上 下
33 / 44

説明と告白

しおりを挟む
 寝室からリビングへと移動し、紫音は高そうな黒い革張りのソファーに座った。
 
「何か飲む?」
「あー、えーと、水を……」
「お茶とかあるけど、水でいいの? ちょっと待っててね」

 キッチンに向かう明弘を見ながら、広いリビングをキョロキョロと見る。
『壁ですか?』と言いたくなるような大きいテレビ、サイドボードとキャビネットは恐らく同じシリーズの黒いシンプルで高そうな物だし、飾り棚にはキラキラ輝くグラスやティーセットが並んでいる。
 そして、六人掛けの黒い大きなテーブルなんて、一人暮らしで必要なんだろうかと不思議になる。
 まあ、それを言うなら、この部屋自体大きすぎると思うのだが。

『なんなの、この家は。モデルルームかなんかみたい。アッキーが一人で暮らしているとは……』

「はい、水どうぞ。お茶欲しくなったら言ってね」

 そんな事を考えていたら、明弘がグラスをローテーブルに置き、紫音の隣に座った。

「ありがとう」

 シャキッとしようとコクコク水を飲み、ふとグラスを見ると、この部屋に似つかわしくない微妙なイラストが入った安そうな物だった。

「……これ、猫?」
「え? どうだろう……ウサギ? 100円ショップで買ったんだけど、大きさで選んだから、模様はあんまり見てなくて」
「アッキーらしい」

 クスクスと笑う紫音に、明弘は恥ずかしそうに『だって……』と言った。

「ここにあるグラスって、やたら重いのとか、薄くて持つのが恐いのとか、そんなのばっかりだったからさぁ」
「ここにある物って、アッキーが選んだんじゃないの?」
「うん。なんか……インテリアコーディネーター? とかいう人に頼んだらしくて。全然落ち着けないんだけど、だからといって家具とか買い替えるのはもったいないし、そのまま使ってるんだ」
「へー、凄いね」
「全然。だってこれは、父親が用意してくれたもので、俺の物じゃないっていうか……なんか、恥ずかしくって、この間しーちゃんが見舞いに来てくれるって言ったのも、すごく嬉しかったけど、ここ見られたくなくって断っちゃったし……」
「ふーん、そうだったんだ……」

 会いたくないというわけではなかった事を知り、ホッとする。

「アッキーのお父さんって、何しているの?」
「俺がバイトしているところの社長っていうのが、実は父親なんだ」
「あー、なるほど……」

 そう言われると、腑に落ちる。

「そういえば、お父さんの事とかお母さんの事とか、全然聞いてなかったね」

 なんとなく尋ねづらくて、全く話題にしていなかった。

「もし良かったら、教えて?」
「うん、俺も、ちゃんと説明したいって思ってた。実家は都内で、祖父母と父と再婚相手の義母と妹が住んでる。妹はまだ2歳なんだよ」

 明弘は、笑顔で説明した。

 大きな会社の経営者である祖父は、ごく普通の家庭で育った明弘の母との交際に反対していたという。しかし、妊娠した事により渋々結婚を認めたが、結局義父母との関係がうまくいかず、数年で離婚してしまった。
 祖父母は『清々した。これでもっと家柄の良い嫁を迎えられる』と喜んだそうだが、明弘の父は『もう結婚なんかしない』と言って、アメリカの支社へずっと行きっぱなしになってしまった。
 
「俺の事件が起きた頃には、祖父母は昔の事をすごく悔やんでいたから、快く俺を引き取ってくれたし、母親の事も色々面倒見てくれたらしいよ。まあ、俺はあれ以降、母親とは会っていないんだけどね」
「そうなんだ……」
「で、父さんは、ずっと再婚なんてしないって言ってたんだけど、日本に戻ってきてから運命の出会いをして、結婚して、俺が大学に入るちょっと前に妹が生まれたんだ。で、ちょうどいい機会だから、大学入ったら一人暮らしするって言ったら、相談もなくこのマンションが用意されていたってわけ」
「はあ……すごいね」
「凄すぎるよ……俺、こんな所、全然馴染めないんだけど……でも父さんが……」
「お父さんが?」

 隣で、ソファーの上で膝を抱えて俯く明弘の顔を覗き込む。

「女性は夜景とか好きだから、この部屋は絶対ウケがいい、って言うから……しーちゃんが、気に入ってくれるかなって……」
「えっ? わたし?」

 前後に揺れ出す明弘。

「いつか、しーちゃんが来てくれたらなって、思って……」
「……でも、この間はバレたくなかったんでしょ?」
「……よく考えたら、引かれるような気もしてきて……」
「あー……」
「引いた?」
「ううん、別に……」
「良かった……あー、もっと早く、ちゃんと言っておけば良かったよ」

 ホッとしたように笑い……しかし、すぐに真顔になり、明弘は立ち上がった。
 そして、床に膝をつき、ソファーに座る紫音を見上げ、手を握った。

「しーちゃん、大好きです。どうか、俺と付き合って下さい。お願いします!」

 突然の言葉に一瞬驚いたが、

「え、っと……はい……お願い、します」

 紫音は頬を染めながら、ペコリと頭を下げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...