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第一章 姉の描いたBL漫画の中に来てしまったらしい
3 これが現実
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次に目を覚ましても、残念ながら場所は変わっていなかった。
「ノア、歩ける?」
「ああ……悪いな、ジョシュア」
「ううん、気にしないで」
(ああ、天使の微笑みだ。さすが主人公)
にっこり笑うジョシュアに癒されながら治療室を出て騎士宿舎へと向かう途中、前方で立ち話をしている二人の男性の姿が見えた。
顔がはっきりと見えない距離からでも、オーラというか、雰囲気というか、『只者では無い感』が漂っている。
「レイモンド副団長、ユージーン様 」
ノアとジョシュアは二人の前まで行くとピシッと姿勢を正して敬礼した。
「体調はどうだ」
「ご心配をおかけしてもうしわけございません。もう大丈夫です」
謝りながら、レイモンドを見る。
(うわ、やっぱりレイモンド、カッコイイな。青みがかった黒の短髪に深い青の瞳の青狼騎士。背は185くらいだっけ? 体格いいし、男も憧れて惚れる男だ)
「まったく……あの時お前、何か他の事でも考えていたのか? 木剣でなきゃ死んでいたぞ。やる気が無いなら手合わせ申し込んで来るな」
「すみませんでした。ただ、その時の事はよく覚えてなくて……これから気を付けます」
そう言って頭を下げると、
「記憶の混乱があったと聞いたが?」
隣りにいたユージーンが尋ねてきた。
銀髪の腰近くまである長い髪をゆるく三つ編みにし、紫の切れ長の目をした、人形に見えてしまうほどに整った美しい容姿に、思わず凝視してしまいそうになる。
(うわ……さすが『金犬青狼』イチの美形と言われるユージーン、とんでもない美貌だな。レイモンドよりはちょっと低いけど、俺達よりずっと背が高い。青狼レイモンドと銀狼ユージーンが並んで……これもう、コミックスの表紙だよな。すげー、姉ちゃんの絵がそのまま実写化されてるぜ)
キラキラ輝く可愛らしいジョシュアもいて、主要キャラの華やかさにあてられ居心地の悪さを感じたノアは、その場を離れられる良い言い訳だと、ユージーンの言葉に頷いた。
「はい、ちょっとまだ混乱しているというか……フラフラするので、失礼してもよろしいでしょうか」
すると、ジョシュアが「えっ! 大丈夫?」と顔を覗き込んできた。
「ノア! 僕につかまって!」
「え? いや、そこまでじゃないから」
「駄目だよ! ほら! 肩貸すからつかまって!」
レイモンドから向けられる視線が怖くて遠慮しようとしたが、優しいジョシュアはヒョイと肩を組んでくる。
「いや! ホント大丈夫だって!」
「フラフラするって言ったくせに無理しないで! それではレイモンド副団長、ユージーン様、申し訳ございませんが失礼致します」
ジョシュアがそう言って頭を下げると、レイモンドは「ゆっくり休め」と言ってくれたが、
(こえ~、恐すぎて見れないけど、絶対レイモンドに睨まれてる! あーもー、ここは逃げよう)
ペコリと頭を下げ、歩き出す。
(今はまだ、レイモンドは自分がジョシュアの事を好きだっていう事を認めていないあたりだよな? 気になってはいるけど色恋だとは思ってない、というか、必死に違うって思っているというか。で、この後の『嘆きの森遠征』の時に、ジョシュアの事を愛しているって認め、告白するんだ)
背中にチクチクとした視線を感じながら、ノアは宿舎を目指した。
宿舎に帰り、食堂で食事をし、大浴場でサッパリし……自室でようやく一息つく。一人部屋なのがありがたい。
「……どうなってんだ、これ。なんでこんな事になってるんだ? 俺、死んだのか?」
現実世界で何が起きたのか全く思い出せないが、料理の味はするし、つねってみた頬は痛いし、夢ではなさそうだ。
「となったら、ここで平和に暮らしていけるように対策をたてないと!」
姿や名前、聞いた話から、やっぱりここは姉の人気作『金の毛並みの子犬は青狼騎士様のお気に入り』の中で、自分は主人公の友人で同期のモブ、ノア・ヴァーツになってしまっている。
設定では孤児院育ちで、14歳で院を出なければならなくなった時、衣食住が保証されるからと国の騎士見習いに応募。合格して剣術を学び、18歳で成年となった今年、第三騎士団配属となった。新人の中で一番の実力者と言われている。
ちなみにヴァーツは孤児院の名前で、この孤児院で育った子供は皆、ヴァーツを名乗る。
主人公のジョシュア・パーシットは同い年で、第三騎士団の同期として仲良くなった。
パーシット伯爵家五男のジョシュアは、頭は良いがあまり身体を使う事が得意ではない。日々の訓練をこなすのに苦労して、周りに馬鹿にされたりお荷物扱いされがちだが、貴族だからと威張ったりしないので、孤児院育ちのノアと仲良くなり、その後はノアが良く面倒を見てやっている。
「二人とも170センチちょいで騎士にしては背が低くて、そんなところもお互いに親近感もってるんだよな」
そんなジョシュアを気に掛けるレイモンド・ヴァーツ。ノアと同じ孤児院の出身で、ノアがずっと憧れ尊敬している存在だ。レイモンドは23歳という若さで第三騎士団の副団長で、団長に次ぐ実力者。弱いけれども一生懸命で真っすぐなジョシュアの事を気にかけているうちに好きになり、この後訪れる『嘆きの森遠征』での出来事をきっかけに付き合い始める。
「青狼様、強くてかっこいいんだよな……ユージーンも好きになるはずだ」
ユージーンはフィンレイ侯爵家の三男だ。力のある魔術師で、成年前の16歳という異例の若さで第一騎士団に配属された。けれど不運な事に、強力な魔獣との戦闘で第一騎士団が危機状況に陥る出来事があり、そのショックから戦う事ができなくなっていた。けれど、レイモンドと出会い、立ち直り、それ以降レイモンドに想いを寄せていた。
「でも、レイモンドはジョシュアの事が好きになって、ユージーンは失恋してしまうんだよな。しかも、嘆きの森遠征で大怪我をして、右目の失明と、顔に大きな傷を負ってしまうんだ。漫画の方では療養中ってことで、しばらく出ていない。それを姉ちゃんは復活させて、ノアとくっつけるつもりだったらしい。ノア……それが、俺なんだよなぁ……」
会社を辞め、身体的にも精神的も弱っていた自分に手を差し伸べてくれた姉に対し『数合わせりゃいいってもんじゃないだろう』などと暴言を吐いた罰があたったのだろうか。
「……でも、幸いにもまだ『嘆きの森遠征』の前だ。頑張れば、ユージーンが怪我するのを回避できるんじゃね? そしたらノアがユージーンとくっつくのも回避できる?」
視力を失うとか、芸術品のように美しい顔に傷が付くとか、そういう事が無ければユージーンは、いずれ家柄の良い貴族令嬢だとか、ノアみたいなモブじゃない貴族の令息と付き合うのではないだろうか。
「そうだよ! 姉ちゃんはまだ描いてなかったし! ユージーンとノアのスピンオフは必要無し! 俺が、阻止してやる!」
彰、もとい、ノアはこぶしを握りしめてそう決意するのだった。
「ノア、歩ける?」
「ああ……悪いな、ジョシュア」
「ううん、気にしないで」
(ああ、天使の微笑みだ。さすが主人公)
にっこり笑うジョシュアに癒されながら治療室を出て騎士宿舎へと向かう途中、前方で立ち話をしている二人の男性の姿が見えた。
顔がはっきりと見えない距離からでも、オーラというか、雰囲気というか、『只者では無い感』が漂っている。
「レイモンド副団長、ユージーン様 」
ノアとジョシュアは二人の前まで行くとピシッと姿勢を正して敬礼した。
「体調はどうだ」
「ご心配をおかけしてもうしわけございません。もう大丈夫です」
謝りながら、レイモンドを見る。
(うわ、やっぱりレイモンド、カッコイイな。青みがかった黒の短髪に深い青の瞳の青狼騎士。背は185くらいだっけ? 体格いいし、男も憧れて惚れる男だ)
「まったく……あの時お前、何か他の事でも考えていたのか? 木剣でなきゃ死んでいたぞ。やる気が無いなら手合わせ申し込んで来るな」
「すみませんでした。ただ、その時の事はよく覚えてなくて……これから気を付けます」
そう言って頭を下げると、
「記憶の混乱があったと聞いたが?」
隣りにいたユージーンが尋ねてきた。
銀髪の腰近くまである長い髪をゆるく三つ編みにし、紫の切れ長の目をした、人形に見えてしまうほどに整った美しい容姿に、思わず凝視してしまいそうになる。
(うわ……さすが『金犬青狼』イチの美形と言われるユージーン、とんでもない美貌だな。レイモンドよりはちょっと低いけど、俺達よりずっと背が高い。青狼レイモンドと銀狼ユージーンが並んで……これもう、コミックスの表紙だよな。すげー、姉ちゃんの絵がそのまま実写化されてるぜ)
キラキラ輝く可愛らしいジョシュアもいて、主要キャラの華やかさにあてられ居心地の悪さを感じたノアは、その場を離れられる良い言い訳だと、ユージーンの言葉に頷いた。
「はい、ちょっとまだ混乱しているというか……フラフラするので、失礼してもよろしいでしょうか」
すると、ジョシュアが「えっ! 大丈夫?」と顔を覗き込んできた。
「ノア! 僕につかまって!」
「え? いや、そこまでじゃないから」
「駄目だよ! ほら! 肩貸すからつかまって!」
レイモンドから向けられる視線が怖くて遠慮しようとしたが、優しいジョシュアはヒョイと肩を組んでくる。
「いや! ホント大丈夫だって!」
「フラフラするって言ったくせに無理しないで! それではレイモンド副団長、ユージーン様、申し訳ございませんが失礼致します」
ジョシュアがそう言って頭を下げると、レイモンドは「ゆっくり休め」と言ってくれたが、
(こえ~、恐すぎて見れないけど、絶対レイモンドに睨まれてる! あーもー、ここは逃げよう)
ペコリと頭を下げ、歩き出す。
(今はまだ、レイモンドは自分がジョシュアの事を好きだっていう事を認めていないあたりだよな? 気になってはいるけど色恋だとは思ってない、というか、必死に違うって思っているというか。で、この後の『嘆きの森遠征』の時に、ジョシュアの事を愛しているって認め、告白するんだ)
背中にチクチクとした視線を感じながら、ノアは宿舎を目指した。
宿舎に帰り、食堂で食事をし、大浴場でサッパリし……自室でようやく一息つく。一人部屋なのがありがたい。
「……どうなってんだ、これ。なんでこんな事になってるんだ? 俺、死んだのか?」
現実世界で何が起きたのか全く思い出せないが、料理の味はするし、つねってみた頬は痛いし、夢ではなさそうだ。
「となったら、ここで平和に暮らしていけるように対策をたてないと!」
姿や名前、聞いた話から、やっぱりここは姉の人気作『金の毛並みの子犬は青狼騎士様のお気に入り』の中で、自分は主人公の友人で同期のモブ、ノア・ヴァーツになってしまっている。
設定では孤児院育ちで、14歳で院を出なければならなくなった時、衣食住が保証されるからと国の騎士見習いに応募。合格して剣術を学び、18歳で成年となった今年、第三騎士団配属となった。新人の中で一番の実力者と言われている。
ちなみにヴァーツは孤児院の名前で、この孤児院で育った子供は皆、ヴァーツを名乗る。
主人公のジョシュア・パーシットは同い年で、第三騎士団の同期として仲良くなった。
パーシット伯爵家五男のジョシュアは、頭は良いがあまり身体を使う事が得意ではない。日々の訓練をこなすのに苦労して、周りに馬鹿にされたりお荷物扱いされがちだが、貴族だからと威張ったりしないので、孤児院育ちのノアと仲良くなり、その後はノアが良く面倒を見てやっている。
「二人とも170センチちょいで騎士にしては背が低くて、そんなところもお互いに親近感もってるんだよな」
そんなジョシュアを気に掛けるレイモンド・ヴァーツ。ノアと同じ孤児院の出身で、ノアがずっと憧れ尊敬している存在だ。レイモンドは23歳という若さで第三騎士団の副団長で、団長に次ぐ実力者。弱いけれども一生懸命で真っすぐなジョシュアの事を気にかけているうちに好きになり、この後訪れる『嘆きの森遠征』での出来事をきっかけに付き合い始める。
「青狼様、強くてかっこいいんだよな……ユージーンも好きになるはずだ」
ユージーンはフィンレイ侯爵家の三男だ。力のある魔術師で、成年前の16歳という異例の若さで第一騎士団に配属された。けれど不運な事に、強力な魔獣との戦闘で第一騎士団が危機状況に陥る出来事があり、そのショックから戦う事ができなくなっていた。けれど、レイモンドと出会い、立ち直り、それ以降レイモンドに想いを寄せていた。
「でも、レイモンドはジョシュアの事が好きになって、ユージーンは失恋してしまうんだよな。しかも、嘆きの森遠征で大怪我をして、右目の失明と、顔に大きな傷を負ってしまうんだ。漫画の方では療養中ってことで、しばらく出ていない。それを姉ちゃんは復活させて、ノアとくっつけるつもりだったらしい。ノア……それが、俺なんだよなぁ……」
会社を辞め、身体的にも精神的も弱っていた自分に手を差し伸べてくれた姉に対し『数合わせりゃいいってもんじゃないだろう』などと暴言を吐いた罰があたったのだろうか。
「……でも、幸いにもまだ『嘆きの森遠征』の前だ。頑張れば、ユージーンが怪我するのを回避できるんじゃね? そしたらノアがユージーンとくっつくのも回避できる?」
視力を失うとか、芸術品のように美しい顔に傷が付くとか、そういう事が無ければユージーンは、いずれ家柄の良い貴族令嬢だとか、ノアみたいなモブじゃない貴族の令息と付き合うのではないだろうか。
「そうだよ! 姉ちゃんはまだ描いてなかったし! ユージーンとノアのスピンオフは必要無し! 俺が、阻止してやる!」
彰、もとい、ノアはこぶしを握りしめてそう決意するのだった。
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