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第三章
王太子成年パーティー
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ザカリー・オニキスは学園ではいつも黒のローブ姿で、今日も黒のローブだが、袖口や裾には銀糸で刺繍がされているし、宝石で装飾されたベルトを巻いているパーティー仕様だ。
隣に立つクリスティーナは、淡いくすみがかった水色のドレス姿。黒髪を頭の両脇の高い位置で何本も三つ編みをつくり、それを輪っかにしている。可愛いながらも落ち着いた清楚感があり、ザカリーと並んでも違和感がない。
挨拶を済ませてから、エリザベートはザカリーに尋ねた。
「先生、シルクをご存じなのですか?」
「ああ、魔道具の素材として色々調べていて知った素材だ」
「リザ様のドレスですね? 光沢があって柔らかな感じで、とっても素敵です!」
「そうよね。それで、わたくしもこの生地でドレスを、と思ったのだけれど……虫から作っている生地だというから……本当でしょうか」
少し怖そうに言うヴィクトリアに、ザカリーは『ああ、そうだ』と淡々と言う。
「これは、カイコという蛾の幼虫がつくる繭から採った糸でつくられていて、軽くて丈夫で光沢がある。綿や麻等よりも魔力の馴染みが良いが、産国のマーデン王国とはほとんど取引が無く、充分な量の確保は難しいと思っていたが……」
(そういえばオニキス侯爵家は、魔道具開発で名を上げた家門だったわね。ここ数代はあまり話題になる発明はないようだけれど、オニキス先生なら凄い物を作り出しそうだわ)
そんな事を思いながら、エリザベートは背の高いザカリーを見上げて言った。
「これからは入手しやすくなりますわ。わたくし、今後もドレスはシルクで作るつもりですし、もし必要であれば、取引先をご紹介する事もできますので」
「そうか。必要な場合は頼もう」
「本当に素敵なドレスです。リザ様にとっても似合っています」
「ありがとう。クリスのドレスも、とっても素敵で似合っているわ。この色、いいわね」
「流行りの明るい水色より、お兄様と並んだ時に合うと思って……」
頬をピンクに染めてそう言うクリスティーナは、とても幸せそうで可愛らしいし、ザカリーはいつもと変わりない無表情なのに、なんだか機嫌良く見えるから不思議だ。
「主役の登場まではまだ時間があるだろう。飲み物でももらおう」
「あっ、オニキス先生」
こういう場には慣れていない妹を気遣うザカリーに驚きつつ、大切な事を伝える。
「今日は騒ぎが起きないように、色々気を付けなければなりませんので」
「ああ、聞いている。飲み物は色の薄い物だけにする。それから、決して一人にはならないように、だな」
「はい。ちょっとと思っても、必ず二人以上での行動を心がけましょう。……ところで、彼女は会場に?」
「あっちに陣取ってますわ、いつもの方々に囲まれて」
ヴィクトリアが手にしていた扇の先を向けた方向を見ると、ピンクやオレンジ、青、水色と、髪色が華やかな集まりがある。
「あそこには、近づかないように気を付けましょう」
ヴィクトリアの言葉に、冷ややかな目でその光景を見ているザカリー以外は、コクコクと頷き小声でヒソヒソ話をする。
「ドレスにワインなんか零さないように、ぶつからないように、あの人と二人きりにならないように!」
「あの人がどこにいるのか、常に把握しておくようにしましょう」
「人目が無い所には、行かない方がいいわね」
「でも、せっかくのパーティーなんだから、ちょっとは楽しまないともったいないよね」
「その通りですわ! せっかくリアムとお揃いの衣裳を作ったんですもの。それにクリスも初めてのパーティーでしょう? リザはその斬新なドレスをみんなに見せつけないと!」
「見せつけるって……」
「だってこんなに素敵でこれまでにないドレス、自慢しなきゃもったいないわ!」
「はい、リザ様、わたしもそう思います。今でも皆、見ていますよ!」
キャッキャと話していると角笛が吹かれ、会場のざわめきをピタリと止める。
「王太子、レオンハルト殿下のご入場です!」
男性は胸に手をあて頭を下げ、女性は両手でスカートを持ちカーテシーをする。
コツコツと足音が響き、止まる。
「皆の者、頭を上げよ」
会場に響き渡ったその声に、全員が姿勢を戻す。
「本日は私の成年パーティーへの参加、感謝する。祝いの席だ、楽しんで行ってくれ」
簡単な挨拶を終えるとレオンハルトは、王と王妃、そして第二王子のエドワードが揃っている壇上の豪華な椅子に腰かけ、その前には挨拶をする貴族達の列ができた。
「今挨拶をするのは、有力な家門の当主だけだ。下位貴族や子息女は、有力貴族の紹介があってはじめて挨拶ができる」
「ということだから、わたくし達はここで大人しくしていましょう」
パーティーにはほとんど参加しないが、大人として一応の流れは把握しているザカリーと、王太子の婚約者としてこういう場に慣れているエリザベートが指示をする。
まあ、本来であれば、婚約者として挨拶に行き、挨拶の後は王太子の後方で控えていなければならないところだが、今更そんな事をする必要はないだろう、と思う。
(そもそも、王太子サイドから婚約者として一緒にいるようにと指示されるべき事なのよ。それがなく、パートナー同伴で出席していいと許可を出したのだから、そういう事でしょう? スピネル公爵家代表としてはお父様達が挨拶をするでしょうし)
主要貴族の挨拶が済み、楽団が演奏を始めた。
「まずは主役のダンスからね」
ダンスフロアの内側に令嬢達が並び、王太子にダンスパートナーとして誘われるのを待つ。王太子は令嬢達の挨拶に応えながら一周し、パートナーの手を取るのだ。
本来であればエリザベートがパートナーとなるところだが、そうはならないだろう。しかし、隠れていては後でそれを理由に言いがかりをつけられるかもしれないと、エリザベートは嫌々ながらも他の令嬢達と並ぶ。
ちなみに、絶対参加ではないので、婚約者のいる令嬢は並ばなくてもよい。という事で、心配しつつもヴィクトリアとクリスティーナは少し後ろに下がっている。
レオンハルトが歩を進めると、令嬢達は美しいカーテシーをしていく。
軽く手を上げそれに応え、レオンハルトは進んでいく。
(ルチアの所でさっさと止まってくれたらいいのだけれど、一応一周はするでしょうね。……あ、来た)
周りの客達から好奇の目を向けられるのを感じながら、エリザベートはカーテシーをした。
(早く行け早く行け早く行け早く行け)
しかしその願いも虚しく、足を止める。
「エリザベート、よく来たな」
あざ笑うような口調に、エリザベートはフーッと息を吐いてから、ゆっくりと姿勢を戻した。
隣に立つクリスティーナは、淡いくすみがかった水色のドレス姿。黒髪を頭の両脇の高い位置で何本も三つ編みをつくり、それを輪っかにしている。可愛いながらも落ち着いた清楚感があり、ザカリーと並んでも違和感がない。
挨拶を済ませてから、エリザベートはザカリーに尋ねた。
「先生、シルクをご存じなのですか?」
「ああ、魔道具の素材として色々調べていて知った素材だ」
「リザ様のドレスですね? 光沢があって柔らかな感じで、とっても素敵です!」
「そうよね。それで、わたくしもこの生地でドレスを、と思ったのだけれど……虫から作っている生地だというから……本当でしょうか」
少し怖そうに言うヴィクトリアに、ザカリーは『ああ、そうだ』と淡々と言う。
「これは、カイコという蛾の幼虫がつくる繭から採った糸でつくられていて、軽くて丈夫で光沢がある。綿や麻等よりも魔力の馴染みが良いが、産国のマーデン王国とはほとんど取引が無く、充分な量の確保は難しいと思っていたが……」
(そういえばオニキス侯爵家は、魔道具開発で名を上げた家門だったわね。ここ数代はあまり話題になる発明はないようだけれど、オニキス先生なら凄い物を作り出しそうだわ)
そんな事を思いながら、エリザベートは背の高いザカリーを見上げて言った。
「これからは入手しやすくなりますわ。わたくし、今後もドレスはシルクで作るつもりですし、もし必要であれば、取引先をご紹介する事もできますので」
「そうか。必要な場合は頼もう」
「本当に素敵なドレスです。リザ様にとっても似合っています」
「ありがとう。クリスのドレスも、とっても素敵で似合っているわ。この色、いいわね」
「流行りの明るい水色より、お兄様と並んだ時に合うと思って……」
頬をピンクに染めてそう言うクリスティーナは、とても幸せそうで可愛らしいし、ザカリーはいつもと変わりない無表情なのに、なんだか機嫌良く見えるから不思議だ。
「主役の登場まではまだ時間があるだろう。飲み物でももらおう」
「あっ、オニキス先生」
こういう場には慣れていない妹を気遣うザカリーに驚きつつ、大切な事を伝える。
「今日は騒ぎが起きないように、色々気を付けなければなりませんので」
「ああ、聞いている。飲み物は色の薄い物だけにする。それから、決して一人にはならないように、だな」
「はい。ちょっとと思っても、必ず二人以上での行動を心がけましょう。……ところで、彼女は会場に?」
「あっちに陣取ってますわ、いつもの方々に囲まれて」
ヴィクトリアが手にしていた扇の先を向けた方向を見ると、ピンクやオレンジ、青、水色と、髪色が華やかな集まりがある。
「あそこには、近づかないように気を付けましょう」
ヴィクトリアの言葉に、冷ややかな目でその光景を見ているザカリー以外は、コクコクと頷き小声でヒソヒソ話をする。
「ドレスにワインなんか零さないように、ぶつからないように、あの人と二人きりにならないように!」
「あの人がどこにいるのか、常に把握しておくようにしましょう」
「人目が無い所には、行かない方がいいわね」
「でも、せっかくのパーティーなんだから、ちょっとは楽しまないともったいないよね」
「その通りですわ! せっかくリアムとお揃いの衣裳を作ったんですもの。それにクリスも初めてのパーティーでしょう? リザはその斬新なドレスをみんなに見せつけないと!」
「見せつけるって……」
「だってこんなに素敵でこれまでにないドレス、自慢しなきゃもったいないわ!」
「はい、リザ様、わたしもそう思います。今でも皆、見ていますよ!」
キャッキャと話していると角笛が吹かれ、会場のざわめきをピタリと止める。
「王太子、レオンハルト殿下のご入場です!」
男性は胸に手をあて頭を下げ、女性は両手でスカートを持ちカーテシーをする。
コツコツと足音が響き、止まる。
「皆の者、頭を上げよ」
会場に響き渡ったその声に、全員が姿勢を戻す。
「本日は私の成年パーティーへの参加、感謝する。祝いの席だ、楽しんで行ってくれ」
簡単な挨拶を終えるとレオンハルトは、王と王妃、そして第二王子のエドワードが揃っている壇上の豪華な椅子に腰かけ、その前には挨拶をする貴族達の列ができた。
「今挨拶をするのは、有力な家門の当主だけだ。下位貴族や子息女は、有力貴族の紹介があってはじめて挨拶ができる」
「ということだから、わたくし達はここで大人しくしていましょう」
パーティーにはほとんど参加しないが、大人として一応の流れは把握しているザカリーと、王太子の婚約者としてこういう場に慣れているエリザベートが指示をする。
まあ、本来であれば、婚約者として挨拶に行き、挨拶の後は王太子の後方で控えていなければならないところだが、今更そんな事をする必要はないだろう、と思う。
(そもそも、王太子サイドから婚約者として一緒にいるようにと指示されるべき事なのよ。それがなく、パートナー同伴で出席していいと許可を出したのだから、そういう事でしょう? スピネル公爵家代表としてはお父様達が挨拶をするでしょうし)
主要貴族の挨拶が済み、楽団が演奏を始めた。
「まずは主役のダンスからね」
ダンスフロアの内側に令嬢達が並び、王太子にダンスパートナーとして誘われるのを待つ。王太子は令嬢達の挨拶に応えながら一周し、パートナーの手を取るのだ。
本来であればエリザベートがパートナーとなるところだが、そうはならないだろう。しかし、隠れていては後でそれを理由に言いがかりをつけられるかもしれないと、エリザベートは嫌々ながらも他の令嬢達と並ぶ。
ちなみに、絶対参加ではないので、婚約者のいる令嬢は並ばなくてもよい。という事で、心配しつつもヴィクトリアとクリスティーナは少し後ろに下がっている。
レオンハルトが歩を進めると、令嬢達は美しいカーテシーをしていく。
軽く手を上げそれに応え、レオンハルトは進んでいく。
(ルチアの所でさっさと止まってくれたらいいのだけれど、一応一周はするでしょうね。……あ、来た)
周りの客達から好奇の目を向けられるのを感じながら、エリザベートはカーテシーをした。
(早く行け早く行け早く行け早く行け)
しかしその願いも虚しく、足を止める。
「エリザベート、よく来たな」
あざ笑うような口調に、エリザベートはフーッと息を吐いてから、ゆっくりと姿勢を戻した。
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