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第三章
いざ、出発
しおりを挟む驚きの一週間!
……と、ついキャッチコピー風に言いたくなるくらいの出来事が立て続いている。
まず最初はレイフと別れ別れになってしまったこと。
残された俺はクトリアの遺跡で、闇の森でクリスティナと共に行方不明になっていた疾風戦団の魔導技師タルボットと再会し、けれどもそのタルボットは何故かイベンダーと名乗ってたこと。
それからイベンダーと共にクトリア市街地へと来て、今イベンダーが行動を共にしている“邪術士シャーイダールの探索者”のアジトへと来たら、マヌサアルバ会という美食倶楽部みたいなところに呼び出されて、何故か料理を作ることになり、翌日には王の守護者というクトリア自警団のボスである“キング”という人と会うことになり───その“キング”を含め、JBもイベンダーも、アルバという女の人に、よく知らないけど三悪とかいう魔人の人達も、そろいもそろって別世界からこの世界に転生してきて前世の記憶があったらしい、ということが判明した───ということ。
どないやねん!?
いやそりゃインチキな関西弁で突っ込みも入れたくなるよ!?
レイフにユリウスさんまで含めれば、総勢10人!? 俺が知ってるだけでも10人だよ!?
別世界転生のバーゲンセールかよ!? ドキッ!? 転生者だらけの水泳大会かよ!? ポロリもあるでよ!?
しかも“キング”という人の話だと、彼らの場合転生するときに例のイベント、「これから皆さんには転生してもらいます」説明会があったらしい。50人だか100人だかの航空機墜落事故死亡者を集めてさ!
おかしーだろ! ホワイ!? この世界の神様!? 何故にこんなにポンポコポンポコこの世界に転生させてるわけ!? 何かのキャンペーン!?
バランス感覚ゼロか!? バランス感覚ゼロから始まる異世界生活か!? 責任者出てこい!
───と。
とにもかくにも突っ込みするしかないよーな事がわらわらありつつ、しかし突っ込み以外に出来ることはほとんどないのでどーしょもないのですよ、ええ、ええ。
一応。一応ね。JBやイベンダー達から聞いた話含めて、レイフとも話していた法則みたいなのは再確認出来た。
まず死因そのものは問われてない。多分。
生前の善行とか、神様の手違いとかもおそらく関係ない。まあそもそも手違いで死ぬ、て、どういうことなのかちょっとよく意味分かんないしね。
時代も地域もけっこうバラついてる感じはある。
そしてやはり、「前世の記憶を思い出す」のには「一度死ぬ、死にかける」というきっかけが必要みたいだ。
イベンダーは例の怪物に一度殺されかけて。JBは子供の頃に。“キング”という人もやっぱ若い頃死にかけたことで前世の記憶を思い出したらしい。
思い出し方やその度合いなんかは人それぞれで、JBはまだ幼い頃に前世の記憶を思い出したこともあり、人格形成上は前世の意識、人格が主になってると言う。
けど、思い出してから何年も犬獣人の奴隷生活してたとか、ちょっと凄い過酷な環境だよね。ユリウスさんの「ゴブリンの群れの下っ端」ってのも凄かったけどさ。でもあの人けっこうすぐにチートな能力目覚めて群れのボスになってたし、よく考えるとそんなに過酷ではなかったのか?
レイフは「死にかけた肉体に別の魂が降りてきて融合するのでは?」という推論を立てていたけど、イベンダーは少し違ってて、「前世の魂が転生して生まれ変わるけれども、死にかけるほどの危機に陥るまで前世の記憶は眠ってる状態でいるのではないか?」と考えている。
俺にはどっちが正しいか分からないし───まあ正直どっちでも良いかな? とも思う。
今の俺は、前世を思い出す前の俺も、思い出した後の俺も、特に変わりなく“俺”という感覚で居る。
勿論、前世で得ていた知識や記憶、経験、ものの考え方なんかは、今の俺の様々なことに凄く影響している。
ただそれは……んー。何というか別に「前世の記憶により人格が一変した」という感じでは無いんだよね。
「忘れてたことを思い出した」のに近いかもしれない。
前世の記憶を思い出す前のことを思い出して……ややこしいな、この言い方……まあ思い返してみても、そこでの生き方選択肢がまるっきり違っていたとも思えない。
レイフが言うように、「本質的なところが似ている」んだと思う。
それが、他の人達にも言えるのかどうかってのは分からない。
イベンダーは昔の方が今より研究者的な面が強く、今ほど社交的でも遊び好きでも無かった気がする。
それには本人曰くの「前世は科学者で、商人で、探鉱者で、運び人で、ベガスの救世主」という記憶が影響してるんだろうな、とは思う。
……てか、ベガスの救世主って何? 凄く詐欺師臭するんだけど!? インチキハイテク商品とかでボロ儲け……とかしてたのかな?
ま、何にせよユリウスさんの群れに居た賢者が言うところの「二重の魂を持つ者」は、どうやらけっこうこの世界を闊歩しているか、叉は「一度死にかけること」で覚醒したりするようだ。
そう考えると、前世の記憶を思い出さないまま生涯を終えるってパターンってのもありそうだなあ。
うーん。今まで知り合った人にも実は居たのかもしれないなあ。
◆ ◆ ◆
と、そんなことをうすらぼんやり考えていつつ、俺は例の“シャーイダールの地下アジト”の入り口前に作られた見習い用の部屋の所で、居眠りしているタカギさんを背もたれ代わりにして手紙を書いている。
ダフネという全体的にちんまりした薄い印象のある女の子に画板と紙、ペンをもらってるんだけど、この紙すげー繊維が粗くて書きにくい。
ペンはドワーフ合金の古代の付けペン。滑らかで硬めの書き味だというが、やたら引っかかるしよく滲む。
何枚かもらっては来たけど、書き損じを既に数回。
うーん。また貰えるかなあ?
地下なので基本的には暗いんだけど、何ヶ所か地上から明かりを採れるようにしてある場所もあり、アジト周辺には魔導具やろうそくで灯りもつけられてる。
そしてオークという種族は人間よりも暗闇に強く目が良いので、少ない灯りでもさほど困らない。
とは言え全体としてこの地下街がどんより暗いのに変わりは無いので、どうせならもっと地表部分の廃屋を増改築してちょっとした吹き抜けみたいにして採光すれば良いのになー、なんてこともぼんやり考えている。
うん、こういうの、レイフと“生ける石イアン”なら、簡単にやってのけれそう。パパパのちゃっちゃ、で。
手紙は二通書く予定で、一通は疾風戦団宛で、もう一通は闇の森のナナイさん宛て。
とりあえずの近況とあらましを報告しておこうと思っている。
どうやって送るのか、というと、イベンダーと色々話し合ってみたんだけども、王国駐屯軍のニコラウス・コンティーニ隊長経由がよかろう、とのこと。
イベンダー曰く、
「まずコンティーニ家は疾風戦団とはそこそこ関係が深い」
と。
「え? そうなの?」
「多分……たしかな」
ふへー。うろ覚えー?
「まあ、あの頃の俺は正直そういう外向きの事には無頓着だったからなあ。
たしか数年前にあのー……あいつだ。ラシードだったか誰か若手と……リタとカイーラ達が、あそこの娘さんのちょっとした呪いを解呪したか何かでな。
ま、詳細は知らんが、そーゆー話だ」
リタとカイーラはご存知の2人。ラシードは若手のイケメンの重装剣士で、けっこう入団してすぐに実力を発揮し、この間の闇の主討伐戦でも班長になったくらい。今回も本当は転送門からの探索に参加するはずだった。
あんまり付き合い無かったからよく知らないんだよね。けっこうチャラい感じのキャラだったてのは覚えてる。
「それに今回の魔人討伐で俺達はかなりニコラウスには恩を売った。手紙の一つや二つ、問題無く引き受けてくれるだろううよ」
そこには俺は関係ないけどね。うん。
ただ必ずしもきちんと届く保証はないので、基本的に同じ文面のものを何通か用意して、他のルートでも出来ないかは探っておく方が良いだろう、とも言っていた。
難しいのは……ナナイさんへのレイフの状況の伝え方だなあ。
レイフ自身、「ちゃんと届くかは分からないけれども」との注釈つきながら、魔導具の手紙を使って報告はしていたらしいし、多分今でもしているのだと思う。
で、その中ではきっと、いらぬ心配を掛けないような説明の仕方をしてると思うんだよね。
何せナナイさんは、家族への愛情という点では異常な行動力見せるから、暴走しないよう気をつける必要がある。
ナナイさん、俺らが闇の森から転送門くぐった時点でも、両腕添え木で固定してなきゃなんないくらいの重傷だったしね。
すっぱり両脚が切断されてしまったレイフの方が、脚を諦めるという選択肢を選んだ分魔法を含めた治療での回復は早かった。
ナナイさんの方は両腕の内部を複雑に傷つけられたもんだから、多分まだ完治はしてないんじゃなかろーか。
そんなわけで、戦団宛ての手紙はそれなりに文章はまとまってるけど、ナナイさん宛がまだ難しい。ちょっと悩んでいる。
悩んでむーむー唸っていると、ブギーブミーと腹の虫の音。いや、俺じゃないよ? タカギさんです、タカギさん。
いや、まあ俺もけっこう腹は減っている。シャーイダールさんはアジト周辺の貧民達に寝床の提供と朝晩スープの提供をしてて、まあその代わりに周囲の監視やちょっとした下働きなんかをさせてるらしい。
そんで俺も一応お椀を貰っててスープを朝晩飲んでるんだけど、これがまあ正直全然足りない。あとあんまり美味しくない。
なので貰ったり持参したりした食材を少しずつ消費しているんだけど、それもかなり減ってきてる。
そんで、こちらに来てからというもの、例の魔獣用のエサである歩く丸鶏がないことでタカギさんの食事量が俺以上にけっこうな問題となってる。
シャーイダールの探索者の皆さんから残飯を貰ったり、先日もマヌサアルバ会で野菜クズや何かを貰ったりしてきたけど、聖獣化して巨大になったタカギさんは、仔地豚だった頃とは比べ物にならないくらい食うのだ。
多分俺より食う。間違いなく食う。おおよそ、1日に樽一杯分くらいはペロリと食う。
そしてここのところ確実に、その食事は足りてない。俺以上に。
ううーむ……問題だ! 大問題だ!
ぐむむむむ、と、この大問題について考えていると、雑に開けっ放しの戸口からちらちらと覗き込む姿が見える。
犬……? いや、犬の帽子か何かを被った子供と他数人。うん、多分全員子供だ。
ごにょごにょと何かを囁き合いつつ本人たちは隠れているつもりな様子だが、正直そんなに隠れられては居ない。
うーむ。やはり皆のアイドルたるタカギさん、ゆるキャラ風味で子供たちに人気ということか。さすがです。さすタカです。
そこでふと思いついたのだが、やはり子供的には「動物に餌をやる」というのはなかなかにレジャーなイベントである。
この子供ら相手にタカギさんのラブリーな様を見せつければ、いくらかは足しになるくらいは食い物を貰えるのではなかろーか?
タカギさん、というか地豚は元々草食寄りの雑食なので、人間が食べられるものならだいたい食べられる。いや、どちらかというと「オークが食べられるものなら」という感じかな?
てなことで、俺はゆっくりと画板を畳んでインクとペンを片付ける。それから自然な様子でタカギさんを促しゆっくりと立ち上がって……子供らの……方へ……と───?
「逃げろっ! 食われるぞ!」
……って、えーーー!?
男の子らしき声でそう叫ばれると、わーーーっと一目散に逃げていく子供たち。
いやいやいや、食べませんよ!? ていうか誰が!? 俺? orタカギさん!? いやどっちも食べませんから!?
不本意です! 果てしなく不本意ですよ!?
半ば呆然としつつ逃げる子供たちを視線で追うが、実際そんなに全力では逃げてはいないようだ。
子供たち以外にも人は居るし、何やらこの地下街の修繕をしてる人達や、シャーイダールのアジトの門近くで見張りをしてる人とかも居る。
なので子供たちもそんなに本気で食われることを警戒しているわけでもなさそうだ。
むーん、と頭を捻り、思いついて俺は奥の荷物入れの箱から栓をしてある壷を取り出す。
それを持ってまたゆっくりと彼らの方へと近づき、栓を開けて中を見せ、
「食べる?」
と聞く。
甘ったるい匂いは蜂蜜のもの。壷の中にはまだ例の盆地で手に入れた蜂蜜が残っているのだ。
その黄金に輝くとろりとした甘味に、子供たちは目を輝かせ、また恐る恐る近づいてくる。
よーし、だめ押しだな。俺は木製のさじを取り出して中からひとすくい。それを見せつけるようにしてからぺろり。
甘ンま~い!
思わず叫びたくなるくらいに甘い。
甘い、甘すぎる。ドリュアス印の蜂蜜。いやドリュアスさん関係ないけど。
それを見た子供たちは、じりじりと近づくか近づかないかの距離にいたのが、1人、また1人と一歩を踏み出して……わっと走り寄ってきた。
まて、順番! 順番で!
そんなわけで順番に並ばせつつ、スプーンですくった蜂蜜を一口ずつ舐めさせていく。
蜂蜜を舐めた子供はそれぞれに驚いたような満面の笑みで飛んだり跳ねたりだ。
うーん、何をやっとるのだ。というかおかしいぞ。子供等にタカギさんの食べ物をたかるつもりだったのが……逆だな、これは。
しかしまあ、こう、改めて見るとこの子供等は……まず汚い! しかもとてつもなく!
年齢的には上は中高生くらい、下はそれこそ乳呑み児くらいの子まで居る。平均的には小学生くらいに見えるような子が多いかもしれない。
棄てられてたり親や家族、共に暮らせる身内を亡くしたり追い出されたりして行き場のない子を見つけては連れてきて面倒を見てるらしい。
そしてほぼその全員がまあ、汚れもひどいし、服も服だかぼろ布だか分からない垢まみれ塵まみれの泥まみれ。小さい子供の中には服を着てない子もいる。
この地下街は半分以上廃虚のままのクトリア市街地の中でも最も貧しく行き場のない人達が集まるガチの貧民窟で、しかも彼らは孤児の集まりなのだ。
ただ汚いだけでなく、それ以外にもかなり色々問題だらけだ。
例えば彼らの中では年長らしい例の犬の……剥製? 毛皮? の帽子と服を着てる女の子は、顔の半分はひどい火傷の跡に被われてる。
他にも腕や足が無かったり指が少なかったり片目だったりと体の一部が欠損している子や、大きな傷跡の残る子も多いし、そうでなくともあばた顔や乱杭歯と明らかに不健康不摂生で見た目も良くない。
ぶちまけて言えば、所謂「かわいい子供」ってのが全く居ない。
けど、だ。
ぱっと見はかなり悲惨な状態の子供達だが、ある種の悲壮感や暗さがあまり無い。
感情豊かだし、よく動いてよく話すし、じゃれあいふざけ合いしつつも、年長者は下の子をよく見ているし、まとまりがあってしっかりもしてる。
なんかこう……こう言っちゃあなんだがちょっと違和感がある。
「あーあ、ジャンヌも居ればなー。蜂蜜なんてすげーもん舐められたのになー」
「すげー!」
「あまーい!」
「はちみ、つ、おいしい。ジャンヌ、にも、あげたい、ね」
彼らがちょくちょく口にするジャンヌという名前。んー? 何か耳に残ってるのというか聞き覚えがあるな。
「ジャンヌ?」
そう聞くと比較的年長らしき少年が、
「おまえもシャーイダール様の見習いなんだろ? ジャンヌもそうさ!」
「俺たちのリーダーなんだぜ!」
「今はどっか遠くにある遺跡の探索に行ってんだよ」
「すっげーよな! あのジャンヌが、探索者になったんだぜ!」
わいわいきゃいきゃいと、本当に嬉しそうに口々に言う。
なるほどなー。言わばこの孤児たちのヒーローであり出世頭、ってなところか……。
この子達のこの明るさも、もしかしたらそのジャンヌというリーダーの存在に支えられている面もあるのかもしれない。
とかぼんやり考えてたところに……あれ、ちょっと待てよ、その名前ってまさか……?
───レイフと一緒に転送門抜けて行方不明になった二人のうちの一人じゃん!?
今の話しぶりからするとこの子たちはその事実は知らない。今もあのセンティドゥ廃城塞かどこかで探索を続けてると思ってる。
いやまあ「探索を続けてる」という意味では正しいのかもしれんけど、状況としては全く違う。
ヤバい。これは今知らせない方が良いタイプの話だ。けど俺ドジこいてポロリしちゃいかねない。黙ってても何か態度に出しちゃうかも。子供たちの前でポロリ出しちゃうかも。ガチでマジでそれはヤバい!
そんな緊張感でムググと奥歯を噛み締めて、うかつなことをポロリしちゃわないようしていると、後ろの方からまさかの救世主が現れる。
「おーい、そこのガキンチョども! ここがアレかー? シャーイダール様のアジトで良いのかー?」
やった! これで注目が俺から逸れる!
そう考え喜びつつそちらを見やると、何やら薄暗い通路の向こうから数人……いや十数人くらいの人の気配。
「何だよオッサン」
「おーう、オッサンじゃねえぞー。優しいお兄さんと言いなさーい」
「てめえなんかスケコマシ詐欺野郎で十分だ」
「おお、おー? 言うね? 言うねェ? けどなー、マルメルちゃーん。
おまえの入れあげてたオルネラちゃんが、おまえからもらってたプレゼントを俺に貢いでたのは、詐欺でも何でもねーんだよなー?」
「てめ、100回殺すっ……!!」
やだ、何か危ない会話してる!? 止めてよブラッド沙汰は!?
「うひぇー、暴力反対でーす! グイドの旦那、助けて~!」
おどけた調子のその男は、誰か別の人の影に隠れたようで、周りからも少なからぬ笑いが起きている。
「おおーい、待て待てお前ら。そっちは新しい見習い用の区画だ。アジトの本当の入り口はその右側の奥を少し行ったとこだ」
さらにその向こうから聞こえてくるのは、多分この地下街の改築を指揮してるガエルという痩せのっぽな人。例のモロシタテムという街の町長さんだとかいう人の親族らしい。
「んー? あっちかー? 分っかり難ぃなー。ここ、もうちっと明るくなんねーのかね?」
「じゃあ出てけよおめーはよ」
「おおぅ? 俺無しで交渉出来ると思ってんの? 女にモテねえマルちゃんよ?」
「関係ねえだろ!」
何かは分からないけど、この人たちはシャーイダールさんと何かの取り引きをしに来た人たちらしい。
俺の部屋の前を通り抜けて進む彼等を見ると、孤児の子供たちや地下街の貧民たちをも超える程に汚くぼろぼろの格好。
前のほうの数人はボロ着の他に少しばかり武装もしてるけど、多くはそこら辺の棒っきれや、それに何かの角か骨をくくりつけたような粗悪な手作り。その後ろにはさらにみすぼらしい男女に子供まで含めた数人が続き……そして最後に“そいつ”が居た。
で……でかいっ……!?
頭一つどころではなく、三つ四つ分は抜けている。
筋骨隆々で頭の毛はない。その盛り上がった肩に背筋、上腕二頭筋に大胸筋は、ボロ着の上からも威圧感がハンパ無い。
そしてその容貌もまた……明らかに人ならぬその特徴を備えていた。
食人鬼じゃん……どー見ても。
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