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3章

英雄と救世主の再戦 01

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「それじゃあ、話は終わりだな。ユークリウッド、あの二人を殺せ」

 カミノの合図で、ユークリウッドは腕を黒い刃に変化させ、コハクへと襲い掛かった。

「くっ・・・!」

 ユークリウッドが振るう刃の連撃を、コハクは盾で防ぐ。
 
 前回の戦いで、コハクは盾の重さに振り回され、ユークリウッドの速さについていけずに苦戦を強いられていたが、しかし今は違う。

 今のコハクの動きは、盾や鎧の重さなど感じさせない程に、ユークリウッドの攻撃に素早く反応し、完璧に防いでいく。


 訓練で成長したのはコハクだけではない。

 式利がユークリウッドを剣で切り裂く。

 当然ながら、剣はユークリウッドの身体を擦り抜けて傷一つ付けれないが、

 しかし、式利が振るう剣の刃が衝撃波を放出し、炸裂した。


「・・・ッ!?」 

 ユークリウッドの身体の1/4程が、その衝撃波により形を保てなくなり、霧状に散る。

 一瞬、驚いた表情を浮かべるユークリウッド。

 だが、ユークリウッドは魔法を唱えると、式利へ向け黒い霧を放出した。

 結界を展開して霧を防ぐ式利だが、水流の様に勢い良く放たれた黒い霧は想像よりもずっと強力で、式利は押し流されそうになり、必死に耐え、押し留まる。


「式利さん!!!」

 コハクが盾を振り上げ、勢い良くユークリウッドへ叩き付ける。

 手ごたえはないが、しかしユークリウッドの身体は衝撃で歪み、黒い霧の放出も止んだ。


「どうやら、魔法の扱いを覚えた様ですね。戦いに備えてたのは、私達だけではないという事ですか」

 態勢を立て直した式利は、ユークリウッドへ剣を振るう。
 
 式利の振るう剣と、ユークリウッドの黒い刃が激しく、何度も交差し、ぶつかり合う。

 ユークリウッドは捨て身上等で式利へ掴み掛かるが、式利はそれを読んで上体を逸らし、攻撃を避けた。

「人のクセを覚えるのは得意なんですよ。だてにセンリ様のサポートやってませんから」
 
 式利の振るう剣から放たれる虹色の衝撃波が、ユークリウッドの身体を削り取る。 


 更にその隙を突いて、コハクの盾がユークリウッドの左肩を強打する。

「ちっ、貴様ら・・・!」

 ユークリウッドの左腕がぐりゃりと歪む。 

 更にコハクは、無防備になったユークリウッドの左腕を素手で掴み<インヴェイジョン>でユークリウッドの魔力を奪い取る。

 
「っ・・・!?」

 ユークリウッドの左腕はさらに形が崩れ、黒い刃も形を歪ませ、霧状に散っていく。

「なんだ、今のは・・・!?」

 ユークリウッドはコハクを睨みつけると、今度は右手を黒い刃に変形させ、コハクの腕を切り裂く。
 
 だがコハクの腕は傷一つ付かない。

 腕を守る鎧が、黒い刃からコハクを守っている。


「くっ、右手も変化するのかっ!?」

 しかし、ユークリウッドの左腕が再生する。

 そして、コハクが盾を構えるよりも早く、ユークリウッドが再生させた左腕を振るう。

 狙いは、鎧に守られていない喉だ。 

 そこへ、式利がユークリウッドを剣で切り裂き、魔法の衝撃波が炸裂してユークリウッドの左腕を吹き飛ばした。

 続けて剣を振るう式利だが、ユークリウッドはそれを避けて、再びコハクへ向かい飛び掛る。

 コハクは盾を構えてユークリウッドを迎え撃つが。

 ユークリウッドは自ら身体の一部を霧化させ、強引に盾を乗り越え、コハクの後ろへ周りこんだ。

 そして腕の刃でコハクの身体を切り裂くが、コハクの背を護る鎧が黒い刃を遮った。


「ちっ・・・」

 ユークリウッドは左腕に霧を集めて再生させようとするが、式利の放つ虹色の衝撃波が、集まりかけていた霧を散らせる。

「もう一発、どうですか!!!」

 続けて魔法の衝撃波を放つ式利。

 その虹色の衝撃波を、ユークリウッドは右腕の刃で防ぎ、そしてその刃をコハクへ向ける。
 
「貴様は・・・」

 コハクの盾とユークリウッドの刃が激しく衝突する。


「貴様は、何をした!!! アリアに、何をした!!!」

 叫びながら、ユークリウッドはコハクへ向け右腕の刃を何度も叩きつける。

「ぐうっ、こいつ、何を言って・・・!?」

 盾と鎧で身を包んでいるコハクには、黒い刃は届かない。

 しかし、ユークリウッドの激しい攻撃を受ける度、コハクは盾は弾き飛ばされそうになり、身体は押し倒れそうになる。

 
「おっと、暴れないでください! 霧の異界人さん!!!」

 式利が魔法の鎖を放ち、ユークリウッドの両腕に絡みつく。

「邪魔だ!!!」

 ユークリウッドは自ら腕を霧化させて鎖から逃れ、霧化した状態のままコハクへと襲い掛かった。


(今だ!!!)

 コハクは、両腕が霧化してもなお向かって来るユークリウッドへ、拳を繰り出す。

 ユークリウッドが霧化した状態から実体を形作るのには、数秒程掛かる。  

 つまり、黒い刃も形成する事が出来ない。

 コハクはユークリウッドの両腕が霧化する瞬間を狙っていたのだ。


 霧化したユークリウッドの身体に拳が触れた瞬間。

 コハクの<インヴェイジョン>がユークリウッドの魔力を奪い取る。


「っ・・・!!!」

 剣や武器を通しての<インヴェイジョン>よりも、素手の<インヴェイジョン>の方が圧倒的に強力だ。

 コハクの拳を受けたユークリウッドの身体が、激しく削り取られる。
    
「やめろ・・・貴様ら・・・! 僕から・・・!!!」

 ユークリウッドは腕を再生させようとするが、片腕はコハクの盾による打撃で、もう片腕は式利の魔法により、再生しかけていた腕は再び霧状に散る。

 そしてコハクは拳による追撃を繰り出し<インヴェイジョン>でユークリウッドの身体を削り取る。


「僕から、彼女を奪うつもりか!!!」  
 
 コハクの拳が、ユークリウッドの頭部を削り取る。


 その時。

『・・・ユーくん?』

「・・・っ!?」

 コハクは一瞬だが、耳元でささやく誰かの声を聞いた。

 やさしく囁く、少女の声である。
 
(今のは・・・?)

 聞き間違いではない。

 コハクには、間違いなくその声が聞こえた。


「クソ・・・」 

 ユークリウッドは霧状のまま滑る様に移動し、二人と距離を取った。  

「あぁ、アリア、アリア、アリア。アリアは僕が護る、だから、彼女を脅かす奴は・・・僕が、殺さなきゃいけない」


 何を仕掛けるつもりかと。

 コハクと式利の二人は警戒し、ユークリウッドの出方を伺った。


 ユークリウッドが手のひらを開くと、まるで手品の様に、手のひらから小さな結晶が現れた。

 ユークリウッドは異質な腕で、その結晶を握り潰す。

 ユークリウッドの腕が、別の生き物であるかの様に脈打ち、軟体動物の様な触手が伸びて蠢く。

 そして、ユークリウッドの肩がパキパキと音を鳴らしながら変形していく。


「一体、奴は何を取り出したんでしょうか」
 
「さぁ、何だろう。僕にはわからないですけど、あまり良い雰囲気では・・・ないよね」

「同感です」

 2人は魔法を唱え、ユークリウッドへ向け虹色の衝撃波を放つ。

 2人が放った魔法の衝撃波はユークリウッドの身体を霧化させるが、しかしそれで変化が止まる事はない。


 ユークリウッドの肩から黒い霧が吹き出す。

 そこから、黒く硬質で、より大きく、禍々しい一本の腕が形成される。

 息を吐き出しながらユークリウッドは顔を上げ、目がギロリと動き、2人を捕らえる。


「なんだか・・・凄くヤバそうな気がしますが」

 コハクが呟く。


「えぇ、私もそう思います。どうやら、本気を出させてしまったみたいですね」

 式利は、ポケットに仕舞ってあるデバイスに手を掛ける。

「どうしてもの場合にと思いましたが・・・助けを呼ぶ準備は、しておきましょうか」
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