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3章
嵐の前の
しおりを挟むヴァーリア国軍には、兵士たちに開放されている書籍室がある。
現代世界で例えるなら図書室の様なものだ。
「あっ、コハクさんじゃないですか。お久しぶりです」
コハクがそこで資料を読んでいると、フローラに声をかけられた。
「お久しぶりです、フローラさん」
「こんなところで会うなんて、珍しいですね。コハクさんも調べものですか?」
「そうです。ヴァーリアの歴史とか事件って、魔法とか魔物が沢山出てくるので、ファンタジーの物語を読んでいるみたいで興味深いんですよね」
言いながら、コハクは一冊の本を手に取った。
「でもまぁ、今日は調べたい事があって来たんですけど」
今コハクが読んでいるのは、ヴァーリアで起きた事件の、当時の記事が書かれた書物である。
その中でも、コハクは反乱者や奴隷についての書かれた物を探していた。
「えっと・・・反乱者について調べていたのですか?」
「はい。実は」
コハクは周囲に人がいない事を確認すると、小声で話す。
「・・・先日、雪妃さんに会ってきました」
「ほ、本当ですか? 雪妃さん、無事でしたか?」
「見た感じは、元気そうだったよ。危うく魔術器で撃たれかけたし」
自分へ魔術器を向ける雪妃の姿を思い出して、コハクは苦笑いを浮かべた。
「そ、それは・・・。逆にコハクさんの身が心配です」
「僕は大丈夫。それに、雪妃さんとちゃんと話も出来たよ」
けれど、とコハクは一度口を紡いだ。
「雪妃さんを連れてくる事は出来なかった。彼女はやっぱり、本当に反乱者だった」
「・・・そうですか」
フローラもどこかで勘付いていたのか、特に驚いた様子はなく、寂しげな表情を浮かべた。
「雪妃さんはヴァーリアの事を、この世界の事を恨んでいる。僕じゃあ彼女を説得する事は、きっと出来ない」
雪妃には大切な人がいて、そして彼が亡くなった今でも、彼の事を思っている。
自分には、彼女の気持ちを変える事は出来ないと、コハクは自覚していた。
「どうすれば雪妃さんを助けられるのか、どうする事が正解なのか、もう判らなくて。でも、何もしないでいると落ち着かなくて、こうして調べ事をしてたんです」
もし仮に、コハクが軍の命令に逆らって反乱者と戦う事を拒んだとしても、恐らく何も変える事は出来ないだろう。
コハクに軍を動かせる程の説得力はない。
それは例え式利やセンリ達が行動しようと、結果は変わらないに違いないだろう。
「軍は、反乱者達を撲滅する為の大規模な作戦を立てている。反乱者も、反乱を起こす計画を立てていると噂が出ている。
互いに衝突する事はもう避けられない。だったら、僕は・・・」
そう考える度に、コハクは焦りを感じていた。
「・・・コハクさん?」
フローラがコハクへ一歩近付き、二人の肩が触れる。
コハクはどきりとし、気恥ずかしくなって距離を取ろうと思ったが、それは出来なかった。
フローラが、あまりにも悲しそうな表情をしてたからだ。
「大丈夫です。もし雪妃さんと戦う事になっても、誰も死んだりしません。
きっとまた、みんなでカノールさんのお店に集まって、一緒に食事が出来ます」
けれど、フローラはすぐに笑みを浮かべて、コハクを慰める様にそう言う。
「もう誰も死なせたくない。その為に、私は強くなったんですから」
そして、ぽつりとそう呟く。
その台詞だけは、まるで自分に言い聞かせている様であった。
「おやおや。二人揃って密会ですか?」
そこへ、聞き覚えのある声が割り込む。
「し、式利さん!?」
コハクとフローラの二人は、互いに慌てて離れる。
「それに、アルちゃん・・・」
現れたのは、式利とアルスフォードの二人であった。
「なんだ、浮気か? ふん、二人は意思が弱いのだよ! もっと我の様に強く構えていなければな!」
「アルは意思が強いんじゃなくて、ただアホなだけでしょう」
式利にそう言われ「なんだと!?」と憤怒するアルスフォードだが、式利は相変わらず冷めた様子である。
「あ、あの、違うんですよ? コハクさんとは偶然ここで会って・・・!」
「そ、そうです。フローラさんの言うとおりでして!」
「ふふ。二人は、雪妃さんの話をしていたのですよね? その顔を見れば判りますよ」
慌てて弁解する二人を見て、式利が笑みをみせた。
密会だの浮気だのというのは、二人をからかって言っていたのだろう。
「あはは・・・、そんなにわかりやすい顔してましたか?」
「はい。その深刻そうな顔を見れば判りますよ。かくいう私も、その事について悩んでいたのです」
ちなみに、コハクと式利は互いに"打倒、霧の異界人"を目標に訓練をしている事から、良く情報のやり取りをしてる仲である。
なので、式利は既にコハクから、雪妃に会った事を知らされていた。
(ただし、アルスフォードは何も知らない)
「なんだ、皆。そんな深刻な悩みがあるのか? 我は何も聞いてないぞ? 我なら何か力になれるかもしれないのに!」
「アルに頼んだところで、街を焼け野原にしてしまうのがオチなのでダメです」
「なんでじゃー!!! 我だって力加減くらい出来るってのー!!!」
式利は「それはさておき」とアルスフォードの話を軽く流し、続けて口を開く。
「ということで、コハクさん。ちょっと作戦会議をしましょうか」
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