悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

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第四章

収拾の道を探る

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 廊下で待っていたヴィクトリア達の話によると、厚い扉に阻まれていたが、クリスティーナが『うっかり』落としてきてしまった魔道具のおかげで、中の様子がわかったとの事。
 
「これは非常事態! と思って中に入ろうとしたら扉が開かないんですもの。壊して入ろうにも、びくともしないし。さすが王城の扉ね」
「で、鍵が必要だって事で、護衛の人だけだとすぐ借りられないかもと思って、僕とオニキス先生も一緒に行く事にしたんだ」
「それでわたし達はここで待っていたのですが、ルークさんはいつの間にか隣の部屋から中に入ったみたいですね、驚きました」
「……すみません、勝手な真似をしました」
 
 クリスティーナの言葉に、ルークがペコリと頭を下げたが、

「いいえ! とんでもない! 素晴らしい判断と行動です!」
「ええそうね。待っていたら、リザを救う事はできなかったわ」
「ルーク、凄いよ!」
「尊敬します、ルークさん!」
「勇気のある行動だったな」
「本当に、ルークのおかげで助かったよ……兄上が、すまなかったね」

 皆、口々にルークを褒め、ザカリーは無言だが、深く頷いている。

「そうね、ルークのおかげで助かったし……皆も、本当にありがとう」

 エリザベートがお礼を言っている横で、医師がレオンハルトを診ている。

「気を失っているだけで、大丈夫です。ただ、なぜ濡れているのか……」
「ああそれは、わたくしが拘束から逃れる為にお湯を浴びせちゃって……火傷しないようにと冷やす為に水も掛けたのでそういう状態に……火傷、していませんよね?」
「ええ、多少赤くなっていますが大丈夫ですよ」
「良かった」

 遠慮なく熱湯を浴びせた後、ルークが自分の手を痛めるほど殴った怪我も、エリザベート特製ポーション水のおかげで治っている。

(大丈夫だとは思うけれど、一応王子ですものね。怪我をさせた事を咎められちゃ面倒だもの)

 レオンハルトは運ばれて行き、エリザベート達は全員別室へ移動し、そこへ国王、王妃、宰相、そしてスピネル公爵がやって来た。



「……本当に……ここまで愚かな事をしでかすとは……」

 事の顛末を聞いた国王が、深く深くため息をつく。

「王太子を選び直すと言われて焦ったか……まったく……ハァ……どうしたものか……」
「とりあえず、場を改めては? 皆さんには悪いけれど、エリザベート嬢とエドだけ来てもらって……」
「うむ……そうしよう」

 と、いう事で、皆も同席したかったが、国王の決定に異議を唱える事はできなかった。

「さて……この面子なので正直に話すが」

 場所を移動し、国王が疲れたように話す。

「学園を卒業した折でちょうど良いから、レオンハルトはしばらくの間、同盟国にでもやって、時期をみて王都に呼び戻し、再度王太子にできればと思っていたのだが……これではとても無理だな」
「……困りましたねぇ……」

 国王と王妃が暗い顔で話す。

(王妃殿下もレオンハルトを国王にする事には賛成なのよね、前王妃様との約束があるから。エドワードは……あらぁ……とても、複雑な表情ね)

「やはり、エドワードが王太子となるのが最善か」
「ええっ? あ、いえ、すみません……」

 国王の言葉にショックを受けたような顔で声を上げたエドワードだが、皆の注目を浴びて、背中を丸めて小さくなる。

「……エドワード様? テオール様と一緒に、覚悟を決めたような事を仰っていませんでした?」

 エリザベートが小声で囁くと、エドワードは大きくため息をつきながら答えた。

「それはそうなんだけど……これまで兄上の補佐をするようにとずっと言われてて、自分でもそのつもりだったから……いざ王太子と言われると戸惑うんだよ……いや、やるからには責任をもってやるけれど……」
「まだ決まったわけではありませんよ。それに、もしそうなったとして、エドワード殿下お一人で全て背負う事ではございません。私達臣下、それに私の息子もおりますので」

 エドワードは小声だったが、話が聞こえていた宰相が言う。

「……そうですね、まあ、まだ決まったわけじゃあ、ありませんしね。大勢いる第一王子派の貴族達が納得するかどうかもあるし」
 
 弱々しく笑いながらエドワードは言った。

「そうね……でも皆、レオンハルトを支持し続けるのに迷っているようだったわ。エリザベート嬢に対して無体な事をしたと報告があり、事実確認の為、会議は一旦終わりにして明日また行う事にしたのだけれど……」
「皆、もう駄目だろう、というような顔をしておったな。まあ、その通りだが」
「陛下……」

 王妃と王の話に、なんとなくその状況が浮かんだ。

「どうにかレオンハルトを次期国王にしたいという思いのせいで、エリザベート嬢を不快で、危険な目に遭わせてしまった事、心から謝罪する。本当にすまなかった」
「いえ、そんな……わたくしなどにそのような丁寧な謝罪は必要ございません」

 国王に頭を下げられたエリザベートは、それより更に低く頭を下げて言った。

「今回の事をどこまで公表するかは、内容も含め、陛下にお任せしたいと思いますが……お父様、それでよろしいでしょうか?」
「ああ、いいだろう」

 苦虫を噛み潰したような顔でだが、スピネル公爵はエリザベートに同意した。

「レオンハルト殿下の事も、わたくしは何も申しません。ただ一つ、お願いしたい事がございます」
「なんだ? 言ってみよ」
「わたくしはもう、王太子妃候補にはなりたくありません」
「……なるほど……まあ、そうだろうな。……承知した」
「ありがとうございます」

 晴れ晴れとした気持ちで、エリザベートは頭を上げた。

「まだ場所など詳しい事は決まってはおらんが、レオンハルトはしばらく辺境の地へ、それからルチア・ローズは修道院へ送る予定だ。エリザベート嬢は残りの学園生活、安心して過ごして欲しい」
「ありがとうございます」

 こうして、卒業パーティーからの騒動は、一応の収拾がついた。



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