悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

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第二章

僕は小さい

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 アメジスタ侯爵家は、数多くの優秀な騎士を輩出してきた家門である。
 アレキサンドライト王国のために戦に出ては勝利に貢献し、平和が訪れてからは国を守る盾として、王からの信頼も厚い。
 そんなアメジスタ侯爵家には、戦が盛んだった頃の名残で、獣人が多く仕えている。獣人に対して偏見と差別感情を持っている貴族が多い中で、獣人が能力を認められ対等に扱われている、稀有な家門だ。

「近くに獣人の知り合いがいないのでしょう? それでしたらアメジスタ家にいらっしゃいな。皆を紹介しますわ」

 その誘いを受け、エリザベートに連れて来てもらったアメジスタ侯爵家。
 エリザベートとは離れ、リアムと一緒に騎士達の訓練を見学させてもらっているのだが、

(……みんな大きい……というか、僕が小さいのか……)

 前を見て、左右を見て、ルークは思わず項垂れため息をついた。

「ん? どうかしたか?」
「え? あ、いえ、あの……」

 2メートル以上の長身で、彫りの深い筋骨隆々の肉体をもつ狼族のロゴルドに尋ねられ、ルークは慌てて顔を上げた。

「皆さん大きくて……私もそうなれるかと不安になったものですから……」

 今、訓練をしているのは5~60人くらいだろうか。その中でひとまわりほど大きい十数人が獣人らしい。

「ああ、さっきアルネの奴に、12、3歳くらいかと言われたのを気にしてるのか? あいつのところの子供は特別でかいからそう思ったんだろうよ。アルネは兎族で耳が長いから、その分、背が高く感じられるんだよ。成長速度はそれぞれだから、気にするな」
「はい……ありがとうございます……」

 慰められ、ルークはペコリと頭を下げた。

 ロゴルドはアメジスタ侯爵家の騎士団の副団長だ。ルークに獣人の知り合いを増やそうという目的で来たので、彼が色々説明をしながら訓練の見学をさせてくれている。
 
「スピネル家のお嬢様が獣人の奴隷を保護したっていう噂は聞いてたから、気になってたんだ。今も、身分は奴隷か?」
「はい」
「そうか……まあ、それはそうか、仕方ないな。……どうして奴隷になったんだ? あ、言いたくないなら言わなくてもいいが」
「あ、いえ……えっと……両親が亡くなって祖父母に引き取られたんですが、その祖父母も亡くなって。その後、親戚の所に行ったんですけど、15になったら住み込みで働きに出るように言われて、仲介人につれられて行ったところが奴隷商でした」
「え、そんな事って」

 隣に座るリアムが驚いてルークの顔を覗き込む。

「それ、本当?」
「はい」
「だったら大問題でしょう! その親戚の人、仲介人に騙されたんだよね。事件だよ!」
「あー、リアム坊ちゃんは驚くかもしれないが、俺ら獣人にはよくある話なんですよ、この手の事は」

 ロゴルドが苦笑しながら言う。

「例えば俺は、森の奥の獣人の村に住んでましたが、ある日突然村が襲われて。奴隷狩りでした。どうにか捕まらずに済んだけど、家族はどうなったかわからないです。一人で彷徨ってるところを先代のアメジスタ侯爵に拾ってもらって、騎士にしてもらいましたがね」
「そんな……全然知らなかった……小さい頃からしょっちゅう来ていたのに……」

 ショックを受けているリアムの頭をグリグリと撫で、ロゴルドは笑った。

「別に、話すような事でもなかったんですよ、ここにいる獣人はみんなそんな感じですから。それにしても、嬢ちゃんと結婚するのが、リアム坊ちゃんになって良かったですよ。オリバー様は獣人を嫌ってましたからね。流石に言葉にはしなかったが、態度でわかりましたよ。オリバー様が当主になったら、俺達獣人は解雇されるんじゃないかと話してたんです」
「僕は獣人の皆が凄い能力を持っているって、ちゃんとわかっているよ。でも……兄上の方がずっと強いから、アメジスタ侯爵家の後継者には、兄上の方がふさわしかったんじゃないかと……」
「別に、強くなくてもいいんですよ。戦うのは俺らに任せてくれりゃあいい。リアム坊ちゃんは大将として俺達をまとめてくれりゃあいいんですから」
「でも、アメジスタ侯爵様はアレキサンドライト王国最強と言われるほどの騎士だから……」
「リアム様は、戦術を立てるのが得意じゃないですか。相手の弱点を見つけるのも早いですし」

 一緒に騎士課の授業を受けているルークが言う。

「指揮官に向いていると思います」

 その言葉に、ロゴルドは深く頷く。

「そうそう。個人としての力より、指揮官としての力がある方が、こちらとしてはありがたい。まあ、侯爵様はどっちも凄いバケモンですがね。あの方は特別です。……ところでルーク、これまで周りに、成長期の獣人はいなかったのか?」
「あ、えーと……そうですね。小さい村だったから、同じくらいの年の子はいなかったです。大人か、赤ん坊かで」
「なるほど……それじゃあ不安になるかもな。俺達獣人は、成長のスピードに個人差が大きいんだ。それに人間と違って、精神的なものも大きく関わってくる。普通に成長していく事もあれば、自分に自信が持てたり、守りたいものができたりという事がきっかけとなって、急激に成長する事もある。苦労して育ったから食べる物もあまりいいもんじゃなかっただろうし、希望が持てなかっただろうし。成長できる要素が皆無だったんだろう」
「……そうかも、しれません」
「それなら、他に比べて小さくてもしょうがない。最近は成長してるんだろう?」
「はい。服も新しく買ってもらって……申し訳ないと、思うのですが……」
「おっと! そう思ってしまうのはわかるが、そういう気持ちが成長を妨げてる可能性もあるぞ? 大きくなったらまた服を買い替えてもらわないといけないと思って、身体が成長を抑制しているかもしれん」
「そ、それは駄目です! え……最近成長の速度が落ちてきたのは、そういう事なのかな……。でも僕は早く大きくなって、エリザベート様をお守りできるよう強くならなくちゃ……」
「ハハハッ、そうだろうな。じゃあ、服のことなんざ気にしないで、よく食べて訓練して、強くなる事だけ考えていれば、ドンドンでかくなるさ」
「はい! 頑張ります」

 ルークは真剣な表情で頷いた。

 
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