悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

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第四章

しばしの休憩

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(嫌な場面を思い出したせいで、気分が悪くなったわ……まだ、話は終わっていないのに……散々言ってしまったけれど、不敬罪に問われないわよね? わたしだけなら仕方がないけれど、家にまで影響が出ては……可愛いアルフォンスに影響があっては困るもの……)

 意識が朦朧とする中、そんな事を考えていると、両脇に手が入れられた。脇を持ち上げ立たせられると、そのまま横に抱きあげられた。

「あ……少し休めば、だいじょう、ぶ……」
「いいから黙っていろ」
「え……おとう、さま……?」

 重い瞼をどうにか上げて見ると、すぐそばに自分と同じ色の髪と目をした父親の顔があった。

「そこ、扉を開けろ」

 その指示に、護衛騎士が慌てて従う。

「待ってお父様、会議が……」
「お前を休ませたらすぐ戻る。参加していないと、勝手に何を決められるかわかったものじゃないからな。まったく、散々煽っておいて倒れるとは責任感の無い」
「すみませんね、か弱く、繊細なものですから。そんな小娘が意見しなければならないほどお粗末な話し合いは、しないでほしいものですわ」
「まったく……口ばかりは達者だ」
「お褒めいただいてありがとうございます」
「褒めていない! オイお前!」

 廊下に出てすぐそう声を上げると、誰か駆け寄ってくる気配がした。

「エリザベート様! どうされたのですか!」
「心配しなくても、興奮しすぎだろう。連れていって休ませろ」

 そう言うと、ルークにエリザベートを渡す。

「かしこまりました」

 しっかりと抱きかかえ、ルークが歩き出す。

「ルーク! 大丈夫よ、一人で歩けるわ、降ろして頂戴」
「いえ、お部屋までお運びします」
「いいから! 重いから!」
「いえ、まったく重くありません」

 横抱きしたままズンズン歩いて行くルークに、エリザベートは恥ずかしさで少し抵抗したが、降ろす気がなさそうなので大人しく諦める事にした。

「……重くなったら、無理しないで降ろしてよ。絶対落とさないでね」
「もちろんです、エリザベート様を落とすなんてそんな事ありえません」
「揺れて怖いから……首に腕を回させて」
「はい」

 少し頭を下げたルークの首に両腕を伸ばし、キュッと身体を密着させて抱きつくと、体温が伝わってきて心臓がキュッと縮んだ気がした。

(……ルークの事、やっぱり好きだわ……)

 そう思いながら見上げるルークの顔は、真っすぐ前を向いていて、照れているとか、動揺しているだとか、そういう感情は一切見られ無い。

(こんなに密着する事なんて無いのに……好きなら、少しは意識するわよね。やっぱり、もうそういう感情ではないのかしら……そうね、だって拒否されたんですもの、そんなの思い違いだ、と言われて。そう言われたら諦めるだろうし、改めて考えたら違うな、と思ったのかもしれないし。そうよそうよ、わたしの望んだとおりじゃない。これで良かったじゃない。良かった良かった)

 自分に言い聞かせるように心の中で繰り返しているうちに、滞在している部屋に着いた。
 ベッドまで運び、寝かしつけ、ルークはペコリと頭を下げた。

「私は部屋の外におりますので、安心してお休み下さい」
「また、廊下に立っているつもり?」
「はい、そうですが……」
「それなら、部屋にいて頂戴。入り口付近で椅子に座っていて」
「でもそれじゃあ」
「ドアを開けたままにしておけばいいわ。廊下には護衛騎士もいるでしょう?」
「……はい、かしこまりました」

 言われた通り、開けたままのドアのそばに椅子を置き、ルークが座ったのを確認して、エリザベートは目を閉じた。



 目を開けると、まだ昼間だが、少し日の光が弱まっているように感じられた。
 身体を起こすと、椅子に座っていたルークがベッドの横にやって来た。

「……どれくらい、眠っていたのかしら」
「二時間弱です」
「そう……会議の方はどうなったのかしら。皆は……」
「会議はわかりませんが、皆さんは昨日集まっていた客室です。さっき、ヴィクトリア様とクリスティーナ様がいらっしゃって、教えて下さいました」
「……そう、心配をかけてしまったようね。それじゃあわたくし達も、行ってみましょうか」
「動いても大丈夫ですか?」
「ええ、ひと眠りしたらスッキリしたわ」

 少し身だしなみを整えてから、エリザベートとルークは皆がいる客室へ行ってみた。



「リザ! 倒れたと聞いたけれど、もう大丈夫なの?」
「ええ。横になったら良くなったわ。ヴィヴィとクリス、部屋まで来てくれたそうね、ありがとう」
「体調が良くなって良かったです、リザ様。お茶をお願いして参りますね」

 そう言うとクリスティーナは、部屋の端に控えている侍女にお茶を頼みに行った。

「それにしてもリザ、倒れたなんて、何かあったの?」
「ああ……ちょっと、嫌な事を思い出して……というか、思い出さないようにしていたその事を、事細かに言わなければならなくて、気持ちが悪くなってしまったわ」
「まあ……」

 心配気に眉間に皺を寄せるヴィクトリア。

「我々が先に言うべきだったな」
「そうだね。辛い役割をさせてしまったね」

 テオールとエドワードがすまなそうに言い、エリザベートは首を横に振った。

「いいえ、最初に気づいて見たのは、わたくしですから。お二人はわたくしの様子がおかしいと見に来て、その場から引き離してくれた時に、ちらりと見ただけでしょう? お二人も、その話を聞かれました?」
「ああ、確認の為に呼ばれた」
「ほとんどテオールに任せちゃったけど」
「自分の兄の事は話しにくいだろう。第二王子が王太子の座を狙って第一王子に不利な事を、とか言ってくる奴らもいるしな」

 エドワードが赤くなって項垂れ、テオールは飄々と言った。

「呼びに来た方は、生徒会準備室での件を知っている人、と言っていたけれど……どのようなお話かは尋ねない方が良さそうね」
「そうね、気分の良い話ではないから」
「わかったわ」

 少し気になったようだが、ヴィクトリアは深く尋ねる事なく新しく入れられた紅茶を飲み、エリザベートもカップに手を伸ばした。

「……ふう……美味しいわ」
「良かったです、リザ様」

 にっこりと微笑むクリスティーナに癒されながら、今の状況を聞く。

「会議はずっと続いているよ。僕とテオールが呼ばれて話をして、その後はオニキス先生とクリスティーナ嬢が呼ばれたんだ」
「ルチア・ローズに言われた事について話をした」
「お兄様が、わたしのせいで家に居辛くなったと嘘をつかれた事です」
「僕とヴィヴィちゃんとダニエルはまだ呼ばれてないけど、まあ、そんなに話す事もないからね」
「そうですね。心配で残ったようなものですから」
「いいじゃない、それで。わたくし達、生徒会の仲間なんですから」
「わっ! 良い事言いますね、ヴィクトリア先輩! 仰るとおりです!」

 そんな事を話していると、扉がノックされた。
 護衛騎士が扉を開け、何やら外の騎士と話をし、エリザベートの前に来ると片膝をついて頭を下げた。

「恐れ入ります、エリザベート様。レオンハルト殿下が、面会をご希望でございます」



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