31 / 44
危機一髪
しおりを挟む
紫音の働いている会社は、行ったことはないものの知っていたので、調べてすぐに場所がわかった。
会社が入っているビル前に着き、時間を確認する。
『6時ちょい過ぎか……仕事は6時までだから、まだ出て来てないよな?』
バレないようにと考え、道路を挟んだ向かい側に移動し、正面入り口が見える場所にさりげなく陣取った。
『よし、ここでしーちゃんが出てくるのを見張っていよう』
そうして待つ事30分。
『あ!』
紫音が、若い男性と出てきたので、少し後ろから後を追う。
途中で道路を渡り、うまい具合に見失わず目的地までついて行った。
『ここで飲むのか……どっか、ここが見える所ないかな……うーん、ないなぁ……』
おそらく、2時間前後はかかるだろう。店の前でそんな長い時間立っているというのは、不審に思われるかもしれない。
『……中で待てるか、確認してみようかな……』
新しい客が入っていく時にチラリと見えた店内は、席が仕切られて暖簾もかかっているようだ。
「いらっしゃいませー! 何名様ですかー?」
中に入ると、女性店員に元気よく声をかけられる。
「あー、一人なんですけど……」
「はいっ! ではお席にご案内しますね!」
「あ、えっと……できれば入り口近くがいいんですが……」
「では、こちらのお席いかがですか? 二人用で狭いんですけど」
「あ、いいです! ありがとうございます」
レジのすぐ横の席に座る事ができ、明弘はホッと息をついた。
『ここ、帰る人が見えて最高じゃん。仕切りと暖簾のおかげで、覗き込まれない限りバレないだろうし』
そうして、酔わない程度に飲み、食事をし、紫音から連絡がこないかスマホを見ながら約2時間。
「水森さん、大丈夫?」
そんな声が聞こえ、明弘はパッとメニュー表で顔を隠しながらレジの方を見た。
男性に支えられながら、おぼつかない足取りで歩いているのは、間違いなく紫音だ。
『あれって、来るとき一緒だった人か? 店で合流かと思ってたけど、他の人はいなかったのかな。って、それよりも、しーちゃんどうしちゃったんだろう。具合悪いのか?』
慌てて会計を済ませて店の外に出ると、二人はまだ店の前にいた。
少し離れ、様子を覗う。
『そっか、タクシー拾おうとしてるんだ。まあ、ここならすぐつかまるよな。まだ早いから、空車も多いし』
そう思ったのだが、紫音を支えている男は、一向にタクシーを止めようとしない。
そしてそのうち、紫音を抱えるようにして移動を始めた。
『おいおい、どこ行くんだ? もしかして電車で帰ろうとしてる? いや、あんな状態じゃ無理でしょう……』
不安になりながら、少し距離を開けて、二人の後を追った。
『あの人、しーちゃんと同じ方向の電車なのかなぁ……もしかして、家まで送る気とか? いや、それは駄目だよ。そうだ、いざとなったら偶然会ったふりして、俺がしーちゃんを送ってくことにしよう』
そんな事を考えながら、後をついて行ったのだが、
『ん? こっちから駅行けるのかな』
大きな通りではなく、脇道に入って行く。
人も少なくなり、なにやら薄暗い。
『え? なんか、雰囲気がちょっと違うっていうか……』
その時、二人が立ち止まり、明弘は慌てて側の電柱の陰に身を寄せた。
微かに、声が聞こえてくる。
「…………休んで……」
「…………」
「変な事しない…………」
「…………だいじょぶ……」
『えっ? 何言ってんだ?』
様子がおかしいと、明弘はもう一つ先の電柱まで進んだ。二人のすぐ近くなので、さっきよりもはっきりと会話が聞こえる。
「いやいや、大丈夫じゃないでしょ。本当に、休むだけだよ。こんな、具合が悪い女性を、どうこうしようなんて思わないから……まあ……本当は……君の事好きだから、そういう事もしたいけどね」
『なっ、なんだ? こいつ!』
「や……かえる……タクシー……」
「他の人がやりたがらない事も一生懸命してくれて……本当に、水森さんには感謝してるんだ。で、だんだんと気になるようになってきて……可愛いし、いつの間にか好きになってたんだ」
『おい、コラ、待て! なんなんだ?』
「ねえ……俺と、付き合わない?」
「や……です……帰して……」
「無理だって。こんなんで、帰れないでしょう? 大丈夫だよ。安心して、俺に任せていれば」
「やぁ……ホントに、帰りたい……」
紫音の声は震えていて、カッとなった明弘は、スタスタと二人に歩み寄った。そして紫音を、抱いているその男から力任せに奪った。
「えっ? 何? なんなの、お前」
街灯の明かりに、怒ったような島田の表情が見えた。
しかし、『怒ってるのはこっちだ』と、明弘はその顔を睨み返した。
「シオンさんの、身内みたいなもんです。後は俺に任せてもらえますか」
「はあっ? なんだ? 何言ってんの? お前」
「ですから俺は、水森紫音さんと身内のように親しくしている者です。しーちゃん、大丈夫? わかる?」
「ん……アッキー……どうして……」
「ちょっとね、偶然見かけて……しーちゃん、俺と一緒に帰ろう?」
「うん……帰る……アッキーと、一緒に……」
ギュッと抱きつき、どうにか話す紫音を抱え、明弘は島田を見た。
「と、言う事です。本人もこう言ってますので。後は俺がちゃんと連れて帰ります」
「え、いや……ちょっと待てよ。彼女、酔ってほとんど意識無いじゃないか。お前が本当に知り合いか、疑わしいんだよ。そんな奴に、大切な同僚を任せられないんだけど」
そう言う島田に、明弘はちょっと考え、
「確かにそうですね。じゃあ、駅の横に交番ありましたから、そこに行きましょう。そこで彼女の弟に連絡して、俺の事証明してもらいますよ。なんなら、弟に迎えに来てもらってもいいですし。さあ、行きましょう」
そう言うと、島田は急に『警察に行くなんて』と慌て出した。
「お前、まだ学生か? 社会人になるとなぁ、警察沙汰とか困るんだよ!」
「警察沙汰って……別に、何か悪い事したわけでもないじゃないですか。ただ、酔っぱらった女性を安全に自宅に送り届ける為に、あなたが疑ってる俺の身元をしっかり証明したいってだけで」
「あーもーいい! めんどくせーな。お前に任せる。その方が俺だって楽でいい。全く……勝手に酔いつぶれて迷惑かけられたの、こっちだし」
「それは申し訳ありません。じゃあ、紫音さんは俺が責任もって送り届けますので。失礼します」
そう言うと、明弘は紫音を抱きかかえ、さっさと大通りに戻り、タクシーを止めて乗り込んだ。
会社が入っているビル前に着き、時間を確認する。
『6時ちょい過ぎか……仕事は6時までだから、まだ出て来てないよな?』
バレないようにと考え、道路を挟んだ向かい側に移動し、正面入り口が見える場所にさりげなく陣取った。
『よし、ここでしーちゃんが出てくるのを見張っていよう』
そうして待つ事30分。
『あ!』
紫音が、若い男性と出てきたので、少し後ろから後を追う。
途中で道路を渡り、うまい具合に見失わず目的地までついて行った。
『ここで飲むのか……どっか、ここが見える所ないかな……うーん、ないなぁ……』
おそらく、2時間前後はかかるだろう。店の前でそんな長い時間立っているというのは、不審に思われるかもしれない。
『……中で待てるか、確認してみようかな……』
新しい客が入っていく時にチラリと見えた店内は、席が仕切られて暖簾もかかっているようだ。
「いらっしゃいませー! 何名様ですかー?」
中に入ると、女性店員に元気よく声をかけられる。
「あー、一人なんですけど……」
「はいっ! ではお席にご案内しますね!」
「あ、えっと……できれば入り口近くがいいんですが……」
「では、こちらのお席いかがですか? 二人用で狭いんですけど」
「あ、いいです! ありがとうございます」
レジのすぐ横の席に座る事ができ、明弘はホッと息をついた。
『ここ、帰る人が見えて最高じゃん。仕切りと暖簾のおかげで、覗き込まれない限りバレないだろうし』
そうして、酔わない程度に飲み、食事をし、紫音から連絡がこないかスマホを見ながら約2時間。
「水森さん、大丈夫?」
そんな声が聞こえ、明弘はパッとメニュー表で顔を隠しながらレジの方を見た。
男性に支えられながら、おぼつかない足取りで歩いているのは、間違いなく紫音だ。
『あれって、来るとき一緒だった人か? 店で合流かと思ってたけど、他の人はいなかったのかな。って、それよりも、しーちゃんどうしちゃったんだろう。具合悪いのか?』
慌てて会計を済ませて店の外に出ると、二人はまだ店の前にいた。
少し離れ、様子を覗う。
『そっか、タクシー拾おうとしてるんだ。まあ、ここならすぐつかまるよな。まだ早いから、空車も多いし』
そう思ったのだが、紫音を支えている男は、一向にタクシーを止めようとしない。
そしてそのうち、紫音を抱えるようにして移動を始めた。
『おいおい、どこ行くんだ? もしかして電車で帰ろうとしてる? いや、あんな状態じゃ無理でしょう……』
不安になりながら、少し距離を開けて、二人の後を追った。
『あの人、しーちゃんと同じ方向の電車なのかなぁ……もしかして、家まで送る気とか? いや、それは駄目だよ。そうだ、いざとなったら偶然会ったふりして、俺がしーちゃんを送ってくことにしよう』
そんな事を考えながら、後をついて行ったのだが、
『ん? こっちから駅行けるのかな』
大きな通りではなく、脇道に入って行く。
人も少なくなり、なにやら薄暗い。
『え? なんか、雰囲気がちょっと違うっていうか……』
その時、二人が立ち止まり、明弘は慌てて側の電柱の陰に身を寄せた。
微かに、声が聞こえてくる。
「…………休んで……」
「…………」
「変な事しない…………」
「…………だいじょぶ……」
『えっ? 何言ってんだ?』
様子がおかしいと、明弘はもう一つ先の電柱まで進んだ。二人のすぐ近くなので、さっきよりもはっきりと会話が聞こえる。
「いやいや、大丈夫じゃないでしょ。本当に、休むだけだよ。こんな、具合が悪い女性を、どうこうしようなんて思わないから……まあ……本当は……君の事好きだから、そういう事もしたいけどね」
『なっ、なんだ? こいつ!』
「や……かえる……タクシー……」
「他の人がやりたがらない事も一生懸命してくれて……本当に、水森さんには感謝してるんだ。で、だんだんと気になるようになってきて……可愛いし、いつの間にか好きになってたんだ」
『おい、コラ、待て! なんなんだ?』
「ねえ……俺と、付き合わない?」
「や……です……帰して……」
「無理だって。こんなんで、帰れないでしょう? 大丈夫だよ。安心して、俺に任せていれば」
「やぁ……ホントに、帰りたい……」
紫音の声は震えていて、カッとなった明弘は、スタスタと二人に歩み寄った。そして紫音を、抱いているその男から力任せに奪った。
「えっ? 何? なんなの、お前」
街灯の明かりに、怒ったような島田の表情が見えた。
しかし、『怒ってるのはこっちだ』と、明弘はその顔を睨み返した。
「シオンさんの、身内みたいなもんです。後は俺に任せてもらえますか」
「はあっ? なんだ? 何言ってんの? お前」
「ですから俺は、水森紫音さんと身内のように親しくしている者です。しーちゃん、大丈夫? わかる?」
「ん……アッキー……どうして……」
「ちょっとね、偶然見かけて……しーちゃん、俺と一緒に帰ろう?」
「うん……帰る……アッキーと、一緒に……」
ギュッと抱きつき、どうにか話す紫音を抱え、明弘は島田を見た。
「と、言う事です。本人もこう言ってますので。後は俺がちゃんと連れて帰ります」
「え、いや……ちょっと待てよ。彼女、酔ってほとんど意識無いじゃないか。お前が本当に知り合いか、疑わしいんだよ。そんな奴に、大切な同僚を任せられないんだけど」
そう言う島田に、明弘はちょっと考え、
「確かにそうですね。じゃあ、駅の横に交番ありましたから、そこに行きましょう。そこで彼女の弟に連絡して、俺の事証明してもらいますよ。なんなら、弟に迎えに来てもらってもいいですし。さあ、行きましょう」
そう言うと、島田は急に『警察に行くなんて』と慌て出した。
「お前、まだ学生か? 社会人になるとなぁ、警察沙汰とか困るんだよ!」
「警察沙汰って……別に、何か悪い事したわけでもないじゃないですか。ただ、酔っぱらった女性を安全に自宅に送り届ける為に、あなたが疑ってる俺の身元をしっかり証明したいってだけで」
「あーもーいい! めんどくせーな。お前に任せる。その方が俺だって楽でいい。全く……勝手に酔いつぶれて迷惑かけられたの、こっちだし」
「それは申し訳ありません。じゃあ、紫音さんは俺が責任もって送り届けますので。失礼します」
そう言うと、明弘は紫音を抱きかかえ、さっさと大通りに戻り、タクシーを止めて乗り込んだ。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる