悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

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第三章

王太子妃候補として

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「……引退、か……」

 ディランの発言を受け、レオンハルトは顎を撫で少し考えてから、エドワードとテオールを見た。

「そうだな。言われてみれば、ちょうどいい時期かもしれない。エドが会長で、テオールが副会長になれ」
「はい、兄上」
「かしこまりました、レオンハルト様」

 クリスタル学園の生徒会は、役員になるのも役職につくのも、全て役員達が決める。生徒達からの承認は必要ない。

「足りない分は、お前達が決めて人を増やせ」
「はい」
「ああ、それと……今後ルチアは、あまり生徒会に来られないようになるだろうから、そのあたりフォローしてやってくれ」
「それは、どういう事ですか?」

 来ても仕事は全くしていないので来なくても一向に構わないが、一応理由は知っておかなければとエドワードは尋ねた。

「ルチアには、王太子妃の教育を受けてもらわなければならないからな」
「えっ? ということは……婚約者の変更ですか?」
「ああ、そういう事になるな」
「そう、ですか……はい、わかりました」
「まだ正式な決定ではないから、口外するなよ」
「わかりました」

 レオンハルトの発言に、その場の全員が驚いた。当事者であるルチアも含めて、である。

「あ、あの……それって、本当ですか? わたし、何も聞いてないですけど……」
「ああ、そのうちきちんと話すつもりだったが、まあ、いい機会だからな」
「え……でも……」
「なんだ? 嬉しくないのか?」

 レオンハルトの声に苛立ちが混じる。

「い、いえ、そういうわけじゃ……ただ、驚いて……」

 部屋の空気が重くなる。
 
「あの……エリザベート様は……」
「婚約破棄の手続き中だ」
「国王陛下はこの事を……」
「これは陛下の決定だ。……本当になんなんだ? 何か問題があるのか? 俺はそなたが喜ぶかと思っていたが、そうじゃないのか?」

 バンッと目の前のローテーブルを叩かれ、ルチアは身体をビクッとさせた。

「レオン! いきなり大きな音を立てるなよ」

 そう言いながらディランがソファーに近づいた。
 引きつった笑顔のルチアに、不貞腐れたようなレオンハルト、無表情のオリバー、ショックを隠せないダニエル。

「なんだディラン、何か文句があるのか」
「驚くから乱暴な行動はするなって言ってるだけだよ。……ルチア嬢と、ちゃんと話した方がいいんじゃないか?」
「……今日は帰る。ルチア、後日正式な話し合いで城に来てもらうから、ローズ男爵にも言っておけ」

 そう言うと、レオンハルトは生徒会室を出て行ってしまった。

「……俺も失礼する」

 短くそう言い、オリバーが後に続く。

(……オリバーは、本気でルチア嬢に惚れているんだよな……)

 複雑な思いで親友二人を見送る。
 そんな中、ルチアが戸惑ったように呟いた。

「……わ、たし……どうしよう……そんな……エリザベート様になんて謝ったら……」
「今更、何言ってるの?」

 自分でも驚くほど、冷ややかな声が出た。

「謝る気なんて無いくせに、何言ってるんだか」
「……ディラン、様?」

 笑顔でそう言うディランを、ルチアは訝しげに見た。

「ルチア嬢はさ、こうなる事を望んでいたんだろう? 今更エリザベートに悪いとか、どうなの?」
「そんな! 酷いですディラン様!」
「ああ、ごめんね。本当の事言われるのって、頭にくるよね。でもあまりにもわざとらしくて、黙っていられなかったよ」
「っ! なんでそんな意地悪な事言うんですかっ? 酷すぎますっ!」

 そう言ってルチアも部屋を飛び出して行ってしまい、どうしたらいいかオロオロしているダニエルに、テオールが少し離れた場所から声をかける。

「ダニエル、君はルチア嬢に誘われて生徒会に入ったのだから、彼女と一緒に辞めてもいい。遠慮することはないから言ってくれ。だがもし残るというのであれば、ちゃんと仕事をしてもらうからな」
「あ……はい……」

 シュン、とするダニエルには『ちゃんと考えなよ』と一言声をかけ、ディランはエドワードとテオール、クリスティーナの所へ行った。

「新しい人が入るまでは、俺が手伝うよ。ここんところサボってばかりで迷惑かけたからね、罪滅ぼしに」
「ありがとうございます。一応、目をつけている候補者がいるので早めに声をかけてみますが、心強いです。ね、テオール、クリスティーナ嬢」
「ああ、そうだな。よろしくお願いします、ディラン先輩」
「わたしも早く仕事を覚えます!」

 

 結局その日以降、レオンハルト、オリバー、ルチアの三人は生徒会室に顔を出さなくなった。

 

 
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