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愛してる

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『……準備って……ちゃんと用意してくれてたんだ……』

 なにやら部屋の外から『バタン、ドタドタ、バサバサ』と音がするのを聞きながら、紫音は布団で体を隠し、目を閉じた。

『やっぱり、アッキーはいいな……』

 こんな時に思い出したくはないが、初めて『そういう事』をした人の事を思い出す。

『初めての時はもう、なにがなんだかわからなくて、されるがまま、だったんだよね。でも二回目に、ちょっと余裕が出来て気にしてたら、あの人、そのまましようとしてきて……だから、ちゃんと着けてって言ったら……』

『えっ? 今日って、危ない日なの?』

 その時言われた言葉を思い出し、思わず叫びたくなる。

『そーゆー問題じゃないでしょ! なんなの? 危ない日以外は着けなくていいってあの発想は! で、それは困るって言ったら『今日は持ってないからいいでしょ? 次は用意するから』って続けようとしたあの非常識さ! 嫌だって断ったら渋々止めたけど、その後、連絡しても無視されて、自然消滅よ』

 意識して思い出さないようにしているが、今でもふとした瞬間に思い出してしまい、嫌な気分になる記憶だ。

『しかも悔しいのは、『あんな事言って断ったわたしが悪かったのかな』って、しばらくの間、後悔しちゃった事。……今ならわかる。あの人は、わたしの事がそんなに好きじゃなかったんだ。ただ、楽しみたかっただけで、わたしの身体の事とか、生活の事とか、なんにも考えてくれていなかったんだろう。むしろ良かった、早くそれに気づけて……』

 その後、男性不信に陥り、彼氏なんてしばらく要らないと思って生活してきた。
 そのおかげで、今、再会した明弘とこうやって抱き合う事ができている、と思うと、心の底から『良かった』と思ったが、

『あーもう、昔の事を考えるのは止めよう。今は、アッキーとの事に集中するの!』

 紫音が心の中でそう決めたとき、寝室のドアが開いた。

「ごめん、遅くなって……寝ちゃった?」
「ううん、起きてるよ」

 なんだか恥ずかしくて、紫音は目を瞑ったまま返事した。

「良かった……なんか慌てちゃって、どこに置いたかわかんなくなって」
「……用意してたんだ」
「う、うん、必要になるかどうかわかんなかったけど、希望も込めて、あった方がいいかなって思って……この間しーちゃんのとこから帰る途中で早速買って……」

 ベッドがギシッと揺れ、明弘が乗ったのがわかる。
 布団をはぎ取られて目を開けると、目の前に、明弘のスッキリとした裸体があった。
 改めて見ると、細いが腕や腹には適度に筋肉がついていて、色気がある、と感じる。

「アッキー、何か運動してるの?」
「んー、あんまり。たまに、ここにあるジムでちょっと走ってみたり筋トレしてみたり、くらいかな」
「ここ、ジムもあるんだ」
「うん、住人が使えるヤツで、そんなに本格的ではないけどね」

 そう言いながら、明弘は紫音の太腿を擦り、そして、両膝の裏に手を差し込んで、グイッと上に上げた。

「あっ……」

 腰が浮き、苦しい格好になるが、我慢する。

「じゃあ……いい?」
「うん……」

 さっき指で中を探られたその入り口に、指よりもずっと存在感のあるものがあてがわれた。
 溢れる蜜をまとわせるように何度かそこを往復した後で、まずはグッと、先端が入れられる。

「あぁ……」

 紫音から漏れた熱を帯びた声に、明弘は頭の後ろが痺れるような感覚を覚えた。

『……キツイ……そして温かい、しーちゃんの中……』
 
 入れたら少し抜いて、更に奥へと入り込む。
 何度かその動作を繰り返し、紫音の中に完全に、その昂ぶりを収めた。

「……っはあっ……しーちゃん……大丈夫?」
「う、ん……」

 苦しそうに、潤んだ瞳で見上げる紫音に、身体の奥が『ドクン』と大きく脈打つ。

『ヤバ……イキそう……』

 唾を飲み込み、大きく息を吸い、明弘は落ち着きを取り戻そうと努力する。

「しーちゃん、動くよ?」
「うん、うん」

 辛そうにしつつも、紫音は頷いた。

『痛いのかな? 苦しいのかな? でも、うんって言ってくれたから、大丈夫だよね?』

 ゆっくりと腰を動かし楔を抜いていくと、絡みつくような吸い付きを感じる。
 そして再び一気に押し込むと、グチュ、という濡れた音がして更に昂る。

「ああ……しーちゃん……」

 どんどん気持ちは昂ぶり、動きが早くなる。
 
「はぁんっ、あんっ、あんっ」

 最初のうちは声を出さないように我慢していた紫音だったが、奥まで一気に突き上げられるその衝撃に耐えきれなくなり、打ち込まれるのに合わせて声を上げ、その声に更に煽られた明弘は、腰を動かすスピードを上げた。
 気持ち良くて、切なくて、色々な感情が溢れ訳が分からなくなる。

「はあっ、あっ、愛してる、シオン!」

 堪らなくなりそう声を上げた次の瞬間、キューッと紫音の中が収縮し、締め付けられた明弘は、耐えきれずに精を吐き出した。


 
「……しーちゃん、急に締め付けるんだもん……」
「アッキーが、急に『シオン』って呼ぶから……」

 意図していなかったタイミングでイッてしまった事をぼやく明弘に紫音が言い返し……二人は、顔を見合わせて笑った。

 力を失った明弘の楔がゆっくりと抜かれると、紫音は『ふーっ』と息を吐いた。

「……まあ、わたしはもう限界だったし……」
「俺はもうちょっと頑張りたかった。ちょっと待ってね、すぐ復活するから」

 その言葉に、紫音はギョッとしたように目を見開いた。

「無理! 無理だよもう。今日はおしまい!」
「え? 本当に?」
「本当に。それに、こうして一緒に寝るのもいいじゃない」
「……まあ……そうだけど……」

 名残惜しそうに胸を触ってくる明弘を、紫音は抱きしめた。

「また今度、すればいいじゃない。だってこれから、わたし達付き合うんでしょ?」
「えっ? あっ、そっか、そうだよね! よろしくね、しーちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 そう言って二人は短いキスをした後、抱き合ったまま目を閉じた。

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