悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

文字の大きさ
上 下
43 / 122
第二章

喜んでお受けします

しおりを挟む
「……えーと……ヴィヴィ、いえ、ヴィクトリア嬢と、僕が……婚約? ですか?」
「ああ、そうだ。オリバーとヴィクトリア嬢との婚約は、二人がまだ子供のうちに決めてしまった事。年頃になって心が近づかなかったのは仕方がない、とアメジスタ侯爵は仰い、今回のオリバーの、そして我がカーネリアン伯爵家の責任は問われない事となった。そして両家の為にも、リアムと婚約を結び直すのはどうかと」
「おっ、お受けします、その話!」

 父親の言葉が終わらぬうちに、リアムは声を上げた。

「ヴィクトリア嬢との結婚、謹んでお受けします!」
「結婚ではなく婚約だが……よし、それではそのように返事をしよう」
「ありがとうございます!」

 リアムは満面の笑みで頭を下げ、ギュッと両手を握りしめた。

(凄い! 最高の幸運が転がり込んできた! えっ? ヴィヴィちゃんはこの事知ってるの? 父上達だけで勝手に決めたんじゃないよね? もしそうだったらヴィヴィちゃんはまた辛い思いをする事に……いや、そもそも貴族の結婚なんて、家門同士の結束とか、利害の一致とか、そういう事で当主が決めるものだから、兄上との婚約が破棄された後でヴィヴィちゃんの望み通りにいくなんて事、ほとんど無いだろう? だったら少なくとも、ヴィヴィちゃんの事を大大大好きな僕と結婚した方が、幸せになれるんじゃないか? そうだよ、僕はヴィヴィちゃんが幸せになる事だけを願ってきたんだから。好きな人を自分が幸せにできるこのチャンスを掴まないなんて事、絶対ありえない! 僕はヴィヴィちゃんと結婚するんだ!)

「……では、話は以上だ。二人とも、もういいぞ」
「はい、失礼します」
「……失礼します」

 ニコニコのリアムと正反対の表情をしたオリバー、二人は揃って部屋を出たが……。



「……リアム、お前、どういうつもりだ」

 父親の執務室を少し離れた所で、オリバーの暗い声に、浮かれていたリアムは現実に引き戻された。

「ヴィクトリアは俺の婚約者なんだぞ? それが、お前と婚約し直すだと?」
「アメジスタ侯爵様と父上が決めた事です。何も問題は無いと」
「問題あるに決まっているだろう! お前、よくも俺の婚約者を! 昔からヴィクトリアが来るとお前もその場に同席していたよな。別に構わないと気にかけていなかったが、最初から、ヴィクトリアを奪う為だったんだな!?」
「……ヴィヴィちゃんの事が好きだったのは、認めます」

 リアムは、怒りの形相の兄を見つめて、冷静に言った。

「けど、奪う気なんてなかった。ヴィヴィちゃんが兄上の事を好きだったから。でも兄上は、ちゃんと婚約者として接していなかっただろう? 月一回会うのも義務で仕方なく、って感じだったし、誕生日のプレゼントだって、自分で選んでいなかったよね。しかも、あのルチアって人に会ってからは、ヴィヴィちゃんの事ほったらかしにしてたし。ヴィヴィちゃんが怒って当然だよ。確かにあの人に嫌がらせして、それをエリザベート様のせいにしようとしたのはヴィヴィちゃんが悪いよ。でもそれを知って、兄上何かした? 自分の態度が原因だったと、反省した? ヴィヴィちゃんに謝罪した? あんな事があって学園内で孤立してしまうであろうヴィヴィちゃんを心配して、寄り添った? なんにもしてないよね! ヴィヴィちゃんの事は放っておいて、あいかわらずあの女の取り巻きしてたじゃない」
「ルチア嬢の事を、あの女だなんて言うな! しかも、取り巻きだなんて」

 青筋を立ててオリバーが怒鳴ったが、リアムはそれを軽く受け流した。

「本当の事だろ? そもそも彼女、婚約者がいる兄上や王太子殿下と親しくし過ぎだろ? そのうえ、他にも多くの男子に囲まれて、チヤホヤされて」
「それは、彼女が心根の優しい、素敵な女性だから自然に人が集まっているだけで」
「心根の優しい女性が、婚約者のいる男とあんなにベッタリくっつく? 普通は、少し距離を置くでしょう? 彼女の取り巻きは、男ばっかじゃないか。女性には嫌われているんだ」
「それは嫉妬されてだろう。可哀そうに、ルチア嬢は女達に嫉妬されていじめられているんだ」

 きっぱりそう言い切るオリバーに、リアムは大きなため息をついた。

「……今の兄上とは、まともに話ができないという事がわかったよ」

(これまでずっと、怖くて敵わないと思っていたのに、今は全然……というか、どうしてこんな人を怖がっていたのか、不思議だ)

「……とにかく、兄上には僕の事を非難する資格なんてない。僕はヴィヴィちゃんを愛していて、ヴィヴィちゃんを幸せにしたいと心の底から思っているんだから」
「貴族の婚姻に、そんな感情は不要だ。女は男の言う事を聞いていればいいんだ。ヴィクトリアは忍耐が足りないんだ!」
「じゃあ兄上、それそのまま、ルチア嬢に言えるわけ? 女は男の言う事を聞いて、どんな仕打ちをされても耐えて許せって」
「そうは言ってない!」
「言ってるよ。ああ、本当に……兄上には失望したよ。僕は、ヴィヴィちゃんと結婚するよ。兄上は奪われたんじゃない、手放したんだよ。そこのところ、勘違いしないでね」

 屈辱で震えるオリバーを残し、リアムはさっさとその場を後にした。



しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...