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第10話 銀と緑に映る色
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それを思いがけず目の当りにしてしまった少女。鍋でお湯を沸かすよりも、寝ぼけた姉を起こすよりも、あっと言う間に大人の階段をほんの少しだけ登ってしまったいたいけな乙女。いや、今はだったと言うべきか。
耳まで真っ赤に染めて両手で顔を覆い桶の中のヒトそっちのけで大の大大大困惑中のテララ。
やだっ!? 今、何か触った!!!? ……柔らかかったような……。さささっ! 触ったってなななな何にっ!? 柔らかいって何っ!? もう! どうして肌着付けてないの???? やだもう、ちょっとどうしてっ!? ええええええっ????!
それもそのはずだ。テララは銀眼のそのヒトに揺すり起こされた朝から、自分と同じ性だと勝手ながらそう思い込んでいたのだ。そのように捉え、それまで接してきていたのだ。
しかし現実は全く違った形をしていた。無慈悲にも非情にも、少女の予想とは遥かに異なる。例えるなら、新芽の出かけた木の実と閉じた実。干し肉の細切りと角切り。巻き結びと玉結び。
「やだっ!? 変に考えると余計に思い出しちゃうようっ!!!?」
見たこともない自分にはない"モノ"がそこにあった。それは銀眼のヒトの股間に小振りだが確かに鎮座していたのだ。それは幻ではなく明確にその人物の性別が自身とは異なることを示していた。
「み、見なければい、いい、よね? ……うん、見ない見ない見ない見ない見ない。見えない見えない見えない見えない見えない見えない……!! すうーー、はああああ……。すうーー、はああああ……。……………………。よ、よし……。あっ! でもでも服。どうしよう……。その、み、見えちゃうし……。後ろから脱がせる? いやでもきっと洗ってる途中で見えちゃうよね。たぶん大人しく洗えないだろうし。部屋から何か腰に巻く布持ってくる? でもその間にどこか行っちゃったら大変だし。そうっ!? そうだっ!! 見えちゃうから仕方ないよね! 後で洗えばいいし! 着せたままでいこう! うん。それがいいよ! それしかないよっ! よしっ! がんばれ私っ……!!」
かつてこれほどまでに取り乱したことがあっただろうか。手慣れた編み物や料理をこなすよりも何倍も早く、有りと有らゆる手段を模索し、試行し、対象の反応を仮定し、その"モノ"の危険性を想定し、最適解を何重にも思い巡らす。今のテララは人の限界を超えて覚醒していると言っても過言ではない。かもしれない。
しかし、一人背を向けて、何やら猛烈に独り言を呟く少女の姿は誰がどう見ても不気味である。
そんな様子の少女を見て気に掛けない者が居ないはずがない。銀眼のヒト、改め銀眼の少年でさえも例外ではない。少年は桶から前のめりになりながら恐る恐るその肩に手を伸ばした。
だが、指先がその背に触れる寸前でテララは急に立ち上がり、更に早さを増した口調で背を向けたまま独り話はじめた。
「え、えっとね! そそそ、それじゃはやっ、早く身体洗うの済ませちゃおっか! うん! 風邪引くとまたクス爺に怒られちゃうしね! クス爺は怒ると怖いんだよお??? あなたもそんなの嫌でしょ? 嫌だよね? そうだよね! うんそうよ! だから早くすすす、済ませなくちゃね! あっ! 動いちゃだめだよっ!! いいのいいの動かなくて! 服はもう着たままで平気だから。うん……と言うか着てて……お願い……ね?」
途端に動きだしたテララに驚き固まる銀眼の少年を尻目に、テララは水瓶まで足早に進んだ。そして努めて冷静に普段と変わりないように意識しながら、溜めた水に指を突き立てて水温を大間かに計った。正直なところその場から少し逃げるために水瓶を覗き込んだようなもので、水温なんかまるで分かりゃしない。
「うーーんとお……。これくらいだった平気かなあ???? 冷えちゃったら後で居間で温めてあげれば風邪も引かないよね。……ん? ……ヒヘャアアアアッ!!!?」
沸騰する頭で逃げ込んだはずなのに、水中に突き立てた人差し指を見て不意にさっき目にした物が水面に映る。自分でも恥ずかしくなるような奇声が水瓶の水を揺らす。
今は亡きテララの母親よ。貴女の娘はちゃんと健全に育っています。
一先ず水温は問題なかった。と言うことにしておいて、一向に顔の熱が冷めない少女は水瓶に立て掛けられた小振りの桶で水をすくった。
一層のこと、今すぐこの水を被りたい……。と言うかもう、水瓶の中に飛び込んじゃいたいよう……。
まだ少年の方を見られそうもないようだ。悠長にたゆたう水面の自分の顔と睨めっこしながら、膝を折って待つ銀眼の少年の背後まで余所余所しく回り込みテララは小さくしゃがみ込んだ。
「え、えっと……、それじゃまず右手から洗うね? て、手出してみて? 手だよ? 手だからね? 手だけでいいからねっ!? つ、冷たかったら、ごごご、ごめんね?」
弱音が許されるなら、まだその身体に触りたくない。けれども少年をそのままにしておけるはずもなく。いや、恥ずかしさのあまりにどこかへ逃げ隠れてしまってもいいのかもしれないが、そうはせず。首元で笑うに揺れる首飾りをぎゅっと握って深緑の瞳は腹を決めたようだ。
腹は決めようが緊張か怯えかよく分からない身体の昂り、いや震えは抑えることはできないようで。半ば少年の水浴びを強行するかたちでその細腕に水をかけてやった。
その腕に滴る感触は、それまでに感知したことのないほどの激流を伴ったのだろう。指先から肩にかけて這い上がる激しい感覚に身震いが止まらない。その銀眼をめいいっぱいに見開いて興奮の波に呑み込まれたその目で後ろのテララと桶を何度も見返している。その衝撃はやがて快感となったのか、再度それを催促するように空いた左手で宙空を何度も仰ぎだした。言葉はまだあまり交わせないものの、こちらもこちらで分かりやすい。
「ギギギッ!!!? ……テッ?! ……τ、ラλ……α、テ……α、テーー! ラテーーーー!!」
「フフッ、気持ちいいでしょ? 水、まだあるから綺麗にしようね。それじゃ、目閉じて? こうやって、ぎゅーーって。分かる? ぎゅーーって」
「……γ……γιυ、υυ、ギウーー?」
「そうそう。上手、上手! そのまま、ぎゅーーね? そしたらあ……、そーーれえーー!!」
少年の肩越しにその目をつむるように促すと、ちょっと悪戯顔でテララは桶の水をその頭上から一息にかけてやった。
「……γι、ギュッ、ギュアアアアアアッ!!!? テララッ、テッ、ララッ!? テッテテッ!! ラッテラッ!!」
「アハハハハッ。びっくりした? フフフッ、喜んでくれてよかった。それじゃこのまま髪も洗っちゃうからねーー? もう一度いっくよーー!?」
言うまでもなく、銀眼の少年の興奮は絶頂に達したようだった。奇妙な声を上げ散らかしながら桶に溜まる水の中で手足を大きくばたつかせ小躍りしている。通りすがりに子供がその浮かれ様を見ようものなら思わず怯え震え上がるに違いない。先程までの無垢な愛らしさとは打って変わって、なんと腕白が似合う子供か。
しかしその一方で、テララは再び予想外の出来事に直面し言葉を失ってしまっていた。少年の髪を洗う手が完全に止まっている。
桶の中ではしゃぐずぶ濡れの少年の髪から赤い水滴がゆっくりと落ちて、その足元に赤く広がる。血で汚れていると思ってはいたが、何てことか。
水をかけられ濯がれたその赤黒く血濡れた髪は、深緑の目の前で見る見るうちにその色を落し、薄く変色してゆくのだ。その変化は留まることを知らず、汚れきっていた髪の色はどんどん、どんどん薄くなっていく。
その代わり映えに魅入られるように、テララは無心で少年の髪をひたすらに濯いだ。そうして、やがてそこに露わとなった少年の本当の姿に、思わずテララは感嘆の息を漏らした。
「あなたの髪……とても……きれいな色しているのね……。透き通っていて……、白くて……なんだか雲みたい……」
水が滴り艶を帯びた銀眼の少年の髪は、それまでの腐った血色とはまるで異なるものだった。それは梳く指が透けんばかりに白く、何色にも染まっていない純白な糸のように一変してしまったのだ。
すごく綺麗……。
テララはその髪を何度も梳きながら、そのあまりにもの美しさに思わず見惚れてしまっている。
頻りに後ろ髪をいじられるものだから少年も流石に気になったのだろう。不意に向き直り互いの息がかかるほど間近で銀と深緑が合った。
目と鼻の先、息使いの分かる近さで目にする少年の銀の瞳。それはその奥に吸い込まれそうなほど淀みなく透き通っていた。なんとも言い表しにくい魅力に満ちている。見詰めるほどに目を放せなくなってしまいそうだ。いや、少女は既に放せないでいる。
そこに映る少女はそれまでの人生で出会ったことがない神秘的な美しさに、目的も忘れ言葉もなくただ見入るばかりだった。
「……テ、ララ……? ……テ、ラ? ……テラ、ラ!?」
「あっ……、キャッ!? ご、ごめん。こんな近くでって――!?」
どれだけそうしていたのか分からない。
自分の名を何度も呼ぶ声にすらなかなか気が付けず、身体を揺すられてようやく少女は意識を取り戻した。と同時に、また血の気が一気に顔中に集まり胸の高鳴りが頬を熱く打ちはじめた。
それもそのはずだ。アレを見たあとだし、更に今、存分に小躍りした後でテララの方に"向き直っている"のだ。
めくれた衣服の下から迫りくる性の洗礼。
まだ大人の階段を登りきれない、願わくば階段のことすら忘れてしまいたいと思っているに違いない幼い少女。またしても驚くような早さで銀眼の少年から咄嗟に距離を取って顔を覆い隠し、また独りわなわなと喚きはじめた。
「――キヒャアアアアアアッ!!!? なななななっ!? 何でこっここここっち向いてるのっ!? だだだだだ、駄目だってばっ!? あっち! あっち向いててっ! お願いっ! もうやだ! 今の何!? あっ、えっ、い、いや!? "何"が"何"じゃなくてっ!!!? おっ、おっかしいなああああ!! わ、私。風邪でもひいちゃったのかな???? だめだめ! 落ち着かなきゃ! 深呼吸……! すうううう、はああああ……! すうううう、はああああ……」
「テ、ララ……?」
「ヒャッ!? え、ええええっと……。ご、ごめんね!? アハハハッ! 私、ぼーーっとしちゃって……。は、早く身体洗っちゃおうね? あなたはそのままっ! 私が今度反対に行くから……! 動かなくていいからね……!?」
これまで一度も感じたことのない胸の昂り。その正体は一体何なのか。今にも詰まりそうな胸に手を当てながらテララは背中向きに少年の後方に回り込んだ。
それからは一切の無駄を許さない機敏な手際で銀眼の少年の身体を洗い、乾きたての布で汚れを丁寧に繰り返し拭ってやった。
もちろん、少年の大事なところは自身でなんとか拭いてもらった。
銀の少年こそ見違えるほど身も心もすっきりとしたようだが、テララと言えば一緒に微笑んではいるもののどこか疲れた、もしかすると色んな意味で少し老けてしまったようなそんな顔をしていた。
耳まで真っ赤に染めて両手で顔を覆い桶の中のヒトそっちのけで大の大大大困惑中のテララ。
やだっ!? 今、何か触った!!!? ……柔らかかったような……。さささっ! 触ったってなななな何にっ!? 柔らかいって何っ!? もう! どうして肌着付けてないの???? やだもう、ちょっとどうしてっ!? ええええええっ????!
それもそのはずだ。テララは銀眼のそのヒトに揺すり起こされた朝から、自分と同じ性だと勝手ながらそう思い込んでいたのだ。そのように捉え、それまで接してきていたのだ。
しかし現実は全く違った形をしていた。無慈悲にも非情にも、少女の予想とは遥かに異なる。例えるなら、新芽の出かけた木の実と閉じた実。干し肉の細切りと角切り。巻き結びと玉結び。
「やだっ!? 変に考えると余計に思い出しちゃうようっ!!!?」
見たこともない自分にはない"モノ"がそこにあった。それは銀眼のヒトの股間に小振りだが確かに鎮座していたのだ。それは幻ではなく明確にその人物の性別が自身とは異なることを示していた。
「み、見なければい、いい、よね? ……うん、見ない見ない見ない見ない見ない。見えない見えない見えない見えない見えない見えない……!! すうーー、はああああ……。すうーー、はああああ……。……………………。よ、よし……。あっ! でもでも服。どうしよう……。その、み、見えちゃうし……。後ろから脱がせる? いやでもきっと洗ってる途中で見えちゃうよね。たぶん大人しく洗えないだろうし。部屋から何か腰に巻く布持ってくる? でもその間にどこか行っちゃったら大変だし。そうっ!? そうだっ!! 見えちゃうから仕方ないよね! 後で洗えばいいし! 着せたままでいこう! うん。それがいいよ! それしかないよっ! よしっ! がんばれ私っ……!!」
かつてこれほどまでに取り乱したことがあっただろうか。手慣れた編み物や料理をこなすよりも何倍も早く、有りと有らゆる手段を模索し、試行し、対象の反応を仮定し、その"モノ"の危険性を想定し、最適解を何重にも思い巡らす。今のテララは人の限界を超えて覚醒していると言っても過言ではない。かもしれない。
しかし、一人背を向けて、何やら猛烈に独り言を呟く少女の姿は誰がどう見ても不気味である。
そんな様子の少女を見て気に掛けない者が居ないはずがない。銀眼のヒト、改め銀眼の少年でさえも例外ではない。少年は桶から前のめりになりながら恐る恐るその肩に手を伸ばした。
だが、指先がその背に触れる寸前でテララは急に立ち上がり、更に早さを増した口調で背を向けたまま独り話はじめた。
「え、えっとね! そそそ、それじゃはやっ、早く身体洗うの済ませちゃおっか! うん! 風邪引くとまたクス爺に怒られちゃうしね! クス爺は怒ると怖いんだよお??? あなたもそんなの嫌でしょ? 嫌だよね? そうだよね! うんそうよ! だから早くすすす、済ませなくちゃね! あっ! 動いちゃだめだよっ!! いいのいいの動かなくて! 服はもう着たままで平気だから。うん……と言うか着てて……お願い……ね?」
途端に動きだしたテララに驚き固まる銀眼の少年を尻目に、テララは水瓶まで足早に進んだ。そして努めて冷静に普段と変わりないように意識しながら、溜めた水に指を突き立てて水温を大間かに計った。正直なところその場から少し逃げるために水瓶を覗き込んだようなもので、水温なんかまるで分かりゃしない。
「うーーんとお……。これくらいだった平気かなあ???? 冷えちゃったら後で居間で温めてあげれば風邪も引かないよね。……ん? ……ヒヘャアアアアッ!!!?」
沸騰する頭で逃げ込んだはずなのに、水中に突き立てた人差し指を見て不意にさっき目にした物が水面に映る。自分でも恥ずかしくなるような奇声が水瓶の水を揺らす。
今は亡きテララの母親よ。貴女の娘はちゃんと健全に育っています。
一先ず水温は問題なかった。と言うことにしておいて、一向に顔の熱が冷めない少女は水瓶に立て掛けられた小振りの桶で水をすくった。
一層のこと、今すぐこの水を被りたい……。と言うかもう、水瓶の中に飛び込んじゃいたいよう……。
まだ少年の方を見られそうもないようだ。悠長にたゆたう水面の自分の顔と睨めっこしながら、膝を折って待つ銀眼の少年の背後まで余所余所しく回り込みテララは小さくしゃがみ込んだ。
「え、えっと……、それじゃまず右手から洗うね? て、手出してみて? 手だよ? 手だからね? 手だけでいいからねっ!? つ、冷たかったら、ごごご、ごめんね?」
弱音が許されるなら、まだその身体に触りたくない。けれども少年をそのままにしておけるはずもなく。いや、恥ずかしさのあまりにどこかへ逃げ隠れてしまってもいいのかもしれないが、そうはせず。首元で笑うに揺れる首飾りをぎゅっと握って深緑の瞳は腹を決めたようだ。
腹は決めようが緊張か怯えかよく分からない身体の昂り、いや震えは抑えることはできないようで。半ば少年の水浴びを強行するかたちでその細腕に水をかけてやった。
その腕に滴る感触は、それまでに感知したことのないほどの激流を伴ったのだろう。指先から肩にかけて這い上がる激しい感覚に身震いが止まらない。その銀眼をめいいっぱいに見開いて興奮の波に呑み込まれたその目で後ろのテララと桶を何度も見返している。その衝撃はやがて快感となったのか、再度それを催促するように空いた左手で宙空を何度も仰ぎだした。言葉はまだあまり交わせないものの、こちらもこちらで分かりやすい。
「ギギギッ!!!? ……テッ?! ……τ、ラλ……α、テ……α、テーー! ラテーーーー!!」
「フフッ、気持ちいいでしょ? 水、まだあるから綺麗にしようね。それじゃ、目閉じて? こうやって、ぎゅーーって。分かる? ぎゅーーって」
「……γ……γιυ、υυ、ギウーー?」
「そうそう。上手、上手! そのまま、ぎゅーーね? そしたらあ……、そーーれえーー!!」
少年の肩越しにその目をつむるように促すと、ちょっと悪戯顔でテララは桶の水をその頭上から一息にかけてやった。
「……γι、ギュッ、ギュアアアアアアッ!!!? テララッ、テッ、ララッ!? テッテテッ!! ラッテラッ!!」
「アハハハハッ。びっくりした? フフフッ、喜んでくれてよかった。それじゃこのまま髪も洗っちゃうからねーー? もう一度いっくよーー!?」
言うまでもなく、銀眼の少年の興奮は絶頂に達したようだった。奇妙な声を上げ散らかしながら桶に溜まる水の中で手足を大きくばたつかせ小躍りしている。通りすがりに子供がその浮かれ様を見ようものなら思わず怯え震え上がるに違いない。先程までの無垢な愛らしさとは打って変わって、なんと腕白が似合う子供か。
しかしその一方で、テララは再び予想外の出来事に直面し言葉を失ってしまっていた。少年の髪を洗う手が完全に止まっている。
桶の中ではしゃぐずぶ濡れの少年の髪から赤い水滴がゆっくりと落ちて、その足元に赤く広がる。血で汚れていると思ってはいたが、何てことか。
水をかけられ濯がれたその赤黒く血濡れた髪は、深緑の目の前で見る見るうちにその色を落し、薄く変色してゆくのだ。その変化は留まることを知らず、汚れきっていた髪の色はどんどん、どんどん薄くなっていく。
その代わり映えに魅入られるように、テララは無心で少年の髪をひたすらに濯いだ。そうして、やがてそこに露わとなった少年の本当の姿に、思わずテララは感嘆の息を漏らした。
「あなたの髪……とても……きれいな色しているのね……。透き通っていて……、白くて……なんだか雲みたい……」
水が滴り艶を帯びた銀眼の少年の髪は、それまでの腐った血色とはまるで異なるものだった。それは梳く指が透けんばかりに白く、何色にも染まっていない純白な糸のように一変してしまったのだ。
すごく綺麗……。
テララはその髪を何度も梳きながら、そのあまりにもの美しさに思わず見惚れてしまっている。
頻りに後ろ髪をいじられるものだから少年も流石に気になったのだろう。不意に向き直り互いの息がかかるほど間近で銀と深緑が合った。
目と鼻の先、息使いの分かる近さで目にする少年の銀の瞳。それはその奥に吸い込まれそうなほど淀みなく透き通っていた。なんとも言い表しにくい魅力に満ちている。見詰めるほどに目を放せなくなってしまいそうだ。いや、少女は既に放せないでいる。
そこに映る少女はそれまでの人生で出会ったことがない神秘的な美しさに、目的も忘れ言葉もなくただ見入るばかりだった。
「……テ、ララ……? ……テ、ラ? ……テラ、ラ!?」
「あっ……、キャッ!? ご、ごめん。こんな近くでって――!?」
どれだけそうしていたのか分からない。
自分の名を何度も呼ぶ声にすらなかなか気が付けず、身体を揺すられてようやく少女は意識を取り戻した。と同時に、また血の気が一気に顔中に集まり胸の高鳴りが頬を熱く打ちはじめた。
それもそのはずだ。アレを見たあとだし、更に今、存分に小躍りした後でテララの方に"向き直っている"のだ。
めくれた衣服の下から迫りくる性の洗礼。
まだ大人の階段を登りきれない、願わくば階段のことすら忘れてしまいたいと思っているに違いない幼い少女。またしても驚くような早さで銀眼の少年から咄嗟に距離を取って顔を覆い隠し、また独りわなわなと喚きはじめた。
「――キヒャアアアアアアッ!!!? なななななっ!? 何でこっここここっち向いてるのっ!? だだだだだ、駄目だってばっ!? あっち! あっち向いててっ! お願いっ! もうやだ! 今の何!? あっ、えっ、い、いや!? "何"が"何"じゃなくてっ!!!? おっ、おっかしいなああああ!! わ、私。風邪でもひいちゃったのかな???? だめだめ! 落ち着かなきゃ! 深呼吸……! すうううう、はああああ……! すうううう、はああああ……」
「テ、ララ……?」
「ヒャッ!? え、ええええっと……。ご、ごめんね!? アハハハッ! 私、ぼーーっとしちゃって……。は、早く身体洗っちゃおうね? あなたはそのままっ! 私が今度反対に行くから……! 動かなくていいからね……!?」
これまで一度も感じたことのない胸の昂り。その正体は一体何なのか。今にも詰まりそうな胸に手を当てながらテララは背中向きに少年の後方に回り込んだ。
それからは一切の無駄を許さない機敏な手際で銀眼の少年の身体を洗い、乾きたての布で汚れを丁寧に繰り返し拭ってやった。
もちろん、少年の大事なところは自身でなんとか拭いてもらった。
銀の少年こそ見違えるほど身も心もすっきりとしたようだが、テララと言えば一緒に微笑んではいるもののどこか疲れた、もしかすると色んな意味で少し老けてしまったようなそんな顔をしていた。
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