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第二章
騎士の誓い
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『貴女が誰と結ばれようと関係ない。俺は貴女の剣。俺は貴女の盾。どんな事が起きようと、俺はこの命をかけて貴女を守る』
これは、オリバーが片膝を突き、ルチアに述べた『騎士の誓い』。
(オリバーを攻略できて、花びらが舞う中言われた時はすっごくときめいたけれど……)
ゲームで見た映像を思い出したエリザベートは、思わずため息をついた。
(婚約者がいる男から言われたと考えると、かなり気持ち悪いわ。ゲームしている時は意地悪で嫌いと感じていたヴィクトリアだけど、婚約者が他の女の事好きになったら、腹が立つのは当然よね。その怒りをルチアではなくオリバーの方に向けてくれれば良かったんだけど……)
ゲームだけではなく、この世界のヴィクトリアもルチアに嫌がらせをし、しかもエリザベスに罪をなすりつけようとしていた。
(まあ、この世界じゃ男性を責めるのは難しい事だから……)
そんな事を考えながら、険しい表情のヴィクトリアを見る。
「……騎士の誓いを、あの女に……」
「もちろんそんなのはあってはならない事だけれど……ああいう単純な人は、そういう極端な考えを持ちそうじゃない? 『結婚はしても、自分が生涯をかけて仕えるのはこの方だ』とか、わけわからない事を本気で言いそうだわ」
「……………」
「そして、自分の家庭よりも、そちらの家庭の事を優先しそうで……」
「……!!」
ヴィクトリアがカッと目を見開く。
「……今、その光景が目に浮かびましたわ」
「でしょう? なんだか嫌な予感がするの。このままだと、ルチア嬢はレオンハルト様と結婚するでしょう。それでもオリバー様は、喜んでお二人に仕えるのでは? そして、自分の家庭よりもそちらを大切にして、自分の家庭はほったらかしに……」
「ええ、ええ、そんな気がしますわ」
胸の前でギュッと両手を握りしめ、コクコク頷くヴィクトリア。
「それならば、ちゃんとヴィヴィの事を愛してくれる男性と結婚した方がいいじゃない」
「で、でも、貴族の婚姻はそういうものでは……」
「そうね、貴族の婚姻は家門の為で、個人の幸せは二の次だわ。でも、ヴィヴィのお父様は、そういう考えではないのでは?」
「……そう、かしら……」
首を傾げるヴィクトリア。
「ええ、きっとそうよ。ヴィヴィのお父様は、家門の事よりも貴方が幸せになる事を第一に考えてらっしゃると思うわ。だからこそ、早くに婚約者を決めたのよ」
「どういう事?」
「貴族女性の役目と言ったら、なんといっても跡継ぎとなる子を産む事でしょう? 結婚して三年経っても跡継ぎの男児を産めなければ、第二夫人や妾を迎えられたり、場合によっては離縁されても文句は言えないわ。そういう事をしても男性は、『酷い人だ』なんて非難されないでしょう?」
「ええ、まあ……」
「でも、ヴィヴィのお父様はそうされなかった。恐らく、先代様や親戚や同僚の方々に色々言われたと思うけれど、ご自分の意思を貫いたのでしょうね」
「まあ、お父様は王国最強と言われた騎士で、最年少で騎士団の団長になり、現在は第一騎士団団長だから、誰にも文句は言わせず、自分の思い通りにやってきたかもしれないけれど……」
「そして、大切な家族が周りに煩わされないよう、後継者問題も早々に解決しようと思われたのよ」
話をししているうちに、ピースがどんどんと嵌ってはっきりと見えてくる。
(ここでは、母親が男子を沢山出産しているとか、そういう事で娘の価値が決まったりするのよね。酷い話だけど、それがこの世界の常識なのよ)
ヴィクトリアには言わないが、女児一人しか産む事ができなかった母をもつ彼女は、この世界ではあまり魅力的な結婚相手とは言えないのだ。
年頃になってヴィクトリアがそんな事を言われないよう、父親は自分の身分と力を使って、早々に後継者問題を解決したのだろう。
(大切な妻と娘を、喧噪から守ったんだわ。だからこそ、ヴィヴィが結婚によって辛い思いをするなんて絶対に回避したいはずよ)
そう確信し、エリザベートはヴィクトリアに提案した。
「お父様に、現状を話すべきだわ。そして、ヴィヴィを愛し、守ってくれる男性と婚約し直すべきよ。そう、例えば、リアムくんのような」
「ええっ? リアムですって?」
驚きのあまりヴィクトリアは大きな声を出してしまい、少し離れた場所でバク転の練習をしていたリアムとルークがこちらを見る。
「ヴィヴィちゃーん、呼んだー?」
「い、いいえっ! なんでもありませんわっ!」
「そーお?」
「ええ!」
慌ててそう答えてから、ヴィクトリアはエリザベートの腕を、両手でギューッと掴んだ。
「なななな、なんて事仰いますのっ?」
「だって、リアムくんはヴィヴィの事が好きでしょう?」
「す、好きってそんな」
「だって好きでなければ、こんなに一緒にいるかしら。バカ兄がわたくしに文句言ってきた時だって、リアムくんはヴィヴィを庇って、バカ兄を止めようとしていたじゃない」
「そ、れはまぁ……わたくし達、幼い頃から仲良くしてましたし、未来の義姉なわけだから……」
「それだけかしら。まあ、わたくしはふたりの仲を良く知っているわけじゃないから、当人が違うというなら違うのかもしれないけれど?」
「そんな! リザ、貴女、自分の発言にもっと責任を持つべきですわ! こんな事言われて、わたくしは一体どうすれば」
「好きなようになさい、貴女の人生なのだもの」
グイグイと顔を寄せてくるヴィクトリアを押し戻しながら、エリザベートは笑った。
「どうにもならない事は、確かにあるわ。でも、どうにかなる事だってたくさんあるのよ。それなら、自分の人生、自分の為にどうにかしようとする努力はした方がいいんじゃないかしら。他人任せにしておいて、後から不幸ぶるのは勝手だけど、その辛い事は誰も代わってはくれないのだから」
その言葉に、ヴィクトリアはスッと表情を変えた。
「……リザは、変わったのね……前はとにかく、王太子妃に相応しいように、王太子殿下に従って……という感じだったのに」
「それはそうよ。死にかけたら、考え方も変わるわ。わたくしはわたくしの為に生きるの!」
「……以前の貴女は、高飛車ですましていて嫌いだったけど、今の貴女は好きですわ」
「あら、ありがとう。さあ、そろそろ昼休みが終わるわ。戻りましょう」
「そうですわね」
その後、ヴィクトリアはオリバーとの婚約を解消し、リアムと婚約する事になった。
これは、オリバーが片膝を突き、ルチアに述べた『騎士の誓い』。
(オリバーを攻略できて、花びらが舞う中言われた時はすっごくときめいたけれど……)
ゲームで見た映像を思い出したエリザベートは、思わずため息をついた。
(婚約者がいる男から言われたと考えると、かなり気持ち悪いわ。ゲームしている時は意地悪で嫌いと感じていたヴィクトリアだけど、婚約者が他の女の事好きになったら、腹が立つのは当然よね。その怒りをルチアではなくオリバーの方に向けてくれれば良かったんだけど……)
ゲームだけではなく、この世界のヴィクトリアもルチアに嫌がらせをし、しかもエリザベスに罪をなすりつけようとしていた。
(まあ、この世界じゃ男性を責めるのは難しい事だから……)
そんな事を考えながら、険しい表情のヴィクトリアを見る。
「……騎士の誓いを、あの女に……」
「もちろんそんなのはあってはならない事だけれど……ああいう単純な人は、そういう極端な考えを持ちそうじゃない? 『結婚はしても、自分が生涯をかけて仕えるのはこの方だ』とか、わけわからない事を本気で言いそうだわ」
「……………」
「そして、自分の家庭よりも、そちらの家庭の事を優先しそうで……」
「……!!」
ヴィクトリアがカッと目を見開く。
「……今、その光景が目に浮かびましたわ」
「でしょう? なんだか嫌な予感がするの。このままだと、ルチア嬢はレオンハルト様と結婚するでしょう。それでもオリバー様は、喜んでお二人に仕えるのでは? そして、自分の家庭よりもそちらを大切にして、自分の家庭はほったらかしに……」
「ええ、ええ、そんな気がしますわ」
胸の前でギュッと両手を握りしめ、コクコク頷くヴィクトリア。
「それならば、ちゃんとヴィヴィの事を愛してくれる男性と結婚した方がいいじゃない」
「で、でも、貴族の婚姻はそういうものでは……」
「そうね、貴族の婚姻は家門の為で、個人の幸せは二の次だわ。でも、ヴィヴィのお父様は、そういう考えではないのでは?」
「……そう、かしら……」
首を傾げるヴィクトリア。
「ええ、きっとそうよ。ヴィヴィのお父様は、家門の事よりも貴方が幸せになる事を第一に考えてらっしゃると思うわ。だからこそ、早くに婚約者を決めたのよ」
「どういう事?」
「貴族女性の役目と言ったら、なんといっても跡継ぎとなる子を産む事でしょう? 結婚して三年経っても跡継ぎの男児を産めなければ、第二夫人や妾を迎えられたり、場合によっては離縁されても文句は言えないわ。そういう事をしても男性は、『酷い人だ』なんて非難されないでしょう?」
「ええ、まあ……」
「でも、ヴィヴィのお父様はそうされなかった。恐らく、先代様や親戚や同僚の方々に色々言われたと思うけれど、ご自分の意思を貫いたのでしょうね」
「まあ、お父様は王国最強と言われた騎士で、最年少で騎士団の団長になり、現在は第一騎士団団長だから、誰にも文句は言わせず、自分の思い通りにやってきたかもしれないけれど……」
「そして、大切な家族が周りに煩わされないよう、後継者問題も早々に解決しようと思われたのよ」
話をししているうちに、ピースがどんどんと嵌ってはっきりと見えてくる。
(ここでは、母親が男子を沢山出産しているとか、そういう事で娘の価値が決まったりするのよね。酷い話だけど、それがこの世界の常識なのよ)
ヴィクトリアには言わないが、女児一人しか産む事ができなかった母をもつ彼女は、この世界ではあまり魅力的な結婚相手とは言えないのだ。
年頃になってヴィクトリアがそんな事を言われないよう、父親は自分の身分と力を使って、早々に後継者問題を解決したのだろう。
(大切な妻と娘を、喧噪から守ったんだわ。だからこそ、ヴィヴィが結婚によって辛い思いをするなんて絶対に回避したいはずよ)
そう確信し、エリザベートはヴィクトリアに提案した。
「お父様に、現状を話すべきだわ。そして、ヴィヴィを愛し、守ってくれる男性と婚約し直すべきよ。そう、例えば、リアムくんのような」
「ええっ? リアムですって?」
驚きのあまりヴィクトリアは大きな声を出してしまい、少し離れた場所でバク転の練習をしていたリアムとルークがこちらを見る。
「ヴィヴィちゃーん、呼んだー?」
「い、いいえっ! なんでもありませんわっ!」
「そーお?」
「ええ!」
慌ててそう答えてから、ヴィクトリアはエリザベートの腕を、両手でギューッと掴んだ。
「なななな、なんて事仰いますのっ?」
「だって、リアムくんはヴィヴィの事が好きでしょう?」
「す、好きってそんな」
「だって好きでなければ、こんなに一緒にいるかしら。バカ兄がわたくしに文句言ってきた時だって、リアムくんはヴィヴィを庇って、バカ兄を止めようとしていたじゃない」
「そ、れはまぁ……わたくし達、幼い頃から仲良くしてましたし、未来の義姉なわけだから……」
「それだけかしら。まあ、わたくしはふたりの仲を良く知っているわけじゃないから、当人が違うというなら違うのかもしれないけれど?」
「そんな! リザ、貴女、自分の発言にもっと責任を持つべきですわ! こんな事言われて、わたくしは一体どうすれば」
「好きなようになさい、貴女の人生なのだもの」
グイグイと顔を寄せてくるヴィクトリアを押し戻しながら、エリザベートは笑った。
「どうにもならない事は、確かにあるわ。でも、どうにかなる事だってたくさんあるのよ。それなら、自分の人生、自分の為にどうにかしようとする努力はした方がいいんじゃないかしら。他人任せにしておいて、後から不幸ぶるのは勝手だけど、その辛い事は誰も代わってはくれないのだから」
その言葉に、ヴィクトリアはスッと表情を変えた。
「……リザは、変わったのね……前はとにかく、王太子妃に相応しいように、王太子殿下に従って……という感じだったのに」
「それはそうよ。死にかけたら、考え方も変わるわ。わたくしはわたくしの為に生きるの!」
「……以前の貴女は、高飛車ですましていて嫌いだったけど、今の貴女は好きですわ」
「あら、ありがとう。さあ、そろそろ昼休みが終わるわ。戻りましょう」
「そうですわね」
その後、ヴィクトリアはオリバーとの婚約を解消し、リアムと婚約する事になった。
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