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第三章
このままでいいのだろうか 2
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ディランがルチアに対して違和感を覚えたのは、生徒会の歓迎会の時だった。
清楚なドレスに身を包んだクリスティーナが現れたその時の、ルチアの表情。
「みんな、まだかなぁ。やっぱり手伝った方が良かったですよね。でもクリスティーナが、自分だけでできるから余計な事しないでって言って……でもでも、それでも一緒にやろうって言うべきでしたよね。ああわたしったら、このお店、すっごく来てみたい憧れのお店だったから、レオン様が予約してくれたと聞いて嬉しくなっちゃって、クリスティーナの事気遣ってあげてなかったわ」
それまで、そんな事を言っていたのに。
(……驚いた。クリスティーナを見た彼女は驚き、心底、悔しそうで憎らしそうな顔をしたから)
その表情に、自分以外は誰も気が付かなかった。
ルチアはすぐに笑顔になり、『間に合って良かった。ごめんなさい、手伝わなくて』と言っていた。
しかしその後、どうも気になり見ていると、ルチアの言動には嘘や悪意があるように感じられた。
(そう、今のような感じで、真実ではない事をそれらしく言って、誤解させているんだ。彼女は『違います』と言っているから嘘ではないが、聞いた者は本当だと思ってしまう。そんな言い方をしているんだ、いつも)
最初からそうだったのだろうか。
エリザベートが嫉妬で彼女をいじめたと思ったが、あれは、ルチアに誘導され、誤解したのではないだろうか。
(そもそもエリザベートが、嫉妬でいじめをするような人間か? 良くも悪くも、彼女は沈着冷静な『王妃候補』で、完璧な淑女だ。少なくとも学園や社交場では、感情的に振る舞うような女性ではないと思う)
小さな頃から一緒にいた、レオンハルトとオリバー。
彼らも、ルチアと出会って変わってしまった。
ちょっと傲慢で、努力をするのが嫌いなレオンハルトだが、文句を言いつつも一応責任のある行動をしていた。
煩がりながらもエリザベートの忠告を受け入れていたし、『ついエリザベートにあたってしまった。王となる俺は簡単に謝るわけにはいかないから……悪いが、ちょっとフォローしてやってくれ』などと頼んでくることもあった。
(それが今じゃどうだ。責任感も何も、あったもんじゃない。王太子だから何をしても許される、全て自分が正しい、という感じだ。そして、エリザベートの事を憎んでいるかのような振る舞いや言動が目立つ。それにオリバーだって。一本気で融通がきかなくて、人付き合いが不器用なところがあったけど、正義感に溢れて、もう少し状況を考える事が出来る男だった。それがルチアの事となると、他の事が見えなくなっている。……俺だってそうだ。何も疑わず、リザがルチアを虐めていると信じたんだから。ああ……このままじゃぁ、マズイ。絶対に良くない状況だ。でも、俺に何ができる?)
ふと、視線を移すと、黙々を仕事をしているエドワード達の姿が目に入った。
「エド、この間はすまなかったね。君らに仕事を押し付けて」
近づいて声をかけると、エドワードは手元の書類から顔を上げた。
「何か、手伝える事はある?」
「大丈夫ですよ、ディラン先輩。今学期の大きな仕事はこの間ので終わりましたし、あとは3年生の卒業パーティーで、そもそも2年生以下でやらなければならない仕事ですから」
「ああ……もうそういう時期かぁ……じゃあ俺達はそろそろ引退を考えて、生徒会はエドとテオール中心でやっていってもらった方がいいのかもな。なあレオン、どう思う?」
「ん? 何がだ?」
「生徒会だよ。俺達この頃、ちゃんと仕事していないじゃないか。もうすぐ卒業だし、引退の時期じゃないか?」
「えーっ? レオンハルト様とオリバー様とディラン様、生徒会に来なくなっちゃうんですか? そんなの寂しいですぅ」
イヤイヤ、と首を振って拗ねるルチアの頭を『大丈夫だ』と言いながら撫でるレオンハルトと、その光景を『しょうがないなぁ』と苦笑しながら見ているオリバーとダニエル。
(もう、この状況がおかしいんだけどな……ついこの間まで、俺もあの中の一員だったんだ……)
レオンハルトは、自分が仕える主君だ。
小さな頃からそう思い、彼の手足となりアレキサンドライト王国の発展の為に努めようと思ってきた。
(最強となり軍の頂点に立つであろうオリバーと、いずれ大神官となってそっち方面をまとめ上げる俺、頭脳明晰で国内外の問題解決に努めるであろうテオール、兄をサポートしてくれる穏やかなエドワード、そして、国の母となる聡明なエリザベート。……想像してきた理想とは、かけ離れた現在の状況……)
このままでは駄目だと思う。
今は楽しくても、破綻が見えている。
(レオンはどうする気なんだ? まさかルチアを王妃にしようだなんて思っていないよな? 無理だぞ、そんなの。それにオリバー、ルチアに心底惚れてしまって、結果、婚約破棄だぞ? どうするんだ?)
エドワードとテオールが、どういう理由かはわからないがルチアと距離をとるようになってくれて良かったと思う。
(俺と同じように、ルチアの闇の部分を見たのだろうか……。まあとにかく、今後の生徒会の事は彼らに任せて、俺は幼馴染二人をどうにかしないと……)
どうにかできる自信はないが、どうにかしなければならない。
(親友だからな……)
ディランは、そっとため息をついた。
清楚なドレスに身を包んだクリスティーナが現れたその時の、ルチアの表情。
「みんな、まだかなぁ。やっぱり手伝った方が良かったですよね。でもクリスティーナが、自分だけでできるから余計な事しないでって言って……でもでも、それでも一緒にやろうって言うべきでしたよね。ああわたしったら、このお店、すっごく来てみたい憧れのお店だったから、レオン様が予約してくれたと聞いて嬉しくなっちゃって、クリスティーナの事気遣ってあげてなかったわ」
それまで、そんな事を言っていたのに。
(……驚いた。クリスティーナを見た彼女は驚き、心底、悔しそうで憎らしそうな顔をしたから)
その表情に、自分以外は誰も気が付かなかった。
ルチアはすぐに笑顔になり、『間に合って良かった。ごめんなさい、手伝わなくて』と言っていた。
しかしその後、どうも気になり見ていると、ルチアの言動には嘘や悪意があるように感じられた。
(そう、今のような感じで、真実ではない事をそれらしく言って、誤解させているんだ。彼女は『違います』と言っているから嘘ではないが、聞いた者は本当だと思ってしまう。そんな言い方をしているんだ、いつも)
最初からそうだったのだろうか。
エリザベートが嫉妬で彼女をいじめたと思ったが、あれは、ルチアに誘導され、誤解したのではないだろうか。
(そもそもエリザベートが、嫉妬でいじめをするような人間か? 良くも悪くも、彼女は沈着冷静な『王妃候補』で、完璧な淑女だ。少なくとも学園や社交場では、感情的に振る舞うような女性ではないと思う)
小さな頃から一緒にいた、レオンハルトとオリバー。
彼らも、ルチアと出会って変わってしまった。
ちょっと傲慢で、努力をするのが嫌いなレオンハルトだが、文句を言いつつも一応責任のある行動をしていた。
煩がりながらもエリザベートの忠告を受け入れていたし、『ついエリザベートにあたってしまった。王となる俺は簡単に謝るわけにはいかないから……悪いが、ちょっとフォローしてやってくれ』などと頼んでくることもあった。
(それが今じゃどうだ。責任感も何も、あったもんじゃない。王太子だから何をしても許される、全て自分が正しい、という感じだ。そして、エリザベートの事を憎んでいるかのような振る舞いや言動が目立つ。それにオリバーだって。一本気で融通がきかなくて、人付き合いが不器用なところがあったけど、正義感に溢れて、もう少し状況を考える事が出来る男だった。それがルチアの事となると、他の事が見えなくなっている。……俺だってそうだ。何も疑わず、リザがルチアを虐めていると信じたんだから。ああ……このままじゃぁ、マズイ。絶対に良くない状況だ。でも、俺に何ができる?)
ふと、視線を移すと、黙々を仕事をしているエドワード達の姿が目に入った。
「エド、この間はすまなかったね。君らに仕事を押し付けて」
近づいて声をかけると、エドワードは手元の書類から顔を上げた。
「何か、手伝える事はある?」
「大丈夫ですよ、ディラン先輩。今学期の大きな仕事はこの間ので終わりましたし、あとは3年生の卒業パーティーで、そもそも2年生以下でやらなければならない仕事ですから」
「ああ……もうそういう時期かぁ……じゃあ俺達はそろそろ引退を考えて、生徒会はエドとテオール中心でやっていってもらった方がいいのかもな。なあレオン、どう思う?」
「ん? 何がだ?」
「生徒会だよ。俺達この頃、ちゃんと仕事していないじゃないか。もうすぐ卒業だし、引退の時期じゃないか?」
「えーっ? レオンハルト様とオリバー様とディラン様、生徒会に来なくなっちゃうんですか? そんなの寂しいですぅ」
イヤイヤ、と首を振って拗ねるルチアの頭を『大丈夫だ』と言いながら撫でるレオンハルトと、その光景を『しょうがないなぁ』と苦笑しながら見ているオリバーとダニエル。
(もう、この状況がおかしいんだけどな……ついこの間まで、俺もあの中の一員だったんだ……)
レオンハルトは、自分が仕える主君だ。
小さな頃からそう思い、彼の手足となりアレキサンドライト王国の発展の為に努めようと思ってきた。
(最強となり軍の頂点に立つであろうオリバーと、いずれ大神官となってそっち方面をまとめ上げる俺、頭脳明晰で国内外の問題解決に努めるであろうテオール、兄をサポートしてくれる穏やかなエドワード、そして、国の母となる聡明なエリザベート。……想像してきた理想とは、かけ離れた現在の状況……)
このままでは駄目だと思う。
今は楽しくても、破綻が見えている。
(レオンはどうする気なんだ? まさかルチアを王妃にしようだなんて思っていないよな? 無理だぞ、そんなの。それにオリバー、ルチアに心底惚れてしまって、結果、婚約破棄だぞ? どうするんだ?)
エドワードとテオールが、どういう理由かはわからないがルチアと距離をとるようになってくれて良かったと思う。
(俺と同じように、ルチアの闇の部分を見たのだろうか……。まあとにかく、今後の生徒会の事は彼らに任せて、俺は幼馴染二人をどうにかしないと……)
どうにかできる自信はないが、どうにかしなければならない。
(親友だからな……)
ディランは、そっとため息をついた。
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