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第一章
弟は可愛い 1
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訓練終了の声を聞き、控えていたアメリアがエリザベートに声をかけた。
「エリザベートお嬢様、訓練が終わったようなので、そろそろ参りませんと」
「そうね。それではお母様、わたくし、あちらに用がありますので」
そう言って席を立つと、フローレンスが少し首を傾げたので、エリザベートは説明をする。
「わたくしの水魔法で、練習終わりの騎士たちに水を用意しているのです」
「水を?」
「ええ。わたくしが作り出す水は、冷たくて人気なんですよ」
「そう……病み上りなのだから、無理はしないようにね」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします」
丁寧に挨拶をし、エリザベートはアメリアと供にテントへ向かった。そして、ズラリと並ぶ空カップに水を満たしていく。
そしてそれが終わると今度はおかわり用にと沢山の水差しにも水を満たし……すべてが満タンになった頃、用具の片付けを終えた騎士達がドッとテントに押し寄せた。
「お嬢様! いつもありがとうございます!」
「お嬢様の水はとても美味しいです!」
「それになんだか、力が湧いてくるというか」
「疲れが吹き飛びます!」
「フフ、それは良かった。さあ、水差しもいっぱいにしておいたから、沢山飲んでね」
(……実は、わたしの作り出す水には、本当に回復の効果があるのよね)
ニコニコしながら、エリザベートは我先にと水を飲む騎士達を見た。
エリザベートが作り出す水の効力、それがわかったきっかけは、訓練でこってり絞られて動けなくなったルークに水を出して飲ませてやった事だった。
それまで指一本動かせないほどだったルークが、みるみるうちに回復したのだ。
獣人の回復力は凄いと感動したエリザベートだったが、ルークは違うと言う。
(え、もしかして、わたしの力? そういえばこの水飲んで命を取り留めたし、ルークのお尻の焼き印だって治ったのよね)
そう思い、それから色々と試行錯誤しているうちに、強く念じればポーション並みの回復力をもつ水を出せるようになっていた。
(ここで出す水は調節して、ちょーっと疲労回復する程度に抑えているけれどね。わずかな治癒能力でも、聖職者扱いされる世界だから、ここは)
この事を知っているのはルークとアメリアだけで、絶対に他言しないようにと言ってある。
(バレたら絶対、面倒な事になるもの。ヘタしたら婚約破棄できなくなるかもしれないし)
そんな事を考えていると、本来の目的であるルークがやってきた。新人なので、当番制の大きな器具の後片付けも毎回参加なのだ。
「エリザベート様!」
クタクタに疲れているようだが、エリザベートの姿を見ると、パーッと笑顔になって駆け寄ると、サッと片膝をついて頭を下げた。
「今日も頑張ったようね」
「はい!」
「偉い偉い」
頭を撫でてやると、嬉しそうに顔を上げてエリザベートを見た。
(はああ……可愛い。良く懐いたワンコって感じだわ)
早く水を飲ませてやりたいのと、喜んでいるのでずっと頭を撫で続けていたいのとで悩んでいると、
「姉上っ!」
「?」
声の方を見ると、そこには赤髪の少年が立っていた。
(ああ、弟のアルフォンスね。父親と同じく真っすぐの赤毛で、顔は母親似で目が大きくてクリクリしていて……とんでもなく可愛いわ。確か10歳……天使のようね)
そう思っている間にその少年は駆け寄ってくると、片膝をついて頭を撫でてもらっているルークを見て、自分もその隣で同じように片膝をついたので、エリザベートは驚いて『なにをしているのっ!』と声を上げた。
「公爵家の嫡男がそんな事をしては駄目でしょう!」
「でも、その男はしてるじゃないですか」
「ルークはわたくしの騎士だからいいのよ」
「そんな……ずるい……」
「はあっ?」
目は潤んでいるし、口を尖らせて、なぜかわからないが拗ねている様子だ。
「一体なにがずるいと……」
「おそらくアルフォンス様は、その者がエリザベート様に頭を撫でてもらっている事を仰っておられるのかと……」
アルフォンスの護衛らしき若い騎士が歩み寄り、耳元でこっそりと囁いた。
「ええっ?」
見ると、アルフォンスは隣のルークを睨んでいる。
(アルフォンスはエリザベートにすごく懐いてるのよね。まだ子供だし、甘えたいのね)
「さあ、とにかく立って! ルーク、あなたはお水を飲んできなさい」
そう指示をして、渋々立ち上がったアルフォンスをテントの端に連れて行くと、自分の身体でアルフォンスを隠し、『あなたは次期公爵なのだから、ちゃんとその事を念頭においた行動をしなければなりませんよ』などと説教するフリをしながら、こっそり頭を撫でてやった。
「エリザベートお嬢様、訓練が終わったようなので、そろそろ参りませんと」
「そうね。それではお母様、わたくし、あちらに用がありますので」
そう言って席を立つと、フローレンスが少し首を傾げたので、エリザベートは説明をする。
「わたくしの水魔法で、練習終わりの騎士たちに水を用意しているのです」
「水を?」
「ええ。わたくしが作り出す水は、冷たくて人気なんですよ」
「そう……病み上りなのだから、無理はしないようにね」
「はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします」
丁寧に挨拶をし、エリザベートはアメリアと供にテントへ向かった。そして、ズラリと並ぶ空カップに水を満たしていく。
そしてそれが終わると今度はおかわり用にと沢山の水差しにも水を満たし……すべてが満タンになった頃、用具の片付けを終えた騎士達がドッとテントに押し寄せた。
「お嬢様! いつもありがとうございます!」
「お嬢様の水はとても美味しいです!」
「それになんだか、力が湧いてくるというか」
「疲れが吹き飛びます!」
「フフ、それは良かった。さあ、水差しもいっぱいにしておいたから、沢山飲んでね」
(……実は、わたしの作り出す水には、本当に回復の効果があるのよね)
ニコニコしながら、エリザベートは我先にと水を飲む騎士達を見た。
エリザベートが作り出す水の効力、それがわかったきっかけは、訓練でこってり絞られて動けなくなったルークに水を出して飲ませてやった事だった。
それまで指一本動かせないほどだったルークが、みるみるうちに回復したのだ。
獣人の回復力は凄いと感動したエリザベートだったが、ルークは違うと言う。
(え、もしかして、わたしの力? そういえばこの水飲んで命を取り留めたし、ルークのお尻の焼き印だって治ったのよね)
そう思い、それから色々と試行錯誤しているうちに、強く念じればポーション並みの回復力をもつ水を出せるようになっていた。
(ここで出す水は調節して、ちょーっと疲労回復する程度に抑えているけれどね。わずかな治癒能力でも、聖職者扱いされる世界だから、ここは)
この事を知っているのはルークとアメリアだけで、絶対に他言しないようにと言ってある。
(バレたら絶対、面倒な事になるもの。ヘタしたら婚約破棄できなくなるかもしれないし)
そんな事を考えていると、本来の目的であるルークがやってきた。新人なので、当番制の大きな器具の後片付けも毎回参加なのだ。
「エリザベート様!」
クタクタに疲れているようだが、エリザベートの姿を見ると、パーッと笑顔になって駆け寄ると、サッと片膝をついて頭を下げた。
「今日も頑張ったようね」
「はい!」
「偉い偉い」
頭を撫でてやると、嬉しそうに顔を上げてエリザベートを見た。
(はああ……可愛い。良く懐いたワンコって感じだわ)
早く水を飲ませてやりたいのと、喜んでいるのでずっと頭を撫で続けていたいのとで悩んでいると、
「姉上っ!」
「?」
声の方を見ると、そこには赤髪の少年が立っていた。
(ああ、弟のアルフォンスね。父親と同じく真っすぐの赤毛で、顔は母親似で目が大きくてクリクリしていて……とんでもなく可愛いわ。確か10歳……天使のようね)
そう思っている間にその少年は駆け寄ってくると、片膝をついて頭を撫でてもらっているルークを見て、自分もその隣で同じように片膝をついたので、エリザベートは驚いて『なにをしているのっ!』と声を上げた。
「公爵家の嫡男がそんな事をしては駄目でしょう!」
「でも、その男はしてるじゃないですか」
「ルークはわたくしの騎士だからいいのよ」
「そんな……ずるい……」
「はあっ?」
目は潤んでいるし、口を尖らせて、なぜかわからないが拗ねている様子だ。
「一体なにがずるいと……」
「おそらくアルフォンス様は、その者がエリザベート様に頭を撫でてもらっている事を仰っておられるのかと……」
アルフォンスの護衛らしき若い騎士が歩み寄り、耳元でこっそりと囁いた。
「ええっ?」
見ると、アルフォンスは隣のルークを睨んでいる。
(アルフォンスはエリザベートにすごく懐いてるのよね。まだ子供だし、甘えたいのね)
「さあ、とにかく立って! ルーク、あなたはお水を飲んできなさい」
そう指示をして、渋々立ち上がったアルフォンスをテントの端に連れて行くと、自分の身体でアルフォンスを隠し、『あなたは次期公爵なのだから、ちゃんとその事を念頭においた行動をしなければなりませんよ』などと説教するフリをしながら、こっそり頭を撫でてやった。
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