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3章

只、人を斬る事に執着しているだけだ

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 雪妃は、反乱者の仲間がいる基地へと向かう途中、見慣れた店を目にした。

 カノールの店だ。
 雪妃にとっては、通い慣れた自分の実家の様なものでもある。


 しかし、雪妃は店の様子がおかしい事に気が付いた。

「ど、どういうこと?」


 店の入り口には兵士が一人、見張りの様に立っている。

 雪妃は、何か嫌な予感を感じていた。

 カノール達は異界人だが、反乱者ではない。

 戦闘に巻き込まれる理由は無いはずである。


 しかし雪妃は心配になり、兵士に気付かれないよう、建物の屋上からこっそりと店に近付いた。

 見張りは一人だけ。他には居ない。

 それを確認すると、雪妃は静かに下に降り、窓から中の様子を伺う。

 店の中には、カノールに、煉という兵士。それと店の従業員の少女が2人。

 そして数人の兵士がいた。

 
「・・・っ!? あいつは」
 
 その兵士の一人に、雪妃は見覚えがあった。

 それは数日前に、隠れ家を襲撃してきた兵士であり、

 そして数年前に対峙した女兵士、カグリである。



***

 

「これで全員か?」

 片手に剣を持ったカグリが、カノール達へ問いかける。

「えぇ。ここにいる者は皆、戦う意思など持っていない。あなた方の邪魔はしませんよ」

 カノールは丁寧でそれでいてはっきりとした口調でそう返す。


「そっか、そっか。それは良い事だ。でもおかしいなぁ?
ココに雪妃彩香という、反乱者がいると聞いてきたんだけどねぇ?」

「疑うなら探してみるといい。誰も隠れていませんよ。今ここにいる全員しかいません」

「あぁ、もう部下に探してもらってるんだ。
さて、それまでの間、少しお話がしたくてね。
雪妃彩香について、知っていることをお話して欲しいなぁ」
 
 カグリは店員の少女に近付き、剣で少女のつま先辺りを軽く突く。

 少女はびくりと身体を震わせ「ひぃ・・・」と口から小さな悲鳴を漏らす。


「言ったでしょう。私達は雪妃彩香という少女の事は、何も知らないですよ」

 カノールは少し眉を顰めたが、冷静に返事を返す。

「あー、あのさ。よく私は知人から、頭のイカレたやつだと言われるんだけどさぁ」

 カグリは店員の少女の頭を掴み、舐めるようにと見定める。

「こう見えて記憶力もいいし、考えのキレも良い方なんだよねぇ。
だから分かるんだけど―――この女、昔奴隷として売られそうになってたやつだよな?」

 カグリは、剣の先で店員の少女を示す。 


「それが、何か問題ありましたか?」 

「雪妃彩香の事も街で拾ったんでしょ? この奴隷ちゃんと同じ様にね。
ココにいないっていうなら、連絡取って連れて来てくれないかな?」

「もし、彼女が反乱者なのだとすれば。連絡してここに来ると思いますか?
私が呼んだ所で、のこのこと現れたりはしないでしょう」 

「ほーう、そうかい。じゃあこうしよう」

 カグリは剣を振り上げる。

「来なかったら、お友達を殺す」

 カグリは少女の胴体に剣を突き立る


「こんな風にな」

「う"ぐぇぇ・・・あぁ・・・!!!」

 そして、ためらう事無く剣を突き刺した。


「貴様!!!」

 煉が怒りの込めた声で叫び、炎の槍を生成する。

「オイオイ、少し落ち着きたまえよ」

 しかしカグリはふざけた調子で笑う。

 が、へらへらと笑うカグリの目の前に、突然、宙に浮いているナイフが突き立てられる。


「度が過ぎますよ」

 カノールが手を翳すと、テーブルに置いてあったナイフやフォークが宙に浮き、カグリの周りを取り囲む。

「器用だなぁ、元魔術師。国軍に立て付くつもりかぁ?」 

「目の前で大切な仲間を殺されて、黙っている訳がないでしょう」

「アンタらが協力しないから悪い」

 カグリが剣を振るう。

 凄まじい突風が放たれ、取り囲んでいた刃物が吹き飛ぶ。

「来いよ、怪我人ども」

「軍もここまで腐ったか」

 煉は腕に握る炎の槍を、カグリへ向け投擲する。

「温いな」

 カグリは少年の身体から剣を引き抜き、飛来する炎の槍を剣で弾き返す。

 炎の槍が砕け炎が飛び散るが、カグリは涼しい顔で笑みを浮かべる。


「さーて、2回目のチャンスをやろう。言う通りにしないなら、次はそっちの女を殺す」

 カグリが、もう一人の店員の少女へ近付く。

「さぁ、雪妃彩香を呼べ。私さぁ、斬りたくて斬りたくて我慢出来なくなっちゃうからさぁ、早くした方が良いよ」


 だが、カグリの行く手を、カノールの操る大量のナイフが塞いだ。

「ほーう。本気で戦う気か?」

 宙に浮かぶ大量のナイフの一本を、カグリは挑発する様に指でなぞる。

「義足の魔術師に、片手の元Aランク兵士相手とはねぇ。まぁいい。後悔しろ異界人」
 
 カグリは目の前に餌を置かれた獣の様な目で、カノールと煉を視る。


 その時。

 パリンと窓が割れ、魔法の弾丸がカグリ目掛けて飛来した。
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