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嵐のような

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「はぁ……驚くわね、あなたのその思考」

 腰に手を当てた寧々は『参った』というように首を振った。

「な……なんですか? 笹原さん」
「また仕事をさぼってどっかに行ったと思ったら、こんなところで大声で演説しているから、一緒に聞かせてもらったのよ。ね、本郷さん」
「そーゆー事。いやー、随分思い上がった考えをお持ちのようで」

 隣に立つ男性も呆れたように苦笑する。

『えーと、本郷さん? 確か、寧々さんと同期の人だよね? 何度か寧々さんと話しているのを見た事が……あの人の事素敵だって言う子が結構いるんだよね……』

 紫音が記憶を手繰り寄せている横で、理央が涙声で訴える。

「そ、そんな! 思い上がった考えなんて誤解です! わたしはただ、水森さんに嫌がらせをされたから抗議しただけです。わたしが自分より先にプロジェクトに呼ばれたからそれを妬んで意地悪を……」
「いや違うでしょ。俺、最初から聞いてるし」

 そんな理央に、本郷はピシャリと言った。

「吉田さん、水森さんに対してとんでもない暴言吐いてたよね。高卒のくせにだとか、自分は副社長と親密な仲だから、逆らったら酷い目にあわせてやるとか」
「それは! それは違います! そんな事言ってません!」
「あ、そう? 俺の勘違いか? 笹原さん、どうだっけ?」
「んー、確かにそうは言ってなかったかも。でも、内容的にはそんな感じの事だったわよね?」

 寧々はちょっと首を傾げながらそう言い、紫音を見る。

「あ……はい、そういう事、でしたね……」

 そんな三人の会話を聞きながら、理央はプルプル震えていた。
 顔には、怒りの表情が浮かんでいる。

「……酷い……わたしを嵌めたんですね!」
「いやいや、何言ってんの。君が勝手にした事でしょう。全然、仕向けたりしてないよ? ねえ、笹原リーダー?」
「そうね、こっちは何もしていないわ。むしろ、コンプラ委員会に呼び出されたり、仕事をさぼられたりして困ってるんですけど」
「…………」

 少しの沈黙の後、

「失礼します! こんなくだらない話、している時間がもったいないので」

 そう言ってその場を後にしようとした理央に、寧々が『あー、ちょっと訂正しておく事が』と声をかけた。

「さっき、自分が水森さんより早くプロジェクトに呼ばれたって言ってたけど、それ違うから。わたしは水森さんをって希望したんだけど、そちらの部署が、水森さんは出したくないって言って。じゃあ誰もいらないって言ったのに、強引にあなたを押し付けて来たのよ。これまで様子を見てきたけど、仕事が出来ないってだけじゃなくやる気がないようだから、相談させてもらうわね」

 その言葉に理央は、物凄い形相で寧々を、そして紫音を睨んでから去って行った。



「……えーと……」

 嵐の直撃を受けた後のような疲労感を感じながら、紫音は寧々を見た。

「ネネさん、ありがとうございます」
「えっ? なにが?」
「あー、えーと……プロジェクト、呼んで頂いてたようで……」
「ああ! うん、でも結局、許可もらえなかったんだけどね、力不足で……ごめんね」
「そんな事ないです、ありがとうございます。それに、今のも……ちょっとスッキリしました」

 紫音がそう言うと、本郷が『これからもっとスッキリするよ』と笑った。

「さっきのやり取り、ちゃんと録音しておいたから、コンプラ委員会に提出してきちんと処理してもらうよ」
「録音してたんですか?」
「そっ。吉田さんが笹原リーダーにパワハラされたって嘘言って騒いだから、今後は身を守る為にも、ちゃんと証拠を残しておかなきゃと思ってね。副リーダーとして、リーダーを支えなきゃいけないから。あ、俺、プロジェクトの副リーダーやってる本郷です」
「水森です」

 ここで改めて、お互いに自己紹介をする。

「彼はわたしと同期で、これまでにリーダー経験もあって、まあ、副リーダーっていっても、実際は初めてプロジェクトリーダーになったわたしの相談役って感じね。……さてと、もう少し話していたいところだけど、まだチームで残業してる人もいるから、戻らなきゃ。また後でゆっくりとね」
「あ、はい! お疲れ様です」
「じゃあねー、水森さん」

 そして二人は『彼女戻って仕事してると思う?』『いや、ほったらかして帰ったんじゃねぇ?』などと会話しながら去ってゆき、

「……帰るか……」

 残された紫音は、今度こそ、と思いながらエレベーターのボタンを押した。
 

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