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第二章
段取りは大切
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「ではまず、今日中に終わらせるはずだった仕事を教えていただけます?」
以前はテオールとエリザベートが中心となって仕事の段取りをしていたので、その事を思い出しテオールに尋ねる。
「次の会議で使う議案書作成に必要な資料の取りまとめだ。各委員会、クラブからの報告や会計書を確認して、計算に間違いが無いか調べなくてはならないんだが……全く、手を付けていない状態だ」
「なるほど……それは問題ですね。元々今日が締め切りだったのでしょう? なぜこんな事に?」
「3年生が1年生に指導してやらせると言うので任せていたんだが……」
「実際は何もしていなかったというわけですね。そのくせ、仕事を放棄して出かけるなんて、いいご身分ですこと」
「まあ、僕達がちゃんと状況を把握していなかったのも悪かったんだけどね」
苦笑するエドワードに、クリスティーナが『申し訳ございません!』と謝る。
「いやいや、君が謝る事ではないよ。こちらこそ、ちゃんと気にかけてあげなくてごめんね」
「いいえ、わたしがいけないんです。今日も、一人じゃ無理だって言わなきゃいけなかったのに、何も言えなくて……」
「クリスティーナ様、あなたが謝ることではありませんわ。ねっ、リザ」
「そうね。悪いのは責任感の無い、ここにいない人達だわ。さてと……」
各方面から提出された大量の書類をペラペラと捲ってみていると、
「失礼します。エリザベート様、馬車はもう一度待機所へ戻してもらえるように言ってきました」
エリザベートに言われて使いに出ていたルークが戻って来た。
「それと、これを持ってきました」
「ありがとう。みんなで食べられるように切ってちょうだい。とりあえず、一つでいいわ」
ルークが指示されて持ってきたのは、片付けに付き合ってもらうお礼として、ヴィクトリアとリアムにあげようと用意していたエリザベートお手製のパウンドケーキだ。
「ちょっとお茶を飲んで、甘い物入れてから頑張りましょう」
箱に入っていた、今日持って帰るはずだった茶器を出し、ティーポットに茶葉を入れ魔法で出した熱湯を注ぐと、良い香りが部屋に漂った。
「エリザベート、君、そんなに水魔法得意だった?」
「休んでいる間に練習したんです」
驚くエドワードにそう答えながら、人数分の紅茶を入れる。
「さあ、お茶が入りましたわ。焼き菓子はわたくしが作ったものです。良かったらどうぞ」
「君が作った? この……なんだ? これは」
見慣れない菓子にテオールは警戒しているようだが、食べ慣れているヴィクトリアとリアムはすぐさま手を伸ばした。
「リザのお菓子はとっても美味しいんです。クリスティーナ様、是非食べた方がいいですわ。もう、これまでのお菓子とは全く別物ですから。んーっ! 美味しい!」
「は、はい、ではいただきます……えっ……美味しいです! ものすごく!」
「そうでしょう? はあ……お茶がとっても合うわ。リザはお茶を入れるのもとっても上手で!」
「うわ……美味しいです、本当に。このお茶、特別な物ですよね? すごくすごく美味しい……」
「ええ、特別に取り寄せた品ですから」
(……本当は、わたしの水魔法で入れたから美味しいんだけど)
これからの作業に向けて心を落ちつけ、しかも集中力を増すようにと、精神安定と回復、覚醒効果を込めたお湯で入れたお茶だ。
泣いていたクリスティーナの顔にも笑みが浮かび、余裕がない表情だったエドワードとテオールの目にも、力が戻ったようだ。
(よし、これなら大丈夫そうね。負けないわよ! ルチアとその取り巻き連中!)
グッとお茶を飲み干し、書類を分別していく。
「これらの会計書は、テオール様とわたくしが間違いがないか確認していきます。ヴィヴィとクリスティーナ様は清書を。そしてエドワード様は報告書の内容を確認して最終承認をして下さい。リアムくんとルークは、書類に不備があった際に、各クラブや委員会に修正を依頼して行ってちょうだい」
「「はい!」」
「ちょっと待て!」
リアムとルークの良い返事に、戸惑ったテオールの声が重なる。
「エリザベート、君は、計算が苦手だろう?」
「あら? そうだったかしら?」
「そうだったかしらって……他の科目は良くても、数学はいつも苦戦していたじゃないか」
(エリザベートは全てが完璧かと思っていたけれど、苦手もあったのね。でも大丈夫。計算だけは得意なのよ。ソロバン習っていたから)
「家で療養中に克服済みなので安心して下さい。不安なら、何件かわたくしの計算が合っているか、再確認してくださいな」
「……わかった、そうさせてもらう」
いつの間にかエリザベートが指揮を執っていたが、異論はないらしい。
(……そういえば、会社務めでは、こういう緊急事態にガンガン仕事を片付けていくのが結構好きだったのよね、達成感があるから。よーし、段取りはできたから)
「さあ、始めるわよ! 全部終わらせて、絶対にクリスティーナ様を歓迎会に参加させるのよっ!」
「「オーッ!」」
騎士課のリアムとルークだけが、エリザベートの鼓舞する言葉に、拳と声を上げた。
以前はテオールとエリザベートが中心となって仕事の段取りをしていたので、その事を思い出しテオールに尋ねる。
「次の会議で使う議案書作成に必要な資料の取りまとめだ。各委員会、クラブからの報告や会計書を確認して、計算に間違いが無いか調べなくてはならないんだが……全く、手を付けていない状態だ」
「なるほど……それは問題ですね。元々今日が締め切りだったのでしょう? なぜこんな事に?」
「3年生が1年生に指導してやらせると言うので任せていたんだが……」
「実際は何もしていなかったというわけですね。そのくせ、仕事を放棄して出かけるなんて、いいご身分ですこと」
「まあ、僕達がちゃんと状況を把握していなかったのも悪かったんだけどね」
苦笑するエドワードに、クリスティーナが『申し訳ございません!』と謝る。
「いやいや、君が謝る事ではないよ。こちらこそ、ちゃんと気にかけてあげなくてごめんね」
「いいえ、わたしがいけないんです。今日も、一人じゃ無理だって言わなきゃいけなかったのに、何も言えなくて……」
「クリスティーナ様、あなたが謝ることではありませんわ。ねっ、リザ」
「そうね。悪いのは責任感の無い、ここにいない人達だわ。さてと……」
各方面から提出された大量の書類をペラペラと捲ってみていると、
「失礼します。エリザベート様、馬車はもう一度待機所へ戻してもらえるように言ってきました」
エリザベートに言われて使いに出ていたルークが戻って来た。
「それと、これを持ってきました」
「ありがとう。みんなで食べられるように切ってちょうだい。とりあえず、一つでいいわ」
ルークが指示されて持ってきたのは、片付けに付き合ってもらうお礼として、ヴィクトリアとリアムにあげようと用意していたエリザベートお手製のパウンドケーキだ。
「ちょっとお茶を飲んで、甘い物入れてから頑張りましょう」
箱に入っていた、今日持って帰るはずだった茶器を出し、ティーポットに茶葉を入れ魔法で出した熱湯を注ぐと、良い香りが部屋に漂った。
「エリザベート、君、そんなに水魔法得意だった?」
「休んでいる間に練習したんです」
驚くエドワードにそう答えながら、人数分の紅茶を入れる。
「さあ、お茶が入りましたわ。焼き菓子はわたくしが作ったものです。良かったらどうぞ」
「君が作った? この……なんだ? これは」
見慣れない菓子にテオールは警戒しているようだが、食べ慣れているヴィクトリアとリアムはすぐさま手を伸ばした。
「リザのお菓子はとっても美味しいんです。クリスティーナ様、是非食べた方がいいですわ。もう、これまでのお菓子とは全く別物ですから。んーっ! 美味しい!」
「は、はい、ではいただきます……えっ……美味しいです! ものすごく!」
「そうでしょう? はあ……お茶がとっても合うわ。リザはお茶を入れるのもとっても上手で!」
「うわ……美味しいです、本当に。このお茶、特別な物ですよね? すごくすごく美味しい……」
「ええ、特別に取り寄せた品ですから」
(……本当は、わたしの水魔法で入れたから美味しいんだけど)
これからの作業に向けて心を落ちつけ、しかも集中力を増すようにと、精神安定と回復、覚醒効果を込めたお湯で入れたお茶だ。
泣いていたクリスティーナの顔にも笑みが浮かび、余裕がない表情だったエドワードとテオールの目にも、力が戻ったようだ。
(よし、これなら大丈夫そうね。負けないわよ! ルチアとその取り巻き連中!)
グッとお茶を飲み干し、書類を分別していく。
「これらの会計書は、テオール様とわたくしが間違いがないか確認していきます。ヴィヴィとクリスティーナ様は清書を。そしてエドワード様は報告書の内容を確認して最終承認をして下さい。リアムくんとルークは、書類に不備があった際に、各クラブや委員会に修正を依頼して行ってちょうだい」
「「はい!」」
「ちょっと待て!」
リアムとルークの良い返事に、戸惑ったテオールの声が重なる。
「エリザベート、君は、計算が苦手だろう?」
「あら? そうだったかしら?」
「そうだったかしらって……他の科目は良くても、数学はいつも苦戦していたじゃないか」
(エリザベートは全てが完璧かと思っていたけれど、苦手もあったのね。でも大丈夫。計算だけは得意なのよ。ソロバン習っていたから)
「家で療養中に克服済みなので安心して下さい。不安なら、何件かわたくしの計算が合っているか、再確認してくださいな」
「……わかった、そうさせてもらう」
いつの間にかエリザベートが指揮を執っていたが、異論はないらしい。
(……そういえば、会社務めでは、こういう緊急事態にガンガン仕事を片付けていくのが結構好きだったのよね、達成感があるから。よーし、段取りはできたから)
「さあ、始めるわよ! 全部終わらせて、絶対にクリスティーナ様を歓迎会に参加させるのよっ!」
「「オーッ!」」
騎士課のリアムとルークだけが、エリザベートの鼓舞する言葉に、拳と声を上げた。
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