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問題発生
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月曜になり、火曜が来て、今日は水曜日。
『アッキーから連絡こないじゃないっ!』
社員食堂でうどんをすすりながら、紫音は心の中で叫んだ。
『なに? どういう事なの? まだ体調が悪いの? それともやっぱりこないだの事後悔して、無かった事にしようとしてるの? もう連絡よこさないつもりなのっ?』
ほんのちょっとの間だけ付き合った大学生の事を思い出す。
『あいつみたいに、フェイドアウトするの? やっぱり女子大生の方がいいのっ?』
そう不安になるが、『いやいや』と考え直す。
『これまでも、そんなしょっちゅう連絡きてたわけじゃないもんね。そろそろ……今日あたりくるかもしれないし……』
そんなに気になるのであれば、自分の方から連絡してみればいい。
『風邪よくなった?』とか、送ってみればいい。
それはわかっているのだが……、
『恐いのよ、返事が来ないのが!』
過去のトラウマのせいで、自分から連絡できないでいる。
それに、
『わたしの方からアッキーに連絡したら、なんだか、迫っているような感じじゃない? 意識しすぎ? どうなのっ?』
そんな事を考えながら、追加で七味を振っていると、
「……よう、水森ぃ……」
「んっ? ああ、鈴木君、お疲れ様」
「ここいいかー?」
「どうぞ」
向かいの席に座った鈴木のトレーには、カツカレー、そしてコロッケ2個が乗った小皿もある。
「カツカレーにコロッケトッピング?」
「おお……もう、自分を甘やかさないと持たん……」
そう言いながらコロッケを一つカツの隣にのせ、紫音の方へ残り一つが乗った皿を差し出す。
「一つあげる」
「えっ? いやいや、いらないよー」
「そう言わずに……コロッケうどんって、美味いじゃん。ごめんなー、この間、プロジェクトの事……」
「ああ……そんな、気にしなくていいのに」
正直、明弘との事の方が大事で、すっかり忘れていた。
『恋やら愛やらってすごい』と改めて思わされる。
「なんとも思っていないから全然気にしなくていいけど、じゃあ、ありがたくいただくね」
もらうことによって鈴木の気が軽くなるならと受け取り、鈴木の言うコロッケうどんにはせず、おかずとしていただく事にする。
「プロジェクトの方はどう? 忙しい……みたいね」
鈴木はげっそりしていて、疲れ切っているように見える。
「忙しいのは忙しい。でもそれはいいよ。それよりも、いろんな問題が……」
鈴木は辺りをキョロキョロ確認してから、小声で言った。
「なあ、あの吉田理央って、やばくねぇか?」
「えっ? やばい?」
どういう事だろうと、首を傾げる。
「えーと……仕事あまりできないとか、もしくはしないとか、そういう事?」
おしゃべりしてたり、しょっちゅう離席してなかなか戻ってこなかった事を思い出してたずねると『それもある』との答え。
「それもあるけどさ、それ以上に問題なのが、リーダーの笹原さんに対抗するって事だよ」
「なにそれ! あっ!」
驚きで、コロッケにソースをかけ過ぎてしまう。
「ああ……コロッケが……いやそれよりも、ネネさんに対抗って、どういう事?」
「それがさあ、この間プロジェクトのキックオフ会があって、お偉いさんとかも来てさぁ。そのとき、副社長が吉田さんと同じ大学で、なんか盛り上がったんだよ。教授の話とか、俺達にはわからない話を二人で延々としてて、俺らはげんなりだったんだけど」
「なるほど……」
「そりゃあ、ちょっとならいいよ? けどさあ、これから説明とかしなきゃいけないっていうのに、いつまでもいつまでも……流石に長すぎるんで、笹原さんが会議室借りてる時間も無くなるんで、って声かけて説明始めたんだけど」
「そんな事が……」
「で、その後なんだけど、副社長が吉田さんに『期待してるよ』とか声かけたもんだから、あいつ、お墨付きいただきました状態でさぁ。笹原さんがサブリーダーと決めてた事に意見出してきて。そりゃあ、意見言う事はいいよ? でもそれが的外れというか、現実味が無いというか。例えばさ、過去データを参考として出すんだけど、過去3年間を準備するっていうのを、5年にした方がいいって言い出してさ。今回の件では2年で充分だけど、多めに見て3年にしてるのにさぁ。散々もめて、じゃあ、吉田さんがその資料まとめるようにって事になったんだよ。まあ、あんまり戦力にならないから、やりたいっていう事やらせてやろうって考えだと思うんだけど」
「あー、なるほど」
「そしたらあいつ『どうしてわたしがそんな事しなくちゃいけないんですか? 誰でも出来る事ですよね』って言ったんだぜ?」
「うわ……」
「で、俺に、『鈴木さんやってくれますか?』って。なんなのあいつ! なんであんな新人に命令されなきゃいけないわけ? そりゃあ俺は、たいしていい大学出てないけど、大先輩だぜ!?」
「だよねぇ……」
思った以上の傍若無人ぶりに、紫音も引いてしまう。
「どうなったの? それ」
ソースがたっぷりかかったコロッケを食べながら尋ねる。
「笹原さんがピシャリと言ってくれたよ。そんな事、言う立場じゃないだろうって。で、大切な事だと思って提案を譲らなかったんだから、あなたがやりなさいって。他にやってもらわなきゃいけない事をみんなでフォローしてやらせてあげるんだから、って。あれ、かなり頭にきてたと思うぜ」
「初めてのリーダーで大変なのに、そんな事が……」
「ホント、最悪だよ。しかもあいつ、笹原さんにパワハラされたって言いふらしてるらしくって」
「えっ? なにそれ」
「笹原さんの事『キツイ人ですねー。わたしが笹原さんが気づかない事言ったのが、癪に障ったんですかね』とか言ってたぞ。勿論、チーム内ではそんなの無視だよ、事情わかってるからさ。そしたら、元の部署とか、副社長とかに言ってるらしい。水森も何か聞いてない?」
「いや、わたしは何も……ちょっと……それって、ひどくない?」
「酷いよー、最悪だぜ。笹原さん、コンプラ委員会に事情聴かれたらしい。で、誤解は解けたらしいけど、もうみんな、吉田さんとはかかわりあいたくないし、でも、なんかあったらある事ない事言われそうだしで……やる事も多いのにそんな事気にかけなきゃいけなくて大変なんだよ」
「それは本当に大変だぁ……えぇぇ……」
明弘との事ばかり考えているうちに、大変な事になっている事に紫音は呆然としてしまった。
『アッキーから連絡こないじゃないっ!』
社員食堂でうどんをすすりながら、紫音は心の中で叫んだ。
『なに? どういう事なの? まだ体調が悪いの? それともやっぱりこないだの事後悔して、無かった事にしようとしてるの? もう連絡よこさないつもりなのっ?』
ほんのちょっとの間だけ付き合った大学生の事を思い出す。
『あいつみたいに、フェイドアウトするの? やっぱり女子大生の方がいいのっ?』
そう不安になるが、『いやいや』と考え直す。
『これまでも、そんなしょっちゅう連絡きてたわけじゃないもんね。そろそろ……今日あたりくるかもしれないし……』
そんなに気になるのであれば、自分の方から連絡してみればいい。
『風邪よくなった?』とか、送ってみればいい。
それはわかっているのだが……、
『恐いのよ、返事が来ないのが!』
過去のトラウマのせいで、自分から連絡できないでいる。
それに、
『わたしの方からアッキーに連絡したら、なんだか、迫っているような感じじゃない? 意識しすぎ? どうなのっ?』
そんな事を考えながら、追加で七味を振っていると、
「……よう、水森ぃ……」
「んっ? ああ、鈴木君、お疲れ様」
「ここいいかー?」
「どうぞ」
向かいの席に座った鈴木のトレーには、カツカレー、そしてコロッケ2個が乗った小皿もある。
「カツカレーにコロッケトッピング?」
「おお……もう、自分を甘やかさないと持たん……」
そう言いながらコロッケを一つカツの隣にのせ、紫音の方へ残り一つが乗った皿を差し出す。
「一つあげる」
「えっ? いやいや、いらないよー」
「そう言わずに……コロッケうどんって、美味いじゃん。ごめんなー、この間、プロジェクトの事……」
「ああ……そんな、気にしなくていいのに」
正直、明弘との事の方が大事で、すっかり忘れていた。
『恋やら愛やらってすごい』と改めて思わされる。
「なんとも思っていないから全然気にしなくていいけど、じゃあ、ありがたくいただくね」
もらうことによって鈴木の気が軽くなるならと受け取り、鈴木の言うコロッケうどんにはせず、おかずとしていただく事にする。
「プロジェクトの方はどう? 忙しい……みたいね」
鈴木はげっそりしていて、疲れ切っているように見える。
「忙しいのは忙しい。でもそれはいいよ。それよりも、いろんな問題が……」
鈴木は辺りをキョロキョロ確認してから、小声で言った。
「なあ、あの吉田理央って、やばくねぇか?」
「えっ? やばい?」
どういう事だろうと、首を傾げる。
「えーと……仕事あまりできないとか、もしくはしないとか、そういう事?」
おしゃべりしてたり、しょっちゅう離席してなかなか戻ってこなかった事を思い出してたずねると『それもある』との答え。
「それもあるけどさ、それ以上に問題なのが、リーダーの笹原さんに対抗するって事だよ」
「なにそれ! あっ!」
驚きで、コロッケにソースをかけ過ぎてしまう。
「ああ……コロッケが……いやそれよりも、ネネさんに対抗って、どういう事?」
「それがさあ、この間プロジェクトのキックオフ会があって、お偉いさんとかも来てさぁ。そのとき、副社長が吉田さんと同じ大学で、なんか盛り上がったんだよ。教授の話とか、俺達にはわからない話を二人で延々としてて、俺らはげんなりだったんだけど」
「なるほど……」
「そりゃあ、ちょっとならいいよ? けどさあ、これから説明とかしなきゃいけないっていうのに、いつまでもいつまでも……流石に長すぎるんで、笹原さんが会議室借りてる時間も無くなるんで、って声かけて説明始めたんだけど」
「そんな事が……」
「で、その後なんだけど、副社長が吉田さんに『期待してるよ』とか声かけたもんだから、あいつ、お墨付きいただきました状態でさぁ。笹原さんがサブリーダーと決めてた事に意見出してきて。そりゃあ、意見言う事はいいよ? でもそれが的外れというか、現実味が無いというか。例えばさ、過去データを参考として出すんだけど、過去3年間を準備するっていうのを、5年にした方がいいって言い出してさ。今回の件では2年で充分だけど、多めに見て3年にしてるのにさぁ。散々もめて、じゃあ、吉田さんがその資料まとめるようにって事になったんだよ。まあ、あんまり戦力にならないから、やりたいっていう事やらせてやろうって考えだと思うんだけど」
「あー、なるほど」
「そしたらあいつ『どうしてわたしがそんな事しなくちゃいけないんですか? 誰でも出来る事ですよね』って言ったんだぜ?」
「うわ……」
「で、俺に、『鈴木さんやってくれますか?』って。なんなのあいつ! なんであんな新人に命令されなきゃいけないわけ? そりゃあ俺は、たいしていい大学出てないけど、大先輩だぜ!?」
「だよねぇ……」
思った以上の傍若無人ぶりに、紫音も引いてしまう。
「どうなったの? それ」
ソースがたっぷりかかったコロッケを食べながら尋ねる。
「笹原さんがピシャリと言ってくれたよ。そんな事、言う立場じゃないだろうって。で、大切な事だと思って提案を譲らなかったんだから、あなたがやりなさいって。他にやってもらわなきゃいけない事をみんなでフォローしてやらせてあげるんだから、って。あれ、かなり頭にきてたと思うぜ」
「初めてのリーダーで大変なのに、そんな事が……」
「ホント、最悪だよ。しかもあいつ、笹原さんにパワハラされたって言いふらしてるらしくって」
「えっ? なにそれ」
「笹原さんの事『キツイ人ですねー。わたしが笹原さんが気づかない事言ったのが、癪に障ったんですかね』とか言ってたぞ。勿論、チーム内ではそんなの無視だよ、事情わかってるからさ。そしたら、元の部署とか、副社長とかに言ってるらしい。水森も何か聞いてない?」
「いや、わたしは何も……ちょっと……それって、ひどくない?」
「酷いよー、最悪だぜ。笹原さん、コンプラ委員会に事情聴かれたらしい。で、誤解は解けたらしいけど、もうみんな、吉田さんとはかかわりあいたくないし、でも、なんかあったらある事ない事言われそうだしで……やる事も多いのにそんな事気にかけなきゃいけなくて大変なんだよ」
「それは本当に大変だぁ……えぇぇ……」
明弘との事ばかり考えているうちに、大変な事になっている事に紫音は呆然としてしまった。
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