って来た。
「ノア、気が付いたか」
「団長!」
「ああいい、そのまま楽にしてろ」
慌ててベッドの上で敬礼をするノアに軽く手を上げてそう言うと、ベッドの横に立って腕組みをした。
「で、何かわかったか?」
「それが、本人もわからないようでして」
第三騎士団団長のイーサン・ヴァレンタインの言葉にウィリアムは首を振り答え、その言葉を受けてイーサンはノアを見た。
「ノアは孤児院育ちだったな。親や親族の事は何かわかるか? 魔力持ちだったとか治癒能力持ちたっだとか」
「いいえ、孤児院に入る前の記憶はあんまり無くて」
「そうか……それじゃあ血筋はわからんしなぁ……通常魔力があるかどうかは子供のうちにわかるもんだが、大人になってから能力が発揮された例も、ないわけじゃあない」
「聖女様に見てもらうのはどうです? 私にはわかりませんでしたが、あの方なら何かわかるかも」
ウィリアムの提案に、イーサンは首を竦める。
「今は無理だな。ユージーンの治療で力を使い果たして寝ている。そしてその事について、第二王子殿下が大変ご立腹でな。ノアを引き渡せと言ってきている」
「あー……はい……」
やっぱり、と思いつつ、ノアは頭を下げた。
「団長、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。今回の行動は、全て私の独断で行った事です。すぐに第二王子殿下の元に参ります」
「いや、その必要はない。部下の行動は全て俺の責任だ」
「そんなっ!」
慌てるノアに、イーサンは笑った。
「よくやってくれた。お前のおかげでうちの大切な魔術師を救えた。感謝する」
「いえっ、私はっ」
「とにかく今は、ノアは意識を失ったまま、という事にしておきましょう」
「そうだな。よし、王都に戻るまで、ずっとそれで通すぞ」
「かしこまりました。まあ本当に、数時間後には話をする事なんてできないほど苦しむでしょうから」
「お前もだろ? 苦しくなる前に休んだ方がいい」
「私の場合は慣れていますから……でも、そうします。それじゃあ、私以外の治療師が様子を見に来てくれる事になっているけれど、どうしてあげる事もできないから。苦しいけど、絶対死なないし安全だから、とにかく耐えてね」
笑顔で不吉な事を言うウィリアムとイーサンは部屋を出ていきかけ、ノアは思わず「団長!」と声を掛けた。
「ん? どうした?」
「あ、えと、その……団長は、怪我とかは……」
「俺は大丈夫、大きな怪我はしていない」
「そう、ですか……良かった……」
(さっき寝ている時に聞いた話……夢だったんだろうか……それとも、隠して無理してるんだろうか……大丈夫なのかな……)
そんな心配をしながらノアは目を閉じたが……数時間後、全てを忘れるほどの関節の痛み、全身の皮膚を剥がされたような痛み、強烈な吐き気、呻き声が出てしまう頭痛と高熱に苦しむ事になり、絶対に、もう絶対に! ウィリアム印のポーションは飲まないと心に誓ったのだった。
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