悪役令嬢の無念はわたしが晴らします

カナリア55

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第一章

日記発見

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 意識を取り戻してから5日目。
 専属侍女のアメリアや筆頭執事のフィールドから教えてもらい、この世界の事がだいぶ分かってきた。

 アレキサンドライト王国は、先代王の時代に戦争があり、領土拡大をし大きい国になった。現在は平和で豊かで安定している。
 世界観としては17~18世紀頃のヨーロッパ的な感じで、王、騎士、お姫様、フリフリのドレス、剣、馬、馬車、等が活躍中。王都では上下水道が整備されていて、蛇口をひねれば水が出て、トイレは水洗。疫病等が発生する危険は少なく衛生的だ。
 電気は無いが、その代わりに『魔石』と呼ばれる石を動力とする魔道具が多数ある。高価な物なので、庶民にはあまり普及していないようだが、貴族や金持ちの屋敷では、照明に魔石が使われ、冷暖房、冷蔵庫、コンロ等の生活を便利にする物がそろっている一方、テレビやラジオ、映画等は無く、オペラや演劇が娯楽として栄えている。
 華やかで古典的で便利。ファンタジーと現実のいいとこどりという感じは、さすがゲームの世界、といったところだ。
 豪華な部屋で、煙や匂いの出ない照明を使い、お風呂は猫足の浴槽とシャワーがついていて、侍女達に肌に優しい化粧水やクリーム、良い香りのオイルで全身のお手入れをしてもらい、美味しい食事をとって、フカフカのベッドで眠る。エリザベートの生活はとても快適だ。  
 そんな生活ができるスピネル公爵家は由緒ある大貴族で、広大な領土を持つ国有数の金持ちだ。先代は戦略に長けていて、数々の手柄を立て国土拡大に貢献したという。エリザベートの父親もその血を受け継ぎ、戦争のない現在では外交でその手腕を生かし、国王陛下の信頼も厚いとの事。

(娘が王太子の婚約者になって、王家との繋がりがさらに深くなるはずだったのにね)

 未だに見舞いにも来ないのは、今回の事を怒っての事だろうか。

(ふんっ、わたしが悪いんじゃないわ! 王太子が全部悪いのよ!)

 そんな事を思いつつ、事件の事について何か手掛かりになる物はないかと広い自室の探索をしていて発見した物がある。

「これ、日記よね」

 机の一番下の大きな引き出しの中に収められていた、たくさんの布張り表紙の日記帳。

「……これはエリザベートが書いたもので、わたしが書いた物じゃないのよね……でも、これからの為に……ごめんなさいエリザベート、読ませてもらうわね」

 日付を確認すると、日記は10歳の頃から書かれていた。

「今日食べたケーキがおいしかった」
「大好きなハンバーグににんじんが入ってた。だまされた。でも食べられたので良かった」
「ねこが飼いたい」
「馬に乗れるようになりたい」

 最初のうちはそんなかわいい事が書かれてあり、ほっこりしながら読み進めたが、12歳でレオンハルトと婚約してお妃教育が始まってからは、内容が一変した。
 国の歴史、貴族達の家系、関係、近隣国との関係、他国語、礼節、ダンス……とにかくもう、毎日毎日勉強だらけだった。

「子供にこんなに沢山の事をさせるなんて信じられない。しかも、友達の令嬢達と距離を置くように言われてるわ。ひどい……」

 そして読んでいるうちに、だんだんとその時の事が思い出されてきた。

「体の記憶、なのかな……本当に自分がしたことみたいに感じられる……」

 忙しくて、大変で、永遠に終わらないと思われる勉強と、一人の孤独。

「ううっ……辛くなってきた……」

 しかし、時折レオンハルトとお茶を飲んだり、散歩をしたり、ダンスの練習をしたり……そういう事が書かれているところを読むと、フワッと胸の奥が暖かくなり、幸せな気持ちになった。

「レオンハルトの事が好きだったのね……だから、頑張れたんだ……」

 日記からは、レオンハルトも少々我が儘で高圧的なところがありつつも、エリザベートを婚約者として尊重していることが伺えたが、

「さて……ここから、ね」

 最後の一冊。
 これまでの物と同じような表紙なのに、なんだかおどろおどろしく感じる。
 
「これからヒロインが出てきて、レオンハルトを取られちゃうのね……」

 気が進まないが、この世界で生き延びる為には避ける事はできない。

「これは、攻略本みたいなものよね。そうよ、ありがたく読ませていただきます」

 手を合わせ、感謝の気持ちを示してから、エリザベートは表紙を捲った。
 

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