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3章
首謀者の隠れ家 02
しおりを挟むまず、地下の隠れ家に降り立った兵士達の一班を出迎えたのは、薄汚れたローブを羽織った人物であった。
薄暗い部屋のど真ん中で、こちらに背を向け、ただじっと立ち尽くしている。
どうみても怪しい、そう感じた兵士達はそれぞれ武器を握り、無言で戦闘の隊列を組む。
「そこのお前、反乱者だな? 無駄な殺しはしたくない。抵抗せず、俺たちの指示を聞いてもらおう」
班長の青年がそう呼びかけるが。
次の瞬間。
その怪しい人物は、まるで昆虫の様な素早く直線的な動きで、兵士達に襲いかかった。
「ッ!!!」
青年は握っていた魔法の杭で、丁度向かって来るボールを打ち返す様に、向かい来る襲撃者を強打する。
バキリと骨の砕ける音が鳴り、襲撃者が床に転がる。
だがしかし、襲撃者は痛がる様子もなく、壊れた機械の様なカクついた動きで立ち上がると、再び青年へと襲いかかった。
「コイツ・・・!?」
襲撃者は班長の青年へ腕を振り下ろすが、強く振るわれた魔法の杭がその腕を打ち返す。
そして、青年は襲撃者の無防備な身体へ、杭の鋭い先端を突き刺した。
襲撃者は一瞬だけ身体を大きく逸らして抵抗した様だが、すぐに身体が硬直し、動きを止めた。
青年が杭を引き抜くと、動かなくなった襲撃者はその場に崩れ落ちた。
「魔物、ではなないな。人間か? 正気ではない様子だったが・・・」
その時、部屋にあるドアの一つが、静かに開いた。
兵士が横目を向けると。
先程のヴァーリア人反乱者と同じ格好の、薄汚れたローブを羽織った者達が、足を引きずる様にぞろぞろと出てくるのが見えた。
「反乱者共め、奴らは一体、ここで何をしていたんだ?」
兵士達が武器を構えると同時に、ローブを羽織った反乱者達が兵士達へと襲いかかった。
「ふざけた事を・・・!」
班長の青年は魔法の杭を振りかぶり、向かって来る反乱者へ向け投擲した。
放たれた魔法の杭は、反乱者の一人に突き刺さると急に発光し出し、そして破裂した。
反乱者の身体がバラバラに吹き飛び、その衝撃が周囲にいる他の反乱者を突き飛ばす。
しかし、開いた扉の先からは、まだ沢山の反乱者達が沸いて出る。
「皆、一度隣の部屋へ退くぞ」
「了解しました」
班長の青年と兵士達は、手のひらから青白い稲妻を放ち、向かって来る反乱者達を撃ち抜きながら、反対側の扉へと後退する。
「・・・っ!」
しかし、兵士達が反対側の壁まで近付いたその時。
突然、魔法発動の合図である霧が、壁から漏れ出す。
そして壁から、無数の鋭い刃が飛び出した。
「クソ、罠か・・・!」
間一髪、兵士達は魔法壁を展開して無数の刃を防いだ。
不意打ちだったが、その刃に貫かれた者は一人もいない。
「あっははは。良い反応だな」
女性の声が響く。
「扱う魔法をみるに、対人特化の部隊ってところか? なるほど、本気で私を殺しに来たか」
いつから居たのか、そこには元ヴァーリアの魔術師であるカミノが立っていた。
「・・・カミノか」
挨拶の代わりにと、班長の青年はガンマンが早撃ちをする様に、片手から青白い稲妻を放つ。
凄まじい速度で放たれた稲妻だが、しかし、カミノの身体を覆う結界がそれを遮った。
「皆、反乱者共を抑えていろ」
「了解しました」
魔法ではカミノを倒せないと判断した班長の青年は、剣を抜いた。
元々、ヴァーリア軍の魔術師の中でもかなりの実力者であったカミノに魔法で対抗出来るのは、指で数えられる程しかいないだろう。
だが、彼女はどちらかといえば魔法の研究者であり、戦場に立つタイプではない。
接近戦に持ち込めば、勝てない相手ではない。
カミノは両腕から虹色の炎を放ち対抗するが、班長の青年は片手から衝撃波を放ち、炎を吹き飛ばして消火する。
ならばと、カミノは反乱者の一人を魔法で掴んで引き寄せ、青年へ向かい投げ飛ばす。
青年は、飛来する反乱者を剣で斬り伏せたが、床にに転がり落ちた反乱者は、昆虫の様に地面を這って青年に襲いかかった。
青年は舌打ちを吐いて、向かって来る反乱者の頭部を斬り落とした。
「っ!? これは・・・!」
床に転がる反乱者の頭部を見て、青年は驚愕した。
「ヴァーリア人・・・? 何故、反乱者の中にヴァーリア人が?」
ヴァーリア人の反乱者もまったく居ないという訳ではないが、表立って兵士に襲いかかってくるヴァーリア人など、希少種の魔物を見つける事と同じ程度には珍しい事だ。
「くくく。おいおい、そんな簡単に殺すのは止めてやれよ。可哀そうなヴァーリア人だぞ」
カミノが嫌らしい笑みを浮かべる。
「カミノ、貴様・・・一体、彼らに何をした?」
「言っておくが、そのヴァーリア人共は反乱者じゃあないぞ。ただの普通のヴァーリア人だ」
言いながら、カミノはまた魔法でヴァーリア人を掴むと、青年の行く手を遮る様に投げ込む。
「知っているだろう? 私は魔法の研究者だ。研究する為には実験しなければいけない、そして実験するには、その対象がいなくてはいけない」
「実験だと? まさか、このヴァーリア人たちは・・・」
「私だって心のある人間だ。仲間である反乱者達で実験する事など出来ないよ。だから、ヴァーリア人を使った」
更にもう一体、ヴァーリア人が投げ込まれる。
「私は優しいんだ。実験に失敗したからと言って、用済みだと捨てる事はしないよ。最後まで生きる意味を与えてあげるのさ
「この、クズ魔術師が・・・」
班長の青年の前に投げ込まれたヴァーリア人が、昆虫の様な動きで立ち上がる。
最早、彼に正気は残っていないだろう。
そもそも、このヴァーリア人が生きているのかすら怪しい。
青年は剣を振るい、向かって来るヴァーリア人を切り倒していく。
ここで剣を振るう事を躊躇えば、カミノを逃がす事になってしまうだろう。
犠牲になったヴァーリア人の為にも、彼ら兵士が出来るのは迷わず剣を振るう事だと、青年はそう思ったからだ。
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