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第四章
久しぶりの見学 1
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公爵との話で予定よりも遅くなってしまったが、騎士団の訓練場へ向かう。
(お父様には『いつでも見れるだろう』と言われたけれど、なんやかんやで学園が休みの時しか行けないのよね。ルークがどんな様子か見たいけれど、でも……)
「まだ、練習しているかしら……少しでも見たいのだけれど……」
リラックス効果のあるハーブと爽やかな酸味のある果実等をミックスしたものを、疲労回復効果を唱えて出した水に漬けた薬茶と、焼き菓子を入れた籠を持ち、早歩きで練習場へ向かうエリザベートに、同じく籠を持つアメリアが『大丈夫ですよ』と答える。
「まだ時間はあります。それに、見学に行くと言っておきましたから、行くまで練習していますよ」
「わたくし達が行くまで練習終われないなら、早く行かないと恨まれちゃうわ」
「いえいえ、エリザベート様のお菓子をもらえると思って、皆張り切ってますよ」
「そうだといいけれど」
笑顔で話しながら訓練場に着くと、幸いまだ訓練は続いていた。
「良かったわ! さて、ルークはどこかしら」
「エリザベート様、あちらに!」
アメリアが指さす方を見ると、訓練場の端に金色の髪が揺れているのが見えた。
「体術の訓練をしているのね。見にいかなきゃ!」
「わたしは先にテントの方に行って、お菓子やお茶の用意をしておりますね。エリザベート様の籠もお預かりします」
「二つも持つのは無理よ」
「大丈夫です! お任せ下さい。エリザベート様はお早く」
「……そう? じゃあ、お願いするわね」
籠を渡し、急いで様子を見に近づいていくと、剣を持たずに組み合っている二人がいた。ルークと、カルーセンである。
年齢的には老人であるが、元騎士団長で体格の良いカルーセンは、軽々とルークの相手をしているように見える。
「遅い! 迷うな! お前の取柄は素早さくらいだ、遅れるな!」
ルークの拳を、蹴りを、小さな動きで避けるカルーセンは、息も乱れていない。
「単調になるな! 頭を使え! どうした、もうバテたか」
「くうっっ!」
呻くような声を漏らし、必死に攻撃し続けるルークだったが、
「そらっ!」
腹部を蹴られ、後ろに吹き飛んで二、三歩よろけた後、ペタンと尻もちをついた。
「……よしっ、今日はここまでにしよう」
「いえっ! もう一度お願いします!」
急いで立ち上がるルークに、カルーセンは苦笑する。
「終わりだ終わり! もう時間だ。ほら」
カルーセンがクイと顎をあげて視線を促した先にエリザベートの姿を見つけ、ルークは慌ててペコリと頭を下げた。
「ほら、あっちも片付け始めているぞ」
「あ……はい。ありがとうございました」
「んっ。この辺片付けておけ」
「はいっ!」
訓練に使ったと思われる棒やロープ等を拾い上げ、用具置き場の方へ駆けて行くルーク。
その横でカルーセンはエリザベートに挨拶をした。
「見に来ていただいて、ありがとうございます。エリザベート様がいらっしゃると、皆いい所を見せようと、張り切って練習するんですよ」
「あら、それじゃあ、わたくしも役に立っているのね。差し入れを持ってきたのでどうぞ」
「おお、それは有難い。それじゃあ、テントの方に行きますか」
大柄なカルーセンだが、エリザベートの歩調に合わせて横を歩く。
「……最近、ルークはどう? 今日は剣術ではなく、体術の訓練をしていたようだけれど」
「頑張ってますよ。体術の特訓は、ルークの希望です。エリザベート様の護衛の時は帯剣できない事が多いから、と言われてなるほどな、と思いまして。勿論体術の訓練もありますが、剣を使う方が遥かに多いので、とりあえずルークだけ別枠で教えとります。ルークは毎日参加できるわけじゃないですからな」
「なるほど、頑張っているのね。でも……」
(頑張っているのは良い事だけれど、あまり根を詰め過ぎないで欲しいのよね。あの『騎士の誓い』の後から、なんだかちょっと……)
「頑張り過ぎているような気がして、ちょっと気になって……」
「ああ、確かに、そんな感じはありますなぁ」
あっさりと同意するカルーセルを、エリザベートは驚いて見上げた。
「えっ? やっぱり? 貴方もそう思う?」
「まあ……早朝や夜遅くに剣の素振りをしていたり、休みの日もこうやって騎士団の練習に参加してますから」
「早朝? 夜遅く? 学園に行く前と帰ってからという事かしら」
「ええ、そうです」
「そんな……いつ休んでいるの?」
心配するエリザベートにカルーセンは『大丈夫ですよ』と笑った。
「男には、そういう時があるもんですよ。やらされてるわけじゃなく、あいつが自らやってる事です。きっと大きく成長しますから、しばらく好きにさせときましょう」
「でも……」
「……強くならなければ、と言ってましたよ」
心配で表情がくもるエリザベートに、カルーセンは安心させるように言った。
「自分が弱くて怪我をしたらエリザベート様を悲しませてしまうから、怪我をせずに護衛できるようにならないといけないと言ってましたよ」
「本当?! それは……嬉しいわ」
「身体を張ってお守りしろと言ったのは私ですし、護衛騎士とはそういうものですが……エリザベート様が悲しむのであれば、頑張って育てますよ」
「ありがとう! お願いするわ。でも、あまり無理をするようであれば……」
「やり過ぎな時には止めますから。これまで何十人も指導してきてますから、安心して任せて下さい」
そう言ってカルーセンは豪快に笑った。
(お父様には『いつでも見れるだろう』と言われたけれど、なんやかんやで学園が休みの時しか行けないのよね。ルークがどんな様子か見たいけれど、でも……)
「まだ、練習しているかしら……少しでも見たいのだけれど……」
リラックス効果のあるハーブと爽やかな酸味のある果実等をミックスしたものを、疲労回復効果を唱えて出した水に漬けた薬茶と、焼き菓子を入れた籠を持ち、早歩きで練習場へ向かうエリザベートに、同じく籠を持つアメリアが『大丈夫ですよ』と答える。
「まだ時間はあります。それに、見学に行くと言っておきましたから、行くまで練習していますよ」
「わたくし達が行くまで練習終われないなら、早く行かないと恨まれちゃうわ」
「いえいえ、エリザベート様のお菓子をもらえると思って、皆張り切ってますよ」
「そうだといいけれど」
笑顔で話しながら訓練場に着くと、幸いまだ訓練は続いていた。
「良かったわ! さて、ルークはどこかしら」
「エリザベート様、あちらに!」
アメリアが指さす方を見ると、訓練場の端に金色の髪が揺れているのが見えた。
「体術の訓練をしているのね。見にいかなきゃ!」
「わたしは先にテントの方に行って、お菓子やお茶の用意をしておりますね。エリザベート様の籠もお預かりします」
「二つも持つのは無理よ」
「大丈夫です! お任せ下さい。エリザベート様はお早く」
「……そう? じゃあ、お願いするわね」
籠を渡し、急いで様子を見に近づいていくと、剣を持たずに組み合っている二人がいた。ルークと、カルーセンである。
年齢的には老人であるが、元騎士団長で体格の良いカルーセンは、軽々とルークの相手をしているように見える。
「遅い! 迷うな! お前の取柄は素早さくらいだ、遅れるな!」
ルークの拳を、蹴りを、小さな動きで避けるカルーセンは、息も乱れていない。
「単調になるな! 頭を使え! どうした、もうバテたか」
「くうっっ!」
呻くような声を漏らし、必死に攻撃し続けるルークだったが、
「そらっ!」
腹部を蹴られ、後ろに吹き飛んで二、三歩よろけた後、ペタンと尻もちをついた。
「……よしっ、今日はここまでにしよう」
「いえっ! もう一度お願いします!」
急いで立ち上がるルークに、カルーセンは苦笑する。
「終わりだ終わり! もう時間だ。ほら」
カルーセンがクイと顎をあげて視線を促した先にエリザベートの姿を見つけ、ルークは慌ててペコリと頭を下げた。
「ほら、あっちも片付け始めているぞ」
「あ……はい。ありがとうございました」
「んっ。この辺片付けておけ」
「はいっ!」
訓練に使ったと思われる棒やロープ等を拾い上げ、用具置き場の方へ駆けて行くルーク。
その横でカルーセンはエリザベートに挨拶をした。
「見に来ていただいて、ありがとうございます。エリザベート様がいらっしゃると、皆いい所を見せようと、張り切って練習するんですよ」
「あら、それじゃあ、わたくしも役に立っているのね。差し入れを持ってきたのでどうぞ」
「おお、それは有難い。それじゃあ、テントの方に行きますか」
大柄なカルーセンだが、エリザベートの歩調に合わせて横を歩く。
「……最近、ルークはどう? 今日は剣術ではなく、体術の訓練をしていたようだけれど」
「頑張ってますよ。体術の特訓は、ルークの希望です。エリザベート様の護衛の時は帯剣できない事が多いから、と言われてなるほどな、と思いまして。勿論体術の訓練もありますが、剣を使う方が遥かに多いので、とりあえずルークだけ別枠で教えとります。ルークは毎日参加できるわけじゃないですからな」
「なるほど、頑張っているのね。でも……」
(頑張っているのは良い事だけれど、あまり根を詰め過ぎないで欲しいのよね。あの『騎士の誓い』の後から、なんだかちょっと……)
「頑張り過ぎているような気がして、ちょっと気になって……」
「ああ、確かに、そんな感じはありますなぁ」
あっさりと同意するカルーセルを、エリザベートは驚いて見上げた。
「えっ? やっぱり? 貴方もそう思う?」
「まあ……早朝や夜遅くに剣の素振りをしていたり、休みの日もこうやって騎士団の練習に参加してますから」
「早朝? 夜遅く? 学園に行く前と帰ってからという事かしら」
「ええ、そうです」
「そんな……いつ休んでいるの?」
心配するエリザベートにカルーセンは『大丈夫ですよ』と笑った。
「男には、そういう時があるもんですよ。やらされてるわけじゃなく、あいつが自らやってる事です。きっと大きく成長しますから、しばらく好きにさせときましょう」
「でも……」
「……強くならなければ、と言ってましたよ」
心配で表情がくもるエリザベートに、カルーセンは安心させるように言った。
「自分が弱くて怪我をしたらエリザベート様を悲しませてしまうから、怪我をせずに護衛できるようにならないといけないと言ってましたよ」
「本当?! それは……嬉しいわ」
「身体を張ってお守りしろと言ったのは私ですし、護衛騎士とはそういうものですが……エリザベート様が悲しむのであれば、頑張って育てますよ」
「ありがとう! お願いするわ。でも、あまり無理をするようであれば……」
「やり過ぎな時には止めますから。これまで何十人も指導してきてますから、安心して任せて下さい」
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