16 / 122
第一章
攻略対象?
しおりを挟む
応接室に戻り、新しく用意されたお茶を飲みながら手続きを待つ。
「先ほどの金額ですが、あれは魔法契約も含めた値段でございます。値段の交渉は致しておりません。支払いは一括のみです」
「ええ、結構です」
下見くらいの気持ちだったが、一応お金も用意してきていた。提示された額は、この場で支払うのに問題ない額だった。
「服はいかが致しますか? 新品の下着はサービスしておりまして、その他、別途金額はかかりますが、一般的な物からフォーマルな物まで取り揃えております」
「そうね、何枚かいただこうかしら」
そんな事を話していると扉がノックされ、少年が連れてこられた。
(ようやく来たわね。キレイになってるかしら)
そう思いながら戸口に視線を向けたエリザベートは、カッと目を見開き、思わず席を立った。
「なっ、なっ、なにっ? なんなの彼はっ!」
クルリとクセのある柔らかそうな金色の髪と、金色に輝く大きな瞳。袖なしのシャツとパンツという下着姿で、白い肌、痩せすぎで浮き上がって見える鎖骨と細い腕と脚が、痛々しいながらも庇護欲をかき立てるかなりの美少年だ。しかし、それよりも、
「この子、獣人だったの!?」
頭の上に、髪と同じ金色の毛でおおわれた耳がある。
(えっ? なんで? あっ! そういえばさっきは帽子被っていた、だから気が付かなかったんだわ!)
いろいろと言いたい事はあるが驚きで言葉が出ず、口をパクパクとさせてしまう。
「これは大変失礼致しました、説明不足で申し訳ございません」
ゴーディが深く頭を下げる。
「仰る通り、その者は獣人で、分類としては狼族です。先ほど申し上げた『元々の身体能力が高い』というのは、獣人だからという事です。そして金額が安いのも獣人だからです」
「……なるほど……」
「もちろん契約前ですので、お買い上げいただかなくて結構です」
「……そう、ねぇ……」
口元に手を持って行き、考える。
(獣人というのは驚いたけど、可愛いし、かなりいいわ。でも、もし彼が『例のあの人』だったら? ……いえ、そんな偶然、ある?)
「ねえあなた、お名前は?」
「ル、ルーク・ゴールド、です」
震える声で言った少年の金色の瞳には、怯えと絶望が見える。
「ルーク・ゴールド……」
(……これは、当たりなんじゃない? 悪い方の意味で)
「やはり、獣人はお嫌ですか?」
「え、ええ、まあ、なんというか……」
(いえ、獣人なのはいいわよ、素直でいい子そうだし、出来る事なら助けてあげたいわ! でも、この子ってアレでしょう? 攻略対象者! )
このゲームにはシークレットターゲット、というものがあって、条件を満たさないと出てこない攻略対象者がいるのだ。
(わたしは見た事ないけれど、たしか、獣人だって聞いたのよね。これだけ可愛くて金髪で金色の瞳でゴールドという名前なのは、そうなんじゃない? いかにもシークレットっぽいわ。もし彼が攻略対象だとしたら、ルチアと出会ったらわたしの事を裏切りそうだし、ここはやっぱり避けた方が無難……)
そう思いながらルークの方を見ると、
「お、お嬢様! お願いです! どうか僕を買って下さい!」
「えっ?」
目が合った途端、ルークは床に両膝をついて頭を下げた。
「お願いです! 何でもします! どうか!」
「えっ、えっ、ちょっと待って! 立って立って!」
エリザベートが驚いて言うとルークはとりあえず顔を上げたが、金色の両目からは涙がポロポロ溢れていた。
「そ、そんなに泣かれても……」
「不快な思いをおかけして申し訳ございません、お嬢様。お前達、立たせなさい」
ゴーディの指示で、控えていた使用人が乱暴に腕を引いて立たせる。
「ああ、あの、わたくしはいいから、丁寧に扱ってあげて、ねっ?」
可哀そうになりゴーディを見たが、首を横に振られてしまう。
「買っていただけないのであればこの者は店の商品ですので、扱いについては私に決定権があります」
「それは勿論そうでしょうが……あんなに泣いていて可哀そうだと……」
「さようでございますね。あの者は獣人ですし、買われるのは危険な鉱山や下級娼館くらいしょうから。そういう過酷な場所ではなく、お嬢様に護衛として買ってもらえると、期待してしまっての事でしょう」
「えっ……」
「しかし獣人がお嫌であればしかたありません。説明を漏らした私の責任ですので、お嬢様はお気になさらず」
そう言われても、気にせずにいられようか。
「獣人が嫌というわけではないの、ただちょっと驚いただけで…………魔法で奴隷契約をすれば、彼はわたくしを裏切らないのかしら?」
「ええ、それはもう。奴隷契約でも縛りますが、獣人の中でも狼族は、主人に従う性質をもっておりますので」
「誰かを愛したら、その人の為にわたくしを裏切る事はない?」
「嘘をつく事も、裏切る事もない、強力な契約を施せます」
「そう……」
絶望の表情を浮かべ、ボロボロ泣いている少年。
(ええいっ! これも縁よ!)
決心し、エリザベートはゴーディに言った。
「では、買います。ごめんなさい、ごねたりして」
エリザベートの言葉に、ゴールディは『とんでもない事でございます』と頭を下げた。
「私の説明不足のせいです。本当に、契約してよろしいので?」
「ええ。彼が裏切らないと聞いて安心したので、お願いします」
そう言いつつも『本当に裏切らないでしょうね? ヒロインの前では魔法契約も役に立たなかった! とか言わないわよね?』と不安に思ってしまうエリザベートだった。
「先ほどの金額ですが、あれは魔法契約も含めた値段でございます。値段の交渉は致しておりません。支払いは一括のみです」
「ええ、結構です」
下見くらいの気持ちだったが、一応お金も用意してきていた。提示された額は、この場で支払うのに問題ない額だった。
「服はいかが致しますか? 新品の下着はサービスしておりまして、その他、別途金額はかかりますが、一般的な物からフォーマルな物まで取り揃えております」
「そうね、何枚かいただこうかしら」
そんな事を話していると扉がノックされ、少年が連れてこられた。
(ようやく来たわね。キレイになってるかしら)
そう思いながら戸口に視線を向けたエリザベートは、カッと目を見開き、思わず席を立った。
「なっ、なっ、なにっ? なんなの彼はっ!」
クルリとクセのある柔らかそうな金色の髪と、金色に輝く大きな瞳。袖なしのシャツとパンツという下着姿で、白い肌、痩せすぎで浮き上がって見える鎖骨と細い腕と脚が、痛々しいながらも庇護欲をかき立てるかなりの美少年だ。しかし、それよりも、
「この子、獣人だったの!?」
頭の上に、髪と同じ金色の毛でおおわれた耳がある。
(えっ? なんで? あっ! そういえばさっきは帽子被っていた、だから気が付かなかったんだわ!)
いろいろと言いたい事はあるが驚きで言葉が出ず、口をパクパクとさせてしまう。
「これは大変失礼致しました、説明不足で申し訳ございません」
ゴーディが深く頭を下げる。
「仰る通り、その者は獣人で、分類としては狼族です。先ほど申し上げた『元々の身体能力が高い』というのは、獣人だからという事です。そして金額が安いのも獣人だからです」
「……なるほど……」
「もちろん契約前ですので、お買い上げいただかなくて結構です」
「……そう、ねぇ……」
口元に手を持って行き、考える。
(獣人というのは驚いたけど、可愛いし、かなりいいわ。でも、もし彼が『例のあの人』だったら? ……いえ、そんな偶然、ある?)
「ねえあなた、お名前は?」
「ル、ルーク・ゴールド、です」
震える声で言った少年の金色の瞳には、怯えと絶望が見える。
「ルーク・ゴールド……」
(……これは、当たりなんじゃない? 悪い方の意味で)
「やはり、獣人はお嫌ですか?」
「え、ええ、まあ、なんというか……」
(いえ、獣人なのはいいわよ、素直でいい子そうだし、出来る事なら助けてあげたいわ! でも、この子ってアレでしょう? 攻略対象者! )
このゲームにはシークレットターゲット、というものがあって、条件を満たさないと出てこない攻略対象者がいるのだ。
(わたしは見た事ないけれど、たしか、獣人だって聞いたのよね。これだけ可愛くて金髪で金色の瞳でゴールドという名前なのは、そうなんじゃない? いかにもシークレットっぽいわ。もし彼が攻略対象だとしたら、ルチアと出会ったらわたしの事を裏切りそうだし、ここはやっぱり避けた方が無難……)
そう思いながらルークの方を見ると、
「お、お嬢様! お願いです! どうか僕を買って下さい!」
「えっ?」
目が合った途端、ルークは床に両膝をついて頭を下げた。
「お願いです! 何でもします! どうか!」
「えっ、えっ、ちょっと待って! 立って立って!」
エリザベートが驚いて言うとルークはとりあえず顔を上げたが、金色の両目からは涙がポロポロ溢れていた。
「そ、そんなに泣かれても……」
「不快な思いをおかけして申し訳ございません、お嬢様。お前達、立たせなさい」
ゴーディの指示で、控えていた使用人が乱暴に腕を引いて立たせる。
「ああ、あの、わたくしはいいから、丁寧に扱ってあげて、ねっ?」
可哀そうになりゴーディを見たが、首を横に振られてしまう。
「買っていただけないのであればこの者は店の商品ですので、扱いについては私に決定権があります」
「それは勿論そうでしょうが……あんなに泣いていて可哀そうだと……」
「さようでございますね。あの者は獣人ですし、買われるのは危険な鉱山や下級娼館くらいしょうから。そういう過酷な場所ではなく、お嬢様に護衛として買ってもらえると、期待してしまっての事でしょう」
「えっ……」
「しかし獣人がお嫌であればしかたありません。説明を漏らした私の責任ですので、お嬢様はお気になさらず」
そう言われても、気にせずにいられようか。
「獣人が嫌というわけではないの、ただちょっと驚いただけで…………魔法で奴隷契約をすれば、彼はわたくしを裏切らないのかしら?」
「ええ、それはもう。奴隷契約でも縛りますが、獣人の中でも狼族は、主人に従う性質をもっておりますので」
「誰かを愛したら、その人の為にわたくしを裏切る事はない?」
「嘘をつく事も、裏切る事もない、強力な契約を施せます」
「そう……」
絶望の表情を浮かべ、ボロボロ泣いている少年。
(ええいっ! これも縁よ!)
決心し、エリザベートはゴーディに言った。
「では、買います。ごめんなさい、ごねたりして」
エリザベートの言葉に、ゴールディは『とんでもない事でございます』と頭を下げた。
「私の説明不足のせいです。本当に、契約してよろしいので?」
「ええ。彼が裏切らないと聞いて安心したので、お願いします」
そう言いつつも『本当に裏切らないでしょうね? ヒロインの前では魔法契約も役に立たなかった! とか言わないわよね?』と不安に思ってしまうエリザベートだった。
69
お気に入りに追加
4,340
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる