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しーちゃんのカレー

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 水森家のカレーは、牛、豚に比べて安いのと、紫音が好きという理由で、大抵チキンカレーだ。
 他の具材は人参、ジャガイモ、玉ねぎといたって普通。カレールゥは市販の物を2種類混ぜ、ケチャップ、ソースをなんとなく入れている。
 まあ、特にこだわりがあるというわけでもなく、一般的な家庭のカレーといえるだろう。しかし、

「おいしい!」
「うん! すっごくおいしい!」
「給食のカレーより、しーちゃんが作るカレーの方がおいしいと思うんだ、オレ!」
「そうだよね! 今まで食べたカレーで、一番おいしい!」
「実はさ、お母さんが作るのよりも、しーちゃんが作った方がおいしいんだよ!」
「そうなの?」
「うん!」

 こうも絶賛されると恥ずかしくなってくる、と顔を赤らめつつ、紫音は少年二人の前に、白い液体の入ったコップを置いた。
 
「牛乳ですか?」
「ううん、うちではカレーの日は飲むヨーグルトなの」
「飲むヨーグルト? すごい!」

 嬉しそうに明弘がコップを取るのを見ながら、紫音は笑った。

「サラダも食べるのよ? カレーもご飯もいっぱいあるから、好きなだけおかわりしてね。福神漬けも足りなかったらまだあるからね。あー、でも二人とも、ちゃんと噛んで食べるんだよ」

 シャワーを浴びてさっぱりした二人は、すごい勢いでカレーを食べている。
 さっきまでオドオドした感じだった明弘も、だいぶリラックスしたようで、紫音がまだ半分も食べていないうちに、和也と一緒におかわりに立った。
 そして2回おかわりをし、二人ともお腹パンパンになり、コロッとその場で横になった。

「ねー、明日休みだし、アッキー泊まっちゃダメ?」
「泊まるのはダメ。洗い物したら送って行くから」
「えーっ、いいじゃんかー」
「ダメ。お母さんの許可もないんだから、今日はダメ」

 駄々をこねる和也にピシャリと言い、紫音が食器を洗い始めると、明弘が横にやってきた。

「あ、あの……ごちそうさまでした。あの……手伝い……」
「ああ、今日はいいよ。今度やってもらうから。おなかいっぱいでしょ? あっちでカズと一緒に休んでて。あ、麦茶持って行ってちょうだい」
「はい……ありがとうございます」

 麦茶の入ったグラスを2つ渡され、居間に戻りかけた明弘だったが、もう一度紫音を振り返って言った。

「……あの……オレも、カズ君みたいに、しーちゃんって呼んでもいいですか?」

 弟よりずっと小さい少年の健気さにキュンとしながら、紫音は『いいよ』と微笑んだ。
 

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