悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

文字の大きさ
上 下
41 / 122
第二章

騎士の誓い

しおりを挟む
『貴女が誰と結ばれようと関係ない。俺は貴女の剣。俺は貴女の盾。どんな事が起きようと、俺はこの命をかけて貴女を守る』

 これは、オリバーが片膝を突き、ルチアに述べた『騎士の誓い』。

(オリバーを攻略できて、花びらが舞う中言われた時はすっごくときめいたけれど……)

 ゲームで見た映像を思い出したエリザベートは、思わずため息をついた。

(婚約者がいる男から言われたと考えると、かなり気持ち悪いわ。ゲームしている時は意地悪で嫌いと感じていたヴィクトリアだけど、婚約者が他の女の事好きになったら、腹が立つのは当然よね。その怒りをルチアではなくオリバーの方に向けてくれれば良かったんだけど……)

 ゲームだけではなく、この世界のヴィクトリアもルチアに嫌がらせをし、しかもエリザベスに罪をなすりつけようとしていた。

(まあ、この世界じゃ男性を責めるのは難しい事だから……)

 そんな事を考えながら、険しい表情のヴィクトリアを見る。

「……騎士の誓いを、あの女に……」
「もちろんそんなのはあってはならない事だけれど……ああいう単純な人は、そういう極端な考えを持ちそうじゃない? 『結婚はしても、自分が生涯をかけて仕えるのはこの方だ』とか、わけわからない事を本気で言いそうだわ」
「……………」
「そして、自分の家庭よりも、そちらの家庭の事を優先しそうで……」
「……!!」

 ヴィクトリアがカッと目を見開く。

「……今、その光景が目に浮かびましたわ」
「でしょう? なんだか嫌な予感がするの。このままだと、ルチア嬢はレオンハルト様と結婚するでしょう。それでもオリバー様は、喜んでお二人に仕えるのでは? そして、自分の家庭よりもそちらを大切にして、自分の家庭はほったらかしに……」
「ええ、ええ、そんな気がしますわ」

 胸の前でギュッと両手を握りしめ、コクコク頷くヴィクトリア。

「それならば、ちゃんとヴィヴィの事を愛してくれる男性と結婚した方がいいじゃない」
「で、でも、貴族の婚姻はそういうものでは……」
「そうね、貴族の婚姻は家門の為で、個人の幸せは二の次だわ。でも、ヴィヴィのお父様は、そういう考えではないのでは?」
「……そう、かしら……」

 首を傾げるヴィクトリア。

「ええ、きっとそうよ。ヴィヴィのお父様は、家門の事よりも貴方が幸せになる事を第一に考えてらっしゃると思うわ。だからこそ、早くに婚約者を決めたのよ」
「どういう事?」
「貴族女性の役目と言ったら、なんといっても跡継ぎとなる子を産む事でしょう? 結婚して三年経っても跡継ぎの男児を産めなければ、第二夫人や妾を迎えられたり、場合によっては離縁されても文句は言えないわ。そういう事をしても男性は、『酷い人だ』なんて非難されないでしょう?」
「ええ、まあ……」
「でも、ヴィヴィのお父様はそうされなかった。恐らく、先代様や親戚や同僚の方々に色々言われたと思うけれど、ご自分の意思を貫いたのでしょうね」
「まあ、お父様は王国最強と言われた騎士で、最年少で騎士団の団長になり、現在は第一騎士団団長だから、誰にも文句は言わせず、自分の思い通りにやってきたかもしれないけれど……」
「そして、大切な家族が周りに煩わされないよう、後継者問題も早々に解決しようと思われたのよ」

 話をししているうちに、ピースがどんどんと嵌ってはっきりと見えてくる。

(ここでは、母親が男子を沢山出産しているとか、そういう事で娘の価値が決まったりするのよね。酷い話だけど、それがこの世界の常識なのよ)

 ヴィクトリアには言わないが、女児一人しか産む事ができなかった母をもつ彼女は、この世界ではあまり魅力的な結婚相手とは言えないのだ。
 年頃になってヴィクトリアがそんな事を言われないよう、父親は自分の身分と力を使って、早々に後継者問題を解決したのだろう。

(大切な妻と娘を、喧噪から守ったんだわ。だからこそ、ヴィヴィが結婚によって辛い思いをするなんて絶対に回避したいはずよ)

 そう確信し、エリザベートはヴィクトリアに提案した。

「お父様に、現状を話すべきだわ。そして、ヴィヴィを愛し、守ってくれる男性と婚約し直すべきよ。そう、例えば、リアムくんのような」
「ええっ? リアムですって?」

 驚きのあまりヴィクトリアは大きな声を出してしまい、少し離れた場所でバク転の練習をしていたリアムとルークがこちらを見る。

「ヴィヴィちゃーん、呼んだー?」
「い、いいえっ! なんでもありませんわっ!」
「そーお?」
「ええ!」

 慌ててそう答えてから、ヴィクトリアはエリザベートの腕を、両手でギューッと掴んだ。

「なななな、なんて事仰いますのっ?」
「だって、リアムくんはヴィヴィの事が好きでしょう?」
「す、好きってそんな」
「だって好きでなければ、こんなに一緒にいるかしら。バカ兄がわたくしに文句言ってきた時だって、リアムくんはヴィヴィを庇って、バカ兄を止めようとしていたじゃない」
「そ、れはまぁ……わたくし達、幼い頃から仲良くしてましたし、未来の義姉なわけだから……」
「それだけかしら。まあ、わたくしはふたりの仲を良く知っているわけじゃないから、当人が違うというなら違うのかもしれないけれど?」
「そんな! リザ、貴女、自分の発言にもっと責任を持つべきですわ! こんな事言われて、わたくしは一体どうすれば」
「好きなようになさい、貴女の人生なのだもの」

 グイグイと顔を寄せてくるヴィクトリアを押し戻しながら、エリザベートは笑った。

「どうにもならない事は、確かにあるわ。でも、どうにかなる事だってたくさんあるのよ。それなら、自分の人生、自分の為にどうにかしようとする努力はした方がいいんじゃないかしら。他人任せにしておいて、後から不幸ぶるのは勝手だけど、その辛い事は誰も代わってはくれないのだから」

 その言葉に、ヴィクトリアはスッと表情を変えた。

「……リザは、変わったのね……前はとにかく、王太子妃に相応しいように、王太子殿下に従って……という感じだったのに」
「それはそうよ。死にかけたら、考え方も変わるわ。わたくしはわたくしの為に生きるの!」
「……以前の貴女は、高飛車ですましていて嫌いだったけど、今の貴女は好きですわ」
「あら、ありがとう。さあ、そろそろ昼休みが終わるわ。戻りましょう」
「そうですわね」



 その後、ヴィクトリアはオリバーとの婚約を解消し、リアムと婚約する事になった。


しおりを挟む
感想 174

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...