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3章

首謀者の隠れ家 01

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 ヴァーリア国内部、南の街。

 裏路地の一角で、とある異界人が経営している衣類の販売店がある。 

 店内には、一般的な布の服から、魔物の素材を使った特殊な服まで、さまざまな商品が並んでいる。

 そこへ、武装した兵士の一班が、乱暴に突入した。

「ひっ・・・!」

 店員の女性が、驚いて声を上げる。

 
「この店で間違いないな?」

 長いローブを羽織った兵士の青年が、仲間の兵士へ問いかける。

「はい、班長。カグリの情報が正しければ、この店のはずですが」

「そうか」

 班長と呼ばれた兵士の青年が、ゆっくりと手のひらを開く。

 手のひらからは、魔法を放つ予兆である、霧が漏れ出している。

 
「ひっ、ま、まずい・・・!」

 店員の女性はレジの棚の陰に座り込み、そして通信用のデバイスを取り出す。

「おっと、何してるんですか?」

 しかし、デバイスでの通信は、一人の兵士によって阻止されてしまった。

「この店員、デバイスを持っています。やっぱり、ここに奴らがいるみたいですね」

 兵士は店員からデバイスを取り上げると、ローブを羽織った兵士の青年に見える様に掲げた。

    
「そうかーーー」

 そして班長である兵士から、周囲に衝撃波が放たれる。

 衝撃波は突風の様に、店内に陳列されている衣類を吹き飛ばす。

 だが、この魔法は攻撃や破壊を目的にしたものではない。


「班長、ここです」

 一人の兵士が指さすのは、一見なんの変哲もないただの床の一部である。

 だが、衝撃波を受けた影響によって、そこから僅かに霧が漏れ出しているのが見える。 

「かなり高度な偽装の魔法が使われています。それに、固い結界で守られていますね」

 兵士は手を触れて床を調べ始める。 


「避けていろ」  

 班長の青年は魔法を唱えると、その両腕からはまた霧が沸き出し、霧はやがて一本の杭を形造った。
 
 その魔法の杭を片手に、青年は隠し扉があるだろう部分の上に立つと、杭の尖った先端を床に押し当てる。 

 そして、青年は杭に魔力を混めると、ドン、と低い音が響き、杭が床に突き刺さる。

「・・・随分と、厄介な結界で守られているな」 

 青年は溜息を吐いて杭を握り直すと、もう一度、杭に魔力を込めた。

 今度は、パキパキと何かが砕ける音が聞こえたかと思った瞬間。


 轟音が響き、床が砕け、破裂し、辺りに土と瓦礫が飛び散る。

 兵士達が駆けつけると、床には大きな穴が開いており、その先は小部屋になっていた。


「先に進むぞ」

 班長の青年は、その小部屋の中に立っていた。  
 
 そして魔法の杭を構え、それで小部屋の奥にあるドアを貫き、破裂させて破壊した。
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