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第一章
日記の内容
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「ううううう……」
ベッドの中から聞こえる呻き声に、アメリアは不安げな顔で老医師を見た。
「先生、本当にお嬢様は大丈夫なのでしょうか」
「熱はありますが、他に異常は無いので大丈夫。恐らく、この間の出来事の後遺症でしょう」
「後遺症って……何かお薬とか飲んだ方が良いのでは?」
「そうですなぁ……回復を早めるポーションが一番良いでしょうが……」
老医師はそう言いながら、困ったようにエリザベートを見る。
「……ポーションは、マズイから、イヤ……」
熱で顔を真っ赤にしながらも、エリザベートは呻くように拒否した。
(ポーションって聞いてワクワクしながら飲んでみたけど、マズイのなんのって……それにたぶんコレ、知恵熱みたいなものよね。エリザベートの記憶が脳にインプットされるための……)
日記を読み終えた翌日から熱を出し、エリザベートは再びベッドの住人となった。
(酷い内容だったわ……)
相思相愛とまではいかなくとも、お互いを尊重し、まあまあ仲良くやっていた王太子とエリザベートの前にルチア・ローズが登場すると、その関係は一変した。
(……あのアホ王子……自分が王太子で、婚約者持ちっていう自覚あるの?)
ベッドの中でエリザベートは、熱と怒りでワナワナ震えた。
エリザベートの日記に書かれていた、ルチア登場のシーン。
『ピンクの髪をなびかせ、不安げにあたりをキョロキョロ見ている男爵令嬢を見たレオン様は、わたくしの腕をほどき、彼女に駆け寄った。そして、どうかしたのかと尋ねると、彼女は、移動教室がわからず、迷ってしまったと答えた。
レオン様が案内すると言うので、勿論わたくしも同行する事に。
男爵令嬢とはいえ、つい最近まで平民として暮らしてきた彼女に、同級生の令嬢達は冷たいらしい。今日も授業が移動教室になった事を教えてもらえず、一人取り残されたのだとか。
確かに、そんなくだらない嫌がらせをする同級生達はどうかと思う。そんな噂を耳にし、くだらないマネを、と思っていた。
けれど、レオン様と寄り添うように並んで歩く彼女を後ろから見ていて、その気持ちが解った。
いくらなんでも、わたくしが彼の婚約者だということは知っているだろう。それなのに、当たり前のように並んで歩くなんて。この場合、わたくしの隣を歩くべきではないの?
婚約者のいる男子生徒と二人きりでいる事がよくあるという噂を聞いたが、こういう事なのだろう。
これまで、そんなことで目くじらをたてなくてもいいのに、と思っていた令嬢方には悪い事をしたと思う。
実際に自分がされて初めて、その不快感がわかった。
今後彼女とは、関わり合いたくない。まあ、わたくしもレオン様も、彼女とは学年が違うので大丈夫だとは思うけれども』
そんな出会いから始まって、エリザベートの思いとは裏腹に、ルチアとの関わりはどんどん増えていった。
正確には、ルチアとレオンハルトの関わりが、だが。
二人きりで図書館にいたり、校庭のベンチに並んで腰かけていたり、ルチアのピンクの髪を飾っている髪留めがレオンハルトからの贈り物だったり……。
令嬢達からそんな報告され、エリザベートは不満を募らせていった。
『レオン様は、彼女に特別な感情を持っているわけでないと仰る。たまたま会ったとか、手作りのお菓子をもらったお礼だとか……。しかし、わたくしには贈り物などしてくれた事がないのに、お菓子のお礼として国一番の細工師にこしらえさせ、アレキサンドライトの石をはめ込んだ髪飾りをあの子に? こうなったら、彼女に直接抗議してやらなければ』
『今日、彼女を図書館で見つけたので抗議をした。レオン様はわたくしと婚約しているのだから、二人きりで会うのは非常識だと。それに、釣り合いのとれていないお礼を受け取るのも非常識だと伝えたら、彼女は知らなかったと泣き出した。
知らなかった? 何を?
レオン様に婚約者がいる事? それとも、髪飾りが高価な物である事?
そんなわけないでしょう!
平民であってもこの国の人間なら、王太子に婚約者がいる事は知っていて当然だわ。それに、髪飾りが最高級品だという事くらい、見てわかるでしょう? 周りの人達にも言われたはずよ?
……そう言いたかったけれど、言う事は叶わなかった。
レオン様が、いらっしゃったから。
レオン様は、なぜルチアを泣かせたとわたくしを罵った。
勿論、事情を話そうとしたけれども、わたくしの話を遮り、泣いているあの女の肩を抱いた。
騒ぎに大勢の生徒が集まってきた中で、わたくしを酷い女だと罵った。
酷いのは、レオンハルト様でしょう!
婚約者であるわたくしを蔑ろにし、大勢の前で断罪した。
これまで、アレキサンドライト王国の為に、レオンハルト様の為に努力してきたのはわたくしなのに!
庇ってもらった事も、プレゼントを贈られた事も、わたくしは一度も無い!
悔しい!
ルチア・ローズが憎い!
絶対に許さない! 許してなるものか! この屈辱! この絶望! 絶対に思い知らせてやる!』
ベッドの中から聞こえる呻き声に、アメリアは不安げな顔で老医師を見た。
「先生、本当にお嬢様は大丈夫なのでしょうか」
「熱はありますが、他に異常は無いので大丈夫。恐らく、この間の出来事の後遺症でしょう」
「後遺症って……何かお薬とか飲んだ方が良いのでは?」
「そうですなぁ……回復を早めるポーションが一番良いでしょうが……」
老医師はそう言いながら、困ったようにエリザベートを見る。
「……ポーションは、マズイから、イヤ……」
熱で顔を真っ赤にしながらも、エリザベートは呻くように拒否した。
(ポーションって聞いてワクワクしながら飲んでみたけど、マズイのなんのって……それにたぶんコレ、知恵熱みたいなものよね。エリザベートの記憶が脳にインプットされるための……)
日記を読み終えた翌日から熱を出し、エリザベートは再びベッドの住人となった。
(酷い内容だったわ……)
相思相愛とまではいかなくとも、お互いを尊重し、まあまあ仲良くやっていた王太子とエリザベートの前にルチア・ローズが登場すると、その関係は一変した。
(……あのアホ王子……自分が王太子で、婚約者持ちっていう自覚あるの?)
ベッドの中でエリザベートは、熱と怒りでワナワナ震えた。
エリザベートの日記に書かれていた、ルチア登場のシーン。
『ピンクの髪をなびかせ、不安げにあたりをキョロキョロ見ている男爵令嬢を見たレオン様は、わたくしの腕をほどき、彼女に駆け寄った。そして、どうかしたのかと尋ねると、彼女は、移動教室がわからず、迷ってしまったと答えた。
レオン様が案内すると言うので、勿論わたくしも同行する事に。
男爵令嬢とはいえ、つい最近まで平民として暮らしてきた彼女に、同級生の令嬢達は冷たいらしい。今日も授業が移動教室になった事を教えてもらえず、一人取り残されたのだとか。
確かに、そんなくだらない嫌がらせをする同級生達はどうかと思う。そんな噂を耳にし、くだらないマネを、と思っていた。
けれど、レオン様と寄り添うように並んで歩く彼女を後ろから見ていて、その気持ちが解った。
いくらなんでも、わたくしが彼の婚約者だということは知っているだろう。それなのに、当たり前のように並んで歩くなんて。この場合、わたくしの隣を歩くべきではないの?
婚約者のいる男子生徒と二人きりでいる事がよくあるという噂を聞いたが、こういう事なのだろう。
これまで、そんなことで目くじらをたてなくてもいいのに、と思っていた令嬢方には悪い事をしたと思う。
実際に自分がされて初めて、その不快感がわかった。
今後彼女とは、関わり合いたくない。まあ、わたくしもレオン様も、彼女とは学年が違うので大丈夫だとは思うけれども』
そんな出会いから始まって、エリザベートの思いとは裏腹に、ルチアとの関わりはどんどん増えていった。
正確には、ルチアとレオンハルトの関わりが、だが。
二人きりで図書館にいたり、校庭のベンチに並んで腰かけていたり、ルチアのピンクの髪を飾っている髪留めがレオンハルトからの贈り物だったり……。
令嬢達からそんな報告され、エリザベートは不満を募らせていった。
『レオン様は、彼女に特別な感情を持っているわけでないと仰る。たまたま会ったとか、手作りのお菓子をもらったお礼だとか……。しかし、わたくしには贈り物などしてくれた事がないのに、お菓子のお礼として国一番の細工師にこしらえさせ、アレキサンドライトの石をはめ込んだ髪飾りをあの子に? こうなったら、彼女に直接抗議してやらなければ』
『今日、彼女を図書館で見つけたので抗議をした。レオン様はわたくしと婚約しているのだから、二人きりで会うのは非常識だと。それに、釣り合いのとれていないお礼を受け取るのも非常識だと伝えたら、彼女は知らなかったと泣き出した。
知らなかった? 何を?
レオン様に婚約者がいる事? それとも、髪飾りが高価な物である事?
そんなわけないでしょう!
平民であってもこの国の人間なら、王太子に婚約者がいる事は知っていて当然だわ。それに、髪飾りが最高級品だという事くらい、見てわかるでしょう? 周りの人達にも言われたはずよ?
……そう言いたかったけれど、言う事は叶わなかった。
レオン様が、いらっしゃったから。
レオン様は、なぜルチアを泣かせたとわたくしを罵った。
勿論、事情を話そうとしたけれども、わたくしの話を遮り、泣いているあの女の肩を抱いた。
騒ぎに大勢の生徒が集まってきた中で、わたくしを酷い女だと罵った。
酷いのは、レオンハルト様でしょう!
婚約者であるわたくしを蔑ろにし、大勢の前で断罪した。
これまで、アレキサンドライト王国の為に、レオンハルト様の為に努力してきたのはわたくしなのに!
庇ってもらった事も、プレゼントを贈られた事も、わたくしは一度も無い!
悔しい!
ルチア・ローズが憎い!
絶対に許さない! 許してなるものか! この屈辱! この絶望! 絶対に思い知らせてやる!』
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